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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第47回「わたしたちの春は、いつだってまた、今日から。早乙女カナコの場合は」

2025.03.11 upload

『早乙女カナコの場合は』(2024年:日本)
監督:矢崎仁司
原作:柚木麻子
脚本:朝西真砂/知 愛
キャスト:橋本愛/中川大志/山田杏奈/臼田あさ美/中村蒼 ほか
公式サイト:https://www.saotomekanako-movie.com
※2025年3月14日(金)より全国公開


みなさん、こんにちは。
あたたかい日が増えてきたと思ったら、急に寒くなったりしてなんだか忙しいですが、いかがお過ごしでしょうかー。

今回は、2015年にDrop'sが主題歌「どこかへ」を担当させていただいた、矢崎仁司監督の新作をひと足先に試写会で観させていただきました!
そちらについて書こうと思います。
※ちょっとネタバレありかもです。

『早乙女カナコの場合は』
2024年製作、2025年3月14日公開の日本の作品です。
監督は矢崎仁司さん、出演は橋本愛さん、中川大志さん、山田杏奈さん、臼田あさ美さん、中村蒼さんなど。柚木麻子さんの小説「早稲女、女、男」が原作となっています。

大学進学と同時に友達とふたり暮らしを始めた早乙女カナコ(橋本愛)。
入学式で、演劇サークルで脚本家を目指す長津田(中川大志)と出会い、そのまま付き合うことに。
その後、真面目で努力家のカナコは順調に就職活動を終え、念願の大手出版社に就職が決まりますが、4年の付き合いになった長津田は口ばかりで脚本を最後まで書かず、卒業もする様子がなく……。
サークルに入ってきた女子大の1年生・麻衣子(山田杏奈)とベタベタする始末。
そんな長津田の態度からふたりは口げんかばかりになってしまいます。
そんなとき、カナコは内定先の優しくてハイスペックな先輩・吉沢(中村蒼)から告白されます。
編集者になる夢を追うカナコは、長津田の生き方とだんだんとすれ違いを感じていってしまいます。
カナコ、長津田、そしてふたりを取り巻く人物たちそれぞれの10年を丁寧に描いた、群像劇です。

すごくすごく良かったです……!
登場人物一人ひとりを愛さずにはいられない、現代を生きる私たちにあたたかく爽やかに寄り添ってくれる、素晴らしい作品でした。

それぞれに共感できる部分があったけど、私は主人公のカナコ、そしてカナコの会社の先輩で、臼田あさ美さん演じる亜依子にとても共感しました。

冒頭、カナコと長津田が出会い、部室でレコードに合わせて踊るシーン。
思えば、このシーンが全てなんじゃないかなぁ……。
春の日差しのキラキラした中で踊るふたり、ここから物語が始まっていきます。

長津田は今大人になった自分からみると、甘えていてキザな大学生……。でも学生時代に身近にいたらきっとなんだか惹かれてしまう存在で、実際カナコはとても現実的でしっかりしているので、彼に呆れているところもたくさんあるんだろうけど、でもどうしても、なんでかずっと好き、っていうの、わかるなぁ……。

長津田はカナコのまっすぐさや強さに憧れているけど、自分よりしっかりしていてどんどん進んでいく彼女にちょっと嫉妬したり、強がって見栄を張ってしまうんだろうなぁとくくく。
でも「そもそもなんで男が女を守んなきゃいけねーんだよ」とか「本当は男社会が怖かったんだ」とか、なるほど、そういう男性の気持ちもあるよねという気づきもありました。

そしてふたりを取り巻く人々の登場。
大学デビューの麻衣子ちゃん、彼女もきっと色々な思いがありそうです。
洋服やメイクはキラキラ女子大生のそれだけど、話し方とかは結構しっかりとしていて、あと最もチャラいところの子たちとは馴染めなかったりして、きっと高校時代は真面目に勉強とかしてたんだろうなぁというところがかわいい。
レースのかわいい下着を慎重に選ぶところとか、わーってなりました……。
最終的には髪をまっすぐにしてスニーカーを履いて、自分らしく生きていくの、素敵!

そして会社の先輩吉沢さん。
すごく物腰柔らかで優しくてイケメンで、はたからみたら完璧。
だけどカナコにとっては何か物足りなくて、むしろちょっと緊張してしまう存在。切ないー。
亜依子とのシーンではカナコには見せない、一人の男って感じが渋かったです。
個人的には、池で指輪を探す吉沢さんが良すぎて、とっても好きになりました。笑

そして私が一番印象に残った、亜依子さん。彼女の表情が最も心に刺さりました……。
「真っ白いノートなんて、私怖いわ」というセリフ。
完璧に計画通りにいくと思って堅実に進んできた彼女にとっては、吉沢さんとの別れは予定外でどうしていいかわからなくて、友人の結婚式のあとで酔って彼の家に行っちゃったり、そこでの表情とか。
吉沢さんに、告げ口なんてする人じゃなかっただろう、と言われたときの表情とか、苦しい……。
でもそこからまた最後には、新しい可能性に向かって一歩踏み出していくのです。
とても素敵でかっこよかった!

カナコと長津田の年月、めぐっていってまた戻っていく指輪、久しぶりに会って乾杯するときの、嬉しいし親しいんだけど、絶妙な距離感とかも、わかるなぁ。
そして明け方に静かに抱き合うシーンが本当に美しかったし、切なかったです。

決して大げさでもドラマチックでもないけど、やっぱりこの人なんだよなぁっていうの、すごく共感しました。
他の人からどうやって見られるかとか、将来のプランとか、頭で考えたら色々あるけれど、それでもなぜだかずっと好き、他の誰でもなくて、その人だけの魅力があって、ふたりだけのリズムがあって、誰よりもきっとわかっているんだよね。

そして恋のライバルであるはずの女性たちの関係性も素敵でした。
ちょっと意地悪してみようとするけど、カナコのまっすぐさに呼応するように、最後にはそれぞれの思いやりで相手と向き合っていて、気持ちよかったなぁ。

みんなそれぞれに、理想と現実のギャップだったり、色々と迷ったり悩んだりしていて、でも結局は自分でしかなくて、他の人にはなれなくて。
みーんな違う形だけど、それぞれが一歩を踏み出していく。
それぞれ輝いていて、本当に素敵でした。
自分も可能性を信じて、前向きに生きてこ! と背中を押してもらえた気持ちでした。

そして春のにおいが胸いっぱいに広がるような、あったかくてさわやかな気持ちになりました。
これから何でもできそうな春の予感!

ぜひいろんな世代の人に観てほしい作品でした。
3月14日から公開です!
次は女友達と一緒に観たいなぁ。
ではまた〜。

© 2025 DONUT



INFORMATION

■ MOVIE


中野ミホ Bandset Oneman Tour 「Tree」
2024年9月20日・渋谷7th floor公演の映像をYouTubeにて全編公開


1stフルアルバム『Tree』
2024年7月31日リリース
収録曲:01.YETI/02.yellow/03.家/04.よふね/05.Sand/06.りんご/07.ice town/08.オートバイ

■ CD販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/
■ 各種ダウンロード・ストリーミングサービスにて配信中:https://friendship.lnk.to/Tree_nakanomiho


アルバム『Tree』インタビュー公開中

LIVE INFORMATION

※バンドセット、弾き語りなど、ライブの最新情報はオフィシャルサイト、公式Xにてご確認ください。
■ 公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
■ 公式X:https://x.com/miho_doronco12

中野ミホのコラム「まほうの映画館2」ARCHIVE

第1回:「そう、絶対に、愛が勝つ! ジョジョ・ラビット」
第2回:「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
第3回:「どんなに暗く冷たい雨だって、いつかは止むだろう。ブラック・レイン」
第4回:「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」
第5回:「雨の街はいつもより、悩ましくロマンチック! レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
第6回:「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」
第7回:「夢かもしれない、でも残ってるあの夏の熱。真夏の夜のジャズ」
第8回:「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」
第9回:「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」
第10回:「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」
第11回:「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」
第12回:「その涙は、ほんものの恋! マーメイド・イン・パリ」
第13回:「大切な根っこは、いつもこころの中にある。ミナリ」
第14回:「言葉にならない、胸の奥にある音楽のようにふるえる。メリークリスマス!ミスターローレンス。」
第15回:「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」
第16回:「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」
第17回:「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」
第18回:「きっと、大丈夫。走り続ける、ドライブ・マイ・カー」
第19回:「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」
第20回:「かっこ悪くても、そのままの自分を歌え! 愛は続いてく、チック、チック...ブーン!」
第21回:「どんなときだってずっと、家族は家族。大丈夫。パーフェクト・ノーマル・ファミリー」
第22回:「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」
第23回:「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」
第24回:「マイナーキーで人生を歌おう。アネット」
第25回:「誰も予想できない、未来について話そう。前へ、前へ。カモン カモン」
第26回:「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」
第27回:「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」
第28回:「どんな世界でも、あなたはずっと歌っていて。ディーバ」
第29回:「それは私たちだけの、時代をも変える合言葉。アムステルダム」
第30回:「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」
第31回:「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」
第32回:「潮が満ちて、永遠に解けない彼女のミステリー。別れる決心」
第33回:「愛がくるしくても、捨てられなかった日記。僕の巡査」
第34回:「どんなわたしも、結局はわたし。ジュリア(s)」
第35回:「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」
第36回:「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」
第37回:「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」
第38回:「おいしさの秘密は、あったかいハートにある。ウォンカとチョコレート工場のはじまり」
第39回:「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」
第40回:「フィルムの中だけの永遠を、もう一度。瞳をとじて」
第41回:「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」
第42回:「泥だらけになった先に、大きな愛はきっとある。東京カウボーイ」
第43回:「ほんとの私、あとすこし。時々、私は考える」
第44回:「いちばんの魔法は、友達! リトル・ワンダーズ」
第45回:「いつかこの日々のことも、愛せるようになるよね。アイ・ライク・ムービーズ」
第46回:「あの歌をいつかまた、ふたり聴くときまで。マルホランド・ドライブ」
第47回:「わたしたちの春は、いつだってまた、今日から。早乙女カナコの場合は」

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