中野ミホのコラム「まほうの映画館2」
■中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ
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第43回「ほんとの私、あとすこし。時々、私は考える」
2024.9.03 upload
『時々、私は考える』(2023年:アメリカ)
原題:Sometimes I Think About Dying
監督:レイチェル・ランバート
脚本:ケビン・アルメント/ステファニー・アベル・ホロウィッツ/ケイティ・ライト・ミード
キャスト:デイジー・リドリー/デイブ・メルヘジ/パーベシュ・チーナ/マルシア・デボニス ほか
公式サイト:https://sometimes-movie.jp
全国順次公開中
みなさん、こんにちは。
また少し間が空いてしまいましたが、お元気でいらっしゃいますでしょうか。
ようやく夏の暑さが少しだけ落ち着いて……?きたような。
さて、今月もとても気になっていた作品を観に映画館へ行ってきました。
予告編やポスターのビジュアルからして、好き!となっていたこちら。
(予告編、すごく好きで聴いていたSibylle Baierの曲が使われている!)
『時々、私は考える』(『Sometimes I Think About Dying』)
2023年、アメリカの作品。
監督はレイチェル・ランバート、出演はデイジー・リドリー、デイブ・メルヘジなど。
舞台はオレゴン州アストリアの静かな港町。
人付き合いが苦手で不器用な主人公・フラン(デイジー・リドリー)は、会社と自宅を往復するだけの静かで平凡な日々を送っています。
友達も恋人もおらず、唯一の楽しみといえば空想にふけること。
それは幻想的なさまざまな形の自分の「死」について。
そんな彼女の前に、フレンドリーな新しい同僚ロバート(デイブ・メルヘジ)が現れます。
彼とのささやかな交流をきっかけに、彼女の生活に少しずつ輝きが生まれるのですが……。
よかった……というか、とにかくわかりみが深すぎて、半分自分を見ているような。
でも観終わったあとはなんだか優しくておだやかな、いい気持ちでした。
まず冒頭の、町の風景がロマンチックな音楽とともに映し出されるシーン。
ここだけでもう、なんだか胸がいっぱいになってしまった。
海と、針葉樹の森があって、少し寒そうで、青っぽくて。
とても美しいけれど少しさみしいような。
職場の人たちの、毎日同じような、内容があるような無いような会話。
なんとなーく耳に入ってくる感じ。決して会話に入りはしない。わかる。
そしてフランは外のクレーンを眺めて、ぼんやりと自分の「死」を妄想するのです。
その「死」はいくつかのパターンがあって、どれもちょっと不思議で、きれい。
別に問題があるわけじゃないし、仕事もうまくやっているんだけれど、積極的に人と関わろうとはしない。それで大丈夫、という感じ。
自分にもそういうところがあるから、観ていて本当に、わかる……となりました。
そこに現れる、新しい同僚のロバート。
彼と映画に行ったり、食事に行ったりすることになるのだけれど、普段人とプライベートで話をすることがほぼない彼女は会話の仕方がわからないというか、たぶん、思ってもいないことを言ってしまったり、逆に急に積極的みたいになってしまったり、するんだと思う。本当によくわかる……。
一人でいる時間が長いと、急に新しい人や価値観が入ってくるとどうしていいかわからなくなる感じ。
ロバートは、君のことを知りたい、といって質問をしたり、会話を続けようとしてくれるけれど、フランは「私はつまらない人間なの」といって卑屈になってしまう。
映画の感想を聞かれても、「いいところがひとつもなかった」とか言ってしまう。笑
なんでも目的とか理由とか、頭で考えてしまう。
とにかく人との距離感ってむずかしい。大人になればなるほど、意外とそんな気がします……。
フランは本当はきっとロバートや、他の同僚とも仲良くなりたいという気持ちがあるし、心の中では何か期待しているところもあると思うんだけれど、一歩踏み出すことが億劫な感じ、わかるー。。
基本的に彼女は全然笑わないのだけど、最初に映画に行ったあとのビミョーな微笑みがかわいかったなぁ。
でもだんだんと、ロバートの過去や、定年退職した同僚・キャロルのその後を知ったりして、明るく振る舞っているみんなにも、人知れず色々あるんだと知ることに。
そして彼女は自分がロバートに言ってしまった言葉に、おそらく初めて、後悔の涙を流します。
キャロルの言葉がとても印象的だったなー。
「ちゃんと生きるのって、難しいと思わない? 思い描いていた未来は妄想で、毎朝こうして現実と向き合ってる。」
想像通りにうまくなんかいかなくて、それでもわたしは現実と向き合っていかなくちゃならない。
最後、それに気づいた彼女の一日は、確実に一歩前進していて、よかったなぁ。
ラストシーンもとてもよかったです。
ほんの少しでも、感情をあらわして、自分と、相手と向き合って。
恋愛か友情かとかはわからないけど、うわべの付き合いや会話だけじゃなくここにちゃんといるよって抱きしめてくれる存在、とてもとても大切。
町の景色もそうだけど、きっと見えてないだけで身近に大切なものはちゃんとあるし、それを自分から見つけて、大切にして生きていかなくちゃなぁ。と思いました。
とてもリアルだったなぁ、日々ってだいたいこんな感じですよね……。
おそらくフランと同世代のわたしにはすごくグッときました……。
決して派手ではないけど、ほんの少し、でも確実に変わっていける、っていう勇気をもらえました。
ぜひ観てみてください〜。
© 2024 DONUT
INFORMATION
1stフルアルバム『Tree』
2024年7月31日リリース
収録曲:01.YETI/02.yellow/03.家/04.よふね/05.Sand/06.りんご/07.ice town/08.オートバイ
■ CD販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/
■ 各種ダウンロード・ストリーミングサービスにて配信中:https://friendship.lnk.to/Tree_nakanomiho
配信シングル「YETI」
2024年7月10日リリース
LIVE INFORMATION
中野ミホ Bandset Oneman Tour 「Tree」2024年
9月20日(金)渋谷7th floor
9月23日(月・祝)梅田ムジカジャポニカ
9月27日(金)札幌 ZIPPY HALL
※ライブスケジュールは変更になる場合があります。最新情報ほか、弾き語りなどイベントなど、公式サイトや公式SNSでご確認ください。
■ 公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
■ 公式X:https://x.com/miho_doronco12
中野ミホのコラム「まほうの映画館2」ARCHIVE
第1回:「そう、絶対に、愛が勝つ! ジョジョ・ラビット」
第2回:「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
第3回:「どんなに暗く冷たい雨だって、いつかは止むだろう。ブラック・レイン」
第4回:「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」
第5回:「雨の街はいつもより、悩ましくロマンチック! レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
第6回:「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」
第7回:「夢かもしれない、でも残ってるあの夏の熱。真夏の夜のジャズ」
第8回:「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」
第9回:「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」
第10回:「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」
第11回:「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」
第12回:「その涙は、ほんものの恋! マーメイド・イン・パリ」
第13回:「大切な根っこは、いつもこころの中にある。ミナリ」
第14回:「言葉にならない、胸の奥にある音楽のようにふるえる。メリークリスマス!ミスターローレンス。」
第15回:「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」
第16回:「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」
第17回:「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」
第18回:「きっと、大丈夫。走り続ける、ドライブ・マイ・カー」
第19回:「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」
第20回:「かっこ悪くても、そのままの自分を歌え! 愛は続いてく、チック、チック...ブーン!」
第21回:「どんなときだってずっと、家族は家族。大丈夫。パーフェクト・ノーマル・ファミリー」
第22回:「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」
第23回:「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」
第24回:「マイナーキーで人生を歌おう。アネット」
第25回:「誰も予想できない、未来について話そう。前へ、前へ。カモン カモン」
第26回:「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」
第27回:「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」
第28回:「どんな世界でも、あなたはずっと歌っていて。ディーバ」
第29回:「それは私たちだけの、時代をも変える合言葉。アムステルダム」
第30回:「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」
第31回:「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」
第32回:「潮が満ちて、永遠に解けない彼女のミステリー。別れる決心」
第33回:「愛がくるしくても、捨てられなかった日記。僕の巡査」
第34回:「どんなわたしも、結局はわたし。ジュリア(s)」
第35回:「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」
第36回:「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」
第37回:「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」
第38回:「おいしさの秘密は、あったかいハートにある。ウォンカとチョコレート工場のはじまり」
第39回:「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」
第40回:「フィルムの中だけの永遠を、もう一度。瞳をとじて」
第41回:「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」
第42回:「泥だらけになった先に、大きな愛はきっとある。東京カウボーイ」
第43回:「ほんとの私、あとすこし。時々、私は考える」