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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第48回「誰にも言えない夢の中で、私はライラックの花嫁。ノスフェラトゥ」

2025.05.16 upload

『ノスフェラトゥ』(2024年:アメリカ、イギリス、ハンガリー)
原題:Nosferatu
監督・脚本:ロバート・エガース
キャスト:ビル・スカルスガルド/ニコラス・ホルト/リリー=ローズ・デップ/アーロン・テイラー=ジョンソン/エマ・コリン/ラルフ・アイネソン/サイモン・マクバーニー/ウィレム・デフォー ほか
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/nosferatu
※2025年5月16日(金)より全国公開


みなさん、こんにちは。
なんだか日が長くなってきましたね。いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は、製作されているという情報を知ってからずっと楽しみにしていたこちら。
前のめりに試写会に応募してみたところ、なんと当選(!)ウキウキで一足お先に観に行ってきました。
今回もネタバレ注意でお願いいたします……! 5月16日から公開です。

『ノスフェラトゥ』(『Nosferatu』)
2024年、アメリカ・イギリス・ハンガリーの作品。
監督・脚本はロバート・エガース。
出演はリリー=ローズ・デップ、ニコラス・ホルト、ビル・スカルスガルド、ウィレム・デフォーなど。
今作は監督が幼い頃に夢中になったという、1922年のサイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』にインスパイアを受け、独自の視点を取り入れて描かれた作品となっています。

不動産業者のトーマス・ハッター(ニコラス・ホルト)は、仕事のため遠く離れたトランシルヴァニアに住むオルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)のもとへ出かけることに。
そこに住む伯爵の不気味な言動に恐れおののくトーマス。
そしてトーマスの不在中、彼の新妻であるエレン(リリー=ローズ・デップ)は夫の友人宅で過ごしますが、ある時から、夜になると夢の中に現れる得体の知れない男の幻覚に悩まされるようになります……。


素晴らしかったです……。観ごたえがありすぎてもう、大満足です……。
ロバート・エガース監督、やっぱりこの人の世界観を確立していてすごい。変態!
わたしは監督の『ライトハウス』で衝撃を受けたのですが、今回もその空気感がありつつ、さらにゴシックな美しさが増していてとても好きでした……!

冒頭、蒼白い月明かりのシーンからもう、すごく引き込まれます。
広いお屋敷の庭のような場所がとても幻想的で、そこからずっと基本的に全ては蒼白いです……。
とにかくたえず緊張感となんとなく不吉な、不穏な空気がただよっていて、ほっとする場面はほぼなかったんじゃないかな。

まず、衣装がとても素敵でした。
女性たちの大きな袖のついたドレス。髪飾りやアクセサリー、長い髪の結い方も。
部屋の家具や調度品、建物、窓やカーテンも、細かいところまで絵画のようなこだわりを感じました。
左右対称な画面が多かったのが印象的。整然とした美しさと怖さ。雪がちらつくシーンも好き!

好きな場面はたくさんあったのですが、トーマスが屋敷に近づいたところで十字路に馬車が現れるシーン。
あのあたりから夢なのか現実なのかがはっきりしなくなってきて、かなり引き込まれました。
そして音楽がおどろおどろしい……! サントラを聴くだけでもだいぶ心臓に悪いです。笑
それがさらに、じわじわと恐怖を増しています。

そして個人的に一番楽しみにしていたウィレム・デフォー。
『ライトハウス』での怪演がすごすぎて……
今回は後半から頼もしい(?)役どころで登場。ウェーブしたグレイヘアが素敵でした。
デフォーさんのお顔の造形と監督の画面がなんかすごくハマっているんだよなぁ。

オルロック伯爵は、追いかけてくるでもなく、無理やり暴力を振るうとかでもなく、それこそ眠りや夢のように夜になると窓際にスッと現れるのがよかったなぁ……。
とにかくジワジワと支配していくのが怖かったです。
街に彼の手の影が伸びていくシーン、好きだったー。
そしてビル・スカルスガルドであるということはもはや全然わからないです。笑

このロバート・エガース版『ノスフェラトゥ』の最大のポイントは、エレンが幼い頃から夢の中でオルロックと結ばれていた、というところだと思うのですが。
最近個人的にもよく考えるテーマである「夢」について、またすごく好きな映画ができたなぁと思いました。

夢ってすごくプライベートで、時には人に言えないようなもので、だけど限りなく自分に近いというか、どんなものよりもなぜか信じられてしまうような気がしていて。
それは自分の内なるものとの会話というか、むしろ現実世界の方が薄っぺらく感じてしまうような感覚ってすごくわかる気がします。
だから彼女はオルロックが来ることを心のどこかでもしかしたら望んでいたのかもしれないし、そうなる運命だということを自分でわかっていたんだろうな。
トーマスのことを愛して普通の人間として生きていけそうだったけれど、彼女のもっている不思議な力は自分でも受け入れざるを得ないものだったというか。

なんだかそう考えると、おそろしいし悲しいけれどとてもロマンチックで私はこの『ノスフェラトゥ』大好きです。
ラストシーン、なんとも言えない悲しさと美しさが刺さりました……。

監督はなんていうか、人間と動物と、この世のものではないものの間を描くのが本当に好きで得意なんだろうなぁと感じました。
この映画の時代はきっとその間の距離が近かったというか、もっと身近に神様や悪魔や伝説の存在があって。
その間をさまよう人々をグロテスクさがありつつも、美しく描いていて、かなり完成された新しい『ノスフェラトゥ』でこれは、唯一無二だなぁと感動しました……!
夢と現実、正気と狂気、それは夜と朝みたいに実は隣り合っているのではないか、という怖さがとってもよかったなぁ。余韻……。

普段ホラーは好んで観ることはあまりないのですが、ホラーという感じでもなく、美しいファンタジーのような空気感が強かったので、私のような人にもぜひ映画館で観てほしいです(もちろん怖いですが笑)。
それではまたね。

© 2025 DONUT


INFORMATION

■ MOVIE


中野ミホ Bandset Oneman Tour 「Tree」
2024年9月20日・渋谷7th floor公演の映像をYouTubeにて全編公開


1stフルアルバム『Tree』
2024年7月31日リリース
収録曲:01.YETI/02.yellow/03.家/04.よふね/05.Sand/06.りんご/07.ice town/08.オートバイ

■ CD販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/
■ 各種ダウンロード・ストリーミングサービスにて配信中:https://friendship.lnk.to/Tree_nakanomiho


アルバム『Tree』インタビュー公開中

LIVE INFORMATION

※バンドセット、弾き語りなど、ライブの最新情報はオフィシャルサイト、公式Xにてご確認ください。
■ 公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
■ 公式X:https://x.com/miho_doronco12

中野ミホのコラム「まほうの映画館2」ARCHIVE

第1回:「そう、絶対に、愛が勝つ! ジョジョ・ラビット」
第2回:「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
第3回:「どんなに暗く冷たい雨だって、いつかは止むだろう。ブラック・レイン」
第4回:「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」
第5回:「雨の街はいつもより、悩ましくロマンチック! レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
第6回:「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」
第7回:「夢かもしれない、でも残ってるあの夏の熱。真夏の夜のジャズ」
第8回:「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」
第9回:「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」
第10回:「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」
第11回:「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」
第12回:「その涙は、ほんものの恋! マーメイド・イン・パリ」
第13回:「大切な根っこは、いつもこころの中にある。ミナリ」
第14回:「言葉にならない、胸の奥にある音楽のようにふるえる。メリークリスマス!ミスターローレンス。」
第15回:「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」
第16回:「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」
第17回:「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」
第18回:「きっと、大丈夫。走り続ける、ドライブ・マイ・カー」
第19回:「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」
第20回:「かっこ悪くても、そのままの自分を歌え! 愛は続いてく、チック、チック...ブーン!」
第21回:「どんなときだってずっと、家族は家族。大丈夫。パーフェクト・ノーマル・ファミリー」
第22回:「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」
第23回:「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」
第24回:「マイナーキーで人生を歌おう。アネット」
第25回:「誰も予想できない、未来について話そう。前へ、前へ。カモン カモン」
第26回:「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」
第27回:「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」
第28回:「どんな世界でも、あなたはずっと歌っていて。ディーバ」
第29回:「それは私たちだけの、時代をも変える合言葉。アムステルダム」
第30回:「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」
第31回:「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」
第32回:「潮が満ちて、永遠に解けない彼女のミステリー。別れる決心」
第33回:「愛がくるしくても、捨てられなかった日記。僕の巡査」
第34回:「どんなわたしも、結局はわたし。ジュリア(s)」
第35回:「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」
第36回:「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」
第37回:「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」
第38回:「おいしさの秘密は、あったかいハートにある。ウォンカとチョコレート工場のはじまり」
第39回:「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」
第40回:「フィルムの中だけの永遠を、もう一度。瞳をとじて」
第41回:「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」
第42回:「泥だらけになった先に、大きな愛はきっとある。東京カウボーイ」
第43回:「ほんとの私、あとすこし。時々、私は考える」
第44回:「いちばんの魔法は、友達! リトル・ワンダーズ」
第45回:「いつかこの日々のことも、愛せるようになるよね。アイ・ライク・ムービーズ」
第46回:「あの歌をいつかまた、ふたり聴くときまで。マルホランド・ドライブ」
第47回:「わたしたちの春は、いつだってまた、今日から。早乙女カナコの場合は」
第48回:「誰にも言えない夢の中で、私はライラックの花嫁。ノスフェラトゥ」

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