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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

>> まほうの映画館1のアーカイブへ(別ウィンドで開きます)

第42回「泥だらけになった先に、大きな愛はきっとある。東京カウボーイ」

2024.6.14 upload

『東京カウボーイ』(2023年:アメリカ)
原題:TOKYO COWBOY
監督:マーク・マリオット
原案:マーク・マリオット/ブリガム・テイラー
脚本:新谷文子/デイヴ・ボイル
キャスト:井浦新/ゴヤ・ロブレス/藤谷文子/ロビン・ワイガート/國村隼 ほか
公式サイト:https://www.magichour.co.jp/tokyocowboy/
全国順次公開中


みなさま、こんにちは。
6月、天気や気圧は不安定気味ですが、いかがお過ごしでしょうか。
無理せずに、健やかにお過ごしくださいね。

さて、今回は、3月に主題歌の歌唱を担当させていただいた映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』で若松孝二監督役をつとめられていた、井浦新さん主演の新作を! とても楽しみにしていたので初日に早速観に行ってきました。

『東京カウボーイ』(原題:『TOKYO COWBOY』)
2023年、アメリカの映画。監督はマーク・マリオット、出演は井浦新、ゴヤ・ロブレス、藤谷文子、ロビン・ワイガート、國村隼など。

主人公・サカイヒデキ(井浦新)は東京の大手食品商社に勤めるサラリーマン。
会社が米国モンタナ州に所有する経営不振の牧場を収益化するため、希少価値の高い和牛に切り替えることを提案し、和牛畜産業の専門家であるワダ(國村隼)を連れてモンタナに向かいます。
早速現地で和牛の事業計画をプレゼンしますが、和牛なんて育つわけない、と邪険に扱われるばかり。
それでも牧場の人々を説得しようと交流するうち、彼は人との関わり方や働き方についても改めて考えるようになります。果たしてサカイは牧場を救うことができるのか……。というお話。

とても素敵でした。大きくて、あたたかな気持ちに包まれました。
そして静かだけれど確かなパワーをもらえた! よかったなぁ。

新さん演じるサカイヒデキは超かっちりしたエリートサラリーマン。
数字にこだわり、常に効率化や利益を上げることを考えていて、1秒たりとも無駄な時間を過ごしたくないといったような仕事人間です。
婚約者であり、上司でもあるケイコ(藤谷文子)とは長く付き合っていて、新居の内見に行ったりもするのだけれど、どこか心ここにあらずな印象。

そんな彼が突然モンタナの大自然の中、言葉も満足に通じない環境でプレゼンをすることに。 英語も堪能で現地人のノリにも慣れている、和牛専門家のワダさんが途中で怪我をして同行できなくなるというトラブルに見舞われ、一人で牧場の人たちに話をすることになってしまいます。

最初は自信満々で、用意した原稿を読んで和牛計画をプレゼンするのですが、現地の人々の生活を知らず、また積極的に受け入れようともしないので空回りするばかり。
コーヒーを勧められても、馬に乗って案内してやると言われても、「ノー」ばかり。俺の時間を無駄にしないでくれ、と東京の感じでそのまま行こうとしてしまいます。
(4WDの車にしたほうがいいと言われたのに、ホンダのフィット借りちゃう。)
異様にでっかいドリンクとホットドックを手にして途方に暮れるサカイさんはちょっとかわいかったです。笑

牧場で案内をしてくれた、おそらくメキシコ系?のハビエル(ゴヤ・ロブレス)は、ロデオで足を悪くしたものの、恋人やお腹の赤ちゃんのために必死で働いています。
そんな彼に付き添って行った姪っ子の誕生日パーティーのシーン。
現地のカクテル、「バタンガ」で酔ったサカイさんが、おそらく全くわからないスペイン語?でのスピーチに感動して涙するところ、本当によかったなぁ。
東京で気を張って生きてきて、アメリカに来ても思い通りに仕事ができなくて、そんな時にふと出会うあたたかさにきっと、緊張の糸が切れて泣いてしまったのかな……すごくわかるなぁと思いました。そして彼にもやっぱり人情があるんだ……となります。

そしてハビエルがボスに内緒でキヌアを栽培していることも知り、彼の生活や言葉によって少しずつ、現地のみんなにサカイさんなりに寄り添うようになっていきます。
今まで試食もしてこなかった自社のチョコレートが本当はどんな味だったのかも知らなかったし、数字ばかり見て人を見てない、というケイコに言われた言葉の意味もわかってくるんだなぁ。

最初は硬かったサカイさんの表情がだんだんと、自然に柔らかくなっていくのがとても印象的でした。
「カウボーイごっこかい!?」とからかわれても、懸命にみんなを手伝って一緒に過ごそうとする彼の姿を、とても応援したくなりました。最初はちょっとやなやつだったのに。

焚き火をしながらみんなで話すシーンもよかったなぁ。
言葉や文化が違うからこそ、ズバッと言われて気づくこともあったりして。そしてもちろん、全編通して雄大な自然の風景にもとても心洗われます。

最終的に、最初に思い描いていた計画とは違っていても、真剣に人と向き合って、言葉もこえて、肌で感じて出した答えが一番だよな!と思いました。
簡単に割り切って切り上げてしまうこともできたはずだけど、きちんと向き合ったサカイさんの情熱にすごく前向きなパワーをもらいました。

それにしても、食べものを生み出す仕事っていうのは本当に大変なんだなぁと改めて思いました。
命をいただくこと、天候や環境にはげしく左右されるし、時間も手間もすごくかかる。簡単に数字やデスク上の理論だけでは片付けられない、現場の人の大変さがあるんだなぁ。
そういう苦労の上に成り立つものだということを、噛み締めなくてはと感じました。

ぜひサカイさんと共に、モンタナの大自然で日々のカタくなってしまった心をほぐして、また新たな気持ちで毎日を過ごしてみてはいかがでしょうか……。
そんな、すごくおおらかで優しく背中を押してくれる作品でした。素敵。

ではまた!


© 2024 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

INFORMATION


サウンドトラック『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』宮田岳
2024年2月28日リリース
中野ミホが主題歌・挿入歌で参加(M2 待つわ/M15 まだみぬ果ては)
映画公式サイト:http://www.wakamatsukoji.org/seishunjack/
全国順次公開中



配信シングル「TAPES」
2023年3月29日(水)リリース
収録曲:01.国境/02.Turn



1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

中野ミホのコラム「まほうの映画館2」ARCHIVE

第1回:「そう、絶対に、愛が勝つ! ジョジョ・ラビット」
第2回:「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
第3回:「どんなに暗く冷たい雨だって、いつかは止むだろう。ブラック・レイン」
第4回:「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」
第5回:「雨の街はいつもより、悩ましくロマンチック! レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
第6回:「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」
第7回:「夢かもしれない、でも残ってるあの夏の熱。真夏の夜のジャズ」
第8回:「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」
第9回:「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」
第10回:「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」
第11回:「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」
第12回:「その涙は、ほんものの恋! マーメイド・イン・パリ」
第13回:「大切な根っこは、いつもこころの中にある。ミナリ」
第14回:「言葉にならない、胸の奥にある音楽のようにふるえる。メリークリスマス!ミスターローレンス。」
第15回:「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」
第16回:「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」
第17回:「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」
第18回:「きっと、大丈夫。走り続ける、ドライブ・マイ・カー」
第19回:「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」
第20回:「かっこ悪くても、そのままの自分を歌え! 愛は続いてく、チック、チック...ブーン!」
第21回:「どんなときだってずっと、家族は家族。大丈夫。パーフェクト・ノーマル・ファミリー」
第22回:「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」
第23回:「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」
第24回:「マイナーキーで人生を歌おう。アネット」
第25回:「誰も予想できない、未来について話そう。前へ、前へ。カモン カモン」
第26回:「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」
第27回:「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」
第28回:「どんな世界でも、あなたはずっと歌っていて。ディーバ」
第29回:「それは私たちだけの、時代をも変える合言葉。アムステルダム」
第30回:「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」
第31回:「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」
第32回:「潮が満ちて、永遠に解けない彼女のミステリー。別れる決心」
第33回:「愛がくるしくても、捨てられなかった日記。僕の巡査」
第34回:「どんなわたしも、結局はわたし。ジュリア(s)」
第35回:「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」
第36回:「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」
第37回:「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」
第38回:「おいしさの秘密は、あったかいハートにある。ウォンカとチョコレート工場のはじまり」
第39回:「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」
第40回:「フィルムの中だけの永遠を、もう一度。瞳をとじて」
第41回:「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」
第42回:「泥だらけになった先に、大きな愛はきっとある。東京カウボーイ」

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