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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ


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第30回「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」

2022.12.20 upload

『ホワイト・ノイズ』 (2022年:アメリカ)
原題:White Noise
監督:ノア・バームバック
原作:ドン・デリーロ
キャスト:アダム・ドライバー/グレタ・ガーウィグ/ドン・チードル ほか
公式サイト:https://www.whitenoise-jp.com
12月9日(金)より一部劇場公開中。12月30日(金)よりNetflixにて独占配信スタート


みなさんこんにちは。なんと、気が付けば今年もあと少しです。ひー。どんな一年でしたでしょうか。
私のこの偏愛趣味コラムを読んでくださったみなさん、今年も本当にありがとうございました。
個人的に2022年はたくさんの出会いに支えられて、えいや!っと自分を奮い立たせた大変化の年でした。
本当に支えてくれる全ての人に感謝です。ありがとうございます。

さて、今回はこのコラムにも度々登場している大好きな俳優、アダム・ドライバー氏主演の新作を!
しかも監督はノア・バームバック、監督の公私にわたるパートナーでもあるグレタ・ガーウィグも出演。
バームバック監督とアダムといえば、2019年の暮れに観た『マリッジ・ストーリー』(今回と同じくNetflix作品)。
これが本当に大大大好きで、涙が止まらなかった思い出があります。ここ数年で一番泣いたと思う。
そんな二人が再び監督と主演、それも何やらアダムは外見がぽってりしたおじさんになっている……!?
ということでとりあえず映画館へ急ぎました。今回は少しネタバレあるかもですー。

『ホワイト・ノイズ』(『White Noise』)
2022年、アメリカの作品。監督はノア・バームバック、出演はアダム・ドライバー、グレタ・ガーウィグ、ドン・チードルなど。
原作はドン・デリーロによる1985年の同名小説。
大学でヒトラーの研究をし教鞭をとるジャック(アダム・ドライバー)は、妻と4人の子どもたちと暮らしています。
ある日町の近郊で化学物質の流出事故が起き、家族は何もわからぬまま避難することに……。
突然のことに錯乱する人々、そして何か秘密を抱えている様子の妻(グレタ・ガーウィグ)。
果たして家族は無事もとの生活に戻れるのか……。という感じのお話。

とても怖かった……。ホラーというのではなくて、身近にある、むしろ自分の中にある恐怖。
だけどやっぱりこれは「家族」の映画だと思ったなぁ。
観終わった後はなんだかどっと疲れたけど、かなり変ですごく見応えのある作品でした。面白かったー!

まず最初にも言ったようにアダム! ぽってりしたお腹、後退しかけた髪、アメリカのおじさん。
彼が演じるジャックは家では普通ののんびりしたお父さんなのだけど、大学教授としてヒトラーのことを語っている時はちょっと取り憑かれたようになっていて狂気すら感じます。
『アネット』の時も思ったけど彼はバスローブ的な服を着せるとなんか怖い! 良い! やっぱり安定の素敵さです。
妻のバベットはいつも家族のために一生懸命だけれど、実は内緒で謎の薬(?)を飲んでいることを娘のデニースが発見します。
子どもたちもそれぞれの連れ子だったり血がつながっていないという環境もあるのか、みんなおませさんで大人よりも色々なことに懐疑的だったり、冷静だったり、ちょっと変。それがかわいいんだけど。

そんな家族に突然襲いかかる、有害物質の雲、そして雨。
とにかく得体の知れない、なんだかわからないものへの人々の恐怖がすごくリアルで怖かったです。
自分が死ぬかも知れない、そう感じたとき、常識とか理性とかも失ってしまう。
本当にコロナの初めのころ、そして今年の初めに始まった戦争のことが強く頭をよぎりました。

全体を通して、おそらく80年代?のアメリカの毒々しいまでのカラフルさが際立っていたなぁ。
大学の壁や生徒の服、そして何より象徴的に描かれていたスーパーマーケット。
一見、整然として、きれいで、何不自由ない空間だけど、そこには「死」の気配が隠されているような。
確かに食品だって生き物の死からもたらされているものがたくさんあるし、中にはケミカルな物質によって鮮やかな色を保っていたり、腐らずに長持ちしたりするものもある。
アメリカのそういう大げさな感じが私は好きだったりもするのですが、やっぱりちょっと不気味でした。

とにかく「死」がずっとつきまといます。
バベットは「あなたを愛しているけれど、死への恐怖の方が強いの」と泣き、ジャックは「それは僕のほうだったじゃないか!」と戸惑います。
お互いに先に死なないでね、永遠に生きよう、なんて言葉を交わしていた二人は、お互いに想像できてないそれぞれの死への恐怖にとらわれていたことに気づきます。

エルビス・プレスリーとヒトラー、TVの中のカークラッシュ、なんていうか、エンタメと戦争のような感じで、日常と死は紙一重、隣り合わせているのかもと感じました。
潜在的にある死への恐怖は完全に消えることはなくて、バベットのように一歩間違えたら何が正しいのかもわからなくなって普段ではありえないような行動をしてしまうのかも。
今日映画館を出たら事故にあって死ぬかも知れない、あるいはミサイルが飛んできて、そんな考えがふとした隙間に入り込んできて、どうしようもなくなる。

だけどこの作品では、最後のほうのシスターの言葉が痛快で、救いでもありました。
となりにいて、平等に、信じ合える人がいることは本当に何よりも大切かもしれない。
いつか死ぬのはもちろんわかっているつもりだけど、じゃあどうしたらいいのか、どう生きたらいいのか。これまた難しいし簡単に答えなんて出ないです……。
でもこうやって映画を観て、たとえば家族や恋人と少しでも死について話したり、もちろん生きることについて話したり、そういう時間がもたらされたらそれは素晴らしいことだなと思いました。
私たちは思ってる以上に弱い生きものなのかも。だから愛が必要!というのを私はこの映画から受けとった気がします。

そして最後のエンドロールが急に最高! 笑
これはぜひ観てほしいです。
というか家族が異常現象から逃げるだけのお話かと思ってたら、全然違ってびっくりしたよ。
何が起きてもおかしくない、この世の中は常にカオス! でも光はきっと差しているよね。そんな感触。

12月30日からNetflixでも配信されるようです。
なんだか色々語ってしまいましたが、映画を観たらきっとそれぞれ思うことがあるんじゃないかなぁ。
とても深い作品でした。そしてアダムやっぱり好き!
というわけで皆さんまたね。良いお年を〜。

© 2022 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

INFORMATION


1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

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