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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第35回「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」

2023.07.10 upload

『苦い涙』(2022年:フランス)
原題:PETER VON KANT
監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
キャスト:ドゥニ・メノーシェ/イザベル・アジャーニ/ハリル・ガルビア/ステファン・クレポン/ハンナ・シグラ ほか
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nigainamida/
全国順次公開中


みなさま、こんにちは。
ついに、夏が来たなって感じの暑さになってきましたねー。
体調崩されていませんか?

さて、今回は前回に引き続きフランスからの作品を観てきました。
ご存知の方も多いかと思います、フランソワ・オゾン監督の劇場公開中の作品です。

オゾン監督は毎年のように長編映画を発表していて、私も何作か観ているのですが、洗練された映像、そしてどこか毎回テイストの違った新鮮な面白さを与えてくれる作品ばかりです。
今回も楽しみに観てきました。

『苦い涙』(『PETER VON KANT』)2022年、フランスの作品です。
監督はフランソワ・オゾン、出演はドゥニ・メノーシェ、ハリル・ガルビア、イザベル・アジャーニなど。
今作はオゾン監督が敬愛するドイツの映画監督・ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1972年に手がけた『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』をアレンジした作品となっています。

主人公である著名な映画監督ピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は、恋人と別れて激しく落ち込んでいました。
助手のカール(ステファン・クレポン)をしもべのように扱いながら、事務所も兼ねたアパルトマンで暮らす日々。
ある日、3年ぶりに親友で大女優のシドニー(イザベル・アジャーニ)が偶然知り合った青年アミール(ハリル・ガルビア)を連れてやってきます。
若く艶やかな美しさのアミールに、一目で恋に落ちるピーター。
彼はアミールに才能を見出し、自分の家に住まわせ、映画の世界で活躍できるように手助けしますが……。
アパルトマンの一室で繰り広げられる、作家の情熱的な恋とその行方を描いた物語です。

面白かった! 艶やかで、浮世離れしていて、でもなんとも滑稽で切ない……。
ピーターの涙の苦さは計り知れないです。

舞台は70年代のドイツの映画監督のお家とあって、まずファッションやインテリアがとっても素敵!
真っ赤なタイルの壁や、ふわふわの羽根?が敷き詰められたベッド。
心地よい音を響かせるタイプライターや、赤と青のおしゃれな映写機。
物語はほぼこの部屋の中だけで進んでいくのですが、見ていて楽しく飽きませんでした。
そして印象的な大きな窓。外から見たこの窓、好きだったなー。
舞台セットのような、かわいらしい作り物感が素敵でした。

登場人物とそのキャラに合った衣装も抜群におしゃれ。
主人公ピーターのガウンやベスト、アミールの革ジャンや赤いシャツは若くて物怖じしない彼にぴったり。
そして個人的には助手カールのハイネックとかシャツが、彼の身のこなしと絶妙にマッチしていて素敵!となりました。
有名女優シドニー役のイザベル・アジャーニは以前、リュック・ベッソン監督の『SUBWAY』(1984)を観て、そのあまりのかわいさに衝撃を受けたのですが、その頃からあんまり変わってない……!?
おそろしいほどの美貌です……。真っ白な毛皮やスーツ、ドレスもとても似合っていたなぁ。

元となっているファスビンダー監督の作品は観ていないのですが、元々は舞台で演じられていたものを映画にしたそうで、確かにお芝居のような印象が残りました。
ピーターが暮らし、仕事をする(仕事してる気配あんまりなかったけど)部屋の中だけで繰り広げられるからこその、濃くて、孤独で、どうしようもなく溺れていってしまう彼の様子が切ないです。

アミールとの出会いのシーン、それまでは別れた恋人のことを冷淡に語っていたのに、彼が現れた途端、目をキラキラさせて彼を見つめてるの最高でした。
確かに、アミールは男性も女性も関係なく惹きつける、なんとも言えない無垢と生意気の間のようなセクシーさがあります。

ピーターの家にアミールが住みつき、身勝手なわがままを言うようになってからも、「愛してる」とピーターが言って、「僕も」とアミールがそっけなく返すと、「いつも『僕も』だ、たまには愛してると言って!」と言ったりとか。
アミールが他の男の話をして意地悪をすると涙を浮かべてふてくされたりとか、とにかく純粋すぎるほどに純粋で、彼のことしか考えられなくなっているのがもう……。うぅとなります。

ピーターのように生きるのはつらいこともあると思うけれど、ここまで、周りが見えなくなって、果てには自暴自棄になってしまうほどの恋、大人になってからもできるのは羨ましくもあるなぁ……。
終盤でピーターは母親に、「アミールのことは所有したかっただけだったんだ」と告げます。
恋をすること、愛すること、きっといくつになっても答えはないんだろうな。
不器用で、まっすぐすぎて胸が痛い。

でもなんというか、物語全体を通してあんまりがっつり湿っぽくないというか、一歩引いたような軽やかさもあって、そこがまたよかったです。
最初から最後まで一言も話さない助手のポールが、よかったな……。
どこか彼の視点から見た映画のようでもある気がします。
ピーターにいいように使われていた彼ですが、最後にとる行動は驚きと少しの悲しさ。

劇中で流れるレコードも最高でした。情熱的な歌詞が物語の世界にぴったりハマっています。
そして踊るピーターの哀愁よ……。
ぜひこの濃いめのムードに浸ってみてはいかがでしょうか。
思いがけず、切なくなること間違いなしです。そしてシャンパンが飲みたくなります。
ファスビンダー監督のほうも観てみたいな。

それではまた、みなさま素敵な夏を!


© 2023 DONUT



中野ミホ「Breath」インタビューを掲載

LIVE INFORMATION

■ ライブ、イベントの最新情報は公式サイトをご確認ください。
https://nakanomiho.tumblr.com

INFORMATION


配信シングル「TAPES」
2023年3月29日(水)リリース
収録曲:01.国境/02.Turn



1stEP『Breath』
2022年8月17日(水)リリース
収録曲:01.My friend/02.不思議なぼくら/03.電源/04.Good morning to you/05.ハウ・アー・ユー/06.Mabataki
販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/

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