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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第11回「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」

2021.02.02 upload

『聖なる犯罪者』 (2019年/ポーランド=フランス合作)
原題:『Boże Ciało』
監督:ヤン・コマサ
脚本:マテウシュ・パツェヴィチ
キャスト:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブルほか
公式サイト:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/
全国順次公開中
—————

みなさん、こんにちはー。
ちょっとあったかい?と思ったら寒かったり、色々と難しい日々ですが、お元気でしょうか?

そういえば先日、私が毎週やらせていただいてるレギュラーラジオで、未開の地である「ホラー映画」についてリスナーの皆さんからおすすめを募集したのですが、これがたくさんいただき嬉しびっくりでした!
なんだかんだ自分の好きそうな映画を選んで観てしまっているので、ホラー映画とか、自分からは選ばないものも今度昼間に観てみようかな……と思っています。昼間に。
だからというわけではないのですが、今回はちょっと変わった、実話を基にした作品を観に行ってきました!
映画ファンと思われる方々で結構座席埋まっていました! 期待度高し。

『聖なる犯罪者』(『Boże Ciało』)
2019年、ポーランド・フランスの合作映画。
監督はポーランド出身の若手、ヤン・コマサ監督。
主演はバルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブルなど。
バルトシュ・ビィエレニアは7歳の時から舞台で活躍し、国立アカデミー・オブ・シアター・アーツを卒業、国立スタリー劇場に所属していたというエリートな経歴の俳優さんなのだそう! なるほど納得。

物語の舞台はポーランド。
ドラッグや暴力で問題を起こし、少年院に収容されている20歳の主人公ダニエル(バルトシュ・ビィエレニア)。
彼は少年院で出会った神父の影響で熱心なキリスト教徒となり、前科者は聖職者になれないと知りながらも、神父になることを夢見ていました。
仮釈放が決まり、彼は少年院から遠く離れた田舎の製材所に就職することに。
製材所への道中、偶然立ち寄った教会で出会った少女マルタ(エリーザ・リチェムブル)になんとなく「僕は司祭だ」と嘘をつきますが、新任の司祭と勘違いされそのまま司祭の代わりを任されることになってしまいます。
とても若く、司祭らしからぬ言動をするダニエルに最初は村の人たちも戸惑いますが、自分の言葉で親しみやすく説教をする姿に人々は少しずつ信頼を寄せていきます。
あるとき、一年前にこの村で7人もの命を奪った痛ましい事故があったことを知った彼は、残された家族の心の傷を癒したいと模索します。
そんなとき同じ少年院にいた男が村に現れ、彼の秘密を知られてしまいます……!
というまさかの実話(!)を基にしたお話。

いやー、なんていうかこれは……
面白かったんだけど、切なかったなぁぁー。
観終わった後、なんとも言えない気持ちになりました。。
でもすごく観ごたえあったー。

予告編を見て、おぉ! ストーリー面白そう! と思って観に行ったところもあったのですが、それよりも役者さんの表情や言葉、画面の深さ、静けさに心を打たれました。
ダニエルの過去に犯した罪やそれに関する気持ちなどは特に描かれていなくて、基本的に何を考えているかつかめません。
だけど時々不安そうに小刻みに体を揺すっているのがさみしげで、苦しい。(ドラッグのせいもあるのかも)
そしてこの映画で一番印象的といってもいい、彼の瞳。美しくて、ぐーっと引き込まれます。
きっと過去の罪のこと、欲望、神、彼の中では色々と葛藤があったのだと思う。
でもそれは想像なので、完全に感情移入できるというわけでもなく、観ている側も不安な気持ちで進んでいく感じ……。

全体的に空は曇ってて、田舎の閉鎖的な空気がグレーや深い青色で表されていました。
彼の白い肌や目の色とも合っていて、不思議で切ない気持ちにさせる。
窓からの光とか、朝の空気感とか、火とかの色もまた良かったなー。
ヨーロッパの映画っていう雰囲気がとてもあった。
村の人々の顔もどことなく暗い……。

事故のことは人々に確実に暗い影を落としていて、その話題になると言い争いになったりします。
彼は村の外から来たけれどそのことにきちんと向き合おうとするのがまずとても偉いなーと思いました。
人々に好かれたい、認められたいという気持ちももちろんあったと思うし、実際にそれを口にしたり、自分は愚かだと言ったりします。
でもその彼の誠実さや、今までの司祭にはなかったであろう突飛さが人の心をナチュラルに動かしていきます。
その場の人を強く惹きつけ、ハッとさせるような自分の言葉で教えを伝えることができて、すごいなーと思ったなぁ。自分だったらいきなりあんな風に振る舞えないな。そもそもそんな嘘つかないけど。笑
製材所にやってきたかつて少年院で一緒だった男の子も最初は馬鹿にしたりお金をせびっていたけど、彼の説教を聞いて打ちのめされた、と素直にいう。涙を流す。
確かに人の心に訴える何かをもっている感じ。
彼が賛美歌を歌うシーンも良かったなー。とても若くていい声です。
女の子がステージで歌うところも素敵だったな。

ただこれほんと、結末は切なかったです……。あ、ちょっとネタバレしてごめんなさい……。
彼のように強くてまっすぐに見えても、弱い面は必ずあって、本当に人の気持ちは一つではない、と思った。
神の前で泣いて祈る人々も、事故の運転手の奥さんをいじめたりしていて本当にみんな、彼のいうように欲望という病を持っている。
気づかないうちに誰もが人を支配しようとしたり、憎しみをぶつけてしまったり。
それは人間なので仕方ないし当たり前だけど、気づいて祈ること、愛することで赦しを求めるのかな。
「赦しとは愛です。その人の犯した罪に関わらず、愛することです。」というダニエルの言葉がしみた……。
私はキリスト教には馴染みがなくて、恥ずかしながら勉強したこともないのでもちろんきちんと理解できることではないと思うけれど、なんとなく自分なりにそう感じました。
ポーランドは国民の約9割がカトリック教徒の国なのだそうで、本国ではどんな風にみんなこの作品を観たのかな。

目に見える、現実的な罪を犯すことが悪とされているけど、それは一つの面にすぎなくて「善悪」で簡単に人を判断できるものじゃないのかもね。うーん、深いです。
彼には、このあとちゃんと光が訪れるって信じたいな……。涙

ストーリーはとても映画的で面白いのだけど、実話ということもあってか、ドキドキやエンタメ性はほぼなかった! がそれが良かったです!笑
静かに、ずっしりとくる素晴らしい作品でした。
観終わってからもしばらく、ダニエルの表情が頭から離れなくて少し苦しい。

ヤン・コマサ監督の作品また観たいな! 俳優さんも他の作品ではどんな感じなのかとても気になる!!
世界には素敵なものを作るひとが本当にたくさんいるなぁ。感謝。

ではまた、お元気で〜!
あったかくしてお過ごしくださいね。

© 2021 DONUT


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