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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ


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第23回「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」

2022.03.10 upload

『ガガーリン』 (2020年:フランス)
原題:GAGARINE
監督:ファニー・リヤタール/ジェレミー・トルイユ
脚本:ファニー・リヤタール/ジェレミー・トルイユ/バンジャマン・シャルビ
キャスト:アルセニ・バティリ/リナ・クードリ/ジャミル・マクレイブン ほか
公式サイト:http://gagarine-japan.com
全国順次公開中


どうもみなさん、こんにちは。
風が強くて、少しずつ春の気配、ですね。
いかがお過ごしでしょうか。
さくらフレーバーのお菓子が出はじめると、どんな味か分かっていても買わずにはいられない中野です……。

さて、今月も映画館へ行ってきました。
ジャケだけ見ると、今っぽいおしゃれな映画なのかな?くらいにしか思っていなかったのですが、すごくよかったー。こちらをご紹介します。

『ガガーリン』(『GAGARINE』)
2020年、フランスの作品。監督は今作が長編デビュー作となるファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ。
主演はこちらも映画初出演のアルセニ・バティリ。そしてリナ・クードリなど。

舞台はパリ東郊に位置する、60年代に建てられた大規模公営住宅ガガーリン。
宇宙飛行士ガガーリンに由来する名前を持つこの団地で育った、16歳の少年ユーリ(アルセニ・バティリ)が主人公。
彼は自身も宇宙に想いを馳せのめり込んでいる一方、自分を置いて帰って来ない母親を待ち続けて一人で暮らしていました。
ある日、老朽化と2024年パリ五輪のため、ガガーリン団地の取り壊し計画が持ち上がります。
住人たちの退去が進む中、ユーリは団地を守るため、友だちのフサーム(ジャミル・マクレイブン)やディアナ(リナ・クードリ)とともに、取り壊しを阻止するべく動き出しますが……。
実在したガガーリン団地の解体前に撮影されたという、若者たちの物語です。

なんだか不思議な余韻の残る、今まで観たことない感じの作品でした!
まずこのガガーリン団地の存在感よ。ノスタルジックなレンガ色に白い枠の窓たち。
切り取られ方がすごくかっこよい。洗練された美しい映像に冒頭からぐっと引き込まれます。

主人公のユーリは、母親が家に帰って来ず、一人望遠鏡をのぞいては宇宙のことを考える寡黙な男の子。
割とがっちりした体格とはうらはらに、繊細な雰囲気と表情が絶妙でとってもよかったなぁ。
そして彼が密かに思いを寄せるディアナ、演じているのはリナ・クードリ。
そう、先月紹介した『フレンチ・ディスパッチ』でティモシー・シャラメとともに学生運動をしていたあの超キュートな女の子です! 雰囲気全然違うけど今回もかわいい……ハスキーな声がとても魅力的。
ディアナは移民?なのかな、たくさんの兄弟がいて、働きながらキャンプで暮らしています。

パリ郊外にはこうした貧しい人々が住むエリアがあるそう。
パリといえば華やかなイメージしかなかったから、この雑多なストリート感は新鮮でもあり、今作のように子供たちでも日々しんどいのが当たり前だったりするのかなぁと感じました。
以前紹介した『Sweet Thing』にも近い空気。

そんな暮らしの中、団地と学校の限られた世界の中でユーリにとって宇宙はきっと唯一の光。
そしてディアナの存在もそうだったんだろうな。
好きな子とモールス信号を使って会話するなんて、なんてロマンチック。
団地の解体を前に、自分だけの宇宙船に閉じこもることを選んだユーリ。
優しくて控えめな彼からはあまり想像できない大胆な計画に、これどうなっちゃうんだろう……とドキドキしました。

宇宙船=誰もいなくなった団地、のなかの仕掛け?もとてもキュートだったな。
ちょっとミシェル・ゴンドリー監督の作品みたいな手作り感。
ビニールのガサガサした感じとか、紫外線ライトの色、植物。
宇宙っぽいけど完全じゃないところがかわいい。

実は私も団地で育って、東京に出てくる直前に老朽化で取り壊しが決まって引っ越しをしたので、本当に彼の気持ちがわかるなぁとなりました。
一人、また一人といなくなって、空っぽになっていくさみしさ。
生まれ育った場所が壊されてしまうというのは本当にやるせない。
今でも春の明るい日差しの中にぼんやりと立ってる団地の姿が思い浮かびます。
なんか団地って本当に生き物みたいで、不思議な存在感があるよね。

物語がラストに近づくとユーリの幻想?夢?なのか、ファンタジーな要素も加わっていきます。
やっぱり宇宙はいつの時代でも、どんな人にも平等に感じられる夢みたいなものな気がする。
誰かと一緒に空を見上げることが私はすごく好きだし、この映画を観て改めて、それって素晴らしいことだなと感じました。

ストリートの現実と、宇宙のロマンチックと、16歳のこわれてしまいそうなほどの繊細さ。
美しい映像を通して絶妙に混ざりあった、爽やかだけど不思議な作品でした。
じわじわくるなぁ。あー青春。

現在公開中、これから公開の地域もあるみたいですので、是非この空気をみなさんにも感じてみてほしいです!

それではまたですー。
みなさんの心とからだがこの春も穏やかでありますように。

© 2022 DONUT

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