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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第10回「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」

2020.12.24 upload

『パリのどこかで、あなたと』 (2019年/フランス)
原題:『Deux moi』
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
キャスト:アナ・ジラルド、フランソワ・シビルほか
公式サイト:https://someone-somewhere.jp
全国順次公開中
—————

みなさんこんにちは!
気づけばもう、2020年が終わろうとしていますね……。
今年はみんなそれぞれ、ほんとうに大変な年だったと思います。
年末はゆっくり、自分にごほうびあげたい〜って感じですよね……。

寒くもなってきたし、心だけでもあたたまりたい……。
と思い、気になっていたこちらの映画を観にいってきました。
イルミネーションが輝く恵比寿ガーデンプレイスへ一人で。笑
あ! 今回少しネタバレありますのでご注意くださいませ。

『パリのどこかで、あなたと』(原題『Deux Moi』)
2019年、フランスの作品です。
監督はセドリック・クラピッシュ、出演はアナ・ジラルド、フランソワ・シヴィルなど。
セドリック・クラピッシュ監督、今まで気になる作品はあったのですが今回が初鑑賞! ドキドキ。

舞台は現代のパリ、線路沿いの隣り合うアパートでそれぞれ一人暮らしをしているメラニー(アナ・ジラルド)とレミー(フランソワ・シヴィル)。
医療機関の研究者として働くメラニーは、仕事に追われる日々を過ごしながらも、1年前に別れた元恋人のことが忘れられずにいます。
一方、倉庫で働くレミーは、同僚がみな解雇される中、自分だけ昇進することになり、罪悪感とストレスを抱えていました。
その影響から、メラニーはいくら寝ても寝足りない過眠症に、レミーは眠れない不眠症になってしまい、二人はそれぞれセラピーに通い始めます。
セラピストとの会話、友人や職場の人とのつながり、猫も登場してそれぞれの日々が流れ、二人はお互いを知ることなく何度もすれ違うのですが……。

という、なんとも不思議なラブ?ストーリーです。

これ、とっても良かったです……! じんわり。。
ポスターや予告編を見る感じだと、あ、フランスのきれいな恋愛映画なのかなってちょっと思いますが、これはありそうでなかったんじゃないかというか、とても親近感のわく、自分のことみたいに近くにいてくれる映画でした。
ラブストーリーというよりも、それぞれの物語って感じ!
だけどもちろん、胸がときめくシーンもあり。

映画の中のパリ、というと私はきらびやかで何もかもがお洒落な、レトロな街の景色を想像してしまうのですが、この作品で描かれているのは働いて一人暮らしをする30歳の主人公二人の、リアルな生活のまわりの景色。
雑多な電車の人ごみ、線路沿いのアパート、小さなエスニック食材店、無機質な倉庫。
もちろんセンスが良くてかっこいいのですが、古いものと新しいものが共存した、いまの空気が新鮮だったな。何度か画面いっぱいに広がる線路とパリの夕景がとても印象的でした。

主人公の着ている服もとてもシンプル。登場するほとんどの女性がデニムを履いていた気がする! 素敵。
レミーのなんとも言えないスニーカーもよい。(お父さんが履いてるみたいなやつ)
セラピストの青い部屋、メラニーの薄いピンクタイルのお風呂、彼女がラストに近いシーンで着ていた花柄のシャツ、子猫の白。
どれも強烈なインパクトではないんだけど、なんかいいなー、って残りました。
音楽も、ちょっと無機質で今っぽくて、でもそれが人ごみでは心地いい、みたいな雰囲気でとても良かった!

そして二人の行動も、わかるわーとなります。
隣の部屋から聞こえてくる音楽をShazamしたり、夜中に一人で猫の動画見たり、女子三人で出前頼みつつマッチングアプリ見てやいやい言ったり。笑
(個人的にはレミーがFats Wallerの動画を観ていて、テンション上がりました)
そうやって普段はなんとなく、働いて、たまに遊んで、暮らしてるけれど、セラピーに行って自分のことを話しているうちに涙が出てきてしまうところとか。

楽しく人と会ってると思ったら、そのあと急になんだか虚しくなったり、一人だと感じたり。
少し近付いた?と思っても、素直にのめり込めない、一歩引いてしまう、感じとか。
都会で暮らすこのくらいの歳のひとの感じが個人的にはとてもリアルで、あぁぁ、となりました。

仕事のこと、別れた彼のことが原因だと感じそれぞれセラピーに通い始める主人公ですが、話すうちに根っこにある傷が見えてきます。
ゆっくりとそこに向き合って、いろんな日を経て少しずつ前向きになり始める二人が最後の最後のシーンで初めて出会うのですが!(ネタバレごめんなさい)
それがもう……泣けるのです。鳥肌なのです。涙

二人のセラピストが共通して口に出す言葉、「人生を信じる」。
これすごくいい言葉だなーと思ったなぁ。
毎日、少しずつだけど変わっていて、調子が良い日もあれば、なんだかなぁという日もある。
誰かといつのまにか会わなくなる。
すれ違う昨日までは他人だった誰かと、今日は知り合いになる。
そんな風に、劇的じゃなくても少しずついろんなことが積み重なって行くのが人生なんだな、そんな日々を信じてあげなくちゃなぁ、と思いました。

これから二人はどうなるのか、恋に落ちるのかな、落ちてほしいな、ケンカするかな、するだろうな。
なんて考えると、人生っていいじゃないのー。うふふふ。
明日からはまた、ちょっと素敵に生きたいな、なんて思える作品でした。
決して派手ではないけれど、じんわり、しみるとてもよい映画!
ぜひ同世代の人に観てほしいです。

フランス語の原題『Deux Moi』の意味を調べてみると、「二人の私」なんだそう!
なるほど合点がいきました。

この二人みたいに、ちょっとでもすてきな未来を想像して、来年も人生を信じて生きていきましょう!(まとめた風)

とにかくみなさん、2020年お疲れ様でした。
また来年も好きな映画にたくさん出会えるといいな。
そしてみんなが少しでもおだやかに、ハッピーに暮らせますように!

それではまた、よいお年をー!

© 2020 DONUT


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