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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。公式サイト:http://drops-official.com

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第2回「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」

2020.03.26 upload

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
原題:『The Death and Life of John F. Donovan』
監督:グザヴィエ・ドラン
2018年:カナダ/イギリス
キャスト:http://www.phantom-film.com/donovan/
—————

みなさまこんにちは!
春らしくなって来ましたね。
東京は桜も咲いております。ちゃんと春は来るんだなー。
少しでも気持ちを上向きに、させてくれるようなあったかい日が増えるといいですね。

さて、少し時間が空いてしまいましたが、お引越し後二回目の「まほうの映画館」です。

今回はこれまた公開をすっごく楽しみにしていたグザヴィエ・ドラン監督の新作です。ふっふっふ。
あっ、今回ちょっとネタバレ注意かもです!笑
これから観ようとしている方は慎重にお読みください……すみません。。

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(『The Death and Life of John F. Donovan』)
2018年、カナダとイギリスの合作映画。
監督はグザヴィエ・ドラン。
2009年の監督・脚本家デビューから毎年のように作品を発表し、国際映画祭でも多数の賞を受賞している、若き天才監督。。現在31歳だそう。
主演はキット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ジェイコブ・トレンブレイなど。

物語は、注目の若手俳優ルパート・ターナー(大人になってからはベン・シュネッツァー、少年時代はジェイコブ・トレンブイが演じてます)が一冊の本を出版し、インタビューを受けるところから始まります。
それは2006年に当時29歳、人気絶頂の最中にこの世を去った俳優、ジョン・F・ドノヴァン(キット・ハリントン)と、彼に憧れる少年だったルパートとの、秘密の文通を本として公開したものでした。
ジョンの抱えていたスターとしての孤独と苦悩、少年時代のルパートの繊細な気持ち、10年の歳月を経て、ふたりの人生が交わるような、すこし苦しくて、普遍的な美しい物語。です!(早くも個人的感想入ってしまった)
ドラン監督が幼いころ、憧れていたレオナルド・ディカプリオに手紙を送ったという自身の経験から着想を得たのだそう! もうドラマチックじゃないのー。

感想はですね、濃かった、やっぱりドランすごかった……美しくいいものを観た……。
という感じです。素晴らしかったぁぁ。
彼の作品は本当に、感覚に全面的に訴えかけてくるというか、時には受け止めるのにすごくパワーを使う。
映画館で観てよかった!

まず、オープニングでAdeleの「Rolling in the Deep」が流れ、NYの街が近づいて来て、キャストとかのクレジットが黄色の文字で入るところ。
うおぉぉ……始まった……となります。
この時のNYの全景とてつもなくゾクゾクしたなぁ。

なんていうか、全体を通して街の景色とかはじっくりとは描かれていなくて、ずっと人を深く追ってるんだけど、こういう随所に出てくる俯瞰の景色もすごく洗練されていてハッとなります。

あとベッドルームに陽が差し込んで、埃が舞ってる描写とか、『わたしはロランス』でなぜかとても印象に残ってたんだけど今回もあった!
車の中での会話、ネックレス、ウインク、親子で歌い出すのとか、あの作品にもあったなぁ!と思って楽しかったです。
まだ観ていない作品もチェックしなくては!
でも今回は初の英語作品ということもあって(カナダ出身のドラン監督は今までフランス語で撮ってました)、その点では印象はやっぱり少し違ったかも。
言語の持つイメージってある気がする。語気の強さみたいなものとか。特に女性にはそれを感じました。

あとねひとの表情の映し方が天才的だなぁと思いました。
顔の陰影とか、肌の感じ、まつげ、うぶ毛とか、女性であればお化粧のディティールとかそういうところまでリアルにじっくり描かれていて、その人の揺れ動く感情、ひとつじゃない心までじっと覗いているような気持ちになるのです。

もちろん、役者さんの表情も素晴らしい!
ジョンの寂しそうに笑うときの目、ルパートのひとすじの涙、学校の先生の黒く輝く瞳、ジョンの恋人ウィルの笑顔。
印象的な表情がいっぱいあって、その人が深く入ってきます。
なんかピカピカの完璧な超イケメン!みたいな人は出てこなくて、ジワァっとその人に入っていく感じが、いつもすごい絶妙だなぁ、と思います。笑

そして今まで同様、おそらくドラン監督本人と深くつながるテーマである、「母と息子」。
今作は二組の母と息子。
やっぱり、母親だけど女、であり、一人の人間なんだなぁって感じしたな。
ルパートの母は「なんでそんなに私を嫌うの!?」とか、「仕事中の私に迎えに来させて」とか、10歳の子供に言っちゃう。ルパートも、母が女優の道を諦めたことや父と別れたことを度々強く言ってしまう。
親と子って、友達みたいでもあり、でも確実に親と子であり、それぞれが一人の人間でもある。
その感じを本当に鋭く丁寧に描いているなぁ。
でもね、この親子には素晴らしい愛のシーンが待っています。これはぜひ実際に観てほしい……!
突然来て最高に最高でした。涙

対してジョンは果てしなく孤独。
母親にも、最後まで「できない」と言ってしまうのが本当に切なかった。
唯一の救いであった恋人のウィルにも、世間からの目を気にして別れを告げてしまう、テレビ番組でルパートとの文通のことを聞かれた時も嘘をついて否定してしまう。
誰が味方で誰が敵なのかももはやわからないような彼の生きている世界、自分のスターとしての地位を守るための行動が、かえって彼自身を追い込んで、傷つけていってしまうのです……。
世界中のみんなが見ていたのに、本当の彼のことは誰も知らなかった。
ジョンとウィルがクラブで愛し合うシーンは、感情がわーっと溢れていて、苦しくて、綺麗だったなぁ。

ジョンとルパートは手紙を通してしか交わることはなくて、でも実際に二人がもし会っていたらどうなっていたんだろう、とか考えてしまいました……。

でもジョンは彼だけに与えられた場所に生きて、ルパートの人生を大きく動かして、変えていったことは確か。
死んでしまった彼と、これからを生きる彼。
ラストのルパートがバイクで二人乗りして去っていくシーン、あれ最高だったなぁ。
『マイ・プライベート・アイダホ』を瞬間的に思い出したんだけど、やっぱりオマージュなんでしょうね!
観終わった後、重たい気分ではなくてなんかちょっと風が吹いて、新しい光が見えるような。
ニヤッとするような。それがまたいいです!
ラストはThe Verveの「Bitter Sweet Symphony」! うぉぉ。
映画館を出たとき、景色が少し違って見えたなぁ。

ポップな音楽とビジュアル、ハッとするような映像と毎回一貫したテーマ。そして何よりひとのどうしようもなく弱くてつらくて苦しいところをずーっと見つめて描き続けていて、本当にグザヴィエ・ドランはすごい人だなぁ……と、思いました。
世の中にはいろんなタイプの映画監督がいると思うけれど、きっとわたしが惹かれるのはその人の「これだ!」みたいなものをずっと追い続けて表現し続けてる人なのかなぁと思います。
それをやらずにはいられない、それが好きでたまらない!みたいな。

もちろん、監督とか関係なしにいい映画が観たい!という方にもはりきっておすすめです。
あー、ほんとになんか、じわじわ来るんだわー。笑
おそらくまだ劇場公開中なはず! これからのところも多いと思います。
これは是非体験してほしいという気持ちです! ふるえます。

ではまたね。
春はもうそこ。ゆっくり、上むいていきましょーね。


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