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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ


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第22回「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」

2022.02.03 upload

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』 (2021年:アメリカ)
原題:THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
キャスト:ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ティルダ・スウィントン、フランシス・マクドーマンド、ジェフリー・ライト、ティモシー・シャラメ ほか
公式サイト:https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html
全国順次公開中


やあやあみなさん。こんにちは。
今月はうきうき気味の中野です。

なぜならば! 2年前からずーっと首を長くして待っていたウェス・アンダーソン監督の新作が。
ついに公開! わーい!
私と同じように楽しみにされていた方も多いのでは。
今回はもちろんその作品について書こうと思います。

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
(『THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN』)
2021年、アメリカの作品。監督はウェス・アンダーソン。
出演はビル・マーレイをはじめとするたくさんの名優たち!(書き切れない)

舞台は20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。
アメリカの新聞社の支社が発行する雑誌で、編集長(ビル・マーレイ)が集めた個性豊かな記者たちが活躍し人気を獲得していました。
ですがある日、編集長が心臓まひで急死。彼の遺言により雑誌は廃刊が決まってしまいます。
追悼号であり最終号である誌面を完成させるため、記者たちが語る記事の内容とは。
ウェス・アンダーソン監督の長編10作目となる最新作です。

公開初日、朝イチの回にドキドキしながら着席。
(映画祭などで観られた方もいると思いますが、公開日っていうところが大事ということで)
この日が来たかぁと感慨深い。
文字が並ぶのも彼の作品の特徴かなと思いますが、やっぱりまず文字が。そして画面が、小さいね!? と最初思いました。

そしてめくるめくウェス・アンダーソン世界があらわれます。
ビル・マーレイ演じる編集長のいる「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。
黄色い壁、ブラウンの洋服、壁に貼られたメモ、本棚の本、一つ一つのカットを静止画にしてじっくり観たい! ずっとその連続です。
字幕も見ないといけないし追いつかないよーってなります。この感じ、幸せだなぁ。

人物の配置が本当に神がかり的に美しいなぁと今回とても感じました。
絶妙すぎる人々のバランス。小物や文字の配置もそう。
きっとミリ単位で計算され尽くしているんだろうな。
なんて気持ちいいんだろう。

物語は大まかに分けて3つ。
三人の記者がそれぞれ自分の執筆した記事について語る形になっています。
ですがその前にウェス監督作品おなじみのオーウェン・ウィルソンとジェイソン・シュワルツマンがそれぞれ登場。
「花は大嫌いだ」とか言っていてふふふと嬉しくなります。

まずはティルダ・スウィントン演じる美術批評家の記事。
服役中の天才画家のミューズはレア・セドゥ演じる看守。
その設定がもう、なんてロマンチック!
小さいなぁと思っていた画面が広がり、カラーになる瞬間、鳥肌が立ちました。
本当にみんな止まって撮ってるんだろうなというストップシーンも最高!

2つ目はフランシス・マクドーマンド演じるジャーナリストが学生運動を取材する話。
ティモシー・シャラメはいつだって美しー。
もじゃもじゃ頭に微妙なひげでも輝いていました。
市長と遠隔でチェス対決するなんてどうやって思いつくんだろう。
ジュークボックスから流れる印象的な曲は、ジャーヴィス・コッカーが架空の歌手として歌っているのだそう。
とても好きなシンガーなのでさらに興奮。
そのレコードのジャケまでとても良いのです。夢みたいなシーンの連続です。

そして最後はジェフリー・ライト演じる祖国を追われた記者が、警察署の食事について書く(?)記事。
これもヘンテコなのですが深い。
伝説のシェフを演じるスティーヴン・パークの唯一のセリフにしびれます。
ウィレム・デフォーやっぱり好きだなぁ。
真っ暗な画面の下のほうに顔だけがあるシーン、印象的でした。

となんだかもう書き切れないほどの素敵の洪水でした……。
観ないと分からないような個人的な好きポイントばかりですみません。だって楽しいんだもん!
いろんな映画で観てきた大好きな俳優さんたちが、みんなウェス監督の世界の中にいることに興奮が止まらず。
全部のカットを額に入れて飾りたい、1秒たりとも見逃さずにずっと記憶しておきたいっていうくらい、贅沢すぎる体験。

でもどの物語にも悲しい記憶や、歴史や、暴力があってそれもなんていうか滑稽に描かれてます。どの作品もわりとそんな気がする。
監督なりのメッセージなのかな。
そして自分の見聞きしたことを活字にして人々に伝えること、一つの本をみんなで作ることへの愛とリスペクトが(主にビル・マーレイの編集長を通して)すごく感じられて、グッとくるところもありました。

というかいつも思うけど、これをずっと映画という形でやり続けている監督は本当にすごい。
絵でも本でも短編でもなくて、一本の長編映画にして私たちにこの世界を届けてくれることにきっと意味があるんだろうな。
今作は特に、カラーになったり白黒になったり、画面のサイズが変わったり、架空の固有名詞もいっぱい出てきて、とにかく自由すぎで最高!
自分のやりたいこと、作り出したいものを何にも左右されずにここまで完璧に作って、それがみんなをハッピーにするなんてもう芸術の一番すばらしい形だなぁと思う。
同じ時代に映画を作ってくれてありがとう、ウェス・アンダーソン。

自分の生きている世界までちょっとワクワクした目線で見ることができるような、最高に楽しい体験でした。もう一回観に行きたい。

というわけでみなさんまたね。
少しでもハッピーに過ごせますように。

© 2022 DONUT

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