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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第15回「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」

2021.06.02 upload

『ファーザー』 (2020年/イギリス・フランス)
原題:『The Father』
監督:フロリアン・ゼレール
脚本:クリストファー・ハンプトン、フロリアン・ゼレール
キャスト:アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン ほか
公式サイト:https://thefather.jp
全国順次公開中


みなさん、こんにちは!
もう梅雨なんでしょうか。
ふと気づいたら紫陽花がちらほら咲いてますね。
いかがお過ごしでしょうかー?

さて今回は、大きな映画館は閉館しているところが多かったのですがどうしても映画館行きたい! 新しい作品が観たい!となり、アカデミー賞で話題になったこちらの作品を観てきました。

『ファーザー』(『The Father』)
2020年、イギリス・フランス合作の作品。
監督はフロリアン・ゼレール、本作は彼が2012年に発表した戯曲『Le Père 父』の映画化なのだそう。
出演はアンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマンなど。
今年の第93回アカデミー賞では6部門にノミネートされ、アンソニー・ホプキンスは主演男優賞を獲得! 脚色賞も受賞しています。

ロンドンで一人暮らしを送る81歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)は、娘のアン(オリヴィア・コールマン)が連れてくる介護人を毎回拒否してしまい、彼女を困らせていました。
歳とともに徐々に記憶が薄れ、時間や周りの人物の関係が曖昧になってしまい混乱する日々。
アンに新しい恋人とパリで暮らすと告げられショックを受けますが、それすら真実なのかもわからないまま。
アンソニーとアン、そして周りの人々が彼の認知症と向き合っていく、どこか不思議であたたかい物語です。

これは、切なかったなー。正直とてもつらかったです……。
そして演出に静かに驚きました。こんなのは初めてみました!

最初から最後まで、ほぼ家の中での会話のシーンだけ。 そして基本的にすっとアンソニーの視点で描かれているのですが、彼の記憶は途切れ途切れで、時間や人物がどんどん混乱していきます。
デジャヴのように同じ場面がなぜか違う人物で繰り返されたり朝なのか夜なのかわからなくなってしまったり。
観ているこちらも「え? どういうこと?」なまま日々が進んでいきます。

けどこれはきっと映画だから、そのうち誰かが説明してくれるだろう、回収されるんだろうと思って観ていると、それが誰も説明してくれない(!)
次第に自分もアンソニーの気持ちになってきて、じわじわとなんだかつらくなってきます。
彼がいう「おかしなことが起きている。訳がわからない。」というそのものなのです。

だけどもちろん、周りの人たちは普通に生活しているし、頑固な彼の言動に呆れたり困ってしまうことも多い。
アンの恋人はアンソニーを冷ややかにあしらって、彼を老人ホームに入れるようアンを説得しようとします。
アンは父の前では笑顔で、彼を不安にさせないように振舞っているけれど、自分の仕事や生活もある。自分のことも時々わからなくなってしまう父に対して、どうしたら良いのか悩む。
そんなところがものすごくリアルで、どちらもつらかったな……。

アン、そしてアンソニーが涙を流すシーンがいくつかあるのですが、そのそれぞれのタイミングがまた泣けるというか、深かったなぁ。
日々の中で少しずつたまっていた不安や苦しみがあふれる瞬間、とても胸がしめつけられました。愛しているからこその涙。

そしてアンソニー・ホプキンスやっぱり素晴らしかったです。
陽気におしゃべりしまくってダンスまで踊っている日もあれば、呆然と宙を見ていたり、怒ったり涙したり。
こんな日々を過ごしていたらそりゃ不安になるよなぁと思いました。
おそらく自分が認知症であることにうっすらと気づき始めていて、おかしいなと思うけれど「あぁ、そうか、そうだったね……。」となるところとかもう、なんとも言えない気持ちになります。
最後のシーンで、それまでとは違う気づきというか、糸が切れたように泣き出すところ、とても深くて悲しい。あぁ。

きっと認知症と生きること、そして支えることのつらさは当事者にならないと絶対にわからないんだろうなぁと思いました。
自分の家族や大切な人の老いも避けられないことで、それとどう向き合っていくのか。
もしも家族が人生の終盤に差し掛かった時に、もう自分のことがわからなくなっていたらどうやって接すればいいんだろう。どういう選択をすべきなんだろう。
考えただけで悲しいけど、そういうことなんだな。
私はまだ正直あまり実感がわかないのですが、きちんと向き合っていかなくちゃいけないなと、ずっしり感じました。
私が行った上映回には私の親の世代やもう少し上くらいの方がたくさん観にきていて、あちこちからすすり泣きが聞こえてきました……。そうだよね。涙

だけどね、親子は永遠に特別な関係で、たとえ忘れてしまっても、ふれる手の温かさはずっと変わらないんだろうな。
それはすごく伝わってきたし、間違いないと思いました。
つらいつらいと書きましたが、笑
基本はアンソニーは明るくて人が好きで、一緒にいる誰かを楽しませたい人なんだと思う。
そういう根の部分と、それを受け継いでいるアンや支える人の笑顔がこの物語の救いのように感じました。
ラストもとてもあたたかかったです。

あと画面の色使いやみんなのファッションがとてもシンプルで洗練されていて、かっこよかったな!
アンソニーのパジャマもかわいい。笑

コロナ禍でなかなか会えなかったりするからますますしんどいけど、いま、家族との時間を大切にしたいなぁと改めて思いました。
歳を重ねてから観るとまた違って感じるのかなぁ。

うーん! とても素晴らしかったです! ずっしり。
機会があれば是非観てみてくださいね。

それでは! また!
梅雨に負けず前向きに行きましょう〜。


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