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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に札幌でDrop’s結成、vo&gtを担当。2021年10月にDrop’s活動休止。現在はシンガー、ソングライターとして活動。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
●公式サイト:https://linktr.ee/nakanomiho
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ


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第19回「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」

2021.11.02 upload

『スウィート・シング』 (2020年:アメリカ)
原題:Sweet Thing
監督・脚本:アレクサンダー・ロックウェル
キャスト:ラナ・ロックウェル/ニコ・ロックウェル/ウィル・パットン/カリン・パーソンズ ほか
公式サイト:http://moviola.jp/sweetthing/
全国順次公開中


みなさん、こんにちはー。
久しぶりの更新になってしまいました。
お元気でいらっしゃいますか?

なんだか秋を通り越して冬?って感じの寒さの日もありますが、キリッとした空気がとっても気持ちいい!
やっぱりこの季節は自分に合っているなぁと思います。

さて、今月も予告編サーフィンしていて見つけた新作。これわたし絶対好きだな……と思い調べたら、アレクサンダー・ロックウェル監督の新作とのこと!
日本では公開されていない作品が多くて、私も『ピート・スモールズは死んだ!』しか観たことがなかったのですが(『イン・ザ・スープ』はずっと観たかったけどサブスクになく、今回併せて限定上映されるとのこと! 絶対行く)、これは観たいーと思い映画館へ。

『スウィート・シング』(『Sweet Thing』)
2020年、アメリカの作品。監督はアレクサンダー・ロックウェル。
出演は監督の実の娘ラナ・ロックウェル、息子ニコ・ロックウェル、妻のカリン・パーソンズ、ウィル・パットン、そして新人のジャバリ・ワトキンスなど。

普段は優しいけれど、お酒を飲むと人が変わる父親アダム(ウィル・パットン)。
家を出て行ってしまった母親イヴ(カリン・パーソンズ)。
ある時アダムが酒で問題を起こし、強制入院になってしまいます。
15歳のビリー(ラナ・ロックウェル)と11歳のニコ(ニコ・ロックウェル)の姉弟は、今は別の恋人と暮らすイヴのもとへ預けられます。
ですがその恋人ボー(ML・ジョゼファー)は子どもたちに暴力を振るおうとする粗暴な男。
そこで起こったあることから、現地で出会った少年マリク(ジャバリ・ワトキンス)とともに、彼らは逃走と冒険の旅に出ることに……!
監督の実の家族とともにつくられたロードムービーです。

とてつもなく、めっちゃよかったです……!
個人的に、最近観た映画の中でダントツに好き。

私が観た上映回では本編の前にまずアレクサンダー・ロックウェル監督からのメッセージ映像が流れたのですが、そこで「これはアメリカからの瓶に入った手紙です」と語られていて、監督のそのたたずまいも含めてもう、これは絶対いいだろうなーとわくわく。

16ミリフィルムで撮られたモノクロのざらついた映像、シーンが変わるときにまあるく暗くなるの(アイリスイン/アウトというらしい)や、クラシカルな音楽。
冒頭から、いつの時代かわからないような不思議な映像にとても心惹かれます。
そして突如としてカラーに切り替わるところ!
あの謎のキラキラにまずドキッとしてしまいました。
何度か登場する空想の中のビリー・ホリデイも素敵すぎる!

二人の子どもたちは、学校に行かずに盗み?をしたり、空き缶とかを拾ってお金に替えてもらったりして暮らしています。
お父さんは愛のある人だけれど、お母さんが出て行ったことで酒浸りになり荒れてしまっています。
そんな、はたから見たらまだ子どもなのに、可哀想にと思ってしまう環境にいるのだけど、その苦しさに同情を求めるような空気はあんまりないのがよかったな。
ビリーがお父さんに髪を切られるシーンはとてもつらかったけど、それでも二人はお父さんを愛しているし、お父さんも二人を愛しているがゆえにそうなってしまう。
そしてそのときのニコの行動にも涙。。
あまり普通の幸せな日常とはいえない中でも、とてもささやかなあったかい瞬間があったりもして、そういう場面が本当に自然で、愛おしかったです。

そしてとにかく、子どもたちの表情がめちゃくちゃ素晴らしかった……。
監督の実の娘さんと息子さん、そしてスタッフがスケートパークでスカウトしてきたというマリク役のジャバリ・ワトキンスくん。
本当に彼らのそのままの美しさ、過ごしてる時間をそのまま切り取ったような映像。
自分も彼らの一員になったみたいな気持ち。こんな気持ちはとても久しぶりな気がする。

傷の数を自慢したり、僕たちはアウトローだ!って言ったり、でも本当は家に帰りたかったり。
子どもの頃ってこういう感覚あったなぁ。
あと映画の中の「三人」ってなんかいいなーと思いました。
『ダウン・バイ・ロー』とか『ストレンジャー・ザン・パラダイス』とかの画も思い出しました。

鑑賞前から気になっていた音楽も素晴らしかった!
いい曲をたくさん使いましたよーっていう感じではなくて、そこで鳴るべくして鳴っている自然でやさしい使われ方をしていてものすごく感動しました。
大好きで何度も聴いてたヴァン・モリソンの「Sweet Thing」が鮮やかに生きてました。

子どもと大人の間ぐらいのときの、特別な時間の流れかた、永遠に続くような感じ。
ビリーのぬれたまつ毛、後部座席で踊り歌うニコ、マリクの水に浮かんでる時の顔、笑ったときのうるんでる瞳。
もう全てがキラキラして、特別なきらめきを放っていました。
ビリーの歌声が、苦しさの中の希望のひかり。自由と愛だけでできているみたい。

本編の後にも監督のインタビュー映像が流れたのですが、その中で「これはとてもパーソナルな映画、こういうパーソナルな映画を観ることは近年あまりないと思うけれど、とても大切」というようなことをおっしゃっていて、その通りだなぁと思いました。
パンフレットにも「自分にとってパーソナルな、心からの言葉、真実の言葉を話す。そういう行為こそが多くの人の人生と交差するのだと信じています。」とのコメントが載っていて、まさに私が目指してるのもそこなんだよなぁと勝手に共感してしまいました。

自分の家族とこんな宝ものみたいな映画を作れたら最高だよなぁ。
そして同時にわたしのような遠い国の誰かにとっても宝もののような映画になる。
素晴らしすぎます。

なんていうか頭でなく完全にハートにきたなぁ。
何も考えたくなくて、感じていたくて、ただ美しくてぎゅっと涙がでました。
ささやかな愛おしい瞬間が確実にそこに映し出されていて、まさに「Sweet Thing」という言葉がぴったり。
こころにずっと残るであろう大切な映画になりました。

わー、すっごくよかったです。涙
機会があればぜひご覧になってみてくださいね。

それではまたです! みなさん素敵な秋をお過ごしくださいね。
(11月12日は中野ミホワンマンライブもあります! ちゃっかり宣伝! よければぜひお越しくださいー。)

© 2021 DONUT

information

<弾き語り>
2021年11月9日(火)下北沢CLUB Que

<中野ミホワンマン「あるく、うたう、あるく」>
2021年11月12日(金)下北沢440
(Piano ロマンチック☆安田/Guest Drum サトウミノル)

11月24日(木)下北沢Laguna
(Piano ロマンチック☆安田)

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