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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第9回「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」

2020.11.27 upload

『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』 (2020年/アメリカ)
原題:『Hillbilly Elegy』
監督・脚本:ロン・ハワード
キャスト:エイミー・アダムス、グレン・クローズ、ガブリエル・バッソほか
公式サイト:https://hillbilly-eregy-movie.com
一部劇場にて公開。11/24よりNetflixにて配信開始
—————

はいー、こんにちは!
11月、今年も残すところあと少しですかー。はやいねぇ。
今年は例年よりもたくさん映画を観られた気がするな。
みなさんお元気でいらっしゃいますか。

先日いつものように予告編サーフィンをしていると、気になる作品を発見。
近年話題のオリジナル作品を多数発表しているNetflix映画の新作とのこと!
昨年末に観た「マリッジ・ストーリー」が良すぎでしたので、観に行ってきました〜。

『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』(『Hillbilly Elegy』)2020年、アメリカの作品。
監督はロン・ハワード、出演はエイミー・アダムス、グレン・クローズ、ガブリエル・バッソなど。
原作はJ.D.ヴァンス作、ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー第1位となった回顧録「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」。

アルバイトをしながら学費を払い、名門イェール大学に通う主人公のJ.D.ヴァンス(ガブリエル・バッソ)は、インターンに向けて準備を進めている最中、故郷の田舎町に住む妹(ヘイリー・ベネット)から、母親ベヴ(エイミー・アダムス)がヘロインの過剰摂取で病院に運ばれたとの連絡を受けます。
そして彼は遠く故郷に戻り母の元を訪ねます。
彼が子どもの頃から薬物依存症に苦しみ、行くあてもなくなってしまった母、そしてよみがえる祖母マモーウ(グレン・クローズ)との思い出。
実話を元にした一つの家族の物語です。

原作はアメリカの田舎の労働者階級社会についてがメインのようですが、本作は完全に家族の物語になっていました!

とにかくほぼなんの前情報もなく観たのですが、とてもリアリティがあった……!
まず思ったのが、登場人物がなんか、映画のために書かれた(作られた)人という感じが一切しなかった!
(この時は知りませんでしたが実際に、実話がベースになっていました 笑)
私がちゃんと知っている俳優さんが出ていなかったというのもあるかもしれないけど、容姿や服装、歩き方や話し方、本物の家族をのぞいているような感覚でした。

子供時代のJ.D.くんのちょっとぽっちゃりしてて、優しくて繊細な感じとか、ベヴの普段は笑顔がキュートなお母さんなのに、突然不安定になってヒステリックを起こしてしまう感じ、そして何よりおばあちゃんですよ!
いつも煙草を吸っていて、クラシックな車を運転してる。ターミネーターを100回以上観てる。
悪いことははっきり悪いと言う、とてもカッコいいおばあちゃん!
Tシャツのサイズ感とか、メガネとか、90年代だなーって感じで、めっちゃリアル。
本当はきっととても辛かっただろうけど、いつも気丈に振る舞って、なんとか娘と孫たちのそれぞれを守ろうとしている姿にグッときました。

この登場人物たちの、絶妙に統一感がない感じも本当の家族っぽかったなー。
お姉ちゃんも絶妙なんだよなぁ。
他の写真を見るとすごく美しくてキラキラしている女優さんなのに、今作では田舎の少し疲れた主婦にしか見えなくてすごいなぁと思いました。。他の俳優さんも役作り半端ない!

親子3世代、それぞれ時代も違うし環境も違う。
けれどそれぞれがそれぞれのやり方で家族を愛していて、不器用でぶつかってしまう時もあるけど、やっぱり家族なんだなぁと思いました。
J.D.はたとえお母さんが警察にかこまれても、どれだけ暴れても、彼女が誰かにけなされることは決して許さないし、どんなときでもリスペクトを持っている。

本筋とはあまり関係ないかもだけど、おじいちゃんが亡くなった時、町のみんなが霊柩車に向かって帽子を取って敬意を表すシーンよかったなぁ。
ああいうの泣けちゃうんだよね……。涙

わたしは家族ととても仲が良くて、家のことで悩んだこととかもないのですが、もし自分の家族がこういうことになってしまったらどうするだろう。
自分の夢を捨てられるだろうか、自分の好きになった人に全て打ち明けられるんだろうか、とか、考えさせられました。
この物語の主人公J.D.は、子どものときは気づかなかったかもしれないおばあちゃんの気持ちや、お母さんの苦労が、大人になって押し寄せてくる。でもそれを受け止めたうえで、家族のために自分を犠牲にするんじゃなくて、家族のために自分の道を生きることを選ぶ。
どうするんだろう……と思いながら観ていたけど、それでいい! それでいいと思うよ、かっこいいよ! となりました。ガールフレンドのウシャもとても理解があって、よかったね……と思った。
(ウシャ役のフリーダ・ピントはインド出身の女優さん、ご本人の発言とかもとても聡明でカッコいい!)

お話の内容は結構ヘビーでしたが、今まで大作を沢山撮っているロン・ハワード監督の美しく明るい映像と、ハンス・ジマーによるドラマチックな音楽と、わりとテンポよく進む展開のおかげで、重苦しくはならずに観ることができました。
俳優さんの表情にもぐっと引き込まれるものがあったなぁ。

そしてエンドロールで実際のJ.D.ヴァンスと家族の写真が出てきたとき思わず鳥肌立った!
みんな似すぎ!! すごいなぁー。
そこであー、なるほど全部実在の人物なんだ!!と納得。(遅い)
以前紹介した『ハニーボーイ』にも通じるものがあるテーマでした。
ひとの弱い部分や繊細な気持ちと、依存症という底なし沼の恐ろしさ。そして親と子。

なんていうか、この2時間だけの物語じゃない感じがすごくしたなー。
それはきっと実話に基づいていて、今もまだこの家族が本当に続いているからなのかもしれない。
振り返るととても楽しい思い出ばかりじゃないけど、景色や表情や服の色や、車でかかってた音楽、そんなものがかすかにぬくもりとして残っているような。
家族の歴史をのぞいてるみたいに大きな流れを感じる映画でした。
諦めない、生き抜く。そしたら家族はずっと、どこまでも続いていく。愛がある限り!

そんなリアルで骨太な家族の映画でした。
11月24日からNetflixで配信が始まったようなので、観られる方はぜひ観てみてください。
今はなかなか会えないという人も多いと思うけど、家族のことを考えながら、ね。

ではでは、またね〜。
あたたかくしてお過ごしくださいね。


© 2020 DONUT


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