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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第17回「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」

2021.07.29 upload

『ライトハウス』 (2019年/アメリカ)
原題:THE LIGHTHOUSE
監督:ロバート・エガース
脚本:ロバート・エガース、マックス・エガース
キャスト:ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/thelighthouse/
全国順次公開中


みなさま、こんにちは!

あっという間に夏まっさかりな暑さ…
毎年この時期は省エネモードで活動しないとすぐバテる中野です。
みなさんご無事でしょうか?

さて、7月は東京では大好きなジム・ジャームッシュ監督の特集上映が開催されていてそれで大忙しだったのですが(勝手に)、ひとつ、どうしても観に行かなければと楽しみにしていた作品がありました!
予告編サーフィンしていたら明らかに異彩を放つこちらを見つけてしまったのです……。

『ライトハウス』(『THE LIGHTHOUSE』)
2019年、アメリカの作品。
監督はロバート・エガース、主演はウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン。
製作は、近年関わる作品が毎回注目されるA24。
この時点でイケている。

ウィレム・デフォーは個人的にはウェス・アンダーソン監督の作品に味のある素敵なお顔!で出ている印象が強くて、ロバート・パティンソンは『TENET テネット』を観てあらー、かっこいいー!となっていたのでこの二人がモノクロのなんだかやばそうな映画で共演すると知って興奮。

舞台は1890年代、ニューイングランドの孤島に二人の男が灯台守としてやって来ます。
彼らには4週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていました。
ですが、頑固で仕事に厳しいベテラン、トーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と未経験の若者イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)は、そりが合わずに初日から衝突を繰り返してしまいます。
険悪な雰囲気の中、帰れるはずの日にやってきた大嵐のせいで二人は島に孤立状態になってしまいます……。

えぇ。これはなんかもう、すごいものを観せられた……という感じです。
衝撃。勢いでパンフレットも買っちゃったよ。

ロバート・エガース監督はニューハンプシャー出身、ブルックリンを拠点とする監督・脚本家でニューヨークで監督兼デザイナーとして演劇制作のキャリアをスタートし、それから映画に移行していったんだそう。なるほど、なんか納得です。
納得なんだけど、なぜ!? なぜこういう作風になったんだろう……とかなり気になりました。

冒頭の数分間、台詞はなく、ぼんやりしたモノクロの海から主人公の二人がやってきます。霧笛の音が響いて、岩場と灯台、佇む二人が映し出されなんだか不吉な世界の入り口に立ってしまったような感じがします。

「ムービートーン比」という、真四角に近い「1.19:1」のアスペクト比(1920年代〜30年代前半までの映画によく使われたサイズなのだそう)の画面がすごく新鮮で、切り取られた画の一つひとつが絵画か、モノクロ写真のようでとても美しかったです。
陰影の濃い、四角い白黒の映像はそれだけで別の世界に連れて行かれるような感覚。
左右対称なバランスとかもより際立っていたような気がします。

使われる道具の写し方や、それらの音、遠い絵のような建物や海鳥たち、本当に昔の絵か写真に入り込んでしまったみたいでした。
撮影機材もヴィンテージのものが使われているそう! すごい。

そしてやはり、何より、主演二人がすごすぎた……。
最初は普通に、頑固で厳しいベテラン・ウェイクと自分の役割に納得がいかない新人・ウィンズローというそりが合わない二人って感じだったけど、頑なに灯室にウィンズローを入れようとしないウェイクの異常な言動、そして大嵐がやってきて孤立してしまったことでみるみる極限状態になっていきます。
食糧はなくなり酒だけが残り、もはや何が現実で何が夢なのか、時間がどうやって進んでいるのかもわからず、観ている方も飲み込まれてしまいます。

ウィレム・デフォー演じる、元船乗りだったというウェイクの発する言葉は海にまつわる神話に関係しているものが多いです。
酔ったウィンズローが彼の料理をまずいと言った時の長いせりふのところ、特に怖かった……。
モノクロの陰影のせいもあるけどとにかく表情が人間のギリギリの姿というか。悲しみと怒り、海への畏れ。
彼は灯室で何をしていたのか、本当はどういう過去を持っているのか、謎に満ちています。

そして品のあるイケメンな印象が強いロバート・パティンソンが演じるウィンズロー。
最初はロバート・パティンソンの顔だったけど、最後の方はもはや誰……ってなるくらいの狂気ぶりがすごかったです。彼も秘密を抱えていて、そして灯台の明かりや人魚の存在に魅せられ次第に正気を失っていきます。

酔って陽気に歌い踊り、お互いのことを話して親しくなったかと思えば、急に罵りあったり。
本当のことを言っているのか、はたまた作り話なのか。
何もかもが狂っていく。怖い! 怖いです。

夢の中なのか現実なのかわからないいろいろなフラッシュバック、神話、二人の表情、まるでおもちゃみたいに荒れ狂う海。
脳裏に焼き付いて離れない恐ろしく美しい作品でした。

自然にはきっといつも抗えなくて、その力の前では人間も全てをえぐり取られてしまうのだろうな……とも思った。
笑っていいのかわからないくらい絶妙なブラックユーモアもあったりして、シュールな空気になるところも面白かった!
すごかったです。これは記憶に残る作品だなぁ。

購入したパンフレットには作品に出てくるさまざまなオマージュ要素のことや監督のインタビューなどたくさん載っていて、読みこむのめっちゃ楽しみ!
そして今後もロバート・エガース監督気になります。
まずは2015年の『ウィッチ』観ようと思います。

衝撃的な作品でしたが、気になる方はぜひ観てみてくださいね。
わたしにはかなりエキサイティングな体験でした。行ってよかった! 大興奮!

ではまた、熱中症など気をつけて、クーラー冷えにも気をつけて、みなさん心身ともに穏やかにお過ごしくださいね。



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