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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ


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第27回「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」

2022.07.19 upload

『リコリス・ピザ』 (2021年:アメリカ)
原題:Licorice Pizza
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
キャスト:アラナ・ハイム/クーパー・ホフマン/ショーン・ペン/トム・ウェイツ ほか
公式サイト:https://www.licorice-pizza.jp/
全国順次公開中


みなさんこんにちは。
7月ももう半ば、なんだか絶妙なお天気が続いていますが体調崩されていませんか?

今月は、これまたずっと楽しみにしていた作品が公開されたので観に行ってきました。
お客さんの年齢層、男女ともに幅広くて、さすがだなぁと思ったよ。

『リコリス・ピザ』(『Licorice Pizza』)
2021年、アメリカの作品。
監督は『マグノリア』などで知られるポール・トーマス・アンダーソン(通称PTA)。
主演は今作が映画デビュー&初主演となるアラナ・ハイムとクーパー・ホフマン。
そう、音楽好きの方ならご存知であろう三姉妹バンド「HAIM」の三女のあの方です。
上の二人のハイム姉妹や、実のご両親も出演しています。
そしてクーパー・ホフマンはアンダーソン監督映画の常連だった故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子さん。
他にもショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパーなどが出演しています。
なんて素敵なキャスティング!

舞台は1970年代、ハリウッド近郊の街サンフェルナンド・バレー。
15歳の高校生ゲイリー(クーパー・ホフマン)は子役として活躍していました。
ある日、高校の写真撮影のためにカメラアシスタントとしてやって来たアラナ(アラナ・ハイム)に一目惚れしてしまいます。10歳年上の彼女を、「君と出会うのは運命なんだよ」と言って食事に誘うゲイリー。
最初は呆れていたアラナでしたが、さまざまな出来事の中で次第にお互い重要な存在になっていきます。
近づいたり離れたり、笑い転げたり怒ったり。予想できない二人の関係に振り回されつつドキドキ、甘酸っぱい青春のお話です。

よかったー! 最高じゃないか……!
すごく「映画」を観たなーという、ずっしりと幸せな体験でした。

冒頭、まぶしい光の中で二人が初めて出会って、会話するシーン。
大きなスクリーンに映る彼らを観ているだけで、あぁ、映画だー、と嬉しくなります。

ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品は個人的には、流れがあんまり整理されすぎてない感じというか、割と突拍子もなく、でもなぜかサラサラといろんなことが起きて、知らないうちに主人公と一緒になってるみたいな不思議な感覚。
今回も最初からそんな感じで、あっという間に二人のことがとても気になる。
でも実際も何か起こったり、誰かと出会うのって突然だよなぁと思う。
その最初の視線、距離の感じに予感みたいなものがなんとなくあらわれていて、リアルなんだけどロマンチック。絶妙だなー。

個人的にはガラス窓が印象的でした。
警察署から出て抱き合うところがガラス窓に映るシーン、忘れないなぁ。
夜のシーンでお店のガラスに映る明かりやかわいいフォントの文字たち、観ているだけでうっとり。

あとやっぱり70年代のファッションや車、インテリアはもう眼福ー。
水色の車、水色の電話、紫のパンツ、柄のシャツ、ミニスカート、ブルージーンズ……。
あげたらキリがないけど画面の全部の色や柄、フォントが素敵であー好き!ってなりました。
夜のガソリンスタンドの美しさも素晴らしいです。
そして音楽。名曲がたくさん使われているけど、あくまで主張しすぎないいい塩梅なのもよかったなぁ。
カーステから流れるトッド・ラングレンとか。グッときました。
予告編で流れるデヴィッド・ボウイが最高なのですがその期待を裏切らなかったなぁ。

そしてベテラン俳優たちも含めてみんなとにかく個性的なキャラクターが楽しかったです。
ショーン・ペンのバイク、トム・ウェイツの登場シーンの煙、ブラッドリー・クーパーのギラつき。
大人だけどなんかいい意味で野蛮で、キラキラしていて自由!
トム・ウェイツ元気そうで嬉しかった……。映画監督の役というのもよかったな。

70年代の感覚、女性、男性、大人、子ども。
今とは違うなって部分もありつつ、年下といる時の自分と年上といる時の自分の気持ちや振る舞いとか、私はアラナに共感できる部分が多かったな。場面に応じて着ている服の選び方とかも可愛い。

あーでももう、恋ってなんでかこう、あまのじゃくで、回り道で、めんどくさくてでも愛おしいなぁ。
もう勝手にして、あなたなんか知らない、って思って他の世界に飛び込んでみたり、自分は新しい道へ行くのよって強がってみたりするけど結局はとても大切な存在だって気づくこと、あるね。
二人でウォーターベッドに寝転んで、ゲイリーが手を伸ばすシーン、キュンときました。

とにかくいろんなことが起きて、この二人は何がしたいんだろう、どうなっちゃうんだろうって思うけど、ラストが本当に完璧に最高で泣けました……。
自分でも日々わけわかんないし、未来がどうなるかなんて本当にわからないけど、走りたくなったときは走るべきだよね。
後悔したり、ときには間違ったりしたとしてももう走ればいいんだ! となんだか胸がドキドキしました。
二人のように、大胆だけど優しく、繊細に生きれたらな。

携帯のない時代の、特別じゃないけどこのうえなくきらめいてるリアルとロマンチック。
ラスト近く、二人が走り、映画館の目の前で再会して抱き合うシーンあたりからもう最高が爆発してます。
映画やアメリカへの愛も沢山つまっているのであろう、映画だからこそ! の素敵な体験でした。
友だちとか恋人と観るのもすごくいいと思います。
ときめきを分かち合えたらより楽しいはず。

それではまたね。
あ、近々中野ミホからのお知らせありますので、チェックよろしくお願いしますー!

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