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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Drop's)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/2009年に北海道・札幌で結成されたDrop’sのvo&gt。Favorite→映画、喫茶店、Tom Waits、Chet Baker。
公式サイト:http://drops-official.com
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第16回「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」

2021.06.30 upload

『名も無い日』 (2020年/日本)
監督:日比遊一
脚本:新涼星鳥
キャスト:永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブアキ ほか
公式サイト:https://www.namonaihi.com
全国順次公開中


みなさん、こんにちはー。

だんだん半袖で外に出る日が増えてきて、おぉ、夏が近いのかもと感じる今日この頃です。
いかがお過ごしでしょうかー?
思えば今月はたくさん映画館に行った気がする。いいぞ私。
映画のあとの散歩にもいい感じの気温ですね。雨じゃなければなおよし。

さて、今月も意図せずですが家族についての映画をえらびました!
久しぶり?の新作日本映画です。
最初は、永瀬正敏さん、オダギリジョーさん、金子ノブアキさんが三兄弟役の映画なんて! 観なくては!っていう感じで知ったのですが、予告編を観てこれはすごく良さそうだと思い行ってきました。こちら。

『名も無い日』
2020年、日本の作品です。
監督は日比遊一、出演は永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブアキ、今井美樹、真木よう子など。
日比遊一監督の実体験が元になっている物語なのだそうです。

舞台は名古屋市熱田区。25年前に故郷を離れ、今はNYで写真家として活躍する長男の達也(永瀬正敏)は、次男・章人(オダギリジョー)の訃報に名古屋へ戻ります。
頭が良く優しく、そして過剰なほどに繊細だった弟はなぜ亡くなってしまったのか。
同じように現実を受け止め切れずにいる三男・隆史(金子ノブアキ)とその妻、発見者となった親戚家族、そして同級生やその家族。
街と記憶をなぞるように歩く主人公と、それぞれを描いた作品です。

うー、とても良かった。観て良かったです……。
いい意味で、映画を観ている感じがしなかったというか、すごく現実、っていう手触りがあったなぁ。
観終わったあともしばらくその現実感というか、悲しさから身を引き離すことはできないような。
なのでもうこれは自分の目で観ていただかないことにはなんとも言えず、うまくまとめられない感じなので、私の超個人的な感想を書きますね。笑

全体的に間が多いように感じたのですが、それが自然で、登場人物の気持ちがじんわりと伝わってきてとても素敵でした。
地方の街や家の感じとか、久しぶりに会う人との会話とか、子どもの頃の記憶とかも、あぁ、こんな感じあるよなぁ。って思い出すだけで胸がきゅっとなります。

家族の物語ということで、これは前回の「ファーザー」観ても思ったけど、家族ってなんか難しいところあるよなぁ。難しいと一言で言えることでもないけど、やっぱり大人になるとそれぞれの生活、仕事があって、それと家族とのバランスだったり。
地元のこともそうで、久しぶりに帰ると懐かしいなーってなる半面、ここにいなかったことに罪悪感みたいなものを感じたり。
もちろん人それぞれだとは思いますが、なんかそういう一言じゃ言えないもどかしい気持ちがすごくあるなぁという気がしました。
達也が帰ってきてしばらくシャッターを切れなかったのも、そんな理由もあるんじゃないかな。

次男の章人は、絶対に失敗したらいけない、しっかりやらないといけない、という気持ちが強くなりすぎて、背負いすぎてしまったのだろうな。
自分よりも他の人を優先してしまうのだろうな。
誰にも助けを求められず、求めたとしても優しすぎて気付いてもらえなくて最終的に一人で死んでいってしまったのは本当に悲しい。やるせなさすぎる。

章人の死について、自分が長男なのに好きなことのために地元を離れたせいだ、兄なのになにもしてやれなかったという達也の思いが永瀬さんの表情からずっと粛々と漂っていて、それに引き込まれて悲しみが積もっていく。
きっとみんな多かれ少なかれ、亡くなった人に対してもっとああしておけばよかった、っていう後悔があるんじゃないかな。
もう二度と帰ってこない、話すことも顔を見ることもできないだなんて。
残された人も、本当につらいな。

だけど、彼のおばあちゃんが言う
「人の人生というのは自分の真実だけなんだ、あの子はあの子に与えられた命を精一杯生きた、それでいいんだよ。」(というような内容だったと思う)
という一言でもう全部崩壊して涙がぼろぼろでた……。
亡くなってしまった人にどんな気持ちだったか聞くことはできないけど。
この世を去ってしまった人も、残された人も、そう思うことで救われるというか……。
このおばあちゃんの言葉に全部つまっていた気がする。

そして舞台となっている名古屋市熱田区の街並み、なんというか、余計な色付けのされていないフラットな、普遍的な感じで映し出されていて、よかったなぁ。
みんなそれぞれに抱えてる暗い部分とか、不安とかがきっとあるのだけどそれをいつでもそっと包んでくれるような静かな街。

うーでも本当に、他人事とは思えないような現実的な深い悲しみがありました。
特に最後に章人が残していたメモ書き、にはハッとなった。
必死に生きて全うしたんだと思うと、ますます涙がでた。
でも自分はこれからも生きて行かなくちゃ、と優しく思えたな。
無理に元気だす感じじゃなくて、自然に受け入れるような、そんな流れが素晴らしかったです。
ていうか俳優さんめちゃくちゃ素晴らしかったなぁ!
思い出すだけで、グッとくるシーンが本当にたくさんある……。
幾人もの人生が、すごく繊細に交わっていく様子に胸打たれました。

こういう映画を映画館で観ることができて幸せです。
気持ちがグワングワン揺さぶられた。
あんまり私がダラダラ語るのも違うかなーと思うので、(ここまで書いておいて 笑)ぜひ観てほしいです! じんわり涙がいっぱいあふれた。

それではまた、夏に負けない体力づくりしたい(突然)中野でした。
あたらめて、いつもお付き合いありがとうございます。
次回もぜひお楽しみにー!


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