2025.05.26 upload
百々和宏と69ers
『Rock'n' Roll Heart, Over & Over Again』インタビュー
曲のテーマは去年のツアー中からあったけど、歌詞を乗せる踏ん切りがなかなかつかなかった。時間はかかりましたね
―― 百々和宏
百々和宏(MO’SOME TONEBENDER)がソロ名義のユニットして、2023年の秋に、有江嘉典(ba&cho/VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)、クハラカズユキ(ds&cho/The Birthday、うつみようこ&YOKOLOCO BAND、M.J.Q、OHIO101、他)とともにバンドを結成。その名も百々和宏と69ers(リズム隊の2人が1969年生まれだったことから命名。ちなみに百々は1972年生まれ)。ライブをやるたびにどんどんバンドっぽくなっていくという彼らは、初のEP『Rock'n' Roll Heart, Over & Over Again』を手に現在、4度目のツアーを開催中。音にも演奏にも歌にもメンバーの粋が詰まったこのEPの1曲目を飾るのは「ロックンロールハート(オーバー&オーバーアゲイン)」。「ロックンロールハート」は百々和宏がソロ名義で発表しているナンバーで、これまで4曲がリリースされており、百々のとりわけ個人的な情景や初期衝動などがうたわれてきた名曲群だ。その名曲に新たな1曲が誕生。ここには、百々がどうしても避けては通れないという思いが込められている。
●取材=秋元美乃/森内淳
■ 自分をさらけ出す曲じゃないとこのタイトルをつけられないというのがあった
―― 2021年に自主レーベルFUZZY PEACHを立ち上げてしばらく経ちましたが、レーベルの近況はいかがですか?
絶好調かもしれないですね。
―― おお。
ここまではね(笑)。無理なく無駄なく好きなようにやらせてもらってるんで。
―― 全てを把握して自分で仕切る作業には慣れましたか?
だいぶ慣れましたね。いろんな人の手を借りながら、教わりながらですけど。
―― 以前「レーベルのイメージは頑固親父の大衆酒場のような個人商店」と言っていましたが、そのイメージには近い?
うんうん。わがままに好きなようにやってるんで。
―― その大衆酒場というのは、実際にお店としてもやっているんですよね?
とはいえ店舗があるわけじゃないので、間借りでたまーにやらせてもらっている感じですね。いろんな人から「もっと早くオープン日を教えてくれ」と言われています(笑)。
―― 百々さんはソロの形態でもいろいろな方と組んでいますが、今回の「百々和宏と69ers」はどんなきっかけで結成に至ったんでしょうか。
きっかけはですね。サシ飲みしたときにクハラカズユキさんが「暇になった」と愚痴りだしたところからなんです。時系列でいうとThe Birthdayのツアーが白紙になったときですね。そのタイミングでちょうど有江(嘉典)くんとふたりでツアーを回ろうかという話をしていたので、「じゃあキュウちゃんも入る?」という話をして。となると、名義も変えて3人でちょっとバンドっぽくしてやったほうがいいねという感じで始まりまして。でもそのときは、またThe Birthdayが動き出すまでの期間、「クハラさんお借りします」みたいな感覚でしたね。
―― そこから何度かツアーを回るようになって、音源をつくろうとなるくらい、3人の手応えがあったということですよね。
そうですね。やっぱりライブをやるたびにどんどんバンドっぽくなっていくし、熱量もアップしてくるし。そもそも百々和宏のソロはゆるゆるとやろうという感じでやっているんですけど、「あれ? どんどんバンドっぽくなってくな」って(笑)。「ちょっと待て、これはかっこいいな」って(笑)。
―― ははははは。
なので、3人で飲んでいると「曲つくりたいね」みたいな話になってくるんですよね。で、タイミング的にも今ならいいね、と。ちょうどこの春からツアーも組んでいたので、それに合わせて音源をつくろう、会場で披露してライブが終わったら音源を売ろう、と。
―― そういう自然な流れでリリースにつながったんですね。その届いた曲は「ロックンロールハート」シリーズ。このシリーズは百々さんのソロのアルバムに入るものだと勝手に思っていたので少し驚きました。
別に百々和宏名義じゃないと「ロックンロールハート」という曲はつくらないという感じでもないんですよね。でもどうしても「ロックンロールハート」というタイトルをつける曲は、自分のなかで、ある意味ハードルが高いというか、自分をさらけ出す曲じゃないとこのタイトルをつけられないというのがあって。3人名義で出すときに、そこまでさらけ出せるかなという部分はたしかにあったんですね。躊躇というか、踏み込めるかなというか。
―― これまで「ロックンロールハート」シリーズは百々さんの個人的な部分や初期衝動がうたわれてきましたよね。
うんうん。そうですね。今回は、言ってしまえばチバ(ユウスケ)さんの存在ですよね。そもそもこのバンドはチバさんがお休みするところから始まっているから。こういう流れになって、そこは避けては通れないなという思いは自分のなかにあったので、「さて、自分は裸になれるかどうか」って。そこで裸になれないと「ロックンロールハート」のタイトルはつけられなかったから。曲のテーマは去年のツアー中からあったけど、ただ、歌詞を書くのに難儀しました。時間はかかりましたね。
―― いま百々さんも話してくれましたが、今回はどうしても思い浮かべる人=チバさんがいました。
聴く人にもそういう意識で聴かれちゃうだろうなというのは思っていて。歌詞がつくより先にポロロンと弾き語りでメロディがつくじゃないですか。もうメロディとコードで僕のなかでは感情を刺激されるというか、そういうものが出てきたんですよね。曲のタイトルもサビのフレーズもすぐ出てきていたんです。でもこれをどう1曲にまとめるかという。そこで悩んだのと、こういう曲だと聴いた人にもそう思わせちゃう曲だなという自覚があったので、余計に歌詞を乗せる踏ん切りがなかなかつかなかったんですね。自分が納得できる歌詞ができそうな気がしない、という状態が長かった。
―― 百々さんのなかで、どこか「吐き出しておきたい」という気持ちがあったんでしょうか。
そうですね。吐き出したいなというのはありましたね。
―― すごくグッときました。
ありがとうございます。でも、この曲ができてなかったらプロモーションしようとかも思わなかったかも。しれーっと会場で売っていたかもしれないですね。まわりの人の感想がよかったので、だったらもっといろんな人に聴いてもらいたいという気持ちになりました。
―― クハラさんと有江さんからのこの曲に対する手応えは?
「いちおう聴かせるけど、この曲は完成させられる気がしないよ」って、レコーデイング直前にデモを渡したんです。デモを渡す時点でまだ踏ん切りがついてなかったんですよね。でもなんとなく僕の考えていることは2人にも伝わっていたみたいで、「完成させたいね」みたいな話はされましたね。「いい曲になりそうだね」って。歌詞がついたあとに2人がどう思っているかはちゃんと聞いてないかな。(この場に)呼べばよかったな(笑)。
――「完成させたいね」という2人の言葉が百々さんの背中を押した部分もあったんですね。
とりあえずレコーディングで楽器の音だけ録っておいて、歌詞が乗らなければ今回はいったんお蔵入り、くらいの気分で。それくらい僕はこの曲に歌詞を乗せるという作業から逃げていたんですね。ただ、2人からもエンジニアからも、いい曲になりそうだという声は聞いていて。最終的には、レコーディングには数日しかスタジオをおさえていなかったので、そこで録らなかったら今回は完成させないという感じだったんだけど、3人でこの曲のベーシックを録ったらもう、2人の演奏が素晴らしすぎた。熱量といいますか、曲が進むにつれてだんだん熱が上がってくる感じというか。さすがわかってらっしゃるな、というパフォーマンスをしてくれて。粋に感じちゃいましたね。これは絶対に明日、明後日には歌詞をあげてやるというスイッチが入った(笑)。
―― ギリギリのところで(笑)。
歌入れの当日の朝までかかって歌詞を書きましたね。
■ この3人でやっている意味が少しでもみえるようなEPになればいいなと思った
―― この「ロックンロールハート」は歌詞はもちろん、どのシリーズも曲もすごくいいですよね。
あら。ありがとうございます。
―― 3人の名義で出そうという気概も乗ったところもあるかもしれませんね。
たぶんそうだと思います。2人もそう思っての演奏だったんじゃないかと。
―― 気づけば「ロックンロールハート」シリーズももう第5章ということに驚きました。
THE 虎舞竜に負けないようになんて言ってますけど(笑)。
―― 「ロード」は15章までありますからね(笑)。
まあ冗談で言ってるだけですけど(笑)。
―― でも、そういういろいろな流れや思いが重なって、バンド名義でのリリースになったんですね。
うんうん。いいタイミングだったかなと。
―― しばらくはこの3人でやっていこうという腹の括り方もできたというか。
そういうことですね。最初はやっぱりキュウちゃんは「(The Birthdayから)お借りします」みたいな感じで始まったのが、だんだん「これはバンドだな」と思うようになって。どうしてもThe Birthdayのメンバーにもファンの方にも気を遣いながら始めたところはあったので。
―― なるほど。
でもご本人は全然気にしなくていいよって感じで。
―― 百々さんのソロはもっとゆるいイメージの部分も多いけれど、69ersになると一気にバンドになりますよね。
そうですね。ライブを見てほしいなあ。
―― 2曲目の「当たり屋ベイビー」は、百々さんがジョニー・サンダースの気分でレスポールJr.を弾いて、ジェリー・リー・ルイスの気分でピアノを弾いた、と。
この歌詞は3分くらいで書きました。
―― 1曲目とは打って変わって3分で(笑)。
ノリのいい言葉がハマればすぐできるタイプの曲なんで。逆に頭を使っちゃうほうがダメな曲(笑)。
―― 69ers用につくった曲ですか?
そうですね。実は他にもう1曲あって。フィジカルでCDにするなら3曲はほしいねと話していたんだけど、「ロックンロールハート」が完成しなかったら「当たり屋ベイビー」を推し曲にして、あともう1曲とあわせて3曲入りにしようなんて話もしていました。
―― それほど「ロックンロールハート」は本当にギリギリの完成だったんですね。
ギリギリでしたね。あともう1曲つくってた曲というのもヘンテコな曲なんだけど。サイケでドアーズみたいな。
―― それを入れて4曲入りにはしなかったんですね。
レコーディングとして押さえていた期間が短かったのと、エンジニアの空いてる時間もなかったんですよ。3曲がギリギリでした。「当たり屋ベイビー」なんて歌も演奏もワンテイク、ツーテイクくらいしか録ってないですね。
―― そうなんですね。
いろいろな知り合いのミュージシャンに音源を送ったら感想をくれる方もけっこういたんですけど、JUN SKY WALKER(S)の宮田和弥さんだったかな? 「”当たり屋ベイビー”のグルーブがさすがです」みたいに言ってくれて嬉しかったですね。やっぱりクハラカズユキはさすがだなと思いましたね。スパンとこのビートを叩くんだって。若い子に聴かせたいですね。
―― 3曲目は「69ersのテーマ」。これはもう言わずもがなで。
うんうん。この曲がツアーに向けてという意味では、お客さんに聴かせたくてつくった曲です。自己紹介もかねて、みたいな。
―― テーマ曲をつくりたくなるくらい、このバンドへの思い入れがあるということですね。
ただただ楽しいからやってます、という感じですけどね。でも今、キュウちゃんのスケジュールがとにかく取れない。いろんなバンドでキュウちゃんの取り合い(笑)。キュウちゃん倒れるんじゃないかなって思いながらやってます。
―― たしかにクハラさんのスケジュールはすごいことになっていますね。今回ツアーをまわっていて、EPの手応えはいかがでしょうか。
三曲三様の曲ができて、せっかくつくるならこの3人でやっている意味が少しでもみえるようなEPになればいいなと思っていたんですけど、お客さんからもそういう反応が多いので嬉しいですね。
―― ツアー初日の吉祥寺のときに、またすごいことになって東京に戻ってくると宣言をしていましたが、ツアーは順調ですか?
そうですね。寿命が縮まっていくと思いますね(笑)。
―― それは飲み過ぎというのもあるのでは?
ははははは。それも込みですかね。もうね、ステージ上で飲むお酒は偽物にしたほうがいいんじゃないかって。どうしても演奏がヒートアップするとお酒もたくさん飲んじゃうきらいがあるので、よくないんじゃないかとキュウちゃんに言われています。
―― ははははは。それだけ楽しいということなんでしょうけど。
健康に注意しろって。
―― それは本当にお願いします。あと百々さん、ZINEもつくっているんですよね?
はい、はい。とにかく僕が興味があるもの、音楽、映画とか、あと自分がつくった料理とか一言コメントを付けながらクッキングのページがあったり。
―― 何ページくらいあるんですか?
24ページくらいかな。ライブテイクやデモとか音源もつけて。あと対談のページも入れてます。
―― すごいですね。宣伝しないと。
まあでも個人商店でやってる感じも好きなんで。
■スタイルは違うけど、僕のなかではどれもバランスがよくなってきた
―― 先ほども「やりたいことをやれている」と話していましたが、自分のやりたいことだけをやっていくって、実際は大変だったりしませんか? 傍からみると楽しそうにみえると思うんですけど。
どうなんですかね。うーん。3年、4年くらい経って、年間でまわしていく感じとか制作物をつくる労力とかもだんだんわかってきたんですよね。最初の頃はやっぱりすごくしんどくて。「締め切りだらけだな、こりゃ」って。で、メジャーでやってた頃とかに、いろんなスタッフを困らせてたことに今になって気づくという。
―― なるほど(笑)。
あれはやりたくない、これもやりたくないって(笑)。3冊目のZINEで、dipのヤマジ(カズヒデ)さんと近藤(智洋)さんとそういうトークをしてるんですけど、あのヤマジカズヒデが「そうか、じゃああの頃レコーディングをスパンと終わらせてたらもっとエフェクター買えたんだ」って言ってた(笑)。
―― ははははは。
近藤さんはPEALOUT始めた頃までレコード会社で働いていたから、メーカー側の視点もあって、めちゃめちゃ面白いトークなんですよ。「プロユースのスタジオを1日ロックするとウン十万です」「えーーー!」って。そういうのも全部込みで活動していくのも楽しいと思えるようになってる気はしますね。自分でやってるから感謝の念が出ますしね。
―― FUZZY PEACHは楽しくやれている、と。
はい。あとは、個人のレーベル活動ができているのはMO'SOME TONEBENDERというバンドが解散せずに、ライブも年に何回かだけどやれてるというのがでかいなと思いますね。
―― モーサムがあるから自由にやれている。
そうですね。自由であったりゆるい感じのソロ名義であったり。それがなんとなく成立するのはまだモーサムが残っているからというのはありますね。
―― まだ、とか言わないでください。
ははははは。そろそろ音源出せとかライブやれとか言われますけど、それもありがたいな、と。
―― ソロや69ersを見たらモーサムも見たいですからね。
スタイルは違うけど、僕のなかではどれもバランスがよくなってきたな、とは思っていますね。
―― 続いてほしいとずっと思っています。
活動のペースはあれですけど、モーサムは、もう辞める気はないですね。誰かが辞めると言ったら考えますけど。
―― モーサムで次にこんな曲をやりたいな、みたいな構想はありますか?
それはありますね。そのときどきで変わったりしますけど、次にもし作品をつくるなら、という頭はあって。なかなかモーサムってひとりがひっぱっていくようなバンドじゃなくて、3人でがちゃがちゃやりながら、あるときガッとスイッチが入るというか、3人のベクトルが合うみたいなときに作品ができるんです。またそれを焚き付けるようなスタッフがいないので、3人ばらけた時期もあったんですけど、歳も重ねたせいか、ここ数年はわりとお互いコミュニケーションをとるようになりましたね。また何かしらモーサムでものづくりができたらいいなという話はちょこちょこしていますね。
―― モーサム用のアイデアは温存しているんですね。
そうですね。例えば僕がひとりで「この曲つくるぞ!」とか熱く突っ走ると2人は冷めるんで、歩調を合わせるじゃないけど、あまり突っ走らないように(笑)。
―― そこはバンドですもんね。例えば69ersでアルバムをつくろう、みたいな話は?
昔だったら「鉄は熱いうちに」みたいな流れだったけど、それをやりだすとちょっと疲れるかな。産みの苦しみが続くというか(笑)。
―― なるほど(笑)。
ツアーが終わったら考えようかなとは思ってるんですけど。2人の意見も聞きつつ。有江くんとキュウちゃんがアルバムつくりたいと言ったらまたスイッチが入るかもしれないし。
―― このEPもアルバムみたいにバランスがいいですよね。
2人とも百戦錬磨で何でもこいっていう感じがあるので、こっちも投げやすいというか。素材を好きなように料理してください、と。それがどういうふうに仕上がるのか楽しみだな、というのは今回EPをつくって思いました。
―― ツアーも後半戦ですね。
ライブを重ねるたびにキュウちゃんがどんどんおしゃべりになってきてますからね。
―― たしかに、キュウさんが珍しくたくさんMCしていましたね。
話をふらなくても、勝手に話し出してますからね。
―― 百々さんと有江さんの影響が……
The Birthdayに悪い影響を与えたらどうしようって、ライブのMCでも言っています(笑)。
© 2025 DONUT
RELEASE INFORMATION
3曲入りEP『Rock'n' Roll Heart, Over & Over Again』
2025年3月14日リリース
収録曲:M1. ロックンロールハート(オーバー&オーバーアゲイン)/M2. 当たり屋ベイビー/M3. 69ersのテーマ
LIVE INFORMATION
ツアー「百々和宏と69ers TOUR2025 ”OVER & OVER”」
2025年
5月30日(金)愛知県・名古屋 得三
5月31日(土)山梨県・甲府 桜座
6月01日(日)東京都・荻窪 Top Beat Club
6月06日(金)北海道・札幌 SUSUKINO810
6月07日(土)北海道・北見 Blue Chipper
6月08日(日)北海道・釧路 火星ツイスト
「FUJI ROCK FESTIVAL' 25」
2025年
7月27日(日)新潟県・湯沢町苗場スキー場・苗場食堂
※ライブの日程や時間は変更・追加になることがあります。必ず公式サイトやSNSでご確認ください。
公式サイト:https://momokazuhiro.com