2024.09.26 upload

DVD『ザ・クロマニヨンズ ツアー HEY! WONDER 2024』 Review

●写真＝柴田恵理　テキスト＝森内淳

　ザ・クロマニヨンズはこれまで数多のライブ映像をリリースしてきた。そのなかで面白かったのがライブアルバム『ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023』に同梱されていたライブドキュメンタリー映像だ。このライブ映像は全編8ミリフィルム・モノクロで撮影された。映画もデジタルビデオで撮影される昨今、8ミリフィルムを使用しての撮影は攻めすぎではないかとも思った。しかしクロマニヨンズのパンクな佇まいが粗い質感の映像と共鳴。まるで（ブートレッグのようなライブ盤）『THE BEATLES Live! at the Star-Club in Hamburg,Germany;1962』を彷彿とさせる生々しさがあった。
　クロマニヨンズはモノラル録音のスタジオアルバムをリリースし続けているが、まさに「映像のモノラル作品」といっていいような作品だった。アートディレクターでこの映像の監督を務めた菅谷晋一の発想ではあるものの、その攻めた発想を受け入れたクロマニヨンズの姿勢は「DVD＝ライブ映像を記録したアイテム」というところから一歩も二歩も踏み込んでいた。
　こうなると映像作品に対する期待値も上がる一方だが、新作のDVD『ザ・クロマニヨンズ ツアー HEY! WONDER 2024』は全編16ミリフィルム（今回はモノクロでなくカラー作品）で撮影した作品となった。8ミリのときのようなブートレッグ感・パンク感はないものの、ビデオ収録した映像とは肌触りというか質感が異なっている。フィルムで撮った独特のアナログ感は映画を見ているようだ。今作もまた前作に引き続き興味深い作品になった。
　今作も監督は菅谷晋一。「ザ・クロマニヨンズ ツアー HEY! WONDER」の2024年3月25日の神奈川県 CLUB CITTA'公演を楽曲はもちろんMCも含め完全収録してある。……なのだが、16ミリフィルムを通して映し出されたこの作品は、まったく新しいライブのようにも見えてしまう。CLUB CITTA'のライブなんだけどCLUB CITTA'のライブではないような、クロマニヨンズはこのツアーで43公演を行ったのだけど、44公演目のライブを見ているような気分だ。
　今更ながらだが、部屋のモニターで冷静にこのライブを見ているとクロマニヨンズのステージのすごさをより感じてしまう。人は老いるものだが、ステージの彼らは年齢を超えている。というか、そもそも年齢という概念がない生き物のようだ。それはクロマニヨンズに限らずローリング・ストーンズだってブルース・スプリングスティーンだって同じなのだけど、彼らのライブはそういう境地に達しているのがわかる。果たしてロックンロールにさらわれた人たちのステージはこういうふうになるのだろうか。
　ステージに立っているのは確かに実存する甲本ヒロト（vo）、真島昌利（gt）、小林勝（ba）、桐田勝治（dr）なのだが、想像上の得体の知れない何かのようだ。16ミリフィルムという現実と非現実の狭間のような映像がそれに拍車をかけている。この映像は映画のようだと書いたけれど、それはフィルムの質感だけではなく、彼らのライブが現実なのかフィクションなのかわからない感覚に、見る者をいざなっているところも大きく影響している。
　そもそもロックンロールとは既成概念を超えていく行為であって、そういう意味においても、果てしなくロックンロールな映像作品だと思う。