DONUT

The Street Sliders TOUR 2024 "Thank You!"
2024年4月21日(日) NHKホール

2024.4.29 upload

●写真=三浦麻旅子 テキスト=森内淳


 2024年4月21日、小雨が降るなか、NHKホールにはザ・ストリート・スライダーズのライブを見るためにたくさんの観客が集まっていた。40th Anniversary Final「Thank You!」のファイナル公演。1年間続いてきたザ・ストリート・スライダーズ結成40周年のイベントが今日の公演をもって終了する。あっという間の1年だった。不思議なことに、ついぞノスタルジックな感情が頭をもたげることはなかった。楽曲と共にその当時の思い出が甦ることでの懐かしさはあっても、彼らの楽曲やパフォーマンスには、むしろそういった感情を拒否するような力がみなぎっていた。
 2023年4月28日の豊洲PITでのギグのときはステージも客席も独特の緊張感に包まれていて、エンジンがかかるまでに多少時間がかかった。ぼくの感覚では、5曲目の「Pace Maker」を経て6曲目の「カメレオン」でスライダーズがスライダーズになったような気がした。そこからのスライダーズの爆発力は素晴らしかった。後半の演奏はロックンロールの独壇場と化した。その後、日本武道館〜秋のツアー〜春のツアーと歩を進めていくに連れ、彼らのロックンロールはどんどん説得力を増していった。この1年間は、ベテランの料理人が「黙って食え」と出した料理を「美味い美味い」といいながらひたすら食べていたような感覚だ。一度ライブを見てもまた見たいという気持ちになった。「もっともっと」という欲が湧いてきた。食べても食べてもまだ足りないのだ。
 開演時間の17時を5分ほど過ぎた頃、会場の客電が落ち、市川“JAMES”洋二、鈴木“ZUZU”将雄、村越“HARRY”弘明、土屋“蘭丸”公平の順番でステージに登場。HARRYの「Hello!」を合図にこの日の公演がスタートした。これがラストライブになるかもしれない。始まる前はそういう思いが頭の隅っこにあった。ところが1曲目の「SLIDER」が鳴った瞬間、目の前で鳴っているロックンロールを食らうことに夢中になり、そんなことはどうでもよくなった。この1年間でスライダーズの曲は鋭さや凄みを身につけながら、より艶やかに変化していった。この40年間でそれぞれの音楽的な経験が楽曲の解釈を深化させたのだろう。



 2曲目に演奏した「おかかえ運転手にはなりたくない」で歌われているように、スライダーズは流行りの音楽には目もくれず、常にロックンロールやブルースやファンクにアプローチしてきた。古い音楽をやっているように聞こえるが、40年前の時点で、すでに普遍性を獲得した音楽をやっていたわけだから、実は古いも新しいもない。ロックンロールやブルースが時代を超越する理由はそこにある。今、J-POPを席巻している過剰なアレンジの曲たちは数年後には40年前のスライダーズの曲よりも古さや懐かしさを感じられるようになるだろう。シンプルなものほど深いといわれるが、それがロックンロールの特権でもある。
 3曲目は「Angel Duster」。この曲は豊洲PITからずっとセットリストに入っている。思い返せば2015年にフジロックの深夜のPYRAMID GARDENでHARRYのソロを見たときも「Angel Duster」はセットリストに入っていた。そのときはソロとあって蘭丸のパートは歌われなかった。その3年後の2018年、同じフジロックのFIELD OF HEAVENでJOY-POPSによる「Angel Duster」を見た。蘭丸のボーカルが加わることで「Angel Duster」はより「Angel Duster」になった。そして2023年、HARRY、蘭丸、JAMES、ZUZUの4人が揃ったことでこの曲は完璧に蘇った。4人の個性が創り上げる「Angel Duster」は別格だった。これをバンドマジックというのだ。この日は幻想的な照明がバンドマジックが引き立て、オーディエンスは「Angel Duster」に酔いしれていた。



 4曲目が「Let's go down the street」。NHKホールは音もいいしステージも広い。照明の演出もしやすい。そのせいか、スライダーズの4人はそれまで見たどのステージよりもアグレッシブにパフォーマンスしていた。JAMESとZUZUこそ定位置でリズムを刻んでいたが、HARRYと蘭丸は積極的に舞台の前や上手・下手へと出ていきギターをかき鳴らした。オーディエンスも彼らのパフォーマンスに引っ張られ、曲が進むに連れ、歓声が大きくなっていった。時折「スライダーズ、最高!」という声が飛ぶと、会場は大きな拍手に包まれた。
 つづく5曲目が「のら犬にさえなれない」。いうまでもなく最も人気がある曲のひとつだ。アンコールで演奏されてもおかしくはない(武道館ではアンコールの1曲目だった)。この曲をコンサートの序盤に惜しげもなく投入したところにも自信と確信を垣間見ることがきた。  6曲目に「Dancin' Doll」を、7曲目に「すれちがい」を披露。この「すれちがい」が前半のハイライトだった。まさに「それぞれの音楽的な経験が楽曲の解釈を深化させた」ことを証明したような1曲だった。ブルースの深海へと深く深く潜航していく楽曲と一緒にたどり着いた場所は今まで見た景色よりもより濃いブルーの世界だった。HARRYが歌い終えたとき、NHKホールにはひときわ大きな拍手がこだました。



 8曲目はまろやかなタッチの「ありったけのコイン」を演奏。「新しいやつを少し」とHARRYがいうと9曲目に「曇った空に光放ち」を、10曲目に「ミッドナイト・アワー」を披露。この2曲はもともとJOY-POPS用に作られた曲だ。「曇った空に光放ち」は2020年リリースの『INNER SESSIONS』に、「ミッドナイト・アワー」は2023年リリースの『夜更けの王国 INNER SESSIONS 2』に収録されている。その2曲が「ストリート・スライダーズの新曲」として演奏されてきた。HARRYと蘭丸が20年以上ぶりのセッションで完成させたこの2曲のドライブ感は気持ちよかった。新曲たちは確実に新しい息吹を吹き込んでいた。昔の幻影を振り払い疾走していく姿勢はロックンロールそのものだった。
 JAMES、ZUZU、蘭丸の順番にHARRYがメンバーを紹介。蘭丸が「今夜も渋谷で絶好調、村越弘明、HARRY!」というと、HARRYが「公平が歌うぜ」とMC。11曲目の「天国列車」へなだれ込む。そして「お待ちかね、JAMESが歌うぜ!」というMCで12曲目の「Hello Old Friend」が始まった。この2曲で客席はさらにヒートアップ。そこへ「カメレオン」「So Heavy」「Back To Back」を叩き込んだ。



 例えばロックミュージックの特徴として揺るがない存在感を示すロックもあればどこまでもロールするロックもある。「カメレオン」が前者の特徴を備えた曲だとすれば、この日の「So Heavy」と「Back To Back」はどこまでもロールしていた。とくに「So Heavy」。スライダーズのブギーが会場を容赦なく揺さぶる。それはロックンロールの渦となって4千人のオーディエンスを巻き込んでいく。ステージのスライダーズはアグレッシブだが気負いは感じない。HARRYと蘭丸が肩を組んでみたり、1本のマイクで歌ってみたり、2人が見合ってギターを弾きあったり、メンバーそれぞれがスライダーズであることを素直に楽しんでいた。「Back To Back」では「Oh,Yeah!」とHARRYが何度も叫んだ。それがさらにロックンロールに拍車をかける。NHKホールの熱狂もピークに達した。
「じゃラストだね」とHARRYがいうと客席から「えー!?」という声が上がった。スライダーズのライブでは珍しい光景だったが、観客の「もっとこの渦のなかにいたい」と思う素直な気持ちの表れだと思う。本編最後の曲は「TOKYO JUNK」。アンコールで「いつか見たかげろう」と「風の街に生まれ」を演奏。熱い空気が冷めやらぬままスライダーズの40周年は終了した。
 今夜も文句なく素晴らしいライブだった。スライダーズはほぼ1曲ごとに楽器を変えるので、曲と曲に間ができる。通常のコンサートでは歓迎されづらいが、この間が1曲ごと大きく表情を変えるスライダーズの曲をより際立たせていた。おかげで緊迫感に溢れた演奏を楽しむことができた。直近のライブがベストライブという常套句を証明するかのようにNHKホールのライブはまさにスライダーズのベストライブだった。揺らぐことのない存在感、鋭さと凄みを増した演奏、ブルーはよりブルーへ。バラッドはより懐を深く。ロックンロールは果てしなくロールしていた。4人が創り出す音楽は80年〜90年代のそれともまた違う新型のロックンロールだった。2024年、ザ・ストリート・スライダーズは「あいかわらずのスライダーズ」を飛び越えた。

© 2024 DONUT


SET LIST

1.SLIDER
2.おかかえ運転手にはなりたくない
3.Angel Duster
4.Let's go down the street
5.のら犬にさえなれない
6.Dancin' Doll
7.すれちがい
8.ありったけのコイン
9.曇った空に光放ち
10.ミッドナイト・アワー
11.天国列車
12.Hello Old Friend
13.カメレオン
14.So Heavy
15.Back To Back
16.TOKYO JUNK
EC1.いつか見たかげろう
EC2.風の街に生まれ
Ending BGM:PANORAMA

INFORMATION

■"The Street Sliders"デビュー40周年記念プロジェクト第5弾

■完全生産限定盤/アナログレコード
AL『BAD INFLUENCE』
2024年4月24日リリース
MHJL-275
¥4,400税込
収録曲:1. ダイヤモンドをおくれよ/ 2. I Don't Wanna Miss You/ 3. EASY ACTION/ 4. Baby, 途方に暮れてるのさ/ 5. 道/ 6. Sunshine Eye Angel/ 7. HOLD ON/ 8. Hyena/ 9. Don't Stop The Beat/ 10. 風が強い日 全10曲
◎購入とアルバムの詳細はSony Music Shopまで


■完全生産限定盤/アナログレコード
AL『SCREW DRIVER』
2024年4月24日リリース
MHJL-276
¥4,400税込
収録曲:1. 風の街に生まれ/ 2. Oh!神様/ 3. かえりみちのBlue/ 4. Baby, Don't Worry/ 5. Hey, Mama/ 6. Yooo!/ 7. おかかえ運転手にはなりたくない/ 8. Rock On/ 9. ありったけのコイン/ 10. いいことないかな 全10曲
◎購入とアルバムの詳細はSony Music Shopまで


■40周年記念豪華本
『The Street Sliders Rock'n'Roll Chronicle』
2023年10月7日リリース売
仕様:LPサイズ(322×322×22mm)・4c・146p
定価:本体13,000円+税10%(税込価格:14,300円)
ISBN:978-4-86506-433-9
版元:PARCO出版
監修:伊藤恵美(7th Mother)、馬場学(DGエージェント)
編集:DONUT(秋元美乃/森内淳)
デザイン:山﨑将弘
◎購入方法と本の詳細:PARCO出版の特設サイトまで
https://publishing.parco.jp/books/detail/?id=450

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