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2023.10.13 upload

ザ・クロマニヨンズ ツアー「月へひととび」
2023年10月3日(火)恵比寿リキッドルーム ライブ・レビュー

●写真=柴田恵理 テキスト=森内淳


2023年10月3日、ザ・クロマニヨンズのツアー「月へひととび」が恵比寿リキッドルームで行われた。コロナ禍でライブハウスの演奏を休んでいたバンドにとって久々のライブハウスでのツアーとなった。チケットは軒並みソールドアウト。オーディエンスの期待感は開演前からピークに達し、異様な空気が流れていた。というかぼくもライブハウスでクロマニヨンズのライブを見るのは7〜8年ぶりかもしれない。いつだったか和歌山でライブを見せてもらったとき以来だと思う。

ライブはほぼ定刻通りにスタート。いつものように「オーライ、ロックンロール!」と甲本が叫び、濃密なロックンロール・ショーが開幕。1曲目は「キラービー」。激しいビートと高速ロックンロールがライブハウスを疾走する。ライブアルバム『ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023』もリリースされることだし、ぼくは勝手に前ツアーのライブハウス版かと思っていた。ところが蓋を開けて見るとセットリストも構成も違う独立したツアーだった。まぁツアー名が違うのだから当然なんだけれど、近年は新作を曲順通りにやるツアーが多かっただけに1曲目の「キラービー」は新鮮だった。2曲目が「ランラン」。『MOUNTAIN BANANA』の1曲目でありライブアルバムでも冒頭を飾っている曲だ。「暴走ジェリーロック」「オートバイと皮ジャンパーとカレー」と、クロマニヨンズはロックンロールのギアを上げていく。甲本ヒロト、真島昌利、小林勝、桐田勝治の4人が歌と演奏に込める熱量の高さは今日も半端ない。この人たちはお客さんにどう見られるかとかどうやったら受けるかなどは二の次なのだろう。楽曲をどうロックしてロールさせるかに命をかけているように思う。打算なきロックンロールを演奏することへの熱量がオーディエンスの心をも動かすのだろう。チケットがソールドアウトするのは当然だ。早くも気分は月へ一飛びだ。


「今日は宇宙で一番スゲエ夜だ」という甲本のMCを挟んで(彼は本気でそう思っているし、会場にいるぼくたちもそう感じている)、「キスまでいける」「犬の夢」「ムーンベイビー」を披露。ロックンロールは人の感情の投影でもある。ロマンチックや切なさを飲み込むのもロックンロール。この3曲はまさにそういう曲たちだ。こうやってロマンチックや切なさを衒いもなく真正面からぶつけてくるのもクロマニヨンズの強みだ。だからクロマニヨンズのロックンロールはポップミュージックとしても高性能なのだ。甲本と真島がつくる音楽が一過性のものではなく、長い間、歌い継がれる理由はそこにある。それゆえに今もなおCMソングとして使用されたり、カバーされたりするのだろう。


「ぼくは君たちのことが好きじゃないけど愛してる」という甲本らしいひねくれたMCに続き、「雷雨決行」へ。圧倒的なポジティビティを全面に打ち出した曲だ。ぼくはこういうポジティブなメッセージこそ現代において重要だと考える。詳しく語りだすと、長くなりすぎるので簡単に書くと、例えばどん底にいるぼくたちが描くどん底の世界こそがリアリティだという風潮もわかるが、そこに絡め取らてしまったリアリティのみを表現したところで夢も希望もないだろう、と思ってしまうのだ。なんてことを考えていると、生への賛歌「エイトビート」が高らかに鳴り響く。さらに、畳み掛けるように「生きる」が演奏される。この3曲で今の今までリアティを感じていたものが、逆にまがい物に思えてくる。我に返るというか、憑き物が落ちるというか、大げさにいうならば心の闇が晴れるというか、そういう気持ちになったオーディエンスも少なからずいるのではないか。


MCにつづき真島が水色のストラトキャスターに持ち替え「グリセリン・クイーン」が演奏される。勢いのある楽曲に立体感をもたらすようにギターの音色がやさしく響く。爆裂ロックンロールと書くと、歌とすべての楽器がぐちゃっと一塊になっているような印象を与えるが、実はそうではなく、一個一個の楽器がクリアに聴こえてくるのだ。今日は「グリセリン・クイーン」のとき、とくにサウンドの心地よさを感じた。逆にそうでないとロックンロールは爆裂しないのかもしれない。「勝治、たたけー!」という甲本の煽りで桐田のドラムが鳴り響き、オーディエンスの全身を震わす。甲本のハープと共に「底なしブルー」へ。続いて「暴動チャイル(BO CHILE)」を投入。ブルースへの敬愛はクロマニヨンズのロックンロールをより深く濃く彩る。そして「エルビス(仮)」でブルースからロックンロールへ一気にジャンプ(ロックンロール・ヒストリーの体現のようでした)。小林と真島がステージ前方に立ち、オーディエンスは「今だけ!」と大合唱。会場の盛り上がりはピークに達した。


ライブは「どん底」「GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)」と続く。ライブハウス賛歌とも受け取れる「GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)」はクロマニヨンズのスタンスの変わらなさを示している。今日のライブはこの曲の歌詞に偽りがないことを証明している。ライブは「紙飛行機」「タリホー」で本編終了。アンコール曲は「イノチノマーチ」にはじまって「ギリギリガガンガン」「ナンバーワン野郎」の3曲。ロックンロールへの熱を詰め込んだライブはあっという間に終了。クロマニヨンズのベクトルは、ただひたすら自分たちが創造したロックンロールを表現することだけに向かっていた。この光景は、38年前に初めて甲本と真島のライブを見たときから変わっていない。それが3分間のスゲエ(すごい)ロックンロールを生むのだと思う。

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■ DONUT 14 表紙:甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ) 
2023年2月8日リリース A4 80p 1320円(本体1200円+消費税10%)
ザ・クロマニヨンズの新作『MOUNTAIN BANANA』インタビューに加え、甲本ヒロトが自宅のレコード棚からアナログ盤を持ってくるインタビュー第2弾を掲載/ザ・クロマニヨンズ写真展で全国を巡回し写真集をリリースした柴田恵理が撮影/第2特集は高橋浩司(HARISS/ex.PEALOUT)の貴重なザ・クラッシュ・コレクションを公開/ウィルコ・ジョンソンの「ロックンロールが降ってきた日」を再掲/WHO’S NEXTにはタカイリョウ(the twenties)が登場/連載コラム:歌王子あび(VERANPARADE)、カタヤマヒロキ(KTYM)、中野ミホ、ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)、タカイリョウ(the twenties)/I LIKE THIS MUSIC:SULLIVAN's FUN CLUB、エルモア・スコッティーズ、NITRODAY、THEティバ、Johnnivan、 Glimpse Group/編集部の2022年下半期プレイリスト/編集部コラム:『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』、『ワンピース』考察/綴込付録:甲本ヒロト描き下ろし「みんなとドラゴン」ポストカード
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INFORMATION

Live AL 『ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023』
2023年10月18日リリース
収録曲:1. ランラン/ 2. 暴走ジェリーロック/ 3. ズボン/ 4. カマキリ階段部長/ 5. でんでんむし/ 6. 一反木綿/ 7. スピードとナイフ/ 8. クレーンゲーム/ 9. ごくつぶし/ 10. イノチノマーチ/ 11. ドラゴン/ 12. もうすぐだぞ!野犬!/ 13. キングコブラ/ 14. さぼりたい/ 15. 心配停止ブギウギ/ 16. ペテン師ロック/ 17. エルビス(仮)/ 18. 紙飛行機/ 19. ギリギリガガンガン/ 20. ナンバーワン野郎!/ 21. 突撃ロック/ 22. タリホー/ 23. クロマニヨン・ストンプ 全23曲


AL 『MOUNTAIN BANANA』
2023年1月18日リリース
収録曲:1. ランラン/ 2. 暴走ジェリーロック/ 3. ズボン/ 4. カマキリ階段部長/ 5. でんでんむし/ 6. 一反木綿/ 7. イノチノマーチ/ 8. ドラゴン/ 9. もうすぐだぞ! 野犬!/ 10. キングコブラ/ 11. さぼりたい/ 12. 心配停止ブギウギ 全12曲

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