DONUT




2023.4.27 upload

SHERBETS インタビュー

「知らない道」はやっとこさ25年経って「これは」と思う曲がメジャーから出すメイン曲になったなって。全ては巡り合わせなんだよね
―― 浅井健一

人間ってそんなに強いものでもなかったりするけど、「知らない道」の主人公は葛藤しながらもポジティブなほうに行こうとするところ、その感じがいいなって
―― 福士久美子

今年25周年を迎えるSHERBETSが、2023年4月26日にニューアルバム『Midnight Chocolate』をリリースした。SHERBETSというと、水の色、静かに燃える炎、ひんやりした空気といった冬のイメージがまず浮かぶ。しかし作品を辿っていくと、その世界観はまとったまま実に多様な楽曲にあふれていることがわかる。例えば冬にもいろいろな色の花が咲くように。本作でも重厚なロックンロールを中心に据えながら、ダビーなレゲエやサーフ、サイケデリックなナンバーなど彼らの豊かなサウンドメイクが深く冴え渡っている。そこにのる浅井の歌は、人生において自然と訪れる心境の変化がストレートに綴られており、昔も今も同じくらい大切で、もちろん未来も諦めていないことが伝わってくる。変化を受け入れることのかっこよさがここにある。そしてアルバムをとおして聴くと、SHERBETSは光をあらわすバンドなんだとあらためて思う。今回のインタビューはベンジーこと浅井健一(vo&gt)、福士久美子(key&cho)のふたりに登場してもらった。メンバーのことを白くなった、ヘソを曲げるなどと言いながらもそう話す顔は笑顔で、4人の素敵な関係性が窺える。浅井健一、福士久美子、仲田憲市(ba)、外村公敏(dr)の不動の4人が集まって結成25年。彼らが音楽で描く景色は広がり続けている。

●取材=秋元美乃

―― 昨年はアルバム『Same』のリリースがありましたが、また続けて今年もSHERBETSのニューアルバムが聴けるなんて嬉しいです。

浅井健一 ありがとう。

福士久美子 ふふふ。早すぎだよね。

―― 『Midnight Chocolate』というタイトルが発表された時からすごく楽しみにしていました。前作『Same』は当初、ビッグサウンドではなくて福士さんとふたりで心のこもったスモールサウンドを作りたいというところから始まり、レコーディングをしていくうちにSHERBETSになったんですよね。今回はどんな風に始まったんですか?

浅井 もう初めからバンドで作ろうっていう流れだったよね?

福士 うん。

―― 『Same』を作っている時から次のアルバムへのビジョンが見えている感じだったんですか?

浅井 どうだったかなあ。『Same』を作ってツアーをやって「UK」(シングル)を録って。で……もう忘れちゃったな(笑)。

福士 その頃からもう次のアルバムを作るっていうのはあったよね。25周年だし。

浅井 ああ、そうだね。

―― アニバーサリー的な意味も含めてアルバムを出そうというのはあったんですね。昨年は25周年に向けて動き出すツアーで仲田(憲市)さんが体調不良で参加できませんでしたが、無事に回復されてよかったです。

浅井 よかったね。仲田先輩、見た目が白くなってきた。

福士 ふふふ。

浅井 色白だし、さらに白くなったというか。

―― 透明感が?

浅井 ははははは。

福士 その言い方もいいね(笑)。

浅井 いや、全然透明感じゃないね(笑)。外に出てないから日に焼けてないね。

福士 ベンジーの真逆だね。

浅井 俺はベランダで寝転がりながら本を読んでるでね。

福士 そうなんだ。太陽の光を浴びるの大事だよね。

浅井 大事だね。浴びんほうがいいとも言われるけどさ。

福士 でも浴びないとね、カルシウムとか摂って。

浅井 あとやっぱり黒いほうが若々しく見えるんだよね。なんでこんなに日に焼けてるんだろうっていう人、昔いたね。

―― 朝に光を浴びると抗体ができるとか言いますもんね。

浅井 まあ、仲田先輩は白っぽい。でもしゃべると元気だよ。

―― よかったです。じゃあ5月からのツアーは全員そろって大丈夫そうですね。

浅井 大丈夫じゃないと困るね。めちゃめちゃ困る。

―― 今回の『Midnight Chocolate』聴かせてもらったんですが、驚きと嬉しさと発見とグッとくる感じがあふれていて。

浅井 ほんと? ありがとう。

―― まず1曲目の「知らない道」。この曲では、昔はドライブが好きだったけど今はそうでもなくなったことを<何かをなくしたってゆうことか>というふうに表現されているのが印象的で、だんだん変わっていく心境がストレートに響きました。福士さんはこの歌を聴いたとき、どんな印象でしたか?

福士 私もストレートにグッときましたね。自分もそうだったり変化も感じていて、それがまさにこの歌詞の中にあったから、なんかすごく入ってきた。今の私の中にずっとぐるぐる巡っているみたいな感じ。

―― そうなんですね。

福士 <あんなに好きだったのに 今はそうでもない>っていうフレーズとか、あまりにも真っ直ぐな歌詞が最初はちょっと面白いなあって感じてたんだけど、全貌が見えてきたら心にすごく入ってきてなんとも言えない大好きな曲になった。不思議とこう胸の奥の何かにキュンとくる世界観とか、無駄のない普通の言葉で言っている感じとか歌い方とか、最後のくだりもそうだけど……自分の中で迷ったり、葛藤したりしているようなところがいいし、「でも自分はこっちを選ぶ」という一生懸命な決意というか……これは私の勝手な解説かもだけど……でもそういうのってあるなあって。

―― はい。

福士 自分は何かが変わっちゃったのかなと諦めていく人とかもいると思うんですよ。でも、この歌詞の主人公……ベンジーだと思うんだけど、それをポジティブなほうに行こうとするところが素敵だなと。人間ってそんなに強いものでもなかったりするけど、強く言いきるんじゃなくて、葛藤しながらもそこに行こうとするところ。その感じがいいなって感動する曲。あと演奏していても楽しいんですよ。心にグッときて沁みていく。……話長いね。適当にまとめてください(笑)。

―― すごく伝わります。

福士 うん。この歌詞の主人公、素敵だなって。このアルバムでこの歌詞が一番好きかもしれない。

―― 歌にグッとくるのもあるけれど、皆さんのサウンドがこの曲の世界に寄り添った音が鳴っている気がして、私もすごく好きです。

福士 いい曲ができてよかった。

浅井 うん。それに今回(のリリース)はメジャーじゃん? それがまたいいんだよね。「Black Jenny」(2001年シングル)もよかったし自信もあったんだけど、あれは何せ曲が長いのとメジャーからじゃなかったんだよね。「小さな花」(2008年『GOD』収録)はメジャーだったんだけど、あれはシングルのB面だった。今回はやっとこさ25年経って「これは」と思う曲がメジャーのメイン曲になったなって。全ては巡り合わせなんだよね。最初は「セダンとクーペ」がリード曲になる予定だったから。

―― 途中で変わったんですね?

浅井 うん。「やっぱり『知らない道』にしよう」ってみんなで発見できた。こっちのほうが派手だしいいなって。みんなでこっちにしようというところに到達できたから、そういう流れもよかったんだよね。だから、この『Midnight Chocolate』が爆発的に売れてほしいなあっていう、それだけかな。

―― この曲は、何かをなくしたかもしれないけど、新しいものをちゃんと見つけてるという。その両方があるのがいいですよね。

浅井 この展開に辿り着けたのが自分の中でもよかったと思う。メンバーと練習してて、<OK、そっちにするわ>っていう言葉も最初はなくて、その言葉を途中で見つけて。そうしたらこれは今までにない、なんか新しい感覚のものになるなあっていうふうにちょっと見えてさ。で、最後の<エナジーは無限>っていうところもその段階ではまだなかった。宇宙語で叫んでたんだけど、歌入れの時にそれも発見できて。だからけっこう、偶然が重なってる。

―― 作りながらできていったんですね。

浅井 他の曲もそういうのが多いんだけどね。



―― この「知らない道」が1曲目で始まるのが、アルバム全体を明るく引っ張ってくれるようにも感じてすごくいいなと思います。「セダンとクーペ」も好きなんですけど、この曲は自分が何を言っているんだかわからないと言いながら――。

浅井 この<何言ってんだかわからねぇ>っていうのも途中で思いついたんだよ(笑)。本当に何言ってるか分からんなと思って。最後の<メガネがどこ行ったんだかわからねぇ>っていう部分も本当はなかったんだけど、歌入れをしてて、もう一回やってみるかという時に「メガネがない。俺のメガネ知らん?」みたいな状況になって。これ使えるなと(笑)。これも偶然のひらめきがけっこう入ってる。

―― ここでは自分が何を言っているのかわからないと言いながらも、君が言ってることはわかるよ、という優しさもあって。

浅井 優しさというか、そこまで言っちゃってないよっていうかさ。

―― ああ、なるほど。

浅井 まともだよっていう部分もちゃんと見せとこうと思って。この曲は福士さんの初めのフレーズが決め手だよね。

―― 今回、どの曲も始まりが印象的な気がします。次はハンマーヘッドカレーではなく「HAMMER HEAD BRLUNCH」。これも実話ですか?

浅井 これは実話じゃない。想像だね。

―― この歌詞には注意書きがありますが(※歌詞中に山奥のお店にお客さんは来るのかという内容があるが、注釈として、山奥でお店をやっている方への応援が追記されている)。

浅井 うん。誰か山奥でお店を出そうとか、そういう人がいてこの曲を聴いたらショックを受けるかも分かんないからさ。

福士 ふふふ。そこがベンジーの笑える優しさだよね。そこを気にするところがさ。

浅井 気になるね(笑)。絶対いると思うんだよね。

福士 いるよね。人間って一回は何かをやってみたいとか思うもんね。

浅井 例えば50歳、60歳を過ぎて仕事を辞めて田舎でカレー屋をやる人とかいるよね。田舎暮らしする人とかいるもんね。ましてや古民家を買って前に住んでいた人の荷物を掃除して住む人もいるじゃん。大変だと思うよ。

―― 大変だと思いますね。

浅井 だって何十倍も頑張らなくちゃいけない。いくら安いからって言ってもさ。

福士 知らない人のものを片付けるのは大変だよね。

―― たしかに。そうなると普段の片付けがいかに大事かという気持ちになりますが、「Fantastic」はまさに<いらないものは全部捨てる>という内容の歌で、耳が痛いなと思いながら聴きました。

福士 やっぱり? 私、毎回耳が痛い(笑)。で、歌詞の最後には<とっとけ!>……って見捨てられる、みたいなね(笑)。

―― 例えば普段の生活とかで、自分にとっているもの・いらないものを分ける基準というのはありますか?

浅井 におい。5日ぐらい前に作った中華丼があるとするじゃん。作りすぎちゃって。でも一生懸命作ったから捨てるに捨てられない。おいしかったんだわ。エビとか肉とか入ってて。で、冷蔵庫に入れっぱなしになって、捨てるか食べるか迷った時はにおいで判断して「まだいけるから食べよう」と思って温めて食べると、後からちょっと気持ち悪いという。食べ物はそれぐらい捨てられないね。

―― 福士さんは? 捨てられないタイプだと前に聞いたことがありますが。

浅井 捨てられない代表。

福士 私この間ふと思ったんだけど、捨てるという回路があまりなかったのかなって。もちろんゴミは捨てるんだけど、ゴミじゃないものはとりあえずしまっておくという考えしかなかったのかもしれない。そこを勉強しないといけないような欠陥人間かな? なんかね、片付けようとするし、断捨離しようとするとわかんなくなっちゃう。一番捨てなくていいものからバンって捨てちゃったりして、「なんであれを捨てちゃったんだろう」というのがよくあって、そうするとまたなかなか捨てられなくて。だからまあ、最近は「Fantastic」を聴きながらちょっとね、なんとかしなきゃっていう気持ち。

―― わかります(笑)。

福士 この曲みたいに誰かに全部あげちゃう手もあるよな、とか。よく服でもTシャツとかきれいなものは、困ってる人に送るというのもあるじゃない? 前に送ったこともあるんだけど。

浅井 ファンにあげるといいかもね。

福士 どうやってあげる?

浅井 それこそ今はネットがあるから。SHERBETSのそういうコーナーとか作ってさ。

福士 いいね。「ダンボールで送ります」みたいな(笑)。そんなにあったら驚くよね。でもベンジーは片付け得意じゃない? やる時はやる、みたいな。多分「Fantastic」はいろんな人に役立つ曲だと思う(笑)。

―― この歌詞はみんなドキッとしますよね。

福士 あの歌詞、本当にあのとおりなんだよ。

浅井 よく見てるでしょう。

福士 うん。部屋は自分の心そのものっていうフレーズあるでしょう。そうなんだよなって思う。

浅井 58年も生きとると見えてくる。

福士 最初ベンジーがニヤニヤしながら「福士さんの曲ができちゃったんだよね」って言うから嫌な予感がしたんだよね。「どうせまた変なこと書いてんでしょう」みたいに言ってて。で、レコーディングの日の朝にスタジオに行ったら、急に「あれ、福士さんの曲じゃないから」みたいに言い出したからどういうことかな?と思ってよくよく聴いていたらあの歌詞で(笑)。あまりにも凄すぎて、(私に)悪いからあんなふうに言ったんだよね。

浅井 くくく。あまりにも失礼すぎたもんで。

福士 やっぱり。さっきの注釈みたいな優しさで違うって言ったのかなと思ってた(笑)。

浅井 ヘソ曲げたら困るでしょ?

福士 面白い歌詞だからヘソなんて曲げないけどね(笑)。

浅井 でも外村(公敏)くんとか急にヘソ曲げたりするじゃん?

福士 ここ? みたいなポイントがあるよね。

浅井 わからないポイントがある。

福士 ベンジーは意外と外ちゃんのそのポイントにすごく気をつかってあげるところがあって、私からするとそういうのがなんか可愛いな、みたいな。みんな一生懸命だから。でも、基準じゃないけど、外ちゃんが言う時は尊重したほうがいいなと思う。

浅井 そうだよね。

福士 たまに不思議なポイントを発表されるけど、でもめったに言わないから、言う時はよっぽどだったんだなと私は思ってるけどね。

―― みんな正直に向き合ってるということですね。で、「愚か者」という曲は自分がどこに向かっているのかがテーマになっていて、どこに向かっているかを理解するよりも何を感じるかが大切だという。

浅井 そういうことでしかないもんね。人間って何を感じてるとか、何に感動するとかさ。

―― でもたまにふと、自分で今何をやってるんだろうと思う瞬間があったり。

浅井 ああ、あるね。

―― そういう時はどうしていますか?

浅井 座禅を組むといいよ。くよくよ思っとっても仕方がないんで、生きてることだけでもすごい奇跡なんで、全然よかったじゃんと思って楽しく生きようというかさ。そういう感じかな? まず座禅を組んで、自分の心を落ち着かせるのが大事だね。

―― 座禅を組む。

浅井 うん。どんな座り方でもいいから、座って目を閉じてゆっくり暗闇を見る。

―― 目を閉じて暗闇を見る。

浅井 目を閉じるとだいたい暗闇じゃん。で、その暗闇の中に浮かぶものをぼーっと見る。そうこうしているうちに、だんだん落ち着いてくるよ。自然と。

―― ヨガみたいな感じ?

浅井 別にヨガやらなくても座ったりあぐらをかいて背筋ピンとして目を閉じて暗闇を眺める。そうするとぱあっと、ぐちゃぐちゃになってたものがスッてきれいにまとまるんだと思う。きれいな状態に戻してくれる作用があると思うよ。だから昔からあるじゃん、座禅って。人間の一つの知恵というかさ。あと運動だね。

福士 運動はいいかもね。

浅井 息が切れるぐらいの運動。運動するのとしないのとでは気分が違う。もやもやがなくなるよ。

―― 体を動かすとすっきりしますもんね。浅井さんも福士さんもジムとか行ってましたよね。

浅井 今日も久しぶりに行ってきた。ツアーも近づいてきたからね。しばらく人前に立つことがないと、やっぱりサボるんだよ、人間って。そうでしょう?

―― はい(笑)。

浅井 わかる。そこは自分でどれだけ律するかだよね。でもまだ歩くからいいよね。俺は(車に乗るから)歩かないからね。

福士 私は最近はジムに行くぐらい。本当は体を動かすのは好きなんだけど、コロナ禍になってからやらない方向になったままになってる。でも水の中で浮遊するのとかがすごく好きで。あとはマシーンでいろんな場所を動かすんだけど、たったの20回ぐらいずつ一通りやるだけでも、背筋がピンとなって歩くのが凄く軽やかになるぐらい変わるんですよ。いつもその後にプールで泳いでる。頑張って泳ぐっていう感じでもないんだけど、ひたすらずっと泳いでいて。

浅井 それクロール?

福士 クロールとか平泳ぎとか背泳ぎとか。

浅井 クロールは永遠と泳げる?

福士 でもすごい疲れるよね。

浅井 永遠と泳げる泳ぎ方のポイントがあるんだわ。ユーチューブで見たんだけど、いつかやってみようかなと思ってる。

福士 そのポイントは何なの? 呼吸ってこと?

浅井 呼吸の仕方。泳いでる時に(クロールの動きをしながら)息を吸うと体が浮いて息をはくと若干沈むじゃん。その浮いたり沈んだりするのがよくないんだって。水の抵抗を受けるからなるべく浮いたままのほうがよくて。でも俺んたちよくやるのは息を吸ったらフウってはきながら泳ぐじゃん。はきながら泳いでまた吸うじゃん。で、またはきながら……って、何の話してるんだって話だよね(笑)。

―― ちょっと聞きたいです(笑)。

浅井 聞きたいよね。で、そうやって息継ぎすると体が沈むんだわ。だからこうやって泳いでる時には息をはいちゃだめでずっと溜めておいて、いよいよ呼吸する手前で一気に鼻から息を出す。で顔を上げた一瞬で息を吸って、ってやるんだって。それでだいぶ違うらしいよ。それとクロールの場合は手を伸ばしたまま……(※クロールのレクチャーがしばし続く)。

―― なるほど。ちょっと試してみたくなりますね。

浅井 その呼吸法にしたら永遠に泳いでいられるらしい。

福士 私も練習しよう。何でも練習するのが好きで、前は平泳ぎがテーマだったのね。なぜか平泳ぎがあまりうまくできなかったんだけど、教えてもらってだいぶできるようになったような気がする。できるようになると面白いじゃない? だから水泳に限らず何でも学びながらやると面白いなって思う。

―― 平泳ぎが1mも進まないんですけど、どうしたらいいですかね?

福士 私も進まない人間だった(笑)。

浅井 平泳ぎは真ん中からこうやって前に手を出す。で、こういうふうにこっちまでやったら、また真ん中から手をくっつけて……(※平泳ぎのレクチャーがしばし続く)。

福士 水に対して体が斜めになってると、手でやっても抵抗で全然進まないんだよね。私もそうだった。(平泳ぎの動きをしながら)こういうふうにやると進まなくて、こういうふうにやったらすごい進歩したかも。斜め下に手をやって、その勢いでぐっとやったら浮き上がって息もできる(※平泳ぎのレクチャーがしばし続く)。全然違う話ですみません(笑)。

―― いえいえ、面白いです(笑)。レクチャーありがとうございます。

福士 私は前は平泳ぎが全然できなかったから、人と競争する時はずっと犬かきをしてた(笑)。なぜか犬かきだとすごく早かった。

浅井 犬かき? すごいね。

福士 たまにそういうのがあって、急にすごくできるやつがあったりするんだよね。

―― そうやって練習してできるようになるのはいいですよね。

浅井 楽しいよね。

福士 うん、できると楽しい。



―― アルバムの話に戻ると、「ROLL」もすごくよくて、転がり続けていたらちゃんと前に進んでいける、というような気持ちになれるというか。<自然にしてたら まるでコメディ>というフレーズもありますが。

浅井 それは、自分たちを見とって、なんかたまにコメディみたいになってる時があって。真面目にやってるんだけど、そこの部分を言ってる感じ。メガネがないとか言って頭にメガネつけてたりとか、笑えたりするじゃん。それでいいじゃんっていう。楽しく行こうぜっていうそんな感じかな?

―― ロールしていれば楽しくいられる。

浅井 うん。色々ありますが、ライブで最高にご機嫌な演奏の時は一番嬉しいからそれがいいじゃんっていう単純な発想かな。

―― あと、昨年のインタビューでも度々「優雅に行きたい」みたいな言葉が浅井さんから出ていて。今回は「優雅に行こうぜ」という曲にもなっていますが、この意識は何か思うところがあったんでしょうか?

浅井 なんか、怒りっぽくなっちゃう人とかいるじゃん? そういうのはかっこ悪いと思っとって。

福士 そうだね。

浅井 細かくなったりとかさ。俺、よく細かいって言われるんだけど、自分に対することでもあるんだね。でも優雅に行ったほうがかっこいいなって。深い意味はなくてそのままだよ。

―― この「優雅に」という言葉はすごくハッとしました。何となく世の中的にも薄れている心持ちかな、と。優雅に行きたくてもなかなか優雅にできない自分もいたりするので。

浅井 うん。そうだよね。

―― でも、歌詞にもあるように誰かと笑い合ったり、世界の美しい景色を一緒に見に行ったり。特別なことじゃなくていいんだと気づくとホッとするというか。昔、浅井さんに、自分が本の編集長になったらどんな本を作りたいかと訊いたら「見ているだけで世界旅行ができるような、世界中の最高な景色を集めた本なら作りたい」という答えで。ふとそのことを思い出しました。

浅井 やっぱり世界の美しい景色とかって希望を感じるしね。

―― このアルバムをとおして、浅井さんの心境の変化などもストレートに歌われているけれど、こうした変わらないところにもグッときます。

浅井 うん。美しい景色を見に行くって、別に普通のことでしょう? 普通のことでいいなと思ったんだよね。優雅に生きて、普通の観光旅行でいいんだよね。好きな人と一緒だったらさ。ひとりだったら寂しいけどね。

福士 ひとりだとつまらないよね。

浅井 俺もひとり旅、嫌なんだよね。ひとり旅した事ある?

福士 前にSHERBETSの沖縄ライブの帰りに久米島に行ったんだよね。その時ひとりだったから、楽器があればいいかなと思って小さいギターを買って行ったの。最初は部屋に着いて青い海が見えていい感じに思ったんだけど、夜になってレストランにでも行ってみようかなと思って行ったら、周りがカップル的な感じの人たちばかりでとても楽しそうなわけ。だんだん寂しくなってきて、じゃあ近くのお店にでも行ってみようと思って行ったら、そこはそこでまたみんな地元な感じでひとりで入れる感じじゃないなって……結局その日はもうあまりにも寂しくなってしまったのでお弁当を買ってきて部屋で食べたの。

浅井 そうなんだ。

福士 もうどんどん孤独を感じてきて、次の日はビーチにひとりきり。

浅井 何泊の予定だったの?

福士 2泊3日ぐらいなんだけど。で、ひとりで泳いでたんだけど荷物を見てくれる人もいないし、ひとりぼっちで寂しい気持ちでいるのもよくないなと思ってビーチ沿いをずっと散歩してたのね。そうしたらガラスとかペットボトルとかゴミとかがいっぱい落ちていたから拾っていたらゴミ袋が必要になってきて、袋を見つけてきて、ゴミ拾いでずっとビーチの果ての方まで行って戻ってくるっていうのをやったら何袋にもなったの。でもそんなことをしていたらすごく楽しくなってきて、ひとりでもすごい楽しい!とか思った。あと役に立ってると思ったしね。本当はとてもきれいな海のはずなのにってね。

浅井 やっぱり人間はやることがないとダメなんだね。

福士 そうなんだよね。誰かと一緒だったらそれだけで楽しい……まあ嫌な人がいたら楽しくないかもけど、好きな人とか一緒にいたいと思う人とだったら何でも楽しいからね。

浅井 ふたり旅でもね、成田離婚とかあるもんね。

福士 それは合ってなかったんだろうね。

浅井 早くわかってよかったんじゃない? 旅するとわかるんだよね、その人のことが。

福士 なんかちょっと違うなとか、いいなとか?

浅井 ちょっと頼りにならないな、とかね。

―― そういえば「Aurora Squash」では、一生懸命に何かに向かっていたら気の合う友と自然に出会う、とありますね。すごくSHERBETSというバンドを照らすような曲だと思いました。「わらのバッグ」のように光を感じる曲で。

福士 そうだね。いいよね。

―― 『Midnight Chocolate』には、なくしたものもあるけれど新たに気づいたこともあって、わからないけどわかることもあって、変わっていくものもあれば変わらないものもあって、わからなくても何を感じるかが大切で。ということがストレートに綴られています。生きていると、今を受け入れることって時には怖いことでもあると思うんですけど、言葉にもサウンドにも、かっこいい音楽としてストレートにポジティブな響きで鳴っているように思いました。

浅井 うん。聴いたら元気になれるかなと思ってる。

福士 かわいい歌詞もあるしね。

―― はい。浅井さんのお茶目さもあるし、SHERBETSの世界のグッとくる感じが深まっていて。

浅井 それがみんなに伝わってほしいだけですね。

―― グッとくるといえば、The Birthdayのチバユウスケさんが自分のルーツ本(『EVE OF DESTRUCTION』)の中で浅井さんのことを話していたんですけど、「ベンジーの作る音の世界はすごい。グッとくる音楽を作り続けている」というようなことを書かれていましたね。

浅井 おお、ほんと? マジか。なんかお礼したいな。

―― うんうん、って頷きながら読んでました。

浅井 嬉しいなあ。でも、いつもメンバーに助けられてる。だからみんなに感謝だね。スタッフの皆さんにも。

―― あらためて、今年はSHERBETS 25周年という節目ですが、いかがですか?

浅井 今はもう音楽業界が昔とは変わったでしょう。メジャーとインディーズの両方いいところがあって。でもしばらくずっとインディーズでやっていて、今回またメジャーでやるかどうか結構悩んだんだけど、スタッフの福岡くんとかが勧めてくれて。海藤さんという素晴らしい人もついてくれて。そういうタイミングでこのアルバムができて、すごくよかったと思う。まだこれからだけどね。これからこのアルバムがどれだけ浸透するかだけどさ、58歳になってここにきてそういう状況になってるのが、ちょっとした特別感が自分の中ではある。それがひとつと、あとSHERBETSのメンバーがめちゃくちゃ最高。福士さんも仲田先輩も外村くんもこの人生で出会えて本当によかった。出会ってなかったらこうなってないと思う。だからすごく感謝だね、途中色々あったけど。でも、色々あったからこそ分かって学んだ部分もいっぱいあるんだよね。めちゃくちゃ笑える部分もあるからみんな面白いよ。

福士 そうだね、たくさんあるね(笑)。

浅井 そこらへんの話が(初回限定盤の)60ページのブックレットに載ってるんで見てほしいな。読んだ?

―― いえ、まだです。

浅井 漫画になってるんだけど、面白いよ。笑えるよ。オートマティックコメディ。俺が吹き出しを書いた。

福士 ベンジー、うまいよね。最初、デザイナーの大箭(亮二)さんが色々まとめたのかなと思って大箭さんにメールしたら、ベンジーだったんだよね(笑)。

浅井 すごい笑えるよ。けっこう仲田先輩を利用してる(笑)。

福士 ふふふ。

―― 読むのを楽しみにしています。5月からはツアーが始まりますね。

福士 今だからできるようになってることもあるかもしれないし、音楽的にはいい感じになってるような気がしてますね。

浅井 この間のツアーがけっこうデカかったよね。(サポートの)宇野剛史ツアー。

福士 うん。ライブが楽しいなって、この間のツアーの時にも思ったし、サポートの剛史くんの楽しいエッセンスをもらってバンド的にリフレッシュできた感じもあったしね。25周年だからやっぱり、今までで一番と思えるくらいよく伝わるライブにしたいです。自分でも音楽って楽しいなと思えるように。あと、歌が伝えられるといいなぁと。

浅井 そういえば、この間のライブで福士さんが「こっちの曲のほうがいいんじゃない」って言ったじゃん。あれ変えてよかったよね。思いついたことを遠慮せずに言うのが大事なんだよね。そういうところに助けてもらってる。

福士 あれは曲を変えてよかったね。あとはライブではみんなも歌ってくれたらいいなとか思ったりして。

―― ライブでも声出しOKになったし、コロナ禍の数年とは違う景色のライブになりますね。

浅井 俺は毎回同じことを言ってるかもしれんけど、今回はもう特別。まじで舞台構成を考えようかなと思っております。

福士 初めて聞いた!

―― 期待していいですか?

浅井 うん。一番初めの「SIBERIA GIGS」の頃ってけっこう流れが完璧に決まってて、すごいよかったんだよね。それに近いような持ってき方を見せたいなと思ってる。だからすごいものにするよ。



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DONUT 13(SHERBETS特集号)
2022年10月14日(金)リリース
表紙:SHERBETS
仕様:B5変形ヨコ
頁数:112p
定価:1,430円(本体1,300円+消費税10%)
ISBN:978-4-905273-18-9
綴込み付録:SHERBETSポストカード
購入方法などは特設サイトまで!

INFORMATION

AL 『Midnight Chocolatel』
2023年4月26日リリース
収録曲:01.知らない道/02.Spread City/03.セダンとクーペ/04.HAMMER HEAD BRUNCH/05.Aurora Squash/06.Fantastic/07.愚か者/08.ROLL/09.こわれた大人/10.優雅に行こうぜ
*初回生産限定盤はCD+60Pスペシャルブック、アルバムジャケットポストカードセット12枚付、BOX仕様 通販:
■CD購入リンク:
https://SHERBETS.lnk.to/Midnight_Chocolate_ALLW
■配信リンク:
https://SHERBETS.lnk.to/Midnight_Chocolate_EPLW


■ ライブ情報



SHERBETS 25th ANNIVERSARY TOUR「Midnight Chocolate」
2023年5月18日(木)新潟CLUB RIVERST
2023年5月19日(金)仙台MACANA
2023年5月21日(日)札幌cube garden
2023年5月26日(金)福岡DRUM Be-1
2023年5月27日(土)岡山IMAGE
2023年6月3日(土)大阪CLUB QUATTRO
2023年6月4日(日)名古屋THE BOTTOM LINE
2023年6月8日(木)東京Zepp Shinjuku
2023年6月17日(土)沖縄Output

■ 諸事情で日程や開演時間が変更になる場合があります。また上記以外の公演についても公式サイトで最新情報をご確認ください。
■SHERBETS公式:https://sherbets.tokyo/
■SEXY STONES RECORDS:https://www.sexystones.com/top/
■SHERBETS/ソニー・ミュージックレーベルズ:https://www.sonymusic.co.jp/artist/sherbets/

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