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2023.4.06 upload

ザ・クロマニヨンズ ツアー「MOUNTAIN BANANA2023」
2023年3月30日(木) 中野サンプラザ ライブ・レビュー

●写真=柴田恵理 テキスト=森内淳


2023年3月30日、ザ・クロマニヨンズのライブが中野サンプラザで行われた。サンプラザは7月をもって50年の歴史に幕を閉じることに。ザ・ジャム、ザ・クラッシュ、ブームタウン・ラッツ、エルヴィス・コステロ、ザ・プリテンダーズ、バウワウワウ……80年代はパンクやニューウェーブのバンドのライブを見に足繁く通った。甲本ヒロトや真島昌利もいろんなライブをここで見たのではないか。そんな彼らが今やベテランアーティストとして音楽シーンを牽引しているのだから時の流れは早い。サンプラザも老朽化するわけだ。しかしながら彼らが現役感を失うことは一度もなかった。今もあの日のクラッシュやジャムのように最前線でライブをやっている。そしてこの日も甲本ヒロトは「ロックンロール!」と叫び、真島昌利はギターをかき鳴らし、小林勝はベースをブンブン唸らせ、桐田勝治は2バスをドカドカと響かせていた。


「我々が考えたLPの曲順で聴いてください」というMCの通り、ライブはアルバム『MOUNTAIN BANANA』の曲順で進んでいった。つまりオープニングナンバーは「ランラン」であり、2曲目は「暴走ジェリーロック」だ。この2曲はオープニングにふさわしい曲だ。ろくでもない世界を憂いながらも走り、価値観の違いにぎくしゃくしっぱなしの日常を駆け抜ける。そんな気分にさせる。この2曲を聴くといつも『サイボーグ009』の加速装置が頭に浮かぶ。つまり冒頭からギアは5なのだ。会場の温度が一気に上昇する。次に演奏されたのが「ズボン」。一見、意味がなさそうな歌詞だけど全肯定の歌にしか聴こえない。アルバムのなかで一番好きな曲だ。もっというとそんな意味さえ見出す必要もないくらい楽しい曲でもある。甲本ヒロトの真骨頂だ。


ステージセットもいい。舞台は両脇の幕すらなくステージが文字通り隅から隅まで見渡せる。照明は上から吊るすのではなくステージ上に置かれていた。左右どころか上にも空間が広がっていた。そのだだっ広い空間の真ん中に黒い絨毯のようなものが敷かれその上にバンドの機材がセットされていた。いたってシンプルな様相はロックンロールの核心をストレートに表現するクロマニヨンズとの親和性は申し分ない。最初は照明も白だけで、最後までこれでいくのかなと思っていたが、「カマキリ階段部長」で赤と緑に染まる。その後はステージ置かれた照明がいくつもの色彩をつくり出していく。白の世界から色の世界へ。『MOUNTAIN BANANA』はロックンロールをベースにいろんな表情の楽曲がバランスよく配置されているアルバムだ。シンプルな白い照明から楽曲に合わせていろんな色が足されていく様がアルバムの内容ととてもマッチしていた。いうまでもなく音楽はレコードだけでも十分楽しめるけれど、ライブを見るとさらにイメージが広がるのだ。


LPのA面最後の曲「一反木綿」が終わったあと『MOUNTAIN BANANA』のバックドロップがはける。B面の曲にいく前に最新アルバム以外から「スピードとナイフ」「クレーンゲーム」 「ごくつぶし」の3曲が披露される。「クレーンゲーム」はうまくいきそうでいかない、届きそうで届かない、コロナ禍以降の忸怩たる思いが歌と重なり「うーむ」という感じで聴いていたが「ごくつぶし」で性懲りも無くクレーンゲームを繰り返す日常もいいんじゃないの? という気分になる。『ワンピース』の主人公・ルフィがカイドウに「おれに勝てる可能性でもあんのか!?」と訊かれ「生きてんだから、無限にあんだろう!!」と答えたときのような熱いものをクロマニヨンズの曲には感じてしまう。生きることに必要以上に意味や意義を見出そうとするとドツボにハマることがあるが、クロマニヨンズの曲にはそれがないからかもしれない。「エイトビート」の歌詞のように。


再び『MOUNTAIN BANANA』のバックドロップが登場。ライブはB面の曲へと突入。B面もA面同様「LPの曲順で」演奏された。最初は「イノチノマーチ」。好きなことに出会った瞬間への讃歌。長く歌い継がれるべき曲だと思う。「好きに勝るものなし」がもたらす素敵な世界(=ロックンロールの楽しさ)を知っている、客席を埋めた2000人の讃歌でもある。14曲目は甲本ヒロトに「真島昌利の真骨頂」といわしめた「さぼりたい」。「さぼりたい」「ふけたい」「今日は」のたったみっつの言葉だけで「さぼりたい」心持ちを見事に描き出した快作。小林勝のベースが深く重く気だるく響きわたり、情感を後押しする。そのダブな趣はライブ全体のアクセントにもなっていた。B面の締めは「心配停止ブギウギ」。桐田勝治のドラムから入り、真島昌利のギターが絡んでいく。頭の半分以上は心配事で埋まっているぼくたちをノーテンキな展開が解き放ってくれる。「一反木綿」もそうだけれど「ただよっていればなんとかなるんじゃないの?」というのはクロマニヨンズ自身へのメッセージでもあるのかもしれない。コロナ禍において音楽シーンは心配事ばっかりだったから。いや、そんなことはどうだっていい。リスナーの心に刺さったかどうかが問題で、少なくともぼくの心には刺さった。


『MOUNTAIN BANANA』の全曲が終了し、バックドロップと機材の横に立てられていたパネルがはけ、ステージは何もない状態に。そこへ甲本ヒロトの「何もなくてもロックンロールはできる」というMCが。その瞬間、客席はヒートアップ。「なんか盛り上がりそうだなという曲をみつくろって演るから、みんなも盛り上がってくれ」というMCをきっかけに「ペテン師ロック」から「ナンバーワン野郎!」まで怒涛のロックンロール攻勢で会場の興奮はマックスに。アンコールは「突撃ロック」で始まり、「タリホー」「クロマニヨン・ストンプ」でフィニッシュ。『MOUNTAIN BANANA』の曲も過去曲もより生々しくより強靭によりポップにロックしてロールする。もう38年も甲本ヒロトと真島昌利のライブを見ているけれど飽きることはない。いうまでもなくノスタルジーという言葉も無縁だ。常に新しい衝動が生まれ、今もその衝動に震えている。これがロックンロールなのだ。

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『MOUNTAIN BANANA』アルバムインタビューはこちらです



■ DONUT 14 表紙:甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ) 
2023年2月8日リリース A4 80p 1320円(本体1200円+消費税10%)
ザ・クロマニヨンズの新作『MOUNTAIN BANANA』インタビューに加え、甲本ヒロトが自宅のレコード棚からアナログ盤を持ってくるインタビュー第2弾を掲載/ザ・クロマニヨンズ写真展で全国を巡回し写真集をリリースした柴田恵理が撮影/第2特集は高橋浩司(HARISS/ex.PEALOUT)の貴重なザ・クラッシュ・コレクションを公開/ウィルコ・ジョンソンの「ロックンロールが降ってきた日」を再掲/WHO’S NEXTにはタカイリョウ(the twenties)が登場/連載コラム:歌王子あび(VERANPARADE)、カタヤマヒロキ(KTYM)、中野ミホ、ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)、タカイリョウ(the twenties)/I LIKE THIS MUSIC:SULLIVAN's FUN CLUB、エルモア・スコッティーズ、NITRODAY、THEティバ、Johnnivan、 Glimpse Group/編集部の2022年下半期プレイリスト/編集部コラム:『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』、『ワンピース』考察/綴込付録:甲本ヒロト描き下ろし「みんなとドラゴン」ポストカード
>>購入方法など詳しい情報はこちら

INFORMATION

AL 『MOUNTAIN BANANA』
2023年1月18日リリース
収録曲:1. ランラン/ 2. 暴走ジェリーロック/ 3. ズボン/ 4. カマキリ階段部長/ 5. でんでんむし/ 6. 一反木綿/ 7. イノチノマーチ/ 8. ドラゴン/ 9. もうすぐだぞ! 野犬!/ 10. キングコブラ/ 11. さぼりたい/ 12. 心配停止ブギウギ 全12曲


SG 『イノチノマーチ』
2022年12月14日リリース
収録曲:1. イノチノマーチ/ 2. さぼりたい


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■ ライブ情報
ザ・クロマニヨンズ ツアー “MOUNTAIN BANANA 2023"
2月02日(木)東京都・Zepp Haneda(TOKYO)
2月05日(日)東京都・たましんRISURUホール(立川市市民会館)
2月12日(日)石川県・金沢市文化ホール
2月19日(日)愛知県・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
2月23日(木・祝)宮崎県・都城市総合文化ホール 大ホール
2月25日(土)佐賀県・鳥栖市民文化会館
2月26日(日)福岡県・北九州芸術劇場 大ホール
3月04日(土)埼玉県・狭山市市民会館 大ホール
3月05日(日)千葉県・浦安市文化会館 大ホール
3月11日(土)秋田県・あきた芸術劇場ミルハス 中ホール
3月12日(日)宮城県・トークネットホール仙台(仙台市民会館) 大ホール
3月18日(土)岡山県・岡山市民会館
3月19日(日)鳥取県・米子市公会堂
3月21日(火・祝)広島県・東広島芸術文化ホールくらら 大ホール
3月24日(金)京都府・ロームシアター京都 メインホール
3月26日(日)兵庫県・神戸国際会館 こくさいホール
3月30日(木)東京都・中野サンプラザ ホール
4月01日(土)新潟県・新潟市民芸術文化会館・劇場
4月08日(土)栃木県・栃木県教育会館
4月09日(日)神奈川県・カルッツかわさき
4月15日(土)香川県・レクザムホール(香川県県民ホール) 小ホール
4月16日(日)大阪府・大阪城音楽堂
4月23日(日)静岡県・静岡市民文化会館 中ホール
4月29日(土・祝)北海道・カナモトホール(札幌市民ホール)

■コロナなどの影響で日程や開演時間が変更になる場合があります。公式サイトで必ず最新情報をご確認ください。
ザ・クロマニヨンズ公式サイト:https://www.cro-magnons.net/live/

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