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2019.11.29 upload

ザ・クロマニヨンズ ライブ・レビュー

「ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020」
2019年11月20日(水)東京・TSUTAYA O-EAST

●写真=柴田恵理 文=森内淳

2019年11月20日 水曜日、TSUTAYA O-EASTでザ・クロマニヨンズのライブが行われた。このライブは「ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020」の東京公演、2日目。今ツアーも例年のように50本以上が組まれ、来年の春までつづく。最近は年間100本超のライブをやる若手のバンドも増えてきたが、キャリアがあるバンドで、毎年コンスタントに50本以上のツアーをやるバンドはそれほど多くはない。ほとんどのバンドが動員を考えて、週末にライブを行っているなか、平日の開催。50本ツアーをやるとなると悠長なことはいってられない。平日にも関わらず会場は超満員札止め。会場はオールドファンから新しいファンまで、幅広い年齢層のオーディエンスでひしめき合っている。東京公演はこれで終わりではなく、東京ドームシティ・ホールとLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)での公演も控えている。



クロマニヨンズのライブの人気は、毎回、新作アルバムの収録曲全曲を演奏するところにある。ヒット曲や定番曲を多く持つバンドは、どうしてもベスト選曲になりがちだ。観客のことを考えると、そうなるのも仕方がない。しかし彼らの発想は逆。収録曲のなかにはこの先のツアーで演奏しなくなる曲も出てくる。つまり今ツアーは二度と再演されない「今しか見られないステージ」なのだ。それは彼らの信念である「今が常に最高」という確信にも基づいている。それはツアーのアップデートにもつながっている。去年のステージを超えようとする気持ちは新作にも反映される。だから、どんなに年をとっても決してノスタルジーに絡み取られることはない。それが彼らをカリスマや重鎮ではなく、現役のバンドマンに踏みとどまらせている原動力にもなっている。それがオーディエンスの新陳代謝にもつながっている。バンドマンの正しいあり方だと思う。



クロマニヨンズの最新アルバムは『PUNCH』。今回のアルバムのキーワードは個人的には「一体感」「塊(カタマリ)」だと思っている。バンドだから一体感があるのは当たり前だけれども、そうは言っても、甲本ヒロト(vo)と真島昌利(gt)の存在は大きい。そこに小林勝(b)と桐田勝治(dr)がどう挑んでいくか。そこは毎回キーになってくるのだが、今回のアルバムは今まで以上により強固なバンド・サウンドになっているように思う。そのことに関してはヒロトもDONUTのインタビューで認めている。『PUNCH』を聴いていると、例えば、AC/DCのように、サウンドがひとつの塊となって、スピーカーから転がってくる。シンプルで強いアルバム・タイトルとアート・ワークは、そんなアルバムの内容を的確に表している。今回のツアーではバンドが一体となって放つ「ロックの塊」を正面から浴びるつもりで出かけていった。

19時、観客の前で披露されたのは『あしたのジョー』の丹下段平のコスプレによる前説と登場曲だった。サウンドの一体感は期待していたが、『PUNCH』を軸に演出まで一体になっているとは思わなかった。しかもステージに登場したクロマニヨンズの面々は全員が同じTシャツ(ピンク色のTシャツに黒文字でPUNCHと書かれている)を着ていたので、思わず気分が上がってしまった。物語の導入としても完璧だ。冒頭から『PUNCH』の世界に取り込まれてしまった。甲本が「ロックンロール!」と叫ぶと、演奏がスタート。「会ってすぐ全部」から始まり、「怪鳥ディセンバー」「ケセケセ」「デイジー」と『PUNCH』の楽曲が曲順通りに演奏されていく。「ケセケセ」のギターとドラムとベースとハープが絡むシーンで思わず高揚してしまう。その後、ライブはA面最後の曲「小麦粉の加工」まで『PUNCH』の曲順通りに進んでいく。

そのなかで一番上がったのが「ビッグチャンス」。真島が鳴らすギターリフと小林、桐田のリズムががっちりと結合した曲は、レコードでもAC/DCのようなハードロックのダイナミズムが創り出されていた。ライブで聴くと、ロック感がより一層際立つ。そこに「ハッ」とか「フッ」とか謎の合いの手が入る。一見、何の意味もない、見方を変えるとひじょうに馬鹿馬鹿しい合いの手だが、これが大きなカタルシスを生み、それが楽曲の破壊力につながっている。こういうユーモアも『PUNCH』の特徴だ。「ガス人間」のコーラスや「ロケッティア」のアレンジ。いつも以上に遊んでいるように思えるアイディアが決して狙いやネタのように聴こえないのは、そのユーモアで笑わせようと思っていないからだ。それはAC/DCのアンガス・ヤングの半ズボンと同じだ。むしろ攻撃性の象徴なのだ。だからクロマニヨンズはタフなのだ。そういうシーンがこのツアーでは多々見られる。この人たちはやっぱりロックンロール・バンドなのだ。



アナログ盤のA面を曲順通り披露したあとに、過去曲を挟み、「クレーンゲーム」から始まるB面へと突入。「整理された箱」もまた違う意味で攻めた曲だ。楽曲の冒頭に出てくるスカのリズムでオーディエンスは身体を揺らす。会場はジャンプとかモッシュのモードからダンスへと変わる。その様子を見ていてふと「整理された箱」というタイトルの曲でダンスをするのってなんだかシュールだよな、と思ってしまった。A面最後の曲「小麦粉の加工」も同じだ。「小麦粉の加工〜♪」というコーラスから入る曲をしみじみと聴き入る様子もクロマニヨンズのリスナー以外から見ると、変に映るかもしれない。両方、真島の曲だが、たぶん「整理された箱」や「小麦粉の加工」にも隠された意味やメッセージがあるのだろう。しかしその意味に到達するまでもなく、シュールさや違和感を超えて、楽曲に没頭している自分がいるということは、無意識のうちにその言葉の意味するところや批評性をキャッチしているのかもしれない。



考えてみれば、「会ってすぐ全部」や「怪鳥ディセンバー」のポジティビティ、「デイジー」の「誰かの理想を生きられやしない」というシリアスなメッセージ、「ビッグチャンス」のユーモアもシュールも批評性も違和感も、全部このステージの上にあるのだ。そこがクロマニヨンズの面白さだし、深さでもある。彼らは、考えられる感情とか考えとか気持ちを全部呑み込んでロックンロールに昇華させて放っている。ひとつひとつちがう性格の事象がまるで一個の塊になったように思えるのが『PUNCH』という作品であり、目の前で展開されているライブなのだ。こんなもの、面白くないわけがない。当然、ステージのクロマニヨンズの4人もその全部を楽しんでいた。B面最後の曲の「ロケッティア」でまさかの同期を使ってのアレンジの再現も、『PUNCH』の物語を隅々まで現出させようとするクロマニヨンズの意思のようにも思えた。甲本も最前列のお客さんにタッチしてまわったり、寝転がったり、ステージのヘリに座って歌ったり、『PUNCH』のすべてを楽しむようにパフォーマンスしていた。



クロマニヨンズにはもちろんラモーンズのようなガレージ・バンド的要素もあるけれど、それでは収まりきれないものをたくさん持っている。それが一塊になったときにとてつもない破壊力を宿す(一言でいえば、それはビートルズのマインドということになるのだけれど)。そういったことを90分で一気に体験できるのが「ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020」だ。このツアーは2020年4月11日までつづく。

© 2019 DONUT

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INFORMATION



ザ・クロマニヨンズ『PUNCH』
2019年10月9日(水)Release
収録曲:1.会ってすぐ全部 2.怪鳥ディセンバー 3.ケセケセ 4.デイジー 5.ビッグチャンス 6.小麦粉の加工 7.クレーンゲーム 8.ガス人間 9.整理された箱 10.リリイ 11.長い赤信号 12.ロケッティア


※ LIVE INFORMATION は公式サイトでご確認ください。


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