DONUT

2019.10.9 upload

ザ・クロマニヨンズ インタビュー
コビーと勝治はもともとビッグな存在ではあったんだけれど、それがより姿をあらわした感じだよね
――甲本ヒロト

ザ・クロマニヨンズがニューアルバム『PUNCH』をリリース。クロマニヨンズのいいところは常にロックがもつバカバカしさやユーモアをロックのもつ特徴のひとつとして捉えているところだ。意識的なのか無意識なのか身についたものかはわからないが、道徳的なリリックと揺れる感情を顕に吐き出すようなロックも、かっこ悪さを批評的に昇華させ売りにしているバンドも、四つ打ちで緻密につくられた音楽もかっこいいだろう。だけど、ボルトが2本転がっているだけのジャケット・アートも含め、(ロックのダイナミズムと結びついた)バカバカしさやユーモアを体現したような『PUNCH』の破壊力、かっこよさは絶大だ。作詞・作曲をする甲本ヒロト(vo)、真島昌利(gt)はその立役者ではあるが、小林勝(ba)と桐田勝治(dr)が生み出すロックンロールが『PUNCH』のキーになっているようだ。

●取材・文=森内淳/秋元美乃

―― ニューアルバム『PUNCH』が完成しました。まず感想を伺いたいのですが。

真島昌利 いいのができたなあって。

甲本ヒロト うん、いいのができた。

―― 今回もレコーディングは順調にいったんですか?

甲本 うん、そうだね。ずっと順調なんですよ、ここ何年か。年々、どんどんやりやすくなっていく。

―― 去年よりも今年みたいに?

甲本 ここんところはね、落ち着いているんですよ。ずーっといい感じがつづいてる。

―― それは作品をこういうところに落とし込もうというのがはっきりと見えているということですか?

真島 完成形は見えてないよ、いつも。完成してんのかどうかもわからないし。

甲本 内容に関しては毎回いろいろだと思うんだけど、やり方がね、何時に集まって何時間やって帰ろうとか。

―― 順調ってそういう話ですか(笑)。

甲本 そういうかたちって毎年やってると決まってくるじゃないですか。だいたい集合は何時だよな。話し合わなくても帰りは何時くらいになるだろうなって見えてくる。そうすると自分の時間の使い方も当たり前のように決まってくるし。そうやって、いい意味のルーティンができてる。スタジオでご飯は何を食べるとかがどんどん決まってきてる、順調に(笑)。

―― 内容に関してはどうなんですか?

甲本 内容はね、いいなってみんながなれば、それでいいからね。あー、楽しい。じゃOKみたいな。中には、なんか変だなっていうときもあるけどね。なんか楽しくないなって。じゃもう一回やってみよう。ちょっと変えてみよう。ああ楽しい。OK! そんな感じだよ。

―― 今作では真島さんのギターがサーフっぽかったり、スカっぽかったりいろいろあるんですが、どういうギターにしようっていうのはその場で決めるんですか?

真島 うーん。よくわかんないけど、あんまり合わないことはやらないかな。

甲本 マーシーって自分の曲にギター・ソロを入れないんですよ。アレンジするときに。僕は個人的にマーシーのギター・ソロを聴きたいのと、もうひとつはギター・ソロがないとずっと歌ってなきゃならないから、ライブのときにきついというのがあるんですけど(笑)、基本的にどんなギター・ソロが出てくるのか、聴いてみたいんですよ。自分の楽しみも含めて、マーシーに「ギター・ソロを弾いてよ」ってお願いすることがよくあって、今回は「リリイ」と「ガス人間」でお願いして。どっちのギター・ソロも「ああ、頼んでよかったなあ、楽しいなあ」って思った。

―― 真島さんはギター・ソロはあんまり念頭には置いてないんですね?

真島 いらないじゃん、ギター・ソロなんて(笑)。

―― そんなことないでしょ。だって大好きなロックンロールのレコードなんかバンバン、ギター・ソロが出てくるじゃないですか。

真島 聴くのはいいんだけどさ(笑)。

甲本 ははははははは。

真島 でも聴くのにしたって、ビートルズだって、そんなにギター・ソロがあるわけじゃないし。

―― ビートルズも後期になるとギター・ソロ出てきますけどね。

真島 まあそうだけど。だけどギター・ソロを入れるとさ、曲も長くなるしさ(笑)。なんか2分58秒くらいで終わるのが一番いいじゃない(笑)。

―― 『PUNCH』のジャケットはボルトが2本描いてあるんですが、今朝、自分ちの棚を見て気づいたんですけど、棚にヨシオとイエティとロボ・ヨシオが並んでいて……

真島 うん。

―― 『PUNCH』のジャケットのボルトがロボ・ヨシオのボルト?

甲本真島 うん、うん。

―― なのかと思ったんですけど。

甲本 デザイナーはひとりですからね。彼のなかでいろんなストーリーがあるんじゃないですか。彼の脳内でどんな面白いことが繰り広げられているのか、垣間見えますね。

―― 今回はこのジャケット・デザインが上がってきたときにはどういう反応だったんですか?

甲本 いつもと同じだよ。こんなんですけど。わー、かっこいい。できたーって。いつもそうだよ。我々とはディスカッションは一切しないから。

―― この『PUNCH』っていうタイトルはどちらから出てきた言葉なんですか?

甲本 どちらでもないです。メンバー4人で話しているときに僕とマーシー以外のところから聞こえてきたのかな。みんなでいろんな単語を出し合って。タイトルなんて何でもいいわけだからさ。くだらないことをずっと言い合ってて。タンスとかいろんなことをいっているわけ。

真島 タンス(笑)。

甲本 何でもいいわけ、本当に。タピオカとかいっているわけですよ。そのなかでPUNCHっていうのが出てきて、あ、PUNCHいいなあって。それだけ。ツアー・タイトルにもなるってことは、Tシャツの胸に書かれるわけですよ。面白いじゃないか、ここにPUNCHって書いてあったら。馬鹿みたいで(笑)。漫画の主人公のTシャツみたいでしょ。昭和の漫画の主人公の着てるTシャツにPUNCHって書いてありそうだよね(笑)。それ、大事。

―― サウンド的にもバカっぽさを感じる作品ではあるな、と思ったんですよね。

甲本 毎回そうなんですけどね、そういう意味では。

―― コーラスもすごくバカっぽくて楽しいし。

真島 はははははは。

―― 最初に聴いた印象がそれで。コーラスとかここまでいききってたかなあ? みたいな。

甲本 はははははは。

―― なんかどんどん調子にのってんなあ、みたいな。

真島 はははははは。

甲本 コビー(小林勝)と(桐田)勝治の存在がどんどん大きくなってる。

―― ああ、その印象はありますね。コーラスだけじゃなくてサウンド面でもリズム隊が飛び込んでくる印象はありますよね、今回の作品は。

甲本 もともとビッグな存在ではあったんだけれども、それがよりこう姿をあらわした感じだよね。

―― ふたりの個性がどんどん出てきていますよね?

甲本 実際、コビーと勝治の演奏というのはひじょうに重要なクロマニヨンズの魅力だと思う。

―― とくに今作ではそういう部分があらわれているような気がするんですけど。

甲本、あー、そう?

―― と、思いました。

甲本 おー。

―― 例えば、曲を作ったときに、この曲のリズムはこうしようっていうイメージはあったりするんですか?

甲本 大雑把なアレンジはあるよ。ここはこう叩いてとか、ニュアンスも伝えるしね。だけど、実際、ドラムを叩くのは勝治だし。僕がそこで、なんとなくこんな感じなんだよねって伝えたら、想像を遥かに超えたものを出してくるわけだから、すごいよね。今回、コビーや勝治が、ちょっとしたコーラスのアレンジも、思いついたことを言ってくれるようになったしね。

真島 うん。

甲本 前から言ってたけど、どんどん言ってくれるようになった。

―― コーラスも曲の雰囲気もすごく楽しいというか、輪をかけて面白いんですよね。

甲本 よかった。

―― なんかもう最後の「ロケッティア」もめちゃくちゃだし(笑)。

甲本 あれなんかもさ、いろんなSEいっぱい入ってるじゃない? あれ、勝治のひとり舞台なんだよ! よくやるよなあ(笑)。

―― だからそれを受け入れるふたりもすごいわけで。そこはもう楽しいからOKみたいな感じなんですか?

甲本真島 うん。

―― 「ロケッティア」の自由さとか、この作品を象徴しているような気がするんですね。

甲本 あれはもうライブでは再現できないからね。でも面白いからいいじゃん。

―― 「ロケッティア」では、「骨なんか残さない 燃えつきて さよならだ」っていう歌詞があって……

甲本 今際の際(笑)。

―― そういうことを考えたりすることもあるんですか?

甲本 考えてもしょうがないかなあ。ロックンロールを聴く前はいろいろ思ってたよ。それは小学生のときね。自分の今際の瞬間みたいなことは、小学生のときは日々思ってた。早く死なねーかなって。だってやること何もつまんないから、いつ死ねるんだろうって思ってたよ、小学生のときは。それがロックンロールに出会うことで世の中には面白いものがいっぱいあるんだなっていうことに気づいて、そんなことは考えなくなった。

真島 そういえば、僕が小学校の4年生くらいのときに『ノストラダムスの大予言』っていうのが流行って。

甲本 あった、あった。

真島 1999年の7月に人類は終わるんだと思って。そのとき、僕、37歳か。37歳まで生きるのか、と思って。でもそのとき、10歳くらいだから、37歳とかって遥か遠くの話なんだ。別にどうでもいいやって(笑)。

―― 音楽性は全然ちがうんですけど、このアルバムって、AC/DCのバカっぽさにすごくつながる要素があるような気がしてるんですよね。

甲本 あー。

―― それをすごく感じたというか。

甲本 だけどAC/DCって一切ふざけてないんだよね(笑)。ふざけてないのにものすごいバカなの(笑)。あれはすげえや。

―― そういうもともとロックのもつユーモアというか、AC/DCっぽい側面というか、ちょっと理性のタガが外れたような感覚を『PUNCH』には感じるんですよね。

甲本 狙ってはないけど、そういうふうに感じてもらえるのはひじょうに楽しい。いいことだな、と思う。映画の『ウェインズ・ワールド』のなかでとらえられているロックとロック・ファンの感じ? あの世界観って、最近、ちょっと減ってませんか?

―― 実は減ってるんですよ。

甲本 ロックをああいうふうにしゃぶる、味わう感じ。今、言われたことは、そこを補填している気がして、ちょっと嬉しいかな。

―― けっこう若い子たちってね、真面目なんですよね。

甲本 真面目だね。

―― MCもやたらと熱いし。

甲本 僕たちも真面目なんだよ(笑)。

―― さっきの発言ではないけれど、そういう足りてないユーモアを今作は補填しているような気がします。

甲本 そういうのが好きな人はぜひ聴いてみてください。

―― だから菅谷晋一さんがデザインしたアルバム・ジャケットのボルト2個っていうのもひじょうにバカっぽいというか。そういう側面をよくあらわしているというか。

甲本 菅谷くんは天才なんじゃないかな。

―― AC/DC感もあるし、ボルトが外れる=タガが外れるという解釈もできます。

甲本 作品を作って、最初に反応するのが菅谷くんだからね。そういう意味では一番最初の鏡であって。彼がこういうものを出してくるってことはこういうふうに聴こえたんだなって思うよね。

真島 素晴らしいよ、彼は。

―― 曲を作っているふたりは今回のアルバムはこういうところに落とし込もうという意図はないんですよね。

真島 うん、ないよ。

甲本 ないね。

―― そこが不思議なところではありますね。

甲本 いやー、だって狙うとしたらさ、いろんなものを狙っちゃうよ。あれも好き、これも好き、あれもやりたい、これもやりたい。どれかひとつになんか絞れないもん。そんなもんなんですよ。たいした作為はなく、なんとなくやっていて、楽しければそれでいいんだと思うよ。

―― 録音の仕方とかも少し工夫したのかなと思ったんですけど。

甲本 毎回、本当になんにも考えてなくて、ただ演奏してただ録って。成り行きなんだよ。で、今回、ちがうのは僕が使ってるマイクの種類がちがうくらい。いつもはライブで使っているマイクを握って、マイクを手に持って、こんなんなって録ってるんだけど、今回はわりと高いマイクを使ってる。そのくらいかな。

―― ライブのようにマイクを手に持って歌うというスタイルは変わらないんですね?

甲本 高いマイクなんで、ぶら下げてやった。

―― ぶら下げてやったんですね。

甲本 でも、今まで通り、みんなと同じところでやるから、当然、そのマイクにはドラムの音も入るし、ギターの音も入る、ベースの音も入る。その音色もたぶん、今まで入っていた音色とはちがうと思う。それが工夫に聴こえたのかどうかわからないけどね。

―― 手に持って歌うのとぶら下げるのとではやっぱり気分もちがったりするんですか?

甲本 ぶら下げた方がいいような気がする。とはいえ、何がいいのかわからないんだけどね。もともとね、エンジニア(川口聡)が見た目がすごくかっこいいマイクを僕に自慢したんですよ。かっこいいな、それっていったら、アコースティック・ギターとか手拍子とか録ったらすげえいいんだよ。次のレコーディングのときに使えたらいいなと思ってたら、新製品なんで、あんまりレンタルもしていなくて、じゃ買っちゃおうっていって、僕たちのスタジオに1本買ったの。そのことが今回のアルバムに作用してくれてるんだったら、やったー、よかっただよね。だけどその程度だよ(笑)。だっていろんな人のレコーディングを見てると、毎回、スタジオはちがうは何はちがうはってやってるわけだからさ、僕たちがマイク1本変えたくらいでさ、すごいでしょ? とはいえないよ(笑)。

―― 今回の曲順は、俺たちとかふたりとかっていうのは聴く人によってちがうという前提はあったとしても、「会ってすぐ全部」から始まって「ロケッティア」で終わるっていうのは、そういうふたりの物語でつないでいこうという思いはあったんですか?

甲本 全然、なかった。

―― あ、そうなんですか?

甲本 へー、なるほどね。

―― じゃ今回もiTunesのシャッフル機能で決めたんですか?

甲本 いや、最近はね、コビーと勝治がアイディアを出してくれるんですよ。それを実際にiTunesに取り込んで、そのまま聴いてみたりするとさ、いいところが必ずあるんですよ。そのいいところだけを残して、他をシャッフルする。で、通して聴いて、上手くいったときはA面の分数とB面の分数がほんの10秒以内におさまる。

―― だいぶ小林さんと桐田さんに頼ってるんですね。

甲本 そうだよ(笑)。

―― ツアーの本数は今回もだいぶ多いですね。

甲本 多いけどさ、結局、1日1本なんですよ。1日に何本もやると多いなあってなるけどね、1日1本なんだもん。24時間あるうちの1時間半なんだよ。ほんのちょっとだよ。

© 2019 DONUT

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INFORMATION



ザ・クロマニヨンズ『PUNCH』
2019年10月9日(水)Release
収録曲:1.会ってすぐ全部 2.怪鳥ディセンバー 3.ケセケセ 4.デイジー 5.ビッグチャンス 6.小麦粉の加工 7.クレーンゲーム 8.ガス人間 9.整理された箱 10.リリイ 11.長い赤信号 12.ロケッティア


※ LIVE INFORMATION は公式サイトでご確認ください。


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