DONUT

2024.2.06 upload

ザ・クロマニヨンズ インタビュー

何にも変わってないじゃんっていうことに気づくことはある。それが発見だよね。初めてロックを聴いたときと何にも違ってない
―― 甲本ヒロト

ザ・クロマニヨンズが2024年2月7日ニューアルバム『HEY! WONDER』をリリース。今回も爆裂ロックンロールによるモノラルサウンドがスピーカーを揺らす。場所をとるステレオ装置を処分しないのはこういう音楽を再生するためだ。ポータブルのスピーカーもどんどんよくなっているけれど、クロマニヨンズの楽曲はそれでは物足りないと思わせてしまう。普段から「新しい音楽をやるつもりはない、ロックンロールをやりたいんだ」と語る甲本ヒロト。その言葉が『HEY! WONDER』を象徴している。楽曲を批評家の視線で解析していくと、様々な解釈を思いつく。いつも頭のなかのメモがいっぱいになる。ところが最後は「瞬間の鼓動」に心が震え、自分の解釈などどうでもよくなってしまう。サウンドが鳴ってそれを受け止め、高揚する。それだけでいいと思ってしまう。しかし、それでは新作インタビューにならないのでいろんな角度からこのアルバムを照らしてみた。するととても密度の濃い時間になった。1万字超のインタビューを楽しんでほしい。4月にリリース予定のDONUT 15ではロングバージョンを掲載します。

●取材=秋元美乃/森内 淳



―― まずアルバムの前に、ライブハウスをツアーした「月へひととびツアー」がめちゃめちゃかっこよかったです。久しぶりのライブハウスでの演奏というのもふくめて、あのツアーはいかがでしたか?

甲本ヒロト すごく楽しかったよ。あのね、ライブハウスがあんなに楽しかったんだっていうことを教えられた。もともとライブは最高なんだよ? いつも。いつも最高なんです。だから、「ライブハウスだろうがホールだろうが、お客さんが少なかろうが、たくさんいようが、野外イベントだろうが、関係ないよ」って僕はずっと言ってきたの。それは粋がってたり虚勢ではなくて、本気でそう言ってた。お客さんの反応はお客さんの自由でいい。そのかわり僕はもっと自由でいてやるっていうさ。そういう感じだったんだ。会場とかお客さんに影響なんか受けてないつもりだった。ところが、数年間、空けて、ライブハウスでやったときに「あれ? 僕、影響受けてる?」ってなった。「なんか今日は楽しいぞ」って。

―― ははははは。

甲本 「あれ?」と思ったよ。で、お客さんに対する敗北(笑)。「あんたらいたんだ?」って。はっきりいたんだな。「最高だよな」と思った。

―― いいライブでしたね。コロナ禍を挟んで、ライブハウスに行く気持ちを忘れてしまうというか、行かなくてもいいかなと思い始めていた人たちもまわりにもいたんですけど、この間のザ・クロマニヨンズのツアーに行って、「いや、やっぱりライブはすごい」ってなってました(笑)。ライブは行かなきゃ駄目だなって。

甲本 よかったよかった(笑)。いや、もうそれは皆さんね、そう思ってくれる人もいるし、ライブに全然行かない人がいてもいいわけでさ。でもライブが好きな人だけが集まるから余計楽しいわけ。そこはもう自由。来たい人にとっては天国であればいい。

―― ライブハウスツアーに続いてニューアルバム『HEY! WONDER』が完成しましたが、これがまたかっこよくて。毎年本当に嬉しいです。

甲本 ありがとうございます。

―― 今回はこれまでよりもさらに多様なリズムや多様なアレンジが楽しめる1枚だなと感じました。

甲本 なるほど。

―― 1曲目はシングルにもなっている「あいのロックンロール」。びっくりするくらい高速で、こんな高速ビートはクロマニヨンズ史上初めてなのではというくらいなんですが。

甲本 おお、そうかな? そうか。

―― これはどうしてこんなに速くなったのでしょう。

甲本 いや、それは速いのが面白いと思ったからじゃないかな(笑)。でもドラマーの(桐田)勝治くんのスキルを持ってすれば、大丈夫。

―― そうなんですか!?

甲本 あの人はね、そういう人なんです。彼はすげぇドラマー。そういう意味では超バカです(笑)。うん。

―― そうなんですね。聴いているうちに、勝治さん大変だろうなと思いながら聴いていたんですけど、余裕なんですね。

甲本 うん、うん。好きにやらせたらもっとすごいことになる。

―― 最初からこういう高速リズム隊にしようという考えがあったんですか?

甲本 そうだったよ。一番最初から。

―― それは(曲を作った)真島さんが言い出したんですか?

甲本 うん。この曲はあれでやろうって。

―― やっている間にどんどんエスカレートしたわけではないんですね。

甲本 そんなことないよ。

―― じゃあ真島さんは何か意図していたんですかね。

甲本 というか、そんな特別なことという意識はなかったよ。現場で、ええー?こんなことやるの?みたいな空気もなかったと思うけどなあ。ただ楽しくできたよ。

―― そのリズムと相まって、「愛なき世界 夢なき世界 それがどうした 俺はいらねえ」という部分が、そうだそうだ、私もいらねえという、何だか不思議と無敵な気分になりました。

甲本 それはもう、してやったり。

―― この曲が1曲目というのはいいですね。

甲本 1曲目はこれだね。やっぱりね。

―― 次の「大山椒魚」は、ヒロトさんの人生になぞらえるような曲で。

甲本 お? そうか。

―― 例えば「夢は急なもの」というのは、ロックンロールと出会った人生にも聴こえるし。勝手ながらの想像ですけど……

甲本 なるほど、なるほど。そうだね、隕石みたいにね。

―― はい。ドカンとこう衝撃が降ってきて。

甲本 うん。なるほど。

―― 人生には雨が降るときもあるし、吹雪も吹き荒れるし。

甲本 そうだね。なるほど。

―― そういうつもりの歌ではないんでしょうか?

甲本 あ、どの曲もどのつもりもないです。全曲。

―― そうなんですね。でもそんなふうに聴こえて、自分の人生とかも重ねたりして聴いていて。

甲本 それがもう百点満点の解釈です。うん。

―― すごく大好きな曲です。「ゆでたまご」は「それぞれの場所」「それぞれの手で」というフレーズが印象的で、今の世界のいろいろなことも思い浮かぶのですが、コーラスで入る「かたゆで 半熟 とろとろ 味玉 どうする?」という部分がなぜかグッときました。温度やさじ加減で変化するし、どれにもなれる。ゆでたまご、という聴こえ方も楽しくて。

甲本 そうだね。なんか歌詞というのは本当にそのままかもしれないし、何かのメタファーかもしれないし、それからなんでもないのかもしれないし。でもそれは自由であって、歌詞を受け取った人が感じたことが100。それです、うん。

―― 「ハイウェイ61」は、ロバート・ジョンソンをはじめいろいろな伝説が残されている場所であり、ブルース誕生の地でもあります。数々の逸話もあって。

甲本 うんうん、そうだね。

―― 甲本さんはここに行ったことはありますか?

甲本 実際にハイウェイ61を巡る旅をしたことはないです。

―― そうなんですね。

甲本 うん。ない。でもグレースランドには行ったね。エルヴィスの家とお墓がある。ハイウェイ61はあそこのすぐ近くだから、もしかしたら通ってたかな? そんな感じです。あの頃車も持ってなかったから、免許も何もなくて。移動手段のない中なんとかかんとかどうやっていたのか覚えてないけど。

―― 61号線と49号線のクロスロードには?

甲本 行ってない。いいねえ、61号線と49号線。

―― 行ってみたい、と歌詞にもありますが、甲本さんにとって、そこにはまだ自分の知らない奇跡がある、みたいな思いがあったりしますか。

甲本 いや、特にそんなにね、自分では大して何も考えないで作ってるからよくわからないんだけれど。でも、その……ちょっと(他のメディアで話した内容と)話が重複しちゃうんだけど、なんとなくポンとフレーズが浮かぶ。歌を作るとき、ポンと。それは何の意味か分からない。自分でも。その言葉が次の言葉を連れてくるんですよ。だから無関係ではないんだよね。でたらめの言葉を並べてるわけじゃない。だから、知らない間にストーリーが出来上がったりするんだよ。

―― なるほど。

甲本 勝手にストーリーが出来る。成り行きに任せるんです。そうしたら「ああ、ハイウェイシックスティーワンって言ってる」みたいな。知らないうちに。そんな感じなんです。で、後で読み返すと「あ、これはそういうことだな」と思う。うん。そんな感じなんですよ。だから、その曲を作るために取材をしたりとかもしないし。自分の知ってるイメージだけがあるんですよね。

―― 今の段階で甲本さんが想像するハイウェイ61はどんな場所ですか?

甲本 もうね、ただの自分の憧れのファンタジーの世界。もう夢の世界です。ある意味この世になくてもいいくらいの。うん。それはもうビートルズのアビイロードも同じようなもんです。リヴァプールにしても。それはもう僕らの夢の中に存在するような世界です。で、実際に行きましたよ、リヴァプールも。それは今話したハイウェイ61と同じような気持ちで。で、まさにそのとき夢の中にいるようだった。と同時に、自分の足で歩いたときに「全部本当だったんだ」って。なんかね、やばかったよ。夢だと思ってたことが「全部本当だったんだ」って実感が湧いたときに、すごいなんかたまらない気持ちになったよ。うん。だから、もしかしたらハイウェイ61に行くと、ああ本当だったんだって、また思っちゃうのかな(笑)? 「ラピュタは本当にあったんだ!」みたいな。もうあんな感じだよ(笑)。ロックンロール好きな人にとって、ブルース好きな人にとって、その夢の世界ってありますよね。それこそイギリスに行ってスティッフレーベルがあった住所を歩いてみたりとか。ホロウェイ・ロードに行って、ジョー・ミークの住んでたところを歩いてみたりとかしたときには、「あ、本当だったんだ」っていちいち思ってる。本当なんだよな。当たり前なんだけど(笑)。

―― その夢の世界、ファンタジーの世界でも、実際心の中で生きているんですよね。

甲本 そうそうそう。勝手にイメージ膨らましてさ。

―― あってもなくても。

甲本 うん。今となってはもうなくてもいいの。でもそこに本当に行ったときに、なくてもいいくらいの夢の世界が「本当だったんだ! 全部!」っていうさ。それはすげえことだな。そういうものです。ハイウェイ61は。

―― なにか奇跡が起こるかもしれないですしね。

甲本 そうそう。面白いね。

―― まさに“WONDER”な。

甲本 ワンダーだね。うん。まあでもさっきも言ったけど、そういうものを作ろうとしてこの曲を作ったわけじゃない。できちゃったんです。あ、でも一箇所、全部録音し終えてからイントロの「All right let’s do the highway sixty-one!」。あれはどうしてもやりたかった。曲ができてから後付け。この曲にはあれが入れたいって思って。

―― 曲が引っ張ってきたと。

甲本 そうそう。録音してから思いついた。最後にあのイントロにこれが入れたいって。で、2番にいくときは「Keep on rockin!」。そういうことはあります。全部出来上がってから思いついたワンフレーズみたいな。それによってその何か整合性のあるものにフィックスされるっていう瞬間はある。たったワンピースでね。

―― ちなみに甲本さんが、自分がマニアだなって思うときとかモノはありますか?

甲本 いや。マニアってことで言えば、上には上がいるからね。もうなんかね、恥ずかしいばっかりですよ。ただね、夢中にはなってる。マニアを気取るんであれば、やっぱり勉強しないといけないと思う。で、僕、その勉強の努力が苦手だから(笑)。情報量が異常に少ない。感動するだけ。感動屋なんですよ、きっと。涙腺弱いし。

―― 感動したい、というのもありますよね。

甲本 あ、そうそう。感動したくもあるし、そして感動することにものすごい快感を覚えている。カタルシスを。感動にこそ最高のカタルシスを感じる。

―― なるほど。だからこの前のインタビューで話してくれた、好きの波紋が広がるという話もそういうことなんですね。

甲本 そうそう、そうですそうです。そこがでかいから波紋もでかくなる。同じものが飛んできているのに、やたら俺は大げさに受け止めてるんだろうな。ドカーンって隕石みたいに(笑)。

―― 例えば年齢を重ねるほどにその傾向が強くなるということはありますか?

甲本 いや、どうかな。やっぱり12歳のときに受けたあの衝撃はもう強烈だったから、あの快感をもう一度っていう気持ちでレコード屋に通うわけです。今でも。そして反応は非常にフィジカルです。レコードをかけてバーンと来て涙がバーッと出るかどうかっていう。自分では抑えられないものすごい何かが襲ってきてほしい。あのときみたいに。だからそれに出会うためにレコード屋に行くわけで。その結果、自分の身体が反応しなかったらもう、いくらロックだと言われても、それはそれっきりです。うん。

―― 最近聴いて泣いたレコードは?

甲本 いっぱいあるよ。ローリング・ストーンズの新譜もそうだったし。あとね、やっぱりブルース。ブルースはすげえ。

―― ブルースはまだまだありますか。

甲本 ある。あと何回も聴いたっていうものでもやっぱりすげえなあと思う。

―― そういうときは違う視点で聴いているんですか?

甲本 もう同じ。なんのスタンスも変わらない。初めて聴いたときのフレッシュさで「やっぱカッケー!」って思う(笑)。で、これが、この波紋がローリング・ストーンズだし。そりゃそうなるよなって。世界中が動くよ、こんなの聴いたら。その波紋がエルヴィス・プレスリーだし。

―― この間、マディ・ウォーターズのレコードを久しぶりに聴いたらこんなにすごかったっけ?ってなりましたね。

甲本 なるね。ブルースはすげえって。

―― 知識としては入ってるはずなのに心にささるというか。

甲本 ブルースを聴き始めの頃によく聴いていたレコードは、今でもよく聴くよ。それこそ前はね、ブルースのちゃんとしたレコードが日本では少なかったんだ。だから、中村とうようさんとかが監修した『RCAブルースの古典』っていう3枚組、あれをみんな聴いてた。最初はこれとこれ、みたいに好きだったのが今は全部好き。うん。あの、もう一回言っとこうか、『RCAブルースの古典』いいですよ。皆さん聴いてください。あそこで始まって、あそこに帰る。

―― 中村とうようさん、いろんなもの出してますよね。

甲本 うんうん。あの人は素晴らしい。晩年聴いていた音楽なんかもすごくいいよ。『RCAブルースの古典』には続編もあって全部いい。ブギ連でやってることなんか『RCAブルースの古典』を聴けば全部ネタバレするよ(笑)。

―― そうなんですね(笑)。

甲本 うん。それを言ったらさ、ロバート・ジョンソンでさえオリジナルとはいえなくなっちゃう。だいたいの曲に元ネタがある。聴いてりゃわかる。でもそれでいいんですよ。実感として感じるのがブルースの面白さで。ある日気づくんだよね。自分で気づけばいい。ブルース聴いてるうちに。で、それが痛快で「めっちゃかっこいい!」って、ちゃんとみんな気づけば面白い。関係ないんだよ。オリジナルだとかカバーだとか、そんなの全部ぶっ飛ばすパーソナリティなんですよ、ロバート・ジョンソンは。

―― それはザ・クロマニヨンズでも言えるんじゃないですか。

甲本 いや、そうであればいいと思うよ。

―― それができてるからやっぱりすごいと思います。今回のアルバムも本当にかっこいいですもんね。

甲本 おお、やった。

―― 同じようで同じじゃないというか。

甲本 僕は、よく言うんだけど。音楽じゃないんだって。ロックンロールに興味があるんだって。だから、何か革新的な音楽を作るために実験的なことをやったり、誰もやったことのないような音階だとか、コード進行とか、それが主役じゃないんだよ。どんなリズムだろうが、ヘンテコなメロディだろうが、あと、歌詞がどうとか。もちろんこだわってるんだけど。それが言葉で説明できるんだったら、それはもうコンセプトの提示ってことになっちゃうんだよ。うん。ただロックンロールがやりたい。それね、なかなか伝わらないんだよ。いろいろ喋ったところで。だから、同じようで同じじゃない、というのは、なんか、嬉しい。

―― クロマニヨンズのライブに行ってる人には伝わってますよ。

甲本 ロバート・ジョンソン最高だもん(笑)。今の瞬間、爆裂ロックンロールをやれば、それはもう新しいんだよ。たとえば、生まれてきた赤ちゃんを見てさ、「なあんだ、赤ちゃんか。見たことあるよ。」って誰が言うよ? 「またオギャーかよ、聞き飽きたよ。」って誰が言うよ? みんな新しいんだよ。なんか変な話になっちゃったけど。ちょっと大げさに喋る傾向があるんだよね(笑)。

―― すごくわかります(笑)。「恋のOKサイン」はスローでストレートなラブソングです。あと、ライブハウスに集まる私たちにロックンロールの魔法がかかる歌にも聴こえました。先ほど、アレンジとかじゃないとさんざん聞いたあとであれなんですが……

甲本 いや、えっと、アレンジ自体にこだわらないわけではないの(笑)。新しいものをみせようとしたり、どうだ!っていうものではない(笑)。

―― この曲はラブソングなんですけどユニークなアレンジがすごく素敵で。

甲本 コミカルなものが好きなんです。何かちょっと不真面目というか、そういう態度というか。そういうのが好きなんです。この「恋のOKサイン」は最初からその「タターンタタタタラララ~♪」っていうなんかクラシカルな、ジャズポップスみたいな、カントリーみたいな、何の変哲もない超当たり前な歌。それこそしっとり聴かせるやり方もあるし、愉快に「タターンタタタパラパンパン♪」って感じでスイングすることもできる。なんでもいい。「パパーンパパパパララタンタタカタタンッ♪」ってマーチでも。なんでもできる。だけどなんかね、ドゥワップをくっつけたらめっちゃおもろいじゃんと思って(笑)。

―― ははははは。

甲本 なんか笑えたんだよね、スタジオでみんなでやったとき。「笑えるっていうのは最高だな」と思って、それにフィックスした。

―― だから、キュンとくるのに面白いんですね。

甲本 そうそう。笑ってほしい。

―― しかも途中で入るキララララララン♪ていう音色が大好きで。

甲本 ははははは。あれ、大変だったんだよ。あれ、難しいの、実は。変な鳴り方じゃない? ああいうのは全部勝治がやるんだけど、全部もう丸投げ。

―― あのキラキラした音色は勝治さんなんですね。

甲本 打楽器は全部、勝治。何かを叩く才能がある。

―― あれは難しいんですね。

甲本 難しいね。勝治も普段からやってるわけじゃないんだよ。その場で「こうかな? こうかな?」ってやるんだけど、ちゃんとその場でスキルアップしてこなすの。

―― あの部分もキュンとくるポイントです。

甲本 マーシーがギターソロをあんまり弾きたがらないんだけど、僕はマーシーのギターソロが大好きなんです。もう何十年もやってるから、僕が何を求めているかをすぐにわかってくれるんです。で、「ギターソロ弾いて」って言ったら、これが欲しいんだろうっていう音を必ず入れてくれる。だから僕はすごく弾いて欲しいの。それで「今回もいいギターソロが来たな」と思って、そこに導入するための「チャララララン♪」ですよ。「マーシーの登場です!」っていう(笑)。

―― 最高ですね(笑)。

甲本 愉快でいいね。うん。そこにファンタジーがあれば何でもいいです。1曲目の「あいのロックンロール」から、もうずっとファンタジーだと僕は思います。

―― 次の「メロディー」には「片道ぶんの 力が欲しい」というフレーズがあって。この片道ぶんというのは何かの覚悟なのか、どうしてこういうフレーズが出てきたのかな、と。

甲本 うーん。なんであんなことを歌ったのかな。「片道ぶんの 力が欲しい」のあとに、そいつが連れてきた言葉はなんだっけ。「もう帰らない」だっけ。

―― そうです。

甲本 そうやって連想ゲームみたいに言葉が言葉を連れてきて、自分ではよくわからないけど。うん、どっか行ってんだな、ボート漕いで。

―― ここで「若い」という言葉も出てきたので、なにかきっかけのようなものがあったのかと思ったりしたのですが。

甲本 わかんないな。その言葉はどうして出てきたんだろうね。「若いという言葉」という言葉だよね?

―― はい。

甲本 「若い」じゃなくて「若いという言葉」という言葉が出てきたんだよね。「若いという言葉」という言葉……うーん……自分ではどうして出てきたかわからないんだけど作っているうちに自然に。

―― これも「前の言葉が連れてきた」ということですね。

甲本 そうです、そうです。それがまた「片道ぶんの力」という言葉を呼んでくるし、そして「もう帰らない」という言葉を呼んでくるし、「虹の彼方」という言葉があったり、「無限にあなた」であったり。わかんない。脳に訊いてください(笑)。たぶん恋の歌だなとは思う。『小さな恋のメロディ』っていうのもあるしね。

―― 「くだらねえ」はまた、シングルB面「SEX AND DRUGS AND ROCK’N'ROLL」と同じくタイトルを連呼するだけの歌詞という。前作の真島さんの曲「さぼりたい」を超える究極のシンプルさですが。

甲本 これも言葉で説明しちゃうと、そのコンセプトが主役みたいに聞こえるよ(笑)。

―― でも例えば「SEX AND DRUGS AND ROCK’N'ROLL」といい「SEX AND VIOLENCE」といい、ロックンロールの常套句的なフレーズが出てくるなと。

甲本 僕は中学生高校生の頃に(イアン・デューリーの)「Sex & Drugs & Rock & Roll」って曲を聴いたときに馬鹿な歌だなあと思った。その頃、「Sex & Drugs & Rock & Roll」って言葉は、散々使い古されて、恥ずかしいものになってたんだよ。コントの中でロックンロールっぽいキャラクターを演じるときに使う言葉みたいな。でもイアン・デューリーはそれをギャグで使ってる。常套句を笑ってる。そんな気がしたんだよ。ところが、今、こうやって自分たちがでっかい声で歌ってみると、すげえ気持ちいいんだよ(笑)。

―― 1周か2周まわったということですかね(笑)。

甲本 そうなんじゃないかな(笑)。

―― でもいいですね、今、真っ直ぐ言うというのは。

甲本 真っ直ぐなのか、ふざけているのか。

―― 「ダーウィン(恋こそがすべて)」という曲は、ダーウィンは生き物の進化論を研究してきた人ですが、例えば甲本さんはロックンロールに恋をして、ロックンロールを研究し続けて、その発表の場がニューアルバムやライブなのかとも思いました。

甲本 研究してるわけじゃないんだよ。

―― あ、楽しみ続けてきて。

甲本 そうそう。楽しんでいるうちに自然にいろいろ知識もついただけで。

―― そのロックンロールに恋して楽しんで、最近何か発見したとか、出会ったとか、そういうものはありますか?

甲本 えっとね、発見っていうんじゃないけど、気づくことはある。何も変わらないなとか、僕は一歩も進歩してないなとか、何にも変わってないじゃんっていうことに気づくことはある。それが発見だよね。初めてロックを聴いたときと何にも違ってないという気づきはある。でも、それに気づかないでやってたほうが幸せだったかもしれない(笑)。

―― ちなみに今、恋焦がれているレコードはありますか?

甲本 うん。もう家に帰ればそいつらが待ってますよ。その日によって無性に聴きたくなるものが違ったりして。そうするとね、レコード棚から4、5枚持ってくるんだよ。持ってきて、聴いてるうちにああ、もう今日は時間がなくなっちゃったと思って、1、2枚は聴けないんだよ。これ明日聴こうと思ってそのまま置いとくの。でも次の朝起きるとまた違うのが聴きたくなって、また5、6枚持ってくる。そうして何枚かずつ溜まってくるんだよ、足元に。いまうち、すごいことになってるよ(笑)。

―― そうなんですね。

甲本 この間マーシーとも同じような話をして、マーシーも同じパターン。「溜まるよね」って。早く片付けなくてはっていうふうに2人で喋った。

―― その日の気分で変わりますもんね。

甲本 うん。でね、今回のアルバム作りの音に関する作業の中で、いつもマスタリングとか全部丸投げだったんだけど、一箇所だけちょっと絡んだんです。そいう場面があったんですね。で、それは僕が一人で絡んじゃったんだけど、みんなからの許しも得ての話ね。

―― はい。

甲本 で、川口ちゃん(川口聡/レコーディングエンジニア)ともちゃんと話して、それがいいんじゃないかということで、僕はちょっとだけ携わった部分があるんです。説明すると長くなるから、何かっていうのは言わないけど、絡んだんです。で、そうするとさ、急に責任重大な気持ちになってきて。僕がやったことで良くなくなったらどうしようとか。だって僕、素人じゃん。ある日、そう気づいたら、ものすごくうなされるくらい悩み始めたんだよ。で、そのときに一番聴いたのがダニエル・ジョンストン。

―― わあ、ダニエル・ジョンストン!

甲本 ダニエル・ジョンストンを聴いて、むちゃくちゃ感動するじゃんって。何かいけませんか? この音どっかまずいですか? この音で何か問題ありますか?って。いや、いいんだよ。素人だろうがなんだろうが関係ねえっていうね、自分を納得させるのにダニエル・ジョンストンばっかり聴いてたよ。

―― ダニエル・ジョンストン、大好きです。

甲本 ほんと? ダニエル・ジョンストン、いいよね。

―― 自分のなかでもやもやするようなことがあると、映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』を見たり。

甲本 ああ、あれもいいよね。あれ、もう最近手に入りにくいよ。人に勧めるんだけど、なかなか手に入らなかったって言われたことある。

―― そうなんですか。あとカセットテープを引っ張り出してきてガチャガチャ聴いたり、レコードを聴いたり。

甲本 最近はレコードになってるもんね。前はカセットしかなかったけど。CD-Rも出てたけど、やっぱりカセットかレコードがいいなあ。でももうカセットの何本かはビロビロになってる。古いから。ジョナサン・リッチマンも通じるものがあるし、それからモータッカーもよく聴くよ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのモーリン・タッカー。ソロとかすごくいい。キューッとする。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの頃はあれ歌った人だよ。「ア~イム・スティッキング・ウィズ・ユー・バンバンバン♪」。あれモータッカーが歌ってるんだよな。

―― そういうのを聴いて納得しているんですね?

甲本 うん。「何か文句ある? 最高じゃんこれ」って。今、僕の部屋で僕を最高に幸せにしてくれるこのサウンド。誰にも文句は言わせない。だから僕が作業に携わったときに、これでいいんだっていう、納得するときにそういうのを聴いてすごく勇気になった。

―― でも珍しいですね。これまでは丸投げしていたのに。z

甲本 やっぱり職人がやることに口出しちゃ駄目だな。

―― もう二度とやりたくない気分ですか(笑)?

甲本 もし次にやるとしたら、もっとみんなを巻き込んでやろうかなと。

―― 責任を分散させて(笑)。

甲本 今、ひとつ道が見えたから。

―― じゃあそれなりに手応えはあったんですね?

甲本 あったね。ここに来て。

―― おお、素晴らしいですね。

甲本 でも誰も気づかないような些細なことかもしれないけど、僕らにとってはとっても大切なことで。だからあれです。チェーン展開のできない個人店なんです、結局。

―― なるほど。

甲本 だってチェーン店を作ってもさ、全部の店の料理を一人で作らないと気に食わねえんだもん。無理でしょう?

―― 無理ですね。

甲本 無理なんです。人には任せられないです。

―― ちなみに12曲目の「男の愛は火薬だぜ ~『東京火薬野郎』主題歌~」。この『東京火薬野郎』というのは実在する映画かドラマかと思って調べちゃいました。つまり「主題歌」というところまでがタイトルなんですよね。

甲本 そうそう(笑)。僕の好きな曲で、ジョナサン・キングの「ミュンヘン・オリンピック公式テーマ」ってのがあるんだよ。無関係なの(笑)。そういうの、好きだよ。

―― 面白いですね。

甲本 パスティーシュに近いのかな。あんまり説明すると、またコンセプトの提示じゃんってなっちゃうから、つまんないよね。でも、清水義範さんの本はおすすめです。

―― そして2月からはライブハウスとホールをまわる全国ツアーが始まります。ようやく通常運転ですね。

甲本 やっとこんな感じでできる。しかし今日はよく喋ったなあ(笑)。

© 2024 DONUT

速報!「DONUT 15 ザ・クロマニヨンズ号」4月上旬リリース予定!


ここしばらく高橋浩司 著『ぼくはザ・クラッシュが好きすぎて世界中からアイテムを集めました。』の編集に魂を込めていたDONUTチームですが、本書の作業中にクラッシュのファンジン「ハルマゲドン・タイムス」を目にし、同じ頃、ザ・クロマニヨンズのニューアルバム『HEY! WONDER』を耳にし、ロックンロールの見えない力に後押しされて、急きょ「DONUT 15」をつくることにしました。「ハルマゲドン・タイムス」のモノクロページは、時代を飛び越えたクラッシュのかっこよさとロックンロールの息吹にあふれていました。『HEY! WONDER』のモノラルサウンドがスピーカーを飛び越えて心を揺さぶったとき、ふたつの「MONO」が合わさり私たちの背中を押したのです。DONUTは初のオールモノクロ号を制作します。テーマは「DONUT MONO」。皆さんの心で自由に色を加えてください。詳細は後日あらためてお知らせします。ぜひ楽しみにお待ちください。

【DONUT 15】
発売日:2024年4月上旬
判型:A4/モノクロ/64p/中綴じ
表紙:ザ・クロマニヨンズ
※インタビューは本WEBのロングバージョンを掲載します。

INFORMATION

AL『HEY! WONDER』
2024年2月7日リリース
収録曲:1. あいのロックンロール/ 2. 大山椒魚/ 3. ゆでたまご/ 4. ハイウェイ61/ 5. よつであみ/ 6. 恋のOKサイン/ 7. メロディー/ 8. くだらねえ/ 9. ダーウィン(恋こそがすべて)/ 10. SEX AND VIOLENCE/ 11. 不器用/ 12. 男の愛は火薬だぜ〜『東京火薬野郎』主題歌〜


SG「あいのロックンロール」
2023年12月13日リリース
収録曲:1. あいのロックンロール/ 2. SEX AND DRUGS AND ROCK’N'ROLL

LIVE INFORMATION

「ザ・クロマニヨンズ ツアー HEY! WONDER 2024」
2月16日(金)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
2月19日(月)奈良県 EVANS CASTLE HALL
2月20日(火)大阪府 BIGCAT
2月22日(木)兵庫県 Harbor Studio
2月23日(金・祝)兵庫県 Harbor Studio
2月25日(日)香川県 高松festhalle
2月29日(木)東京都 Spotify O-EAST
3月2日(土)岐阜県 岐阜club-G
3月3日(日)愛知県 DIAMOND HALL
3月7日(木)山口県 周南RISING HALL
3月9日(土)福岡県 DRUM LOGOS
3月10日(日)福岡県 DRUM LOGOS
3月12日(火)広島県 LIVE VANQUISH
3月16日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
3月20日(水・祝)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
3月21日(木)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
3月25日(月)神奈川県 CLUB CITTA’
3月27日(水)山梨県 甲府Conviction
3月30日(土)岩手県 Club Change WAVE
3月31日(日)青森県 青森Quarter
4月6日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
4月7日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
4月10日(水)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
4月13日(土)茨城県 大昭ホール龍ケ崎
4月14日(日)栃木県 栃木県教育会館
4月20日(土)神奈川県 伊勢原市民文化会館
4月21日(日)千葉県 市川市文化会館
4月26日(金)大阪府 フェスティバルホール
4月28日(日)愛媛県 しこちゅ~ホール
4月29日(月・祝)岡山県 岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
5月3日(金・祝)埼玉県 和光市民文化センター サンアゼリア 大ホール
5月5日(日・祝)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
5月11日(土) 愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
5月12日(日)福井県 敦賀市民文化センター
5月18日(土) 新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
5月25日(土)京都府 KBSホール
5月26日(日)和歌山県 和歌山城ホール
6月1日(土)熊本県 玉名市民会館
6月2日(日)大分県 日田市民文化会館 パトリア日田 大ホール
6月4日(火)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
6月8日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
6月9日(日)福島県 けんしん郡山文化センター 中ホール
6月15日(土)北海道 名寄市民文化センター EN-RAYホール

ライブスケジュールは諸事情により変更になる場合があります。必ず公式サイトで確認してください。
公式サイト:https://www.cro-magnons.net/live/

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