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2023.12.12 upload

hotspring インタビュー

2024年のテーマは「パンク」ですね
―― イノクチ タカヒロ

hotspringは2010年、浅井健一主宰のSEXY STONES RECORDSよりデビュー。ライブハウスで活躍するロックンロールバンドの代表格として活動している。とはいえ、今まで何度かのメンバーチェンジもありながら、2022年にベースの近藤紀親が正式加入することでようやくバンドがひとつにまとまった。現在のメンバーはイノクチ タカヒロ(vo) 、狩野省吾(gt) 、近藤紀親(ba) 、川越俊輔(dr)の4人。この4人でhotspringをやっていくという決意表明を2023年2月25日にリリースした「Story is over」に託した。バンドはこの曲を皮切りに、4月1日に「斜陽族 」、6月24日に「突然炎のごとく」、9月9日に「通りすぎちゃえば、なんにもなかったみたいに静か」を配信リリース。新曲の発表に合わせ「東京斜陽族」と銘打った主催企画を3、6、8、11月と4回、下北沢ベースメントバーで行った。例年以上に主体性をもった活動に舵を取ったhotspringに2023年の活動の総括と2024年に向けた展望を訊いた。

●取材=森内 淳



―― 2023年の「東京斜陽族」の連続イベント(計4回)が終わったんですが、振り返ってどうですか?

イノクチ タカヒロ 全部記憶に残ってますね。どのイベントも面白かったですね。

―― イベントの前に1曲ずつ計4曲の楽曲を配信リリースしたんですよね。連続してイベントをやろうというアイデアはこれらの楽曲ありきだったんですか?

イノクチ 楽曲がありきですね。最初に隔月でリリースしようっていうのを決めて、それに合わせて毎回、リリースパーティーじゃないですけど、そういう企画をやっていこうというふうに話し合って決めました。対バンもリリースする曲のイメージに合わせて声をかけたつもりなので。

―― 隔月で配信リリースしようというのはイノクチさんのアイデアだったんですか?

イノクチ どうだったかな。狩野(省吾)のアイデアだったかな。どういう形態で出すかというのも含めて、バンドで決めたのかな。フィジカル(CDやアナログ盤)を出さなかったのは、連続リリースとなると準備にいろいろかかっちゃうんで。あと配信も隔月ぐらいの配信じゃないと、やることが多すぎて、あっという間に1年が終わっちゃうし。だったら、曲を隔月で配信して、その1曲ずつを盛り上げていこうと「東京斜陽族」を連続で開催することにしたのかな。

―― この4曲はどういう基準で選んだんですか?

イノクチ 楽曲は去年、ベースの(近藤)紀親が入ってから作った曲ばかりで、その中からいいなと思った4曲を録音したという感じです。なんとなくそのときの自分らのモードが歌が前に出た、お話っぽい歌を出したいなと思っていたので、1曲ずつリリースするんだけど、統一感のある物語のような作品にしようという。曲を選んだときの自分らの気分がそうだったのかな。今のモードは違うんですけど、そのときはそう思ってました。

―― hotspringは曲はどうやって作っているんですか?

イノクチ 例えば「突然の炎のごとく」だったら、まず「こんな感じのコードをやりたい」みたいな感じで、狩野が持ってきて、「じゃあとりあえず4人でやってみようか」ってなんとなくジャカジャカやって、その場で思いついた言葉で歌って。それを一旦、家に持ち帰って見直して、「ここはこうじゃないと辻褄が合わないな」って、曲を組み立てていくという感じですかね。

―― 最後の仕上げはイノクチさんがやっているんですね?

イノクチ そうです。「Story is over」なんかはイントロを紀親が持ってきて、そこから先を俺が作るみたいな。中には俺が曲を持っていって、それで4人で合わせてっていうこともあるし。歌詞に関しては、なるべく仮歌で歌っているメロディーからあんまり離れないようにして書いていくっていう感じですかね。

―― 最初にリリースした「Story is over」では「うつつぬかしたパルプ・フィクションは終わった」と歌っています。

イノクチ 俺の中では前向きな意味でそう歌いました。新しいメンバーの紀親とやることになって、最初にできた曲なので。「もうちょっと地に足をつけてやりたい」というニュアンスでポジティブな気持ちを歌いました。

―― 自分たちに対して「うつつをぬかすな」と歌っているわけですね。

イノクチ そんな感じです。

―― そういう時代は終わった、と。

イノクチ そうです。

―― つまりイノクチさんにとっては決意表明なわけですね。新メンバーが入って、ここからやるぞ、みたいな。

イノクチ まさにその通りです。



―― 決意表明を伝えるこの曲にしても、イノクチさんが書く歌詞はすごく文学的ですよね。普段は本をたくさん読んだりしているんですか?

イノクチ さすがに最近は10代の頃とかみたいには読まないけど、たまに勉強と思って読みますね。歌詞の語彙を強くするには本を読んだりするしかないと思うので。例えば「斜陽族」はそれこそ太宰治の『斜陽』じゃないけど、高貴に振る舞っていた人が時代についていけなくなって没落していくみたいな話なんですけど、そういう人を見ていてなんとなく思いついた歌詞ですね。

―― 「斜陽」という言葉は自分の投影でもあるんですか?

イノクチ 自分に投影したわけではなくて、あくまで俯瞰で見てて、「この人、太宰の『斜陽』みたいだな、『斜陽』に出てくる人みたいだな」って思うことがあって。例えば、傍から見たら、ふざけてるようにしか見えないのに真剣そうな顔をしている人って、けっこういたりするじゃないですか。本人はいたって真剣なんだろうけど(笑)。そういう滑稽な人を見ていると「なんか『斜陽』みたいだな」と思ったりするし(笑)。そういう人を見ていると「悲しいな」と思うこともあるし。それを歌詞にしましたね。

―― イベント名に使ったのは何か理由があるんですか?

イノクチ 「斜陽族」の「族」という言葉がすごくいいなと思ったんですよ。斜陽な連中のパーティーみたいになったらいいなと思って。

―― そこは自虐的なんですね。

イノクチ まぁイベントのタイトルにはあんまり意味はないんですけどね。



―― そうやって考えると、歌詞のストックというかネタは盛り沢山ですね

イノクチ 歌詞のストックはないんですよ。曲が上がってきて、歌詞を書かなきゃいけないからどうしようかなって言ってるうちに出来上がる感じなので。

―― あ、そうなんですね。

イノクチ 曲を聴いていると、歌のさわりを思いつくんですよ。いわゆるパンチラインみたいな。例えば「Story is over」だったら「パルプ・フィクションは終わったんだ」っていう言葉がまず頭に浮かんで、「この言葉、使いたいな」と思って、話を作っていくみたいな感じですね。

―― なるほど。

イノクチ 一番最初に思いついた言葉があって、次はどうしようって考えることが多いのかな。そのあとはもうその言葉をきっかけにイメージが出来上がっていくというか。

―― 言葉の断片を繋いでいくわりにはすごく映像的な歌詞も多いんですよね。とくにこの4曲にはそれを感じました。これはどうしてなんでしょうか?

イノクチ 映画が好きだからかな。今更、映画監督にはなれないんで、自分ができることで表現するしかないという。今更、作家にもなれないから、自分がやってる音楽で詞を書くことしかできないから、その中で表現したいなという感じですね。

―― なるほどね。映画はどんな作品を見るんですか?

イノクチ なんでも見ます。けっこうベタな映画も見ますね。話題の映画も見るし。北野武監督の『首』も一昨日くらいに見に行きました。例えば「これ好きじゃないだろうな」と思っても、話題になっていたら見に行きます。「やっぱ、つまらなかったな」っていうこともありますけど。

―― それも一種の学びですからね。

イノクチ そうなんですよ。だから、ポスターとタイトルを見た時点で「好きじゃないだろうな」って思っても、わざわざ見に行って「なんだこの映画!」って文句を言うんですよ(笑)。

―― ははははははは。

イノクチ 当たり屋みたいなんですけど(笑)。ただそうやって「なんで自分にとってこの映画はつまらなかったんだろう?」と考えるのも面白いんですよね。

―― それも歌詞を作る上での糧になりますからね。

イノクチ そうなんです。そういうつまらないと自分が思った映画も栄養になっているんですよね。

―― 良く言えば、つまらないと思った映画にも真摯に向かい合っているという(笑)。

イノクチ そうですね。わざわざ金を払って地雷を踏みに行くわけだから(笑)。




―― ところで「東京斜陽族」は3月のワンマンライブからスタートして、対バンへと移行していきましたが、これは何か意図したことがあったんですか? 普通は逆のような気もするんですが。

イノクチ このメンバーでワンマンをやったことがなかったので、最初、ワンマンでやってみたいなと思ったんですよ。2022年からこのメンバーなんですけど、2022年はワンマンライブをやれなかったんです。だからちょっと最初に一回だけやってみようと。

―― 手応えはどうでしたか?

イノクチ ライブの内容はよかったです。手応えはなかったわけはなかったんですけど、ただ、あんまり集客できなかったかな。そのときは自分らの現在地をちゃんと見ておきたいなというのがあったんで。集客はからいなあって(笑)。

―― その後、6、8、11月と「東京斜陽族」はつづいたんですけど、11月のMARSBERG SUBWAY SYSTEMとのイベントはほぼ満員でしたけどね。

イノクチ MARSBERG SUBWAY SYSTEMのお客さんなのかわからないけど、いっぱいいましたね。

―― 11月のイベントは2マンというスタイルもよかったし、何よりもMARSBERG SUBWAY SYSTEMがhotspringをリスペクトしていることが伝わってきたのがよかったですよね。だから対バン形式でイベントをつづけて最後にワンマンをやればよかったのかなとも思いました。主催者側から見ても、イベントをつづけていくうちにお客さんが増えてきたなという手応えは感じていたんじゃないですか?

イノクチ ちょっとは感じましたね。自分らはとにかくライブの質を高めたいっていうのがすごいあって、自分らの記憶に残るライブをやりたいというか、自分らの記憶に残らないと客の記憶にも残らないだろうと思うし、見てくれた人は良かったって思ってくれるようなライブをしたいなって思ってて。ちょっとかもしれないけど、それに対するリアクションがお客さんから聞こえてきた気はします。

―― なるほど。バンドメンバーも「東京斜陽族」に向かって一丸となって進んでいったところがあったんですね?

イノクチ そうですね。メンバーの中では紀親が一番変わったかな。プレイもパフォーマンスも一皮むけました。あとは合いの手でもなんでもいいんですけど、メンバー全員で歌う曲を増やしたいとも思うようになりました。

―― というと?

イノクチ 今回のイベントを通して、もっと盛り上がるライブをやらないとだめだという思いが出てきたのかな。とくに今回出した4曲は暴れる曲ではなかったので、その反動もあったと思うんですけど、ライブをやる上で「ここはもっと騒ぎたい」みたいな考えが出てきたというか。クロマニヨンズみたいに、4人で馬鹿騒ぎをするような、ああいう感じのライブをしたいと今は思っているんですよ。だからもっとライブの現場向きの曲を作っていきたいなと思ってます。

―― じゃあこれから作る新曲は勢いのある曲に?

イノクチ 2024年に出したい曲を今、仕上げているんですが、最終的にどうなるのかわからないけど、そういう曲を作ろうという感じでやってますね。だからテーマは「パンク」ですね(笑)。パンクをやろうっていう感じで作ってますね。

―― ははははははは。

イノクチ まぁパンクって便利な言葉だけど、パンクといったときにイメージできる音楽がいくつかあるじゃないですか。

―― ありますね。

イノクチ 自分らが今までやってきた70'sパンクみたいな曲とかメロコアやハードコアとか。それを全部できたらいいなと思ってますね。配信もいいんですけど、それを集めた盤(CDかレコード)を出したいんですよね。

―― hotspringによるパンクの全ジャンル制覇みたいな?

イノクチ 全ジャンルとまではいかないかもしれないけど、そういうことですよね。今、Hi-STANDARDみたいなツービートの曲を作ってます。

―― 本気ですね(笑)。

イノクチ 盤に入るのは全部で5曲かなと思ってるんですけどね。今は3曲くらいに取り掛かっています。

―― 5パターンのパンクを楽しめるわけですね。

イノクチ その中に1曲だけきれいな曲を入れたいなと思ってるんですよ。hotspringはメロディーを聴かせる歌も多いので、それをライブの中でもっとこうハイライトみたいな感じで聴かせたくて。その曲にいく前にノイズというかカオスを作りたいんですよ。メロディーを聴かせる曲がもっと良く聴こえる状況を作りたいというか。そうすればそういった曲がライブの中でもっと効いてくるかなと思うんですよね。例えば、銀杏BOYZのライブとか、そうかもしれないけど、激しい曲の前ふりがあるから、きれいな曲がよりきれいに聴こえたりするじゃないですか。そういうライブの演出ができた方が多分きっともっと多くの人にhotspringの曲が届くんじゃないかと思うんですよね。

―― なるほど。面白いですね。だけど、そう思うようになったのも「東京斜陽族」をやったことで、それなりに手応えがあったからだと思うんですよね。

イノクチ たしかに。

―― ライブに対する考え方が一歩先に進んだような感じがします。

イノクチ ライブ全体でお客さんをちゃんと感動させるような演出をするようなものができたほうがいいなと思うようになりましたね。ただ、それをMCとかで盛り上げるんじゃなくて、MCで言っているような熱いことを音楽で演出していけばいいわけで。そうしたら、お客さんももっとぐっとくるんじゃないかというね。

―― 今後のライブが楽しみですね。

イノクチ 時々、様子を見に来てください(笑)。

―― 2024年はどういった展開に?

イノクチ hotspring主催の企画を「東京斜陽族」とは別にもうひとつやろうかなと思ってるんです。それは2マン企画というよりは3バンドか4バンドで新宿レッドクロスでやるんですけど、それは2024年もつづけていこうと思っています。(※編集部注:2023年12月8日、新宿レッドクロスにて、hotspring presents「Sucker Punch vol.1」を開催済み)

―― それはどういった内容のイベントになるんですか?

イノクチ やっぱりパンクな状況を作りたくて。

―― 対バンも勢いのあるバンドに?

イノクチ そうですね。レッドクロスでやるイベントはそういう感じにしたいなと思っています。別にパンクじゃなくてもいいんですけどね。

―― コンパクトな会場で熱量の高いライブをやるというようなテーマなんですね。

イノクチ そうです。そんな感じのイベントにしたいと思っています。それは2024年を通してしばらくやっていくつもりです。誰かからブッキングされるライブもいいんですけど、もうちょっと主体性をもってやらないといけないなと思っています。

―― そのイベントの最終的な着地点はワンマンに?

イノクチ そうですね。やりたいですね。

―― なるほど。今日は前向きな姿勢が聞けてよかったです(笑)。

イノクチ 2023年は例年よりはいい年でした(笑)。

―― だけど、近藤さんの加入でバンドが固まったのも大きいですよね。

イノクチ そうなんですよ。やっぱふわふわしちゃうから。「今度はどこに向かって行こう」とか、そういう話し合いすらできないですからね。紀親が入ってバンドが固まったのはでかかったですね。

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LIVE SCHEDULE

2023年
12月28日(木)西永福JAM「KAZE-NO-KO」
w/マイティマウンテンズ/YAPOOL/THE ドイ/ジェニ・ジェニ/The pingpongs 他

2024年
1月11日(木)新宿紅布「紅布的新年会」
w/コゴローズ/THE RODEOS

1月21日(日)荻窪TOP BEAT CLUB「OGIKUBO CALLING」
w/THE PRIVATES/M.J.Q(山本久土+クハラカズユキ)

1月26日(金)名古屋・今池HUCK FINN「ワタシのロックンロール百景vol.2」
w/THE抱きしめるズ/イヌガヨ他

1月27日(土)大阪・三国ヶ丘FUZZ「ONE SHOT ONE KILL Vol.7」
w/THE抱きしめるズ/ハガクレ/コロコロボンボンズ/オータムス

その他のライブについては公式Xで最新情報をご確認ください。
公式X:https://twitter.com/hotspring_band

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