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2023.7.05 upload

SA インタビュー

今は強がりを歌う気分ではなかったんだよね。 もっと飾らない言葉を歌いたかった
―― TAISEI

SAが6曲入りのニューアルバム『hopes』をリリース。本当は12曲あったものをあえて6曲に絞ってレコーディングしたという。「BRING BACK HOME 」はチャック・ベリーのオマージュをフィーチャーしたロックンロール・ナンバー。2曲めの「明日さえあれば」はあらゆる事象への愛を歌った曲。「NO RAIN, NO RAINBOW」は苦境を乗り越えた先に見えた希望が降り注いでくる。4曲目はハードボイルドな楽曲と物語で構成されたSAの新境地。5曲目はど正面からのパンクナンバー。6曲目はまさに今のSAの心情を投影した曲だ。この曲はすでにライブでも演奏されているという。この6曲はSAを構成する6つのタイプの楽曲の集大成ともいえる。しかしそれは過去へのオマージュではなく、それぞれの楽曲がSAの今までのスタイルから少しずつはみ出している。そこがタイトルの「hopes」を体現している。TAISEIはインタビュービデオで「コムレイズ(=SAのファンの総称)が求めているものを作っていてはコムレイズはついてこない」と発言していたが、その言葉通り、このアルバムはコムレイズが最も歓迎するであろう作品になったと思う。この作品に至るまでの経緯をTAISEIに訊いた。

●取材=森内 淳

―― 6曲入りのニューアルバム『hopes』なんですが、これ、めちゃくちゃいいですよね。

TAISEI 本当に自分の中でね、いいのができたなぁと思ってる。例えば、今までアルバムを作るときはさ、とくにテイチク時代とかさ、 仕事で作るっていう感覚じゃないんだけど、いつまでにアルバムを作らなきゃいけないっていうのがあって。そのなかで曲作りをやっていたんだよね。「今度のアルバムに入れる曲はどういうのがいいのか?」とかね。「アルバムとして考えたときにどういう曲を作ればいいのか?」とか、そういう部分もあったんだけど、今回はね、そういうのを全部、取っ払ったんだよ。

―― アルバムを想定するんじゃなくて、とにかく歌いたい曲を作ったわけですね。

TAISEI 最初はね、最後の置き土産ぐらいの気持ちで作ったんだよ。

―― どういうことですか?

TAISEI 実は去年から今年にかけて、個人的にヘビーな出来事があって、本当にこれが最後の作品というか、それぐらいの気持ちで作るつもりだったんだよね。それを作るためには、やっぱり本当の意味で納得しないと駄目だっていうね。例えば、アルバムを想定して「こういう曲が足りないから、この曲を作ろう。こういう曲をやろう」っていうんじゃなくて、本当にいいと思うサウンドと言葉とで作ろうと思ったんだ。だから曲作りも去年(2022年)の8月ぐらいから、もう着手してて。だいぶ時間がかかったし、あえて時間をかけた。納得いくまでね。

―― まぁその理由はあえて聞きませんが、じゃ、今作は本当に純粋なアプローチで曲を作っていったんですね。

TAISEI 今までだったら、過去に発表したあの曲が人気あるから、それっぽい曲を作ろうとしたこともあったけど、それは、もう自分の中ではやめようって。

―― その決断がこの曲たちを生んだんですね?

TAISEI そういう作り方をしなかったのがでかいね。うん、けっきょく、そういう曲ってさ、作ったって、過去の人気曲に勝てないんだよ。

―― たしかに。

TAISEI ここは載せても載せなくてもいいんだけど、例えば、スピッツって似たような曲もあるんだけど、草野マサムネくんはおそらく狙って作ってるわけじゃないから、自分では似たような曲だと思ってないと思うんだよね。彼の中では普通に作ってると俺は思うわけ。だからいい曲が書けるわけでさ、そういうところが大事なんじゃないかな。

―― いや、これね、同じようなことを小説家の村上春樹さんもいってて、自分は同じような小説だっていわれるけど、それは違うんだ、と。年を重ねることによって同じように見えるけど、違うものになってるんだ、と。それでいいんだ、と。だって文体や言葉のチョイスも変わってくるだろうしね。どのバンドだって似たような雰囲気の曲はあるけど、自然体で作曲しているアーティストの曲は違って聴こえますからね。

TAISEI 違うよね。

―― 逆に狙うと、一緒になるのかもしれません。

TAISEI 狙って作るやつはいい曲かけない、絶対。バック・トゥ・天然(笑)。あのさ、以前、インタビューしてもらったときに出した「NEW FIRST STEP」(2022年3月25日リリース)なんかは、コロナが明けていないのに、コロナが明けている体で歌っていること自体がもうなんか強がりなわけよ。明けてもいないのに、さあ明けるぜって。明けてねーじゃんってことになっちゃうからね。

―― まぁその強がりもSAなんですけどね。

TAISEI 今はそんな強がりを歌う気分ではなかったんだよね。 もっと飾らない言葉を歌いたかった。それが「BRING BACK HOME」。曲に関していえばね、俺、今年、56になったけど、まあガキの頃から数えれば40年強ね、音楽を聴いてきたわけで、そのなかで、本当に自分のなかにあるといいなと思うエッセンスを取り入れたんだよ。

―― 「BRING BACK HOME」はチャック・ベリーの「ロックンロール・ミュージック」のフレーズを取り入れてますしね。

TAISEI チャックベリーの「ロックンロール・ミュージック」もそうだし、ビーチ・ボーイズのちょっとしたフレーズとか、ラヴィン・スプーンフルとか、そういうのをちょっと入れたりするのが好きなんだよ(笑)。パンクバンドだからラモーンズのフレーズもあるかもしれないけど、ラヴィン・スプーンフルを入れるとかさ、そういうところになんか俺はなんかこう、自分なりのセンスを感じるんだよね。

―― サビもシンガロングの光景が見えてくるようです。

TAISEI たしかに「I'm Home!」「Bring Back Home!」ってみんなで合唱すると思うんだよ、多分ね。だけど、今まで作っている感覚とはね、なんかもう少し違うというか、そこもね、すごく純粋に作ったんだよ。例えば、以前までは「ここはライブに来たみんなで歌うだろうな」ということを前提に作ったこともあったんだよ。たしかにこの曲も結果的にサビのところはシンガロングになるんだろうけど、今回は「言いたい思い」が先に立っているというのかな。そこが今までと違うところで、もう一回、あの場所に帰って、あの場所で、あの頃の通りのライブやろうぜっていう思いがシンガロング云々よりも先に立ってたんだよね。

―― なるほどね。しかし個人的なヘビーな出来事があって最後の作品と思って作ったにせよ、この6曲には感傷的に面が皆無ですよね。作るうちに何か心境の変化があったんですか?

TAISEI この(コロナ禍の)3年間っていうのがあって、みんな本当に、一人一人生きていかなきゃいけないんだなっていうことをバンドのメンバーにも感じたし、俺も感じてたし。そのなかで食っていかなきゃいけないという中で、去年の8月から曲を作り出したときに、「俺がSAの旗を下ろしたら終わっちゃうぞ」って思ったんだよね。「俺はSAの旗を振り続けなきゃいけない」って。

―― 曲がTAISEIさんを救ったのかもしれませんね。

TAISEI 「旗を振り続けるために、じゃ俺はどうするんだ?」っていったときに、『hopes』には6曲しか入っていないんだけど、12曲作った。デモテープの時点で歌詞も全部あったんだよ。だから『hopes』の内容はほとんどデモテープと変わってない。だけど、メンバーには曲を作っているということはいわないで、それで年が明けてから、もう無言で12曲のバリバリのデモテープをメンバーに全員に渡して「これ聴いといて。このなかでいいやつをやろう!」っていったんだよね。

―― 本当は12曲作ったんですね? どうして6曲入りに?

TAISEI 12曲入りのアルバムよりも、6曲ぐらいのすごく濃厚なアルバムの方がいいと思ったんだよ。6曲だと何度も聴けるからね。そういう作品にしたかった。

―― ビジョンがはっきり見えてたわけですね。なんだかえらく覚醒してますね(笑)。12曲を出されたメンバーのリアクションはどうでした?

TAISEI 「すごいねー」だけ(笑)。

―― 意外と薄いリアクションですね(笑)。

TAISEI 「すごいねー」じゃねーよ!(笑)。

―― この6曲は本当に珠玉の6曲なんですけど、2曲目の「明日さえあれば」もいいですね。

TAISEI このアルバムのなかで一番好きかもしれないな。本当に深い意味のラブソングを歌いたかったというかね。その女性に対してだけではなくて、友人だったり友情だったり愛情だったりとか。まあ世界平和とまではそんなおこがましいことをいうつもりはないけども、そこまで解釈が広がったとしても、全然、共有できる曲だよね。

―― コムレイズに寄り添うような歌詞ですよね。

TAISEI 歌詞に関して、技術的なことでいえばね、昔の歌謡曲とか、例えば阿久悠さんの作品なんだけど、歌詞がいわゆる五七五とか五七五七七とかで書かれていて、すごく適当に作られているようで、意外にそういうセオリーがあるらしいんだよね。三文字で五文字で三文字で七文字とか。矢沢永吉さんのヒット曲の歌詞なんか奇数なんだよ(といって「時間よ止まれ」を歌う)。日本の偉大な作曲家や作詞家の方々の、そういった技術はやっぱすげえな、と思ったね(といって、「明日さえあれば」の冒頭を歌う)。

―― コンポーザーとしても進化してるわけですね。

TAISEI 進化する56歳(笑)。

―― ここに来て、探究心まで高まっているという(笑)。

TAISEI 本当に、だからもう「なんちゃって」な曲は駄目なんだなって。

―― 自分の歌いたいことをいかにより良い形で表現するかというね。その探求の連続ですよね。

TAISEI テイチクにいるときに色々若い奴なんかが出るフェスに出る機会があって、見まわしたときにも探究心のなさを感じたし、テイチクをやめたあともパンクのイベントに出たときにも、それを感じた。「パンクバンドだからパンクでいいのか?」っていうふうにより強く思うようになったんだよね。「ラモーンズだけ聴いてればいいのか?」とか「ジョニー・サンダースを聴いてればいいのか?」とかね。「いやいや、そうじゃないでしょう」っていう感じになったんだよ。この間もいったんだけど、「パンクを作ろうぜ」っていったら、もう、その時点で、それはパンクじゃないと思うわけ。それはパンクっぽいものであって、パンクではないと思う。ジーパンを履いてラバーソウルを履いてリーゼントにして「トミー・ガン」みたいな曲をやってれば、それがクラッシュなのか?っていうのと同じでね。

―― それじゃ『ロンドン・コーリング』も『サンディニスタ』も生まれませんからね。

TAISEI ただそれを理解してもらうまでにはすごく時間がかかる。だから今回は本当に申し訳なかったけど、有無をもいわせないデモテープを持っていったというね。

―― そういう意味では4曲目の「灰とスターダスト」がすごくよくて。歌詞が完全にフィクショナルな世界で、ハードボイルドで、そのフィクショナルな物語に自分の心情を投影しているという。

TAISEI そうなんだよね。うん、やっと、ここにこれたのかな。

―― ぼくも待ってました(笑)。この曲、ひたすらかっこいい。コムレイズも違う意味でかっこいいSAが見られて喜ぶんじゃないですかね。

TAISEI ぼくらの世代はどこかで『傷だらけの天使』であったりとか、松田優作であったりとかショーケンとか、そういう男の美学というのにやっぱり憧れたりもするしね。それにね、なんかね、こういうサウンドをやらなきゃ駄目だよ、やっぱり。ちょっとこう80sというかね。うん。やっぱりぼくらの世代だもん。SAに似合ってるしね。もちろん、ない袖は振れないんだけど、自分たちのなかにあるサウンドだったらちゃんとそれをやるべきだし、やりたかったしね。

―― とても似合ってますよ。

TAISEI そもそもが俺はこっちのサウンドも好きだからね。ネオロカビリーとかね。例えば80sでいうところのハノイロックスとか、そういう世界観っていうのかな。ニューウェーブとロカビリーにちょっとハードロックも入るみたいな。ビリー・アイドルのソロとかね。ああいうものをSAだったらやれるんじゃないかと思ったんだよね。SAは自他共に認めるかっこつけのバンドだと思うし、かっこいいバンドがそういうサウンドをやるべきだなと思ってるし。うん、昔はそういうかっこつけたバンドがいっぱいいたと思うわけ。かっこつけて、かっこつけて、こういう音楽をやってる人たちがね。そういう日本のロックのルーツ的なものをやらないとなとは思ってる。

―― それをSAでやることに対する抵抗はないんですね。

TAISEI もはやないね。

―― 4曲目のような曲があるから5曲目の思いっきりパンクな曲も映えますよね。

TAISEI だからね、今思えば、本当に曲を絞り込んでよかったなと思ってる。

―― 6曲のバランスが見事ですからね。

TAISEI しかも、さっきもいったけど、今回は仕事として曲を作ってないからね。自分がやりたい曲、歌いたい曲を作るのに時間をかけたことがすごくよかった。

―― デモテープを仕上げていたということは、レコーディングもスムーズだったんですか?

TAISEI すごくスムーズだった。俺もびっくりだよ。1日3曲歌ったから、ボーカルのレコーディングは2日で終わった。

―― デモテープを作った努力が実ったわけですね(笑)。

TAISEI 本当にね(笑)。デモテープの時点で、歌詞を考えてながら、こういう流れだなとかいって、何回も歌うんだよね。デモテープを作るのに10回ぐらい歌うんだよ。それをずっと聴いていたのもよかった。だから早めにデモテープを作った方がいい。

―― それを考えると今作はTAISEI色が強いと考えていいんですかね?

TAISEI だけどそこがまた面白いところでね、NAOKIにしろ、KENちゃんにしろ、ANNYにしても、例えば(6曲目の)「敗れざる者」は、今、ライブでやってるんだけど、段々あいつらの曲になってくるんだよね。あいつらのサウンドになっていくんだよ!

―― 面白いですね。この「敗れざる者」はまさに自分を鼓舞する曲という。

TAISEI 去年ぐらいはしんどかったけど、「俺たちを待ってる奴がいるんだな」って思っちゃうと「逃げるわけにいかないな」っていうのがあったな。俺らの同年代のお客さんがいるのは当たり前として、子供もいるんだよ。そうするとさ、子供が俺たちのことをヒーローみたいにして見てるわけよ。それを思い出したらやめるわけにいかないじゃない。さっきいったように、最初は「これが最後の置き土産」ぐらいの気持ちもあったけど、「逃げるわけにいかないな」っていうのがあったな。

―― それで「敗れざる者」なんですね。それからANNYさんが今作より正式メンバーになったんですね?

TAISEI 今年の2月16日に正式メンバーになった。その日はSAの3人が初めて20年前にやった日なんだけど、その日にANNYが正式メンバーになった。

―― ANNYさんは元々サポートメンバーだったんですよね。

TAISEI そう。だから、このアルバムを作るときにね、彼もサポートで参加するわけだけど、「サポートメンバーという形よりは正式メンバーという形で携わりたい」という彼の気持ちがあったんだよね。だから俺たちがANNYに「もうそろそろ正式メンバーになんなよ」っていったわけじゃないんだよ。向こうから「正式メンバーになりたい」といってきたの。だから、すごくよかったよね。

―― ANNYさんの正式参加で変わったことはありますか?

TAISEI ANNYが入ったのはでかかった。彼はね、何がいいかって言ったら、歌詞をすごく聴いてくれるんだよ。ちょっと乱暴な言い方かもしれないけど、ボーカル以外のバンドマンって歌詞はどうでもいいみたいなところってあるんだよ。歌詞はボーカルが考えてるからっていう考えがあるんだけど、ANNYは歌詞を共有したがるんだよね。本来、ドラムはボーカルと一緒でプライマルなものというか原始的なものだから、何を歌っているのか、何をいいたいのかによって、こういうドラムになるんだということをすごくこだわるんだよ。俺はそれがすごく嬉しかったんだよね。

―― ところで残りの6曲はどうやって発表するんですか?

TAISEI 今回入れられなかった曲もね、素晴らしいんだよ(笑)。もしかしたら2部作、3部作っていうことで、来年あたり、例えば『dreams』とか『love』とかわかんないけど、そういうかたちでやれればなあって漠然と思ってる。

―― このアルバムのツアーは考えているんですか?

TAISEI 去年ぐらいからすったもんだがあって、今、自分たちでバンドを運営してるじゃない? で、アルバムを作ったのはいいんだけど、これが出たらツアーをこうしましょうっていうところまで計画を立てられなかった。だから、今やっている対バン形式のイベントをアルバム・ツアーと兼ねさせてもらって、東京と大阪の2本だけは自分たちで主催して、ワンマン・スペシャルっていう形でやろうかなっていうね。それが11月なんだけど。ずいぶん先になっちゃうんだけどね。

© 2023 DONUT

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INFORMATION

AL 『hopes』
2023年7月5日リリース
収録曲:
01. BRING BACK HOME
02. 明日さえあれば
03. NO RAIN,NO RAINBOW
04. 灰とスターダスト
05. オーディナリーマッドネス
06. 敗れざる者

■ hopes特設サイト:https://sa-web.jp/hopes/
■ 販売方法:7月5日よりライブ会場及びSA ONLINEにて販売
SA ONLINE:https://saweb.official.ec/


■ ライブ情報

SA 『hopes』 Release Special Night
2023年
11月10日(金)19:00開演 大阪Live House ANIMA
11月12日(日)16:30開演 渋谷CLUB QUATTRO

その他のライブについては公式サイトで最新情報をご確認ください。
SA公式サイト:https://sa-web.jp/lives-category/schedule/

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