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2023.7.05 upload

ハイエナカー インタビュー

ヘンリー・ヘンリーズの頃はわかりやすい曲が多かったので、その反動でわかりやすさを遠ざけていたところもあるんですけど、なんかね、そんなことはどうでもよくなってきたというか
―― 村瀬みなと

村瀬みなとのソロユニット=ハイエナカーがニューシングル「とけないハート」を配信リリース。同曲のミュージックビデオも公開された。2021年、コロナ禍で、初期ハイエナカーの集大成ともいえるアルバム『まだ僕じゃないぼくの為の青』を配信とCDでリリース。ハイエナカーらしいロックンロールで綴られた作品となった。2022年にリリースしたミニアルバム『愛について考えたら天使にぶん殴られた件について』はひねりのきいた歌詞とコンセプチュアルなアイデアをもとにした作品へと歩を進め、ハイエナカーの新たな一面を見せた。ところが、今回の「とけないハート」はハイエナカー以前に村瀬みなとがやっていたシンプルな音楽へと回帰している。ファーストアルバムのリリースをきっかけに音楽に対して飽くなき探求を続けるハイエナカーの現在地を探るべく、3年ぶりに村瀬みなとに会い、インタビューを行った。

●取材=森内 淳

―― 村瀬さんはコロナ禍ではどういう活動やっていたんですか?

村瀬みなと 自分の同い年とか人がライブハウスで働いてたりとかっていうのがあるんで、コロナ禍に入ってすぐとか、けっこう、配信ライブとか声をかけられやすかったというか。まあ、ライブも、できるギリギリぐらいまではやってましたね。

―― ペースは変わらなかった?

村瀬 むしろちょっと多かったんじゃないかってなってぐらいやってました(笑)。もうちょっと大きい活動でやっているアーティストの方は背負ってるものもちょっと違うというか、スタッフの人数とか。コロナ禍で動くためには「できる/できない」の判断をしなければならない局面が出てくると思うんですけど、ハイエナカーは小規模でバンド活動してるんで、動こうと思えば動けるんですよね。ただコロナの初めの方は、メンバーの中で「ライブはちょっとできないな」って人もいたりして。そこでまぁちょっと揉めたりとかはありましたけどね。

―― 村瀬さんとしては、どういう状況であれ、粛々とライブをやろうという姿勢だったんですね。

村瀬 そうですね。自分はそもそもそういう人間だし、みたいな(笑)。開き直りじゃないんですけど。でもまぁこういうことが起こると、あらためて他人とのズレを感じますよね。

―― 考え方とか価値観とかね。

村瀬 そうですね。他人とズレてるって、自分でいうのはあんまり好きじゃなかったので、普段はそういうことを意識してなかったんですけど、そこで初めて「あ、ズレてるんだ、申し訳ないな」って思いました(笑)。

―― 普通はこんな状況でライブはやらないよな、みたいな?

村瀬 そうですね(笑)。

―― ということは村瀬さんのペース的にはこの3年間はあんまり変わってない?

村瀬 コロナが始まってすぐのときは、ライブハウスもお休みしてたから、けっこう家にいる時間が長かったんですよね。でもまあ、そのときは逆に音楽のことを考えていたというか、普段ライブをやってるとできなかったことをやっていたって感じですね。

―― 音楽制作に没頭したわけですね?

村瀬 そうですね。音楽制作だったりとか機材まわりを整えたりとか。レコーディングの機材もそうなんですけど、自分のギターのエフェクターとか。でも、それをやり始めたら、凝り性なので、どんどんとそっちばっかりなっちゃって、けっこう去年(2022年)ぐらいまで抜け出せずに機材を追求していました(笑)。

―― 現在のハイエナカーの形態はどうなっているんですか?

村瀬 ライブに関してはバンド編成で、前よりも固定のメンバーでやってますね。よりバンドっていう形になりました。

―― 楽曲制作に関しては相変わらずほぼ一人でやってるんですか?

村瀬:そうですね。

―― 2021年には2枚シングルをリリースしてますよね? このアルバムはバンドで録音したんですか?

村瀬 録音自体はバンドメンバーとやってるんですけど、同録とかじゃなく、みんなバラバラに録音していて。例えば、自分のリズム・ギターだけはメンバーと一緒に録って、その他のメンバーのパートはバラバラで録ってという流れで。

―― 仕上げは村瀬さんがこもってやったんですね。

村瀬 そうですね。

―― このときはCDもリリースするんですか?

村瀬 今まで配信っていう形でずっとやってたんですけど、そのシングルのタイミングで、ライブハウスで働いてる同い年の友達が、バンドの手伝いをしてくれるということになって、その子のおかげでCDを出すことができたというか。CDという形にはしたかったんですけど、自分の中でその踏み止まっていたわけじゃないんですけど、音源を作るのはいいんですけど、出すのは苦手だったので(笑)。CDは最初にちょっと出してたりとかはしてましたけど……「CDをリリースするよ」って大々的にいって、本格的に出したのはこのシングルが初めてですね。やっぱりお客さんとかも、頑張ってCDをリリースしたりすると、その姿勢に対して応援してくれるっていうこともあったので、出してよかったですね。

―― 同じく2021年にアルバム『まだ僕じゃないぼくの為の青』もCDリリースします。

村瀬 この作品は今までの自分の名刺みたいな感じですね。ずっとアルバムは作りたかったんですけど、なかなかできなかったことを形にしたというのと同時に、結果的に曲を集めてみたら、1曲1曲は全然、違うつもりで作ってたんですけど、まとめて聴いてみると、言いたいことってひとつだな、みたいなふうに思って、そういう意味では区切りみたいな感じで。やっぱりアルバムっていう形で出すと区切りになるなあっていう。

―― 2022年に入ってシングル「No Plan The Long Run」を配信リリースして、ミニアルバム『愛について考えたら天使にぶん殴られた件について』を発表するんですが、たしかにここから新しいモードのハイエナカーに入ったような気がします。

村瀬 そうですね。『愛について考えたら天使にぶん殴られた件について』は、ミニアルバムということもあったんで、自分の中でコンセプティブな作品にしたいなっていうふうには思っていました。自分が聴いてきたちょっとおしゃれな、わりと16ビートが多めの曲だったりとか、それこそ山下達郎さんとか佐野元春さんとか、なんかああいう臭いのする音楽っていうのを「ここまでわかりやすくやれば伝わるかな」みたいな作品にしたいな、と思って作りました。

―― そういう音楽をハイエナカーでやってみようと思ったのは何かきっかけがあったんですか?

村瀬 ずっとやりたかったのと、「私のキミになるまで」というシングルまでは(吉良)草太郎くんがベースを弾いていたりしたんですけど、その後、長島アキトさんと一緒にやるようになって、アキトさんもフリッパーズ・ギターとかが好きだったりするんで、「じゃそういう曲を作ろう」みたいな感じになっていったように思います。

―― 長島アキトさんのバンド加入はハイエナカーにとってそれなりの影響を与えているんですね。

村瀬 年齢的にもアキトさんが一番上っていうのもあるんですけど、今までよりもリズムについての話をするようになって。どちらかというと、僕はメロディ先行なんで、大まかにしかビートを捉えきれてないんですよね。だからそこのところをアキトさんとがっつり話し合ったりしました。他のメンバーもサポートなんだけど、メンバーを固定したという理由も、そういうところにあるんですよね。今は他のバンドと対バンしても優勝できると思います。

―― バンドのメンバーが変わることで過去の曲のタッチも変わる?

村瀬 変わると思います。今までも、メンバーは気づいたのかもしれないけど、自分が気づかないまま、まわしていたものを一回気にするようになりました。それがいいことなのか、わかんないんですけど、そういうこともあったので、聴こえ方も変わってるように思いますね。

―― このミニアルバムは配信だけなんですね。

村瀬 配信が出始めの頃の「水色の船」とか「ブルーベリーアイスクリーム」のときはCDの需要もあったんですけど、それから何年か経って、配信が主流になったじゃないですか。そうなったときに、今後、ずっと配信だけにしようっていうわけではないんですけど、これはミニアルバムだし、今回は配信でいいってことにしようかなっていうふうに思ったんです。それで、ミニアルバムは配信だけだったので、1曲1曲のテーマの絵を描いた歌詞カードのようなものを作って、物販で売りました(笑)。僕がジャケットの絵を描いたので。

―― それはいいアイデアですね(笑)。

村瀬 なかには、ブックレットをつけたいからという理由でCDを売るアーティストもいると思うんですよ。だったらブックレットだけ売ってみようって(笑)。けっこうね、出来上がったものも可愛くて(笑)。大きく作ったんで。

―― 2023年に入って最初のシングル「とけないハート」が配信リリースされました。

村瀬 この原曲は『まだ僕じゃないぼくの為の青』を作っているときにあった曲で、曲自体は別に悪くなかったんですけど、そのときに書いた歌詞と、今の気分が違って来ちゃって。「なんか今はあんまりこういうことを思ってないな」みたいになって、なんか冷めちゃったんですよね。それでリズムトラックだけが残って。「とけないハート」はその曲とはコードもアレンジも全然違うんですけど、残ったリズムトラックにのせて曲を作ったら、たまたますごくいい曲ができて。構成をとか変えたりとか、増やしたりとか減らしたりとかしてるんですけど、もともとのきっかけは、その曲から始まりましたね。

―― 歌詞はミニアルバムのときから変化が見られます。

村瀬 歌詞についてはすごい時間がかかりました。ミニアルバムは「おしゃれなものを作ろう」というテーマがあったんで、言葉遊びだったりとかも入ってたり、ストレートな歌詞ではない作品だったんで、それはそれで好きなんですけど、今度は「ストレートなものを作りたいぞ」っていうふうに思って、歌詞を書きましたね。

―― 前作の反動が来たということですか?

村瀬 そうですね。『まだ僕じゃないぼくの為の青』自体も他のアーティストの人と比べたら、どっちかというと、ちょっとこうひねくれた歌詞なような気がしてて。それはそれでね、素敵だなと思うんですけど、もうちょっと自分のなかでわかりやすいものを作ってみたいな、と思ったんです。

―― なぜそういうふうに思うようになったんですか?

村瀬 多分、自分の中で集大成で出したフルアルバムはいいとこどりな感じで、自分のなかで、けっこう満足してて、次はわかりにくい方向に行ったので、今度はわかりやすい方向に行こうと思ったんです。元々、ヘンリー・ヘンリーズをやっていた頃はわかりやすい曲が多かったので。まぁ、その反動でハイエナカーを始めたところもあったんで、わかりやすさを遠ざけていたところもあるんですけど、でも、もうなんかね、そんなことはどうでもよくなってきたというか(笑)。

―― じゃ村瀬さん的には原点回帰みたいなニュアンスがあるんですね。

村瀬 そうですね。みんなからは「ハイエナカーらしい感じになったね」って、いってもらうことが多いんですけど、自分のなかではすごくシンプルにしたという。アレンジも、今回はそんなに凝ってないっていうんですかね。

―― 歌詞だけではなくアレンジもシンプルさを追求したんですね?

村瀬 例えば、他のミュージシャンのサポートをしているときのギター・アレンジとかもそうだったんですけど、「この人が弾くから意味があるフレーズ」だったりとかが、すごい好きだったから、「プロが入ってギターを弾きました」みたいなやつじゃないものにしようっていうので、今までずっと積み上げてきたんですよね。一緒に弾いてもらうときも「ちょっとここ変えましょうか?」みたいな感じで、それこそ1曲に1日とかかけたりとかしてたんですけど、今回は「なるべくシンプルに」っていうのを意識して、ギターを弾いてもらったりとかしたんですよね。

―― 今はそういうモードに入っているんですね?

村瀬 とはいえ、今後、アレンジはいろいろやるかもしれないんですけど、メッセージだけはシンプルにしたいな、と思ってます。例えば、銀杏BOYZとかも、まわりのバンド仲間は好きな人が多かったんですけど、自分はあんまりわかんなかったんですけど、それが今になってちょっとわかるようになったというか。見てぐっと来たりとか、するようになったんで。そしたら、やっぱそういうことをしたいなっていうふうになりましたね。

―― そういうモードになったのはライブでの体験が大きいんですかね?

村瀬 たしかにライブをやっていくなかで、毎回足を運んでくれるみたいな人達がちょっとずつ増えて来てるんですよ。それもあるかもしれないですね。伝えたい人の顔が見えてきてるという。なんかそういうことを意識するようになったのかもしれないですね。以前は「こういう人に伝えればいいんだ」って、設定上では決めてたんですけど、具体的にこの人にっていうのはあんまり見えてなかったような気がします。

―― それがより見えて来たんですね。

村瀬 『まだ僕じゃないぼくの為の青』のなかでミュージックビデオになってる「Mirror」っていう曲があるんですよ。その曲は唯一、僕が作った曲じゃなくて、そのときによく一緒にやったシンガーソングライターの小池神一くんという同い年の子がいるんですけど、彼は今も音楽は続けているんですけど、愛媛に帰ることになったんです。そのタイミングで、僕がレコーディングを手伝っていた曲を「この曲、いいから、アルバムで歌わせてくれない?」っていって、歌わせてもらうことになって。今までは自分よりもっと上の人たちのリアルを見てきたんですけど、初めて同い年の人のリアルを見て、彼の歌を自分が歌い継ぐじゃないですけど、なんかそういう出来事もあったりして、いろいろなんか自分がもっと人間的になったっていうんですかね、そういう気がしますね。

―― 「とけないハート」は村瀬さんのいろんな体験を内包しているんですね。

村瀬 日記をnoteで書いたりしてるんですけど、今までは、比喩表現が多めのふざけた文章が多かったんですけど、「自分の好きなミュージシャンが自分と同い年のときに、何をやってたんだろう?」と気になってきて、その人のブログとかを読むと「ああこういうこと思ってんだ」みたいなことを思って、自分がその存在になったときに、もっと具体的に日記も書いてた方がいいのかな、と思ったりもしてるんですよ。

―― 人の顔が見えてきたというか、見ようとしてますよね。それが楽曲にも反映されてるんですね。

村瀬 なんですかね。

―― 「とけないハート」を配信で出したあとの2023年のビジョンはあるんですか?

村瀬 以前、曲を配信したあとにYouTubeでミュージックビデオをアップする活動を3〜4ヶ月くらいのペースでやってたのをもう一回やりたいなっていうのはありますね。前のアルバムは集大成みたいな感じで出せて、出せたのははいいんですけど、アルバムの半分は元々リリースしていた楽曲だったりしたので、自分自身の感動と、ライブハウスで働いてる人なんかの驚き度みたいなものが薄かったんですよね。

―― そういう人たちにとっては聴き慣れた曲が入っているわけですからね。

村瀬 そうなったのはアルバムにするまでスパンが長かったっていうのもあるので、今度はもっと短いスパンのなかで、アルバムにつなげられたらとは思いますね。

―― まっさらな状態で新しいアルバムをみんなにぶつけたら面白いだろうな、と。

村瀬 そうですね。ただ、短いスパンで作るとなると、クオリティ的な部分で、もしかしたら偏ってたりとかはあると思うんですけど。

―― それも面白さにつながればいいですよね。

村瀬 今回、「とけないハート」のイントロの12弦のギターを貸してくれたのが石崎光さんで、ギターを借りるついでに、ご自宅でギター・ダビングをさせてもらったんです。今までセルフプロデュースでずっとやってきたなかで、違う人がいるってすごいでかいなと、そのときに思って。

―― どんな発見があったんですか?

村瀬 例えば、音楽的に「ここの音、ぶつかってるよ」といわれて。大きく当たっているわけじゃないんで、全然、それでも進められるんですけど、例えば、鍵盤を入れたりとかストリングスを入れるとなったときにぶつかってくるコードみたいなのがあるんですよね。セルフプロデュースでバンド活動やってると、そういうことはあんまり気にしないでやってたんですけど、いわゆるちゃんとしたポップソングを作ろうって思うと、そういうこともあるんです。石崎さんには「とけないハート」に関してはレコーディングアレンジ・サポートみたいな感じで、プロデュースとはまた違ったかたちで関わってもらったんですけど、例えば、今度は、石崎さんにプロデュースを頼んだりとか、そういうことももやりたいなぁって思ってます。

―― 今までとはかなり景色が変わってくるでしょうね?

村瀬 そうでしょうね。

―― 村瀬さん自身、そういうものを受け入れる態勢になってるっていうところがいいですよね。

村瀬 そうですね。今までなんかふわふわしてるっていうんですかね。「なんでその人に頼みたいのか?」みたいな理由がふわふわしてたんですけど、今はがっちり「確かにこれを頼めばいいんだ」みたいなことが見えてきてますね。

―― じゃ今年はまた違ったハイエナカーを見られるわけですね。

村瀬 そうなるといいんですけどね。今回の「とけないハート」がどれだけ反応があるかっていうのも、今後の活動のやりやすさとかにも出てくるんで。

―― 今年はライブはどのようなかたちでやるんですか?

村瀬 去年は月に3〜4本はやっていたし、遠征とかもけっこう行ってたんですよ。東名阪でやったりとか千葉や茨城に行ったりとか。ちょっと去年よりは減らそうかなと思ってます。その分、作品作りに時間をかけようと思っています。

―― 手応えのある作品を期待しています。

村瀬 そうですね。そうすることで、今年は、自分のことを知ってくれる人がなんかもっと増えるんじゃないかな、と思います。

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INFORMATION

配信シングル「とけないハート」
2023年6月28日リリース
配信リンク:https://linkco.re/bvA5b4RM?lang=ja


■ ライブ情報

ライブについては公式サイトで最新情報をご確認ください。
ハイエナカー公式サイト:https://hyenacar.com/live202101/

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