DONUT




2022.11.24 upload

THE COLLECTORS インタビュー

コレクターズの良さを十分にわかるリスナーが本当に楽しめるようなアルバムを作っていくべきだなと思った
―― 加藤ひさし

ザ・コレクターズのニューアルバム『ジューシーマーマレード』はサイケデリックだったりパワーロックだったりヘヴィロックだったり、近年のコレクターズの特徴を全部詰め込んだアルバムになった。楽曲はリスナーが聴きたいコレクターズを体現しているし、歌詞はより普遍的な表現を獲得している。まさに「みんなのコレクターズ」を封じ込めた快作といっていい。ところがアルバムから受ける印象とは裏腹にレコーディングの作業は難航したという。一体現場で何が起こっていたか。加藤ひさしが赤裸々に話してくれた。さらにこのアルバムを作って見えたこと、収録曲に込めた思い、いつかやりたいことまで、9000字にわたるインタビューとなった。最後まで楽しんでいただければ幸いです。

●取材・文=森内淳

―― 無限ループで聴きたくなるくらいにいいアルバムなんですが、加藤さんの感想はどうなんですか?

加藤ひさし まぁ〜よく終わったなあっていう感じかな。本当に今作は苦労した。俺は今回のアルバムでファンのみんなに「加藤くん、ついに終わったよね」って言われるかと思ってた。

―― 全然、そんな感じのアルバムじゃないですけどね。一体どこでそういうふうに思ったんですか?

加藤 いつもだったら倍くらいの時間をかけて準備するところを3月13日の武道館が終わってから始めたから、曲は出来ていくんだけど、曲の最終形を見通せてなくてね。「こんな曲になりましたけど」ってプロデューサーの(吉田)仁さんに簡単なデモを送ったら「よくなりそうだね」という返事は返ってくるんだけど、そこから曲のテンポをどれくらいにすればいいのかとか、アレンジだとか、そういう細かいことをやっていかないと曲は思い通りには仕上がらないんだよ。今回は自分が曲を作ってメンバーに渡すときに適切な曲のテンポがわかってなかったり、ちょっと構成が絞れてなかったり、ということが多々あって、7月のファーストセッションで録音した「アサギマダラ」と「ジューシーマーマレード」を8月のセカンドセッションでテンポを変えて録音し直すハメになったの。

―― いつものレコーディングの場合だと、かなり具体的に曲のビジョンは見えているわけですね?

加藤 今回もいつも通りに見えていると思ってたんだよ。ただやってみて、なんか今ひとつバンドのノリが悪いんだよ。曲って面白いものでテンポがひとつ変わるだけでみんなのノリが随分変わるの。メトロノームの1テンポが変わるだけでね。例えばビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」は最初はスローな曲だったって言うじゃない? それをジョージ・マーティンが「倍の速度でやれ」って言ったら、あんな名曲になったんでしょ? 全ての曲にそれがあるわけですよ。そこを見通せてなかった。

―― どの辺りでこれは何とかなると思えたんですか?

加藤 録音が全部終わってから仁さんが引き算や足し算をし始めたんだけど、それでようやく仕上がりのカタチが見えてきた。

―― 引き算と足し算というのはアレンジということですか?

加藤 アレンジと編集だね。このフレーズを足してみたけど、これはよくないから引くとか。これを足した方がいいというときには(古市)コータローくんを呼んで、ボーカルダビングの合間に、ギターフレーズを弾いてもらったりとか。それがギリギリまで続いた。いつもだったら歌入れの手前でそういうことは終わってるんだけど、レコーディングが切羽詰まった状況だったし、メンバーも俺もいつコロナにかかるかもしれないから、オケが仕上がってなくても歌詞が出来ているものから歌っていったしね。そんなことありえないんだよ。すべてのオケが揃ってないと、本当は歌は歌えないんだよね。例えばサックスが少し早くフレーズを吹いたとしたら、それを聴きながら少し早く歌わなきゃいけないじゃない? オケが出来ていないと全体のフィーリングがつかめないんだよ。それを見越して歌ってるんだからさ。そういうことをやったのも初めてだった。壮絶だったよ。

―― それは意外ですね。何から何まで思惑通りに進んだとしか思えないような内容ですからね。

加藤 多分メンバーもわかってないと思う。最初のリズムトラックを録ったあとにメンバーは解放されるから、その後、レコーディングスタジオで何が起こっていたのかわかってないと思う。スタジオで仁さんと作業してると、仁さんのすごさをマジで思い知らされるよ。どうにもならないと思った部分が魔法のようにかっこよくなってるんだから。本当に仁さんには頭が上がらない。

―― 仁さんがいじると印象が変わるんですね?

加藤 変わる。すっごい変わる。信じられない。だから仁さんは俺が見通せてなかった部分を見通していたんだろうね。

―― 今作はリスナーみんなが思ってるコレクターズの良さが全部詰まってるいいアルバムですから、加藤さんの悪戦苦闘が信じられないですね。

加藤 逆に訊きたいんだけど、どういうところでそう思うの?

―― まず1曲目の「黄昏スランバー」。これをタイトル曲の「ジューシーマーマレード」の前に入れたっていうのは往年のコレクターズ・ファンからしたらツボですよね。

加藤 そうだね。実はそれも予定にない曲だったの。「ジューシーマーマレード」で始まりたいという意向は俺のなかにあったんだけど、ある程度仕上がったときに聴いてみたら、アコースティックギターと歌とワウギターで始まるというのは案外寂しい始まり方なんだよね。これはもうちょっともったいぶって始まった方がいいなと思ってイントロをつけようと思ったんだけど、イントロがなかなか浮かばないんだよ。じゃクイーンみたいにアカペラで30秒くらいの曲で、しかも歌詞もある曲を1曲目にしようと思って。ジューシーマーマレードのコードの流れからこんな感じかなって探って歌詞も即興で作って仮に歌ってみたの。これは面白いということになって。三声のコーラスをつけてクイーンみたいにして始めようということになったんだよ。

―― 別曲にしたところがツボなんですよね。

加藤 だよね。短いから「ジューシーマーマレード」のなかの冒頭部分にしようという話もあったんだけど、全然違うメロディだから別曲にしたんだよ。ところがここでも問題が発生して。実は「黄昏スランバー」のお尻の部分が当初はもっと派手だったんだよ。だからどうしても「ジューシーマーマレード」にうまくつながらない。それを何度も試したんだけど駄目で、俺はもう自信を失って、仁さんに「黄昏スランバー」はやめたいって言ったんだよ。ビートルズの「ハー・マジェスティ」みたいに全曲が終わった後に10秒くらい間を空けて突然アカペラが始まるようにしたいってね。だけど仁さんはイントロがアカペラのアイデアはいいんだから頭に入れた方がいいと言ってくれて。メンバーもアカペラ始まりは面白いと言ってるし、最初に歌ったシンプルなドゥンドゥンドゥンだけで「ジューシーマーマレード」にいくという最初のアイデアに戻したら、これがいいということになった。

―― あれは気持ちいいですよね。

加藤 ここにたどり着くまで恐ろしいくらい何度も歌ってるし、ひとりでやってるからさ、もう大変だったよ。オペラ歌手になりまくってるんだからさ(笑)。

―― あれね、CDプレイヤーの秒数のカウントを見ながら聴くとまた味わい深いんですよ。あ、ここで「ジューシーマーマレード」に入った、みたいに。

加藤 なるほどね。

―― でもこうやって努力を重ねるといいアルバムが出来るという(笑)。

加藤 今回のレコーディングは本当に生きた心地がしなかった(笑)。終わったときには本当に放心状態で、やっと終わったっていうことだけだよ、本当に。このアルバムがいいアルバムなのか、それとも悪いのか、もう勝手に決めてくれみたいな気分だったね。

―― 「黄昏スランバー」もコレクターズならではなんですけど、続いて登場するタイトル曲「ジューシーマーマレード」も60年代〜70年代のサイケデリックな雰囲気をストレートにぶつけてきて今のコレクターズの気分を反映した曲ですよね。

加藤 なんでこの時代にこんなことやってんだよ? みたいなね(笑)。ポルノスターを歌ってるしね(笑)。もうヒットする気がないだろ? みたいな(笑)。

―― そんな曲がアルバムの軸になっているのもコレクターズならではという。

加藤 この曲は一番最初の方に出来た曲で転調の仕方とかも面白いし曲調も面白い。しかも「ジューシーマーマレード」というワードがビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」みたいに自分のなかでは掴みのある言葉だったんだよね。

―― 初期コレクターズを彷彿とさせるキャッチーなコピーですよね。

加藤 そうだね。「マーブル・フラワー・ギャング」とかね。「ジューシーマーマレード」を書いた時点で、自分のなかではこのアルバムはビートルズ・オマージュでいいと思ったんだよ。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』から『マジカル・ミステリー・ツアー』『ホワイト・アルバム』あたりを行ったり来たりするようなムードのアルバムを作ったら、コレクターズらしいなと。例えば4曲目の「パレードを追いかけて」の変な蛇笛みたいな音は「ベイビー・ユー・アー・ア・リッチ・マン」からインスパイアされたんだけど、それもあの頃のビートルズを全部封じ込めたの。

―― そういうモードになった理由って何かあるんですか?

加藤 気分的にサイケデリックな音楽を聴いてて楽しいなと思ってたんだよ。クーラ・シェイカーの新譜(※『ファースト・コングリゲイショナル・チャーチ・オブ・エターナル・ラヴ・アンド・フリー・ハグス』)だったり、リアム・ギャラガーの新譜『カモン・ユー・ノウ』だったりね。リアム・ギャラガーはビートルズチックだし、クーラ・シェイカーなんてもっとゴテゴテのサイケデリックで67年とか68年くらいのジミ・ヘンドリックスのようで、それが新しいとは思わないけど、聴いてて楽しいんだよ。今はどんなスタイルの音楽をやったって、みんなリミックスだったり焼き直しになっているじゃない? そのムードが嫌いじゃないということは、多分、俺はサイケをやりたいんだなと思ったの。でもサイケと言えどもビートルズ的なものがコレクターズらしいんだろうなと思って照準を『サージェント・ペパーズ〜』『マジカル・ミステリー・ツアー』『ホワイト・アルバム』あたりに当てて、あのムードを出したいなと思った。逆にそこを狙わないとすごく散漫になっただろうし。多分、俺は「ヒマラヤ」を書いたときからそういうムードになってたんだよ。「ヒマラヤ」自体がもうすでにインドにかぶれていたその頃のビートルズをイメージさせているからね。「裸のランチ」も『ホワイト・アルバム』に入ってそうだもんね。多分そういうことなんだろうなと思う。それに従った感じかな。やってて面白いことをやるのが一番なんだろうなと思って。オーソドックスなスタイルなんだけどね。結局、コレクターズはオールド・ロック・バンドなんだよ。死ぬまでコレクターズはそれでいいと思う。

―― コレクターズがヒップホップやオルタナをやり始めるのも変ですし、リスナーも期待していないでしょうし。

加藤 そうそう。コレクターズの良さを十分にわかる人はいるわけで、逆にそういう連中が本当に楽しめるようなアルバムを作っていくべきだなと思った。

―― 6曲目の「もっともらえる」はサックスが特徴的な曲で、ちょっとブルース・スプリングスティーンのフィーリングでもあるんですが、こういったアレンジは珍しいですよね。

加藤 これはね、80年代頭のネオモッズがよくやってた手法なんだよ。それこそシークレット・アフェアがよくやっててね(※DONUT 12の加藤ひさしインタビューを参照)。スプリングスティーンもそうなんだけど、あの時代が生んだやり方じゃない? サックスが1本入ってて、バンドはパンキッシュで。それはコレクターズがモッズ・バンドである以上、ネオモッズ的な曲は全然ありだし、それをちょっとやってみたかった。今まではね、同じようなことをやりたかったけど違うタイプの曲になってたんだよね。「全部やれ!」とかね。今回は曲が初期のエルヴィス・コステロだったりネオモッズ的なものを呼んだ。それに寄り添った感じだね。その辺は山森(“JEFF”正之)もコータローも大得意だから。すごくスムーズにレコーディングできた。無理がないよね。

―― 「イエスノーソング」のヘヴィロック感もいいですね。「全部やれ!」もそうですけどハードロックやヘヴィロックのアプローチもコレクターズに合うんですよね。

加藤 それはすごく迷ったの。

―― というと?

加藤 あまりにもコレクターズがライブで演奏しているシーンが浮かびすぎる気がして。最初ギターでやってるヘヴィなフレーズをヘヴィなシンセサイザーでやろうと思ってた。エレクトロポップのゲイリー・ニューマンの「カーズ」みたいな音色でその曲を歌おうと思ってたの。

―― ゲイリー・ニューマンですか!? 今の時代、なかなか伝わらいないかもしれないですね(笑)。

加藤 でも面白いだろうなとはちょっとは思ったんだよ。コレクターズらしいなと思って。

―― ひねり方がコレクターズっぽいですけどね。

加藤 そう、ひねりがね。でもレコーディングを進めていくうちにそれを試せる時間がなかった。ゲイリー・ニューマンと全く同じシンセの音を作っていったらどんなふうに聴こえるのか試してみたかった。それがかっこよければそれで仕上げたし。そんな時間がなかったから、ライブをイメージしたギターだろうっていうことで、ヴァン・ヘイレンのようなキンクスのようなギターリフで始まって。

―― ぼくはこのフィジカルなダイナミズムが大好物ですけどね(笑)。

加藤 これはもう最初からいい結果が見えてたね。

―― 「負け犬なんていない」は久しぶりに古市さん歌唱の楽曲ですね。

加藤 俺のイメージではコータローくんが歌うときは、兄貴肌で、後輩に向かって、俺について来い的なね、寅さんじゃないけど、そういうムードを持っている気がしてこういう曲になった。今までの曲もそうじゃない? 「青春ノークレーム ノーリターン」や「マネー」にしたって。ビートルズでリンゴ・スターが歌うように、人となりをイメージして歌ってほしかったんだよね。例えば「夜明けのフェリー」という曲を作ったことがあるけど、どうもあれはコータローくんのムードに合ってないなと思ったの。

―― そういえば「夜明けのフェリー」はライブでは歌ってませんよね?

加藤 そういうのもあってね、「負け犬〜」を作った。コータローに歌ってもらうにはこれくらい昭和っぽい方がいいだろうなと思ってね。しかも「負け犬なんていない」というフレーズも今どき誰も言わないじゃない? だけどコータローくんだったら、むしろこういうことを言った方がいいんじゃないかなと思って。同じ内容を俺が歌ってもピンとこないと思うんだよね。この曲が「イエスノーソング」のあとにすかさず入ってくる感じもよかったよね。落差がね。

―― 次の曲の「長い影の男」はこれまた近年のコレクターズの特徴でもあるサスペンスタッチの曲で、本当にここ最近のコレクターズの特徴を全部詰め込んだアルバムですよね。

加藤 そういう意味ではライブのセットリストっぽいかもね。

―― ベストアルバムじゃないけどベストアルバムを聴いているような感覚にもなれます。「アサギマダラ」のドラマチックな展開も、まさにリスナーが聴きたいコレクターズだし。

加藤 「アサギマダラ」はビートルズでいうと「セクシー・セディ」だったり『レット・イット・ビー』セッションの何かの曲だったりするし。あとはローリング・ストーンズの「無情の世界」だったり、あの辺の68年〜69年のムードを出したいなと思った。

―― 歌詞もいいんですよね。

加藤 歌詞はよく出来たと思う。アサギマダラのような小さな蝶が海を超えられるのになんで俺たちは何もできないんだっていう、そこの比喩が上手く書けたなと思う。アサギマダラという海を超える蝶がいるということは昔から知ってたんだけど、なかなか歌詞になりにくくて。今回、コータローくんがサビで弾いているワウのギターのテンポが本当に蝶々が羽ばたいているようで、蝶々が飛ぶ感じっていうのがサイケな感じがするし、これは今こそ海を超える蝶の歌にしたら面白いんじゃないかと思った。

――「希望」という出だしの歌詞もいいですよね。

加藤 小さな蝶が海を超えられるんだから俺たちだって何だってできるんじゃないの?っていう歌にしようと思って。

―― で、面白かったのが「アサギマダラ」がアルバムの終わり感を出しているんですけど、「ヒマラヤ」が最後に出てくるんですよね。

加藤 「ヒマラヤ」自体がボックスセット(※35周年記念7インチBOXセット『13 VINYL SINGLES』)のアナログのシングル盤でしかリリースしてないから、どうしてもCDで聴いてほしかったんだよね。ボックスセットは高いから、ほとんどのリスナーが聴けてないと思うんだよ。ちゃんとした音源を聴いてほしいというのもあって「ヒマラヤ」は入れたいなと思った。「裸のランチ」(※35周年DVD-BOX『Filmography』に収録)もそうだけど、幻の曲のようにしてしまうのはよくないと思った。武道館で1曲目に「裸のランチ」をやって3曲目くらいに「ヒマラヤ」をやってるのにさ、ボックスでしか聴けないというのもちょっと寂しいなと。「ヒマラヤ」で終わることによってトータルアルバム感が出たよね。これはサイケのアルバムなんだってみんなが勝手に感じてくれるんじゃないかなと思ったの。

―― 「アサギマダラ」があって「ヒマラヤ」的なところを目指して旅しているみたいなメッセージのようにも聴こえますしね。

加藤 そうそう。「アサギマダラ」があって、重い荷物を背負って聖地巡礼みたいに歩いているっていう人生そのものを表しているよね。

―― 最後の「ヒマラヤ」はそういう物語性をアルバムに宿してますよね。

加藤 「ヒマラヤ」が終わって最初の「黄昏スランバー」に戻るとさ、夢見るように時が流れて黄昏にみんな消えちゃうというさ。死というイメージを掘り進めてヒマラヤに行く感じもして、ひじょうにトータルアルバムっぽいんだよね。

―― それで言うと「裸のランチ」もいいところに入ってるんですよ。

加藤 わかる。入ってるポイントがよかったよね。あそこでパンチが効くんだよね。

―― 「裸のランチ」からのパワーポップ・ゾーンへの突入感が気持ちいいですよね。

加藤 次の「もっともらえる」にガーンと行くからね。冒頭は冒頭でアカペラからの「ジューシーマーマレード」が気持ちいいじゃない?

―― だからいいアルバムなんですよ(笑)。

加藤 いや、本当によかったなと思って。本当にほっとしてるんだよ(笑)。前作の『別世界旅行』を作ったときに本当によく出来たなと思ったの。いいアルバムだなって。「お願いマーシー」もテーマ性があるしね。「としまえん」の歌もね。絶対このアルバムを超えられないと思ってた。でも、全然異質なものが出来たからよかったよ。

―― むしろ普遍性があるのは『ジューシーマーマレード』のような気もします。

加藤 そうかもしれない。ボックスセットのときに出してた「ヒマラヤ」と「裸のランチ」の出来がよかったことにすごく救われた。

―― そうですね。この2曲はアルバムのなかで効いてますよね。

加藤 効いてる。本当に。そう思うと本当にやってよかったと思うんだけど、ほんとね……死ぬ思いだった(笑)。もうね、仁さんと「どうします?」って感じだよ。アカペラを最後につけようっていう弱気の姿勢でわかるでしょ? だからアルバムって作ってみないと本当にわかんないなと思って。迷いながら作っても、こうやって、いいアルバムが出来たからもっと自信を持った方がいいなと思った。

―― それでですね、このアルバムは今のコレクターズの特徴が全部入ったいい作品なんですが、ひとつだけ入っていない要素があって、それはコレクターズ初期における、それこそR&Bをモッズの連中がやっていたような曲なんですが、今はそれをやるモードではないんですか?

加藤 あのー、ひとつ迷ってるところがあって、必ずそれがあるんだよ。それをやらなきゃって。

―― あ、そうなんですね!?

加藤 それはもう同時に自分のなかで走っていて、アルバムタイトルは『ロックンロール・イースター』っていうんだよ。ロックンロールが復活するの。

―― アルバムのタイトルも決まってるんですね!?

加藤 初期のモッズ的な曲だけで聴かせられるような曲を集めたアルバムを作りたいの。もうドンカマも聴かないでみんなで「せーの」でやれるみたいな、そういう曲を書かないと駄目なのね。「アサギマダラ」みたいな曲を作っても、絶対にそうならないから。そういう構想は常にある。

―― 構想はあってもなかなか完成に至らないわけですね。

加藤 そうなんだよ。今回は「ヒマラヤ」と「裸のランチ」を入れようと思ってたからね、そっちに寄り添わないと、というのがあって「ジューシーマーマレード」が出来た瞬間にサイケデリックでいこう、作り込んだ作品にしようという頭があって『ロックンロール・イースター』の方にはいかなかった。

―― でも構想があるという話が聞けただけでもよかったです。

加藤 明日にでもやりたいんだよ。だけどね、これが一番バンドの本質と力量が問われるレコーディングになるんだよ。これはもう後から直すわけにはいかないし。

―― そうですね。ビートルズのファーストアルバムのようなものですからね。

加藤 そうそう。練習不足なんて言っていられないから。ひじょうにドキドキするしね。それをやるには逆に練り込まないといけないんだよ。リハーサル時間を今の3倍以上とらないといけないだろうし、ライブでも多少収録する曲をやってないといいグルーヴが出せない。それをいつやるんだっていうね。だけど考えてるだけじゃ駄目で、どこかで実行しないとね。だってそれがコレクターズにとって一番の最高峰だもん。

―― ビートルズみたいにモノラル・レコーディングで出してもいいくらいですよね。

加藤 いや、本当に。それに聴くに耐えうる楽曲と演奏を提供できないとね。演奏力が問われるしね。しかも今の俺たちに初期のビートルズのような若さはないからね(笑)。だから余計に大変だと思う。

―― だけどテクニックはありますよね?

加藤 テクニックはある。テクニックはあるけど漲る体力がないところをどうやって作っていけるのかを考えると、やっぱりジョージ・マーティンのようなプロデューサーが必要だしね。それが仁さんなのかもしれないしね。それは常に俺の心のなかにあるんだよ。

© 2022 DONUT

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INFORMATION

25th AL 『ジューシーマーマレード』
2022年11月23日リリース
収録曲:1. 黄昏スランバー/ 2. ジューシーマーマレード/ 3. GOD SPOIL/ 4. パレードを追いかけて/ 5. 裸のランチ/ 6. もっともらえる/ 7. サンセットピア/ 8. イエスノーソング/ 9. 負け犬なんていない/ 10. 長い影の男/ 11. アサギマダラ/ 12. ヒマラヤ 全12曲


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■ ライブ情報
THE COLLECTORS Live Tour 2022 “Lick the marmalade!"
2022年
11/23(水・祝)横浜・1000 CLUB 開場 15:45/開演 16:30
11/27(日)柏・PALOOZA 開場 16:00/開演 16:30
12/4(日)札幌・SPiCE 開場 16:00/開演 16:30
12/10(土)名古屋・CLUB QUATTRO 開場 15:45/開演 16:30
12/11(日)大阪・BIGCAT 開場 15:45/開演 16:30
12/17(土)福岡・CB 開場 16:00/開演 16:30
12/18(日)岡山・YEBISU YA PRO 開場 16:00/開演 16:30
12/24(土)仙台・darwin 開場 16:00/開演 16:30

THE COLLECTORS CLUB QUATTRO MONTHLY LIVE 2023
2023年
1/15(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
2/12(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
3/12(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
4/16(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
5/14(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
6/11(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
7/16(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
8/13(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
9/10(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
10/15(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
11/19(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00
12/10(日)渋谷CLUB QUATTRO OPEN15:15 START16:00

■日程や開演時間が変更になる場合があります。公式サイトで必ず最新情報をご確認ください。
ザ・コレクターズ公式サイト:thecollectors.jp

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