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2022.07.04 upload

KTYM インタビュー
単純に、今やりたい音楽がこういうものだったんです。トラックを流しているからといって人工的なものとは思わないし、楽器も生で鳴っているし歌も生でうたってる。鮮度は変わらないというか
――カタヤマヒロキ

無期限活動休止中のDroogのボーカリスト、カタヤマヒロキが始動したソロプロジェクト「KTYM(ケイティーワイエム)」が7月6日(水)に2ndミニアルバム『no on my own』をリリース。内省的でダークな部分を内包した1stミニ『Know Thyself Your Madness』に続く本作では、一転、ポップでエモーショナルな空気を炸裂させる。対になった、といえるこの2枚のミニアルバムを名刺がわりに、KTYMはあらためてスタート地点に立った。自身のルーツであるパンク/ロックンロールを骨格に、グランジ、ニューウェーブ、ヒップホップ、デジロックなどを血肉にまとったカタヤマが、「これがやりたかった」とさらけ出す音世界。今夏は「FUJI ROCK FESTIVAL’22」への初出演も決定したほか、名古屋・大阪・東京で開催される亜無亜危異「価格破壊GIG-東名阪フリーライブ-」にオープニングアクトとして出演。さらに自主イベント「KTYM presents 阿修羅-ASHURA- Vol.2」を企画と、ライブも続々と控えている。好きなものは好き、と晴れやかな表情で語るカタヤマヒロキにアルバムにまつわる話を訊いた。

●取材・文=秋元美乃/森内淳

―― 2ndミニアルバム『no on my own』の完成おめでとうございます。

カタヤマヒロキ ありがとうございます。

―― ソロプロジェクト、続々と進んでいますね。

カタヤマ はい、皆さんのおかげです。

―― KTYMの始動から8ヵ月くらい経ちましたが、実感としてはいかがですか?

カタヤマ やっぱりライブをやり始めたことで実感は出てきましたね。曲作りにしても、ライブを想定して作るような脳になってきたので。少し前はライブができなかったから、その分、実感は加わってきたのはあります。

―― ソロプロジェクトとはいえ今回の2ndミニアルバム『no on my own』がよりバンド感を感じるのは、そういうライブの感覚が入ってきたからというのもあるんですね。

カタヤマ そうですね。1stミニ『Know Thyself Your Madness』は割と自分の中で“陰”というか、チルい部分というか、静と動だったら“静”というか、そんな感じだったんです。でも2ndは陽だしエモだし動だし、1stとは対になったイメージなんですよね。

―― KTYMとしての活動はちょうどまだコロナ禍の活動しにくい時期にスタートしたのもあって、どんな歩みになるのかなと思っていたのですが、現時点ではカタヤマさんが思い描いていたイメージは実現できている感じですか?

カタヤマ 曲に関しては、これからライブで新曲を演ってみて、という感じなんですけど。でも何本かライブをしてみて、手応えはありますね、曲作りに関しても「ライブに向けて作るってこういうことだな」というのを思い出してきたというか。

―― 名義としてはソロプロジェクトとして始まったけれど、活動形態としてはバンドというスタンス?

カタヤマ そうですね……でも、「ソロをやってるな」という感じはします。やっぱりバンドとは違うなって。すごく孤独な部分もあるし。もちろんスタッフさんやライブのメンバーにも支えられて一丸となってる気持ちもあるし。初めての感覚ですね。みんなとわいわいやってるけど、どこかで孤独。

―― 自分で思い描く世界への向かい方は、バンドとは違うんですね。

カタヤマ うーん……違いますね。歌詞を書くときもそうなんですけど、例えばDroogだったらDroogというバンドをどうやって見せようかとか、そういうことも少し考えていたんです。でも今だったら、自分にスイッチ入るためにどうやるか、みたいな。歌詞も自分の起動スイッチのような感じになってきて。

―― なるほど。

カタヤマ 前は「こういう意味をもたせたい」という部分もあって、がんじがらめになりながら頭で書いてたんですけど、今はただ、自分がそこ(曲の世界)に入れさえすればいいな、というのがあって。例えば『キューティーハニー』なら「ハニーフラッシュ!」、『ひみつのアッコちゃん』なら「テクマクマヤコン」みたいな起動スイッチ。そんなふうに思うようになったという心境の変化はあります。

―― 起動スイッチが大きなポイントになった、と。

カタヤマ まずはそこが一番かなって。自分がのってなかったら、みんなもついてきてくれないだろうし。そんなことも改めて考えるようになりましたね。ライブのやりかたも含めて。

―― その起動スイッチが入るために、音作りの面ではNessさんにどんなリクエストをしているんですか?

カタヤマ Nessくんにはビートのトラックを作ってもらっていて、最初に「こういうふうにしたい」とすり合わせてはいるんです。でも、全然違う感じのがあがってきたりするんですよ(笑)。

―― そうなんですか(笑)。

カタヤマ はい。でもそれが面白くって。僕はNessくんという人の感性に惚れてるんで、まったく違うものがきたとしても「ここからどんなふうにもっていこうかな」って閃きも生まれてくるし。

―― じゃあ、カタヤマさんがインダストリアルなサウンドアプローチを欲していたわけではなく?

カタヤマ いや、それは大枠のところで欲してました。

―― 今回はインダストリアルなロックとダンスの部分が前作よりさらに融合してますよね。そういう方向性に向かったのは何か理由やきっかけがあるんですか? 例えばソロだから違う音楽をやろうという意識があった、とか。

カタヤマ 単純に、今やりたい音楽がこういうものだったんです。今回のアルバムがバンドサウンドが強めなのは、ライブを想定して作ったからで。あと、ロックだけじゃないライブも見に行ったりしていたんですけど、そこで色んなアプローチの仕方も知ったので、もともと自分が持っているロックンロールと組み合わせたらどうなるんだろうというのがソロのテーマになったんですね。

―― 印象としては90年代のミクスチャーをもっとディープにしていくような感じを受けますが、そのあたりはいかがでしょう。

カタヤマ もともとTHE MAD CAPSULE MARKETSが好きだったので、DroogはMADの初期みたいなことをやってたんですよ。

―― それはめちゃめちゃわかりやすいですね。

カタヤマ で、成長するにつれてMADの後期みたいな感じになって。自分の中にある一番大きな引き出しがそこなので、今回のリード曲「NO BAD END」という曲は、タネ明かしするとMADの「TRIBE」っていう曲みたいにしようって。もう全部言っちゃいますけど(笑)。

―― じゃあソロとはいえベーシックな部分は同じだと。

カタヤマ どうなんですかね。でもMADっていう引き出しは開けちゃいました。

―― ということは、開けないようにという意識もあったということ?

カタヤマ いや、ダダ漏れだったと思います(笑)。

―― ははははは。

カタヤマ でも恥ずかしいとかもなく、好きなんだからいいじゃんって気持ちで。

―― そんなふうに開き直れたのは何か理由が?

カタヤマ なんか、ここ2、3年で自分のマインドが変わったというか。ちょっと変な話かもしれないですけど、もともと自己肯定感がすごく低かったんですよ。「俺なんて」みたいな。それで自分のことばかり責めていて。バンドが止まったのもそうだ、とか自分を責めて。それでいて、まわりの同世代が売れていくと悔しくて。でも、自己肯定感を高めると、そういう負の気持ちはなくなっていくんですよ。というマインドコントロールみたいなトレーニングをここ2、3年でしたんですよ。

―― というと?

カタヤマ 自分のことを無下にしない、雑に扱わない。そういうトレーニングをしました。だから今は好きなものを好きって言えるし、MADみたいな曲を作りましたって言える。「食べロック」とかもそのひとつで、ロッカーがグルメの話をしてもいいじゃんって。InstagramやSNSでも自分を肯定していけるようになって。

―― 自分を解放したんですね。

カタヤマ 前は「好きか嫌いか」だったのが、今は「好きか興味ないか」に変わりましたね。

―― そういえば昨年10月、KTYMの初ライブでは過去と未来をつなぐセットリストで、それこそ歌いながら自分を解放していくように感じるステージでしたね。

カタヤマ そうですね。前の自分のマインドだったら、Droogの曲は演りたくないと思ったはずなんです。でも今は、これも自分なんだからって思えるようになって。どう思われてもいいというか。

―― 今の曲作りでは、自然な流れでアレンジとかも決まっていく感じですか?

カタヤマ アレンジはサポートのメンバーにも助けられてますね。ベース、ドラム、ギター、自分が信頼している人たちにお願いしているので、その人たちに割と丸投げというか。好きにやっちゃってくださいって部分もありました。

―― カタヤマさんが思い描いていたソロのサウンドの在り方は、この2枚のアルバムで体現できている感じなんですね。

カタヤマ 体現できましたね。1stと2ndで両局面を見せられた気がします。さっき、MADみたいな曲と言っておきながらアレなんですけど、あまり今はないようなサウンドが作れたんじゃないかとは思うんです。不思議なサウンドというか。そこはすごく満足してます。みんなで作りながらできた感じ。

―― たしかに。当時のミクスチャーというより2022年版の音ですよね。今の存在感があるサウンドになっていて。

カタヤマ イントロが長すぎるかな、とか細かいことは色々あるんですけど(笑)。でも俺はこっちの方が好きだし気持ちいいからこれでいいじゃんって気持ちで入れました。

―― サポートのメンバーたちにも「こういう世界観でいきたい」といったリクエストはしていないんですか?

カタヤマ してないですね。でもみんな意図を汲んでくれてると思います。俺のパーソナルな部分を知ってくれている長い付き合いの人たちなので。

―― 暗黙のうちに共有されているんですね。

カタヤマ 「もっと希望を言え」とは言われてるんですけど。

―― それはありがたいですね。

カタヤマ いやぁ本当にありがたいです。

―― レコーディングはどんなふうに進めていたんですか? サウンドはすごく複雑ですよね?

カタヤマ そうなんですよ。まずトラックがあって、歌をのせるんです。それをみんなに送って各々の音をのせてもらう。そこでひとつデモができる。それをエンジニアさんに送る。で、トラックはそのまま使って音を録り直すんです。

―― Droogのときは一発録りのレコーディングでしたよね。

カタヤマ  一発しかできなかったですからね。

―― やはりレコーディングの過程はかなり違いますね。

カタヤマ はい。もう少し自分も詳しくなって指揮を取れるくらいにならないとって、レコーディング中は毎日思います。今まで知らなかったことを知っていきながらいいものを作ろうとしてますね。

―― Nessさんが作り込んできたトラックに、人力で音を録り直すとなると、当初のイメージとは違ったものにはならないんですか?

カタヤマ やっぱり印象は変わりますね。でもいい方向に変わっています。

―― カタヤマさんとしては、表現したいことがアルバムでできたという手応えがあるんですね。

カタヤマ 手応えはあります。だから次はどんなのを作ろうかなって考えてますね。

―― ライブの方はいかがですか? これまでとは違うステージの作り方ですよね。

カタヤマ そうですね。トラックを流した上でみんなで演奏するので、俺が歌の入り方を間違えると大変。バンドのときはメンバーが合わせてくれたけど、トラックは修正できないので(笑)。

―― なるほど(笑)。でもそういうことも踏まえて面白さを見出している感じですかね。

カタヤマ めちゃめちゃ面白いですね。トラックを流しているからといって人工的なものとは思わなくて。楽器も生で鳴っているし歌も生でうたっているし鮮度は変わらないというか。 ―― トラックも、ギターやドラムと同じ捉え方ということですね。

カタヤマ そうです、そうです。

―― 慣れてきましたか?

カタヤマ まだ慣れないです。でもバンドを始めてからずっと、本番前に余裕だったことなんて一度もないのでそれは変わらないですね。

―― 今作の歌詞は、全体的に立ち上がる力のようなイメージが伝わってきます。

カタヤマ やっぱり今回は、自分の起動スイッチみたいな部分に忠実に作ったので、そういう部分は強いんじゃないかな。あと、1枚目は陰でダークな部分をワッと出せたから、その反動でそういう歌になったんじゃないかな?

―― ポップさも増していいですね。

カタヤマ ありがとうございます。

―― タイトルは『no on my own』と付けられましたが。

カタヤマ “on my own”は自分自身で、という意味なんですけど、noを付けて“一人じゃない”というニュアンスも出したかったのと、「avidya」という曲で<僕はもうここにはいない>というワンフレーズがあって。それを自分なりに英訳したら“no on my own”みたいな感じになったんです。“一人じゃない”“僕はここにいない”、この両方の意味を出したくて直感で付けました。

―― そうなんですね。このnoという響きが効いてるなと思いました。マイナスな響きではなく、肯定感を感じるというか。

カタヤマ はい。ネガティブな意味でのnoではないですね。

―― このソロプロジェクトは「KTYM=Know Thyself Your Madness=汝自身を知れ、己の狂気を」というテーマで始まりましたが、今後も自身を知るための旅はどんどん進んでいきそうですか?

カタヤマ はい。あまり動けない期間にたくさんインプットもできたので、これからはどんどんアウトプットしていきたいと思っています。もう立ち止まってる余裕もないので(笑)。

―― 自主イベントをはじめライブも続々決まってきました。

カタヤマ サポートメンバー、みんな本当にかっこいいプレイヤーだしトラックもかっこいいし、客観的にみてもライブ力が高いと思ってるんですよね。めちゃめちゃ自信があるのでぜひ見に来て欲しいですね。

―― フジロックも楽しみですね。

カタヤマ いやー、嬉しいですよね。すごく楽しみ。30歳新人、初フジロック、カマしてきます!

© 2022 DONUT
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INFORMATION

2ndミニアルバム『no on my own』
2022年7月6日リリース
収録曲:01.NO BAD END/02.森羅/03.Avidya/04.HATE THIS SHIT/05.阿修羅-ASHURA-

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LIVE INFORMATION

■ KTYM LIVE
7月8日(金)F.A.D YOKOHAMA
共演:LTD EXHAUSTⅡ/T.C.L
7月25日(月)下北沢CLUB Que
共演:Mississippi Khaki Hair/THE BLONDIE PLASTIC WAGON
7月29日(金)新潟県湯沢町苗場スキー場「FUJI ROCK FESTIVAL’22」

■ 亜無亜危異「価格破壊GIG-東名阪フリーライブ-」
※KTYMはOpening Actで出演
7月31日(日)名古屋ElectricLadyLand
8月7日(日)大阪味園ユニバース
8月28日(日)東京キネマ倶楽部

■ KTYM presents 阿修羅-ASHURA- Vol.2
8月24日(水)心斎橋Pangea
vs:BLONDnewHALF/o’summer vacation
8月25日(木)名古屋CLUB UPSET
vs:Vanishing/33Insanity’sVertebra
8月30日(火)下北沢Flowers Loft
vs:ザ・リラクシンズ

●ライブ情報は変更になる場合があります。必ず公式サイトをご確認ください。
https://ktym-jpn.com

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