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2022.04.06 upload

ザ・クロマニヨンズ ライブレビュー
「ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL」
2022年3月30日(水) LINE CUBE SHIBUYA

●撮影=柴田恵理 文=森内淳



3月30日、ザ・クロマニヨンズのライブを見にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)へ。ぼくたちが「渋公」と呼び、親しんだこの会場は、その昔、「ロックの聖地」と呼ばれたこともあった。渋公を満員することが日本武道館公演への最初のステップ、といった具合に、ロックバンドの登竜門的な場所でもあったのだ。ぼくらにとって、贔屓のバンドが渋公でやるということはとても特別なことだったし、そのライブを見に行くということも、また特別なことだった。渋公は建て替えられ、場所も移動した。名前もLINE CUBE SHIBUYAとなった。ぼくたちの渋公ではなくなったのか、と心配もしたが、館内の作りや雰囲気が継承されていたので安心した。今日もあの頃と変わらず、特別な思いでクロマニヨンズのライブを見ることができそうだ。

「ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL」は最新作『SIX KICKS ROCK&ROLL』のアルバムツアーだ。このアルバムは少し風変わりな作りになっている。6枚の7インチアナログ盤(CDも同時リリース)、つまりシングルレコードを6ヵ月連続でリリースし、それらをBOXに収納して「アルバム」としたのだ。この発想はSP盤の時代まで遡り、近年ではキティー・デイジー&ルイスが同じようなスタイルで「アルバム」をリリースしている。今回はそれをクロマニヨンズなりにアレンジして現代に蘇らせた。そもそもビートルズがコンセプチャルなアルバムを出すまで、ロックンロールのメインストリームはシングルレコードだったのだ。それを考えるとクロマニヨンズには毎回このかたちでリリースしてほしいと思うのだが、これを続けるにはスタッフの途方もない労力が必要になってくるので、あまり現実的ではないようだ。



19時を少しまわったあたりから前説が始まり、クロマニヨンズが登場する。1曲めは「ドライブ GO!」、2曲めが「光の魔人」。以降「千円ボウズ」「大空がある」とクロマニヨンズはCD版『SIX KICKS ROCK&ROLL』の曲順通りに楽曲を次から次に披露していく。「大空がある」「もぐらとボンゴ」……前述したように、ここで演奏される曲は全部シングル曲だ。オーディエンスが盛り上がらないわけはない。最新アルバムから全曲演奏するのは、今や恒例行事だが、今回は全部シングルとあって1曲1曲に対するリスナーの思い入れも深い。その分、見ている方は息つく暇もない。ここがライブハウスだったらすでにとんでもないカオスになっていたに違いない。



今回はコロナ禍を考慮して、ホールのみのツアーになったので、ライブハウスの熱狂は期待できそうにないように思えるが、それがそうでもなかった。いつものホールツアーはそれなりにセットが組んであり、照明も派手なのだが、今回はいたってシンプルな構成。しかしそれが奏功し、余計なものを意図的に削ぎ落とすことで、甲本ヒロト(vo)、真島昌利(gt)、小林勝(b)、桐田勝治(dr)の4人の存在と彼らが放つロックンロールを際立たせていた。例えばそれはローリング・ストーンズのコンサートのBステージを見るような、ホールにいるんだけど(ストーンズの場合はスタジアムだが)ライブハウスにいるような感覚に近かった。実際、後半の怒涛のクライマックスでは、気分は完全にO-EASTだった。

ライブは「ここにある」「爆音サイレンサー」と続く。コロナ禍で家にこもっていると気分は下がるし、どうかすると自分が駄目な人間のように思えてくることもある。そういう気分をクロマニヨンズのロックンロールはどんどん塗り替えてくれる。なぜか。立川談志の有名な言葉で「落語は人の業の肯定」というのがあるが、クロマニヨンズの曲には多かれ少なかれそういった成分が含まれているからだ。業の肯定はすなわち自分自身の肯定でもある。だからこそ、赤煉瓦の煙突を蹴飛ばせるし、大空があるからなるようになる、と言えるのだと思う。渋公の空気をビリビリと振るわせながら飛んでくる「ごくつぶし」なんかを全身で受け止めていると、か細い心も知らないうちに図太くなる。これがロックンロールの力なのだろう、と思いながらステージを見ていると「縄文BABY」で『SIX KICKS ROCK&ROLL』のパートが終了した。



一息ついて、今度は、前作『MUD SHAKES』より「空き家」「メタリックサマー」「妖怪山エレキ」が演奏された。クロマニヨンズの激しい面も好きだが、シュールな光景を想像させるクロマニヨンズも好きだ。というか、こういう側面を持っているクロマニヨンズだから面白いのだ。この3曲は、ライブにメリハリをつける、あるいは前半と後半の橋渡しという役割があった。しかし、この3曲もまたこのライブのハイライトであり、彼らの真骨頂なのだ。ライブは「暴動チャイル(BO CHILE)」で後半に突入。「エルビス(仮)」「生きる」と続いていく。「タリホー」を終えたところで本編は終了した。



ところが、メンバーは袖に引っ込むことなく、そのままステージに残り、タオルなどを掲げている。どうやらこのままアンコールに突入するようだ。3分くらい経ってから、クロマニヨンズは「エイトビート」「ギリギリガガンガン」「ナンバーワン野郎!」の3曲を叩き込む。本編とアンコールの間に多少のインターバルはあったものの、クロマニヨンズは23曲を一気に演奏したかたちになった。これがすごく新鮮に映った。アンコールなんかやらない、と主張するのもあれだし、だからといって予定調和もつまらない。おそらくステージ袖に引っ込まなかったのはコロナ禍で会場の使用時間が制限されているからだろうが、見え方としては、アンコールという予定調和を面白く覆したような演出になった。

初めて渋公で見たライブは1981年のトーキング・ヘッズだ。あれから40年以上が経つが、今日もあの日と同じようにロックンロールが鳴り、日常ではありえない90分間を体験することができた。クロマニヨンズのツアーは2022年5月5日まで続く。



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INFORMATION

■ "SIX KICKS ROCK&ROLL" ALBUM

AL『SIX KICKS ROCK&ROLL』
2022年1月19日(水) リリース
収録曲:1. ドライブ GO!/ 2. 光の魔人/ 3. 千円ボウズ/ 4. 大空がある/ 5. もぐらとボンゴ/ 6. ここにある/ 7. 爆音サイレンサー/ 8. イエー! ロックンロール!!/ 9. 冬のくわがた/ 10. ナイフの時代/ 11. ごくつぶし/ 12. 縄文BABY/ 【DISC 2】 1. 冬のくわがた(小さいメガネ)/ 2. 光の魔人(夜空のビンギ)


■ "SIX KICKS ROCK&ROLL" SINGLES

SG「ドライブ GO!」
2021年8月25日(水) リリース
収録曲:ドライブ GO!/千円ボウズ


SG「光の魔人」
2021年9月29日(水) リリース
収録曲:光の魔人/ここにある


SG「大空がある」
2021年10月27日(水) リリース
収録曲:大空がある/爆音サイレンサー


SG「もぐらとボンゴ」
2021年11月24日(水) リリース
収録曲:もぐらとボンゴ/冬のくわがた


SG「縄文BABY」
2021年12月22日(水) リリース
収録曲:縄文BABY/ナイフの時代


SG「ごくつぶし」
2022年1月19日(水) リリース
収録曲:ごくつぶし/イエー! ロックンロール!!


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