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2022.03.17 upload

GOING UNDER GROUND インタビュー
「俺たち、こんなに頑張ってるんだ」とか、マジでそういうのはいらないんです。ただただ楽しいというものをやらないんだったら、もう音楽はやらない、というね。それが今の3人なんです
―― 松本素生

GOING UNDER GROUNDがニューアルバム『あたらしいともだち』をリリース。このアルバムを一言で言うなら「ポップ」ということになる。「ポップ」とはポップミュージックの「ポップ」であり、過剰な感情で彩られた歌詞から距離を置いたゆえの「ポップ」であり、楽しいことだけを追求したがゆえの「ポップ」だ。石原聡が歌う「トンネルボーイ」や「ヒロトとマーシー」というタイトルのロックンロールナンバーなど、遊び心も臆することなく注入している。松本素生は「情緒が邪魔になった」と言った。その言葉がぴったり当てはまるアルバムだ。自分たちの楽しいと思うことをやった結果、独りよがりな作品になるどころか、彼らのアルバムのなかで一番大衆性を獲得した作品になった。この逆転現象はとても興味深い。今回も前回同様、リモート取材で3人にインタビューした。『あたらしいともだち』はいいアルバムだ。

●取材・文=森内淳

―― 『あたらしいともだち』というアルバムができました。これがとてもいいアルバムで。

松本素生 あ、よかったです。

―― 最高傑作といってもいいんじゃないですか?

中澤寛規 マジすか?

―― みなさんの手応え的にはどうなんですか?

松本 GOINGの作品のなかでも相当好きですけど。

―― 新しいGOING像を獲得したような内容になっていますよね。

松本 そうですね。コロナがあったじゃないですか。後付ですけど、それもけっこう重要だったんだな、って、作り終わって思ったっていうか。これからどういうふうに音楽をやっていくのかとか、ライブも今までのようにできないなかで、それでも音楽を好きなのか、みたいな、それぞれの心がクローズアップされたときに、バンドで音楽をやることは、コロナ禍でライブが云々とか、そういうことは関係ないっていうか、あらためて音楽が好きなんだな、と思えましたね。

―― 緊急事態宣言の期間に、より音楽と向き合えたわけですね。

松本 僕は曲を書いているんで、それでいうと、めちゃくちゃ集中できたというか、そもそも家にいるのが好きだし、家でレコードを聴いて、本を読んでっていうのが最高に楽しい生活だから、それがけっこうね、いい方に作用していますよね。誰にも会わなくていいとか。

――「望郷東京2020」が、このアルバムを作るきっかけになっているんですよね。

松本 そうです。このアルバムのセルフライナーにも書いたんですけど、もともとコロナになる前から運営も含めて3人でやるということにシフトしていこうと話していたんです。今までの方法論だけでバンドを大きくしていく、みたいなことにリアリティや面白みを感じられなくなったというか。そう思ったときに、断捨離じゃないですけど、バンドをミニマムにしていって、まずメンバー3人がご飯を食べられるようにしていこう、っていうことで、前の事務所を辞めたんですよ。それから「さあ、何をやろうか?」っていうときにコロナが来たんですね。

中澤 ただ、3人でやろうと決めたときには、まだ具体的にアルバムを作ろう、という話もしてなかったんですよ。3人でスタートしたものの、わりとマイペースでのらりくらりとやってて。なんとなく、いい感じでやろう!みたいな(笑)。本当に無計画というか、なんとなく肩の荷が下りたなあ、みたいな開放感はあったんですけどね。

松本 でかいバンドと2マンが決まってたということもあってドーンと構えていたんですよ。

―― その話もコロナ禍でなくなったんですよね。

中澤 そうなんです。ちょうどその頃に「望郷東京2020」ができて。素生から曽我部(恵一)さんが気に入ってくれて一緒にやろうって話になってるって聞いて、「じゃ配信でもなんでもいいからすぐにリリースしてみようか?」みたいなノリから「やることもないしこのままアルバム作っちゃおうか?」という流れに自然になっていきましたね。図らずもコロナにケツを叩かれたというか。

―― 前回のインタビューの繰り返しになりますが、「望郷東京2020」はレコーディングの方法から違ったんですよね。

松本 そうですね。ほぼデモテープみたいな状態でリリースしたというか。そもそもデモテープってなんだっけ? みたいなところも含めて、そこは曽我部さんのディレクションというか。「iPhoneで録った段階でいいテイクが録れてるのに、なんでこれで駄目なの?」っていうクエスチョンを投げかけられたときに「なんで駄目なんだっけ?」っていうことをひとつひとつ考えていったら「自分たちがいいんだったらなんでもいいじゃん」っていうところに行き着いたんです。シンプルな方向にどんどん行きたいということはナカザ(中澤)とも話していたし、今、メンバーもそういうものを指向しているんだろうな、っていう。それは意見としてまとまってましたね。

中澤 「望郷東京2020」ができたあとに「ビーチパーティー」も同じような流れでできて、その勢いで素生から3日に1回くらい新曲の弾き語りが送られてきて。そこに僕は思いついたアレンジを加えて、また素生に投げ返して、みたいな。ずっとリモートのやりとりで曲を作っていきました。

石原 聡 そうやって仕上がってきたものに、さらにパソコンでベースを入れるというね。「望郷東京2020」はメンバーにはまったく会わずに、全部データのやりとりだけで作りました。

松本 それで言うと、アルバムの曲はスタジオで録ったのが半分くらいですかね。

中澤 とはいえ、デモテープで一旦かたちにしたものを持って、リズム楽器と歌をスタジオで録る作業をやりました。スタジオ録音は3日間くらいかな。

石原 ナカザはスタジオではほとんどギターを弾いてないもんね。

中澤 スタジオでは弾いてない。

石原 ドラムとベースだけ録りました。

中澤 「ヒロトとマーシー」だけかな、スタジオでギター弾いたの。

―― この曲は一発録りなんですよね。

松本 そうです、そうです。

―― 「望郷東京2020」の次にリリースされた「ビーチパーティー」も「望郷東京2020」と同じ気分の楽曲ですよね。

松本 iPhoneで録ってナカザに送ったままのデモ音源を日付順に並べたCDを今回のアルバムの購入特典にしようかと思ってるんですけど、iPhoneって録音した日にちが出るじゃないですか。「ビーチパーティー」も「望郷東京2020」と同じように緊急事態宣言になってから書いているな、ということがわかりますね。

―― この2曲がこのアルバムの肝になってますよね。

松本 音楽に対するいろんな捉え方があると思うんですよ。僕らとしては「関係ないな」ということだったんですよね。

―― というと?

松本 ロック・ミュージックをやることに関して、世間の流れとか状況とかどうでもいいという捉え方が「ビーチパーティー」と「望郷東京2020」には表れていますよね。コロナ禍で音楽シーンが一旦焼け野原になったじゃないですか。むしろGOINGは焼け野原が向いてたっていう。GOINGはたくましかったっていうことを再確認したんですよね。元気をなくしている友達のミュージシャンもいたし、捉え方はいろいろあると思うんですけど、僕らはね、そこに関しては関係なかったというか。だからこそああいう曲ができたのかな、って思いますね。

―― 「ビーチパーティー」も「望郷東京2020」もGOINGの新境地で。アルバムを聴いても、歌詞やアレンジも含めてGOINGのパブリックイメージみたいな縛りから解放された印象がありました。

松本 それはやっぱりありますね。本当に3人だけになったし、やりたいことしかやりたくないし、そのために3人になったんだな、と思って。だから自分が作って「これ、最高じゃん」って思ったものをメンバーに投げたときに、メンバーも同じ気分をすぐに共有できるという。

―― 「こうやればGOINGのファンに受けるだろう」とか「大衆に訴えるだろう、とか、GOINGっぽさを出せるだろう」とか、そういうものがなくなったというか。そういう印象がありました。

松本 このアルバムの良さというのはそこなのかもしれないですね。

石原 それは、ここ何年かずっと密かに思ってたことで、今、そうやって感じてくれたことがこういうことにつながるんだな、と思って。もともとGOINGが始まったときって、素生が曲を書いてきて「こんな曲いいだろう?」みたいなところから始まってるんですけど、やっぱり何十年もやっていくと、いろんな人が関わってきたり、タイアップがあったり、この曲をシングルにしたいんだけど、って言われて、本当はこっちの曲がよかった、みたいなこともあって。それはそれで全部、経験としてはよかったんですけど、ここ何年間は、ただ松本印が出ればいいんじゃないのかな、って思ってて。だから今回のアルバムの曲も「そりゃないんじゃないか」って曲がない限り、口を出してないんですよ。そういうところが作品に出てるんじゃないかな、と思うんですよ。素生は良くも悪くも他人の意見を聞きすぎるところもあるんで、だからもう今作は松本印がドンと出たのがよかったなあ、と思いますね。

中澤 自由度は高いですよね。「トンネルボーイ」という曲で石原さんにリードボーカルを任せてるくらいだから(笑)。テクニック的なところで言えば、もともとGOINGは5人だったんで、鍵盤がないと気持ち悪いな、とかいう時期もあったんですけど、もう3人になったバンドなんで、ライブではサポートメンバーがいるにせよ、まず3人が演奏をしている絵が見えるような音像というか、そういう楽曲になればいいな、というのがありましたね。今回はそこをてらいなくやれたというか。

石原 例えば「望郷東京2020」の最初にiPhoneで録った弾き語りを、素生がすごく気にして「音よれてない?」とか言ってたんですけど、曽我部さんが「全然いいじゃん」って推してくれたのがでかかったと思います。昔だったら、たぶん録り直してると思う、絶対。だけど今回はそうはしなかった。そういうのが全部いい方向に向いたんじゃないかな、と思います。

松本 どうでもよくなったんだよね。

中澤 「トンネルボーイ」も、素生が「こんなロックンロール・ナンバーできたから、ちょっとやろうよ」みたいなことになって。リハスタかなんかでパッと合わせて作ったんだけど「いいんだけど普通だな」みたいな。「これ、石原さんが歌ったら何か化けるんじゃないかな」って思って、試してみたらやっぱり化けましたね。

石原 評判はよかったです(笑)。

中澤 ようやく3人のなかでGOINGのリンゴ(・スター)みたいなポジションができたな、と思って(笑)。「I Wanna Be Your Man」みたいな(笑)。

松本 それで言うと、ナカザからダメ出しが出たのも「潮騒」くらいだよね。「潮騒」の歌詞、ダサくない? みたいな。

中澤 そんなこと言ったっけ?

松本 全部、書き換えたんだよ、あの曲。

中澤 あんまり言った記憶がない(笑)。

松本 すごく真面目な歌だったんだよ。時系列があって。

中澤 ああ、なんとなく思い出した。

―― 今、歌詞の話が出てきましたが、実は今作の歌詞は私小説的ではないんですよね。

松本 そうなんですよ。

―― 「潮騒」にしても「昼呑み」にしても「ナイトフライト」にしても、たぶん素生さんの私小説的なところから始まっているとは思うんですけど、最終的には大衆が共有できるような歌詞に着地しているという。

松本 そういう歌詞に飽きちゃったっていうのがありますね。例えば、聴いている音楽も情報量が多い音楽っていうのが聴いてらんなくなっちゃって。演奏しているバンドがそのままの編成でライブでやっても成立するような音楽が好きなんだな、っていうことに気づいたんですよね。「音源で迫力を出すとか、なんか意味があるのかな?」って。それよりも3人がステージに立って、ライブをやったときに「あ、レコードと同じだ」というのが一番いいな、と自分のなかで感じちゃって。そう考えたときに歌詞も、自分の苦悩だったりとか、そういうのが嫌だから音楽をやってるのに、なんでそこでまたそれをあぶり出すようなことをしないといけないのかな、っていう。テクニック論として、それはもう絶対にやりたくないし、飽きちゃったというのが本人的にはでかいですよね。

―― 大衆にすり寄ることをやめた途端に、大衆性を身に着けたという。このアルバムはバンド史上一番ポップですよね。

松本 そこに関してはナカザが一番気づいていたと思います。曲と歌詞をナカザに送ったときに「ああ、いい感じだ」っていうことになっていれば、そこに着地しているんだろうな、とは思ってました。だから「潮騒」に関してはそこに着地してなかったんだな、って。

中澤 あんまり自覚はしてないんですけどね(笑)。

松本 曲を聴かれたときに、歌の景色がどうなるのか自分でもわからないようなものがいいというか。海に行きたいというシーンで「潮騒」は始まるんだけど、海に行くためにバスに乗るんだなあ、とか、そういうことが書けたのは、今までとは全然違いますね。あとは「売れるために」とか、そういうところと楽曲をなるべく切り離したかったんですよね。もちろん、これでご飯を食べるわけだからそういうふうに思ってもいいんですけど、ただ曲を作る出発点をそこにしたら駄目っていうか、僕は音楽が好きで何万曲も聴いているので、そういう曲は一瞬でわかるんですよ。友達のバンドの曲を聴いててもね。それって一番ダサいと思うようになったんですよね。ダサいことはしたくないっていうのもあるし。そういう曲の作り方をするんだったら、3人でやるっていう意味がそもそもないっていうのもあるので。曲を作る出発点でそこをクリアできてたらどうにでもなるって思っています。

―― 売れるためのマニュアルを排除して出発したアルバムが一番売れそうなアルバムに仕上がったというのがまた面白いですよね。

松本 ところが今回はCDの全国流通をやらないでライブ会場と通販限定で出すんですよ。

―― それは何か理由があるんですか?

松本 いずれサブスクでも配信するつもりなんですけど、なんか3人になって最初はDIYで何から何まで全部やって、流通も自分たちで発送して、どこまで行けるのか挑戦してみようよ、っていうナカザの意見もあって。それに乗っかったんですよね。僕は流通先を最後まで探してたんですけど。

―― 流通は大変ですよね。DONUTもAmazonとディスクユニオンだけで、流通をやめましたからね。

松本 それでも僕の新潟の友達はDONUTを買ってSNSに上げてましたからね。やっぱり好きな人はアクセスして買うんだな、っていうね。まずそこじゃないか、と。いろんな人に届くように、いつでも手に届くようにするのが大事、って言ってるけど、今は好きなものを目指して行く、っていう感じになってるじゃないですか。そういうことになっていけばいいのかな、とは思いますけどね。それで淘汰される覚悟も全然あるっていうか。余裕でしょ。

―― その余裕がなきゃ「ヒロトとマーシー」なんてタイトルはつけないですよね。

松本 できちゃったんだもん!っていうことだよね。

中澤 できちゃったんだったらやろう!っていう。

―― ヒロトとマーシーっていう歌詞が出てこなくても十分に成立している曲なんですけどね。

松本 それは曽我部さんにも言われました。

―― あ、そうなんですね(笑)。

松本 曽我部さんの意見としてはあまりにも素生くんとナカザが見えすぎる、って言ってて「曲はめちゃくちゃいいのにもったいないんじゃない?」っていう話があったんですけど、ただ、これはこのままやらないと意味がないということで。僕は他人の意見をけっこう聞いちゃうんですけど、そのときも、ナカザが「それは一意見じゃない?」って言って。そこはバランスですよね。

―― これもひとつの遊びですよね。そういう余裕がありますね、この作品には。

松本 明らかに今までのアルバムとは手触りが違うんだろうな、というのはなんとなくわかります。メジャーで出したファーストとかを考えると「ここまで来たな」と。それはおおいに思いますね。

―― アルバム・ツアーはやるんですか?

松本 やりたいよね。

中澤 そうだね。

松本 ワンマンは月に1回くらいはやっていこうと思っていて。ライブハウスを、ライブを見たりCDを買えたりできる「場所」にしていきたいな、っていうのがあるんですよね。あの店にラーメンを食べに行こう、っていうのと同じですよね。

中澤 実はレコーディング自体は去年の段階で終わってたんですよ。で、素生に「早くCDにしたいからアルバムタイトル決めてよ」って言ってたんだけど、全然出してこないからなかなかCDを作れなかったという(笑)。

松本 『あたらしいともだち』というタイトルは一番最初に出てきてたんだけど「どうかな?」と思っていて。ナカザには「このアルバムからはこういうことを感じてる」って相談はしていたんだけど「じゃあその気持ちをタイトルに落とし込めばいいんじゃないの?」って素っ気なく返ってくるだけで、全然、決まらなかったんですよ。それで「出発点で思い浮かんだものが何よりも強い」っていうことを今回のアルバムを作る上で身にしみてわかったので、『あたらしいともだち』でっていうことで。

―― このアルバムを表す最高のタイトルだと思います。

松本 ここにたどり着くまで長かったね(笑)。

中澤 長いんだよ! 去年の暮れぐらいから「早くタイトルを決めて!早く出そう!」ってケツを叩いていたんですけど。早く出さないと自分らがもう飽きちゃうよっていう(笑)。正直、そっちの気持ちが勝ち始めてた(笑)。

―― ジャケット・デザインのポップ感というか抜け感もいいですね。

松本 ジャケットにしても、バンドを取り巻いている空気感を落とし込んだりとか、いい感じの風景とかをジャケットにするとか、なんかもうつまんなかったんですよね。それよりも本屋さんで背表紙を見て「なんだ、この本?」っていうぐらいの、わかんないものの方がよかったんですよ。変な情緒を寄せ付けないものにはなったな、と思います。情緒がすごく邪魔だったっていうのはありますね。

―― そこが今回のアルバムの肝ですからね。

松本 そうなんです。「俺たち、こんなに頑張ってるんだ」っていうのとか、マジでそういうのはいらないな、と思って。ライブの組み立て方もそうですけど、ステージ上で大きい声でいいことを喋りまくるとか、本当に嫌だな、と思ってるんですね。例えば、コレクターズのように、大事なことをステージ上で言わないっていうのもタフネスだと思うんですよ。だから何周もまわって「これはモッズの姿だな」っていう気がするんですよ(笑)。そこを嗜好している人が絶対にいるし、情緒から切り離されて、ただただ楽しいとかっていうものをやらないんだったら、もう音楽はやらない、というね。それが今の3人なんですよね。

© 2022 DONUT
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INFORMATION


『あたらしいともだち』
2022年3月19日リリース(ライブ会場+通販限定)
収録曲: 1. 潮騒 2. ナイトフライト 3. 昼呑み 4. moon dance 5. ヒロトとマーシー 6. トンネルボーイ 7. momotaro 8. 望郷東京2020 9. ビーチパーティー 10. 根無草のランデヴー


ライブ情報は公式サイトで確認してください。
https://goingunderground.tokyo/contents/live

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