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2021.06.23 upload

ライブ対談
貴ちゃんナイトvol.13〜I'm only 60 years old〜
2021年5月29日(土)Billboard LIVE TOKYO

●撮影=俵和彦

貴ちゃんナイトはラジオ・パーソナリティの中村貴子が見たいと思うアーティストの組み合わせで行われる。主催者の意思がイベントに反映されるのは当然で、そんなイベントは星の数ほどあるけれど、毎回、出演者の発表前にチケットが売り出されるイベントは珍しい。というかフジロックの早割くらいか。つまりお客さんは中村貴子に絶大な信頼を寄せているのだ。なぜなら彼女がラジオでかけてきた音楽は彼らにとって間違いないものだったからだ。出演者の気合の入れ方も違う。「イベントに呼ばれて演奏する」というよりも「中村貴子のラジオに呼ばれる」という感覚になるからだと思う。それが貴ちゃんナイトの面白さや独特の空気、緊張感に繋がっている。出演者発表前にチケットをおさえたくなるのもわかる気がする。

2021年5月29日(土)に行われた貴ちゃんナイトは、いつもの貴ちゃんナイトに加え、中村貴子の還暦記念という要素が加わった。会場も下北沢のライブハウスではなく、六本木ミッドタウンにあるBillboard LIVE TOKYO。1部と2部の完全入れ替え制で、1部が中田裕二と田島貴男による弾き語りのライブ。2部がクハラカズユキ(Dr/The Birthday)・林幸治(Ba/TRICERATOPS)・山口洋(Gt/HEATWAVE)・藤井一彦( Gt/THE GROOVERS)の「ドリーム・バンド」にゲスト・ボーカルとして浜崎貴司、百々和宏、1部の中田裕二、田島貴男が登場するという内容だ。

もちろんライブ・レポートもいいんだけれども、今回は特別な要素が満載だし、違う試みがあってもいいんじゃないか、と思い、主催者である中村貴子と対談するというかたちで、裏方の目線からライブの模様を届けることにした。通常のイベントに比べると独自性の高い貴ちゃんナイトがどうやって作られているのかも含めて、楽しんでもらえれば、と思う。ちなみに今回のイベントのサブタイトル「I'm only 60years old」はザ・コレクターズの加藤ひさしが還暦ライブの前に行った衣装展のタイトルからとったもの。この話もしてもらったのだが、なにせライブ部分だけで1万字近くになったので、ライブ内容についての話以外は極力カットした。




森内淳 今回の「貴ちゃんナイト」は中村貴子の還暦記念回だったけど、貴ちゃんが思いついたわけではないという話なんだけど。

中村貴子 うん。The Birthdayのクハラカズユキさんがきっかけ。2019年11月に代々木ザーザズーであった百々和宏さんの誕生日ライブの打ち上げで「60歳のイベントをやったほうがいい」って言ってくれて。「ミュージシャンの誕生日を祝うのは大好きだけど、裏方が自分で祝うのは寒いし痛いと個人的には思う」と答えたんだけど。

森内 たしかに(笑)。

中村 でも「60才は一生に一度しかない」って何度も言ってくれて。「俺、ドラムを叩くから」って。

森内 それは強烈な一言ですね(笑)。

中村 隣にいた百々くんも「貴ちゃん、やった方がいいよ」って言ってくれて。

森内 追い打ちをかけたんだ(笑)。

中村 「バンドがいて、そこにゲストボーカルが入ってくるようなイベントがいい」「俺もそのほうが参加しやすい」って、その場でキュウちゃんと百々くんが話してくれて。

森内 もう逃げられない(笑)。それが今回の貴ちゃんが「ドリーム・バンド」って呼んでいる2部に出演したバンドに繋がっていくわけですね。1部のアコースティック・ライブという発想はどこから来たんですか?

中村 その4ヶ月後の「貴ちゃんナイト vol.12」の打ち上げで、中津川ソーラーのスタッフが「中津川のリスペクトステージで、その日来ている貴ちゃんの知り合いのミュージシャンにアコースティック・セットで祝って貰うと楽しいね」と話してて。

森内 また打ち上げですか(笑)。

中村 完全にお酒の席の話(笑)。でもそこで「弾き語りだけでワンステージ」というイメージがインプットされたんじゃないかなぁ。

森内 貴ちゃんナイトは打ち上げで作られていくわけね(笑)。1部には中田裕二さんと田島貴男さんが出演しました。



中村 中田さんにはずっと出て欲しいほしいと思ってたんだけど、良い組み合わせが考えられず実現できなかった。だったら中田くんに合わせる形でイベントを組もうと。

森内 逆の発想ですね。

中村 「まだ妄想の段階なんだけど、還暦ライブをやるかもしれなくて、そのときには中田裕二さんに出て貰いたい」っていうフンワリしたメールをマネージャーさんに送ったときに、たまたま横に中田くんがいて。

森内 すごいタイミングですね。

中村 貴ちゃんナイトは不思議とそういうミラクルがたくさん起こる。マネージャーさんも、その日、久しぶりに中田くんと会ったらしくて。「嬉しいです!ぜひぜひ!!」と言ってますと。そのときはまだ開催時期も会場も共演するミュージシャンもわからないのに「貴子さんの記念すべきイベントの末席に加えて貰えるなら、組み合わせなど、中田へのお気遣いは一切無用」って。

森内 トントン拍子だ。

中村 森内さんも知っているように、私は「早く50歳になりたい、早く60歳になりたい」って思ってたのね。今だとコンプライアンスがどーのとか突っ込まれるかもだけど、世間的な風潮として女性の60歳をお祝いするのはちょっと気が引けると思う人もいるでしょ?

森内 たしかに。

中村 私の還暦をシンプルに受け入れてくれるのは誰だろうと考えたら、リスナーズ・ミュージシャンなんじゃないかと思って。中学高校時代に私の番組を聴いてくれてた人は「60までずっとラジオパーソナリティを続けて来たんだ。そして今、一緒に仕事してるんだ」って素直に「おめでとう」を言ってくれると思ったんです。

森内 たしか中田裕二さんはNHK FMの「ミュージックスクエア」のリスナーだったんですよね。

中村 ありがたいよね。そうやって、まだバラバラだけどイメージが浮かんできて。

森内 Billboard LIVE TOKYOで開催したけど、今までとはずいぶん趣の違う会場になりました。

中村 去年、THE SOLAR BUDOKANのオンライン・フェスのために数回Billboardで無観客のライブ収録をしたんです。そこでLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS、Nothing's Carved In Stoneといっためちゃくちゃロックなライブを見たんだけど、カーテンを開けた景色も含めてしっくり来て。下北CLUB 251も代々木ザーザズーも、自分が何度もライブを見に行って好きになったハコだから決めたので、Billboardも楽しいなぁと。で、2020年の秋にロッキン・カルテットという有観客イベントを見に行ったら、ひとりにひとつずつアクリル・ボードと消毒ボトルが用意してあったんだよね。

森内 当日もありましたね。その辺、すごくしっかりしてました。

中村 もともとたくさん人を入れてもゆったり見られる会場だし、ビル3階分の吹き抜けで、ソーシャル・ディスタンス、換気はばっちりで、消毒や検温もきっちりしてたから「ここなら、久しぶりにライブに来たお客さんも、安心して集中して楽しめるね」「還暦だから大人っぽい雰囲気もいいかな」と思って、バラバラだったピースがはまり出した感じかな。

森内 というと?

中村 中田裕二さんはBillboardが似合うよね、ライブ収録のときのロックバンドも似合ってたよね、1部・2部の完全入れ替え制だから、1部が弾き語りで、2部がバンドでできるよねって。還暦記念回じゃなかったら、今年はやってなかったかもしれない。

森内 なるほど。開催しない可能性もあったんだね。田島貴男さんはどうやって決めたんですか?



中村 個性の強い中田裕二さんの対バン相手が誰だったら「オーディエンスの私は嬉しいかな」と考えて。「大好きな田島貴男さんとのツーマンが見たい!」と。田島くんは中田くんが多大なる影響を受けた四天王のひとりだし、田島くんも中田くんのことをリスペクトしてる。出演者の皆さんが楽しんでくれることが大切だから「この組み合わせだ!」と。だから田島さんには「中田裕二さんとの弾き語りツーマンです」とオファーして快諾していただきました。「久しぶりの共演だから、中田くん、さらに腕を上げてるだろうなぁ」って楽しみにしてくれてた。

森内 なるほど。1部はそれぞれの弾き語りだったので、田島さんをブッキングした時点で内容は見えてくるけど、2部はそうはいかないという。

中村 そもそも還暦イベントはキュウちゃんがきっかけだから、2部で最初に連絡したのはキュウちゃん。

森内 そうなりますよね。

中村 「覚えてないかもしれないけど、60才のライブをやろうって言ったことを真に受けました」ってメールして(笑)。

森内 そうか、打ち上げの席だから忘れてる可能性もある(笑)。

中村 「還暦は一生に一度!素敵じゃないですか!」っていう返事が来て。

森内 よかった(笑)。

中村 バンドメンバーやゲストボーカルが決まるたびにキュウちゃんに報告するんだけど、「緊張します」「ますます緊張してきました」って。それだけなのね、返事が(笑)。

森内 まぁギタリストの二人がツワモノですからね(笑)。

中村 圧がある(笑)。大好きなTHE GROOVERSの藤井一彦さんとHEATWAVEの山口洋さんとTRICERATOPSの林幸治さんにオファーしました。

森内 林さんの人選を意外に思った人もいたそうですね。今回、林さんに声をかけたのは?

中村 トライセラのファンなのはもちろんだけど、私にとってはPLAGUESを復活させてくれたベーシストでもある。PLAGUESの深沼(元昭)くんのサポートで弾いてる林くんを何度も見てきたし、レコーディングに参加した浅井健一さんも素晴らしいベーシストと絶賛。コーラスもできるし、他の3人ともあまり接点がないから繋がってくれると嬉しいなと思って。

森内 そうやって藤井一彦・山口洋・クハラカズユキ・林幸治というメンバーが揃ったわけですね。そこにゲスト・ボーカルが入るんですけれども。









中村 でも、このバンドをフェスでよく見かけるハウス・バンドとは思ってなくて。

森内 あ、そうなのね。貴ちゃんの中ではどういう捉え方だったんですか?

中村 最初からGROOVERSの曲もHEATWAVEの曲も歌って貰うつもりだったし、ゲストボーカルを入れずに、このドリームバンドだけでワンステージっていうのも素敵だと思ってたから。

森内 なるほど。実際、ライブでは12曲中5曲をこのバンドのみでやりましたからね。あとの7曲にゲスト・ボーカルが入るという。ボーカルはどうやって決めたんですか?

中村 まず1部のお二人にも2部でセッションで参加して貰いたい!ということになって。

森内 中田さんと田島さんは連投でした。

中村 「こんなに楽しいメンバーと一緒にやれるのなら喜んで」と田島さんも中田さんも快諾してくれました。

森内 浜崎貴司さんは?

中村 田島さんも中田さんもブラック・ミュージックがルーツにあるので、同じブラックの香りのする大好きなボーカリストをお呼びしたくて「もうファンクと言ったら浜ちゃんでしょ!」というところでお願いしました。

森内 なるほど。

中村 ドリームバンドの方はロックがルーツの人たちなので、ロックンロールと言ったら「モーサムの百々くんでしょ!」ということでオファーをして。キュウちゃんが「還暦ライブをやろう」って言ったときに一緒に背中を押してくれたし。

森内 半分、言い出しっぺのようなものですからね(笑)。

中村 酔っぱらってたから覚えてなかったけど(笑)「言っといて良かった!」と即答してくれた。貴ちゃんナイトの組み合わせを考えるとき、いつも脳内に映像が浮かぶかどうかを大事にしてて。数秒間の動画みたいな。百々くんはほぼ全員のミュージシャンと顔見知りだし、田島くんと浜ちゃんが喋ってる様子とか、中田くんと田島くんが話している絵も浮かぶ。楽しそうなリハや楽屋の風景が妄想できたから、このメンバーなら間違いないな、と確信しました。

森内  1部はそれぞれのアーティストのソロのパフォーマンスが主体でした。1部の選曲については何かリクエストしたんですか?

中村 今までの貴ちゃんナイトと同じく「皆さんが歌いたい曲をやってください」と伝えました。対バン相手を意識した選曲でもいいし、とにかく楽しんで欲しいでもいいし。お二人とも最高のセットリストを組んでくれたので、いちオーディエンスとして純粋に楽めました。

森内 1部のラストはOriginal Loveの「接吻」のセッションでした。



中村 中田裕二さんは「接吻」をカバーしてたから、本家:田島貴男さんと一緒に歌うところを生で見たくてリクエスト。夢が叶いました。

森内 一方の2部はいろんな曲が入り混じったステージになりました。リハーサルはいかがでしたか?

中村 まず、リハに入るまでがめちゃくちゃ大変だったから、そこから聴いて!

森内 わかりました(笑)。

中村 セットリストが出揃い始めてから、ゲストボーカリストの曲は、ギターサウンドじゃないことに気がついた(笑)。そもそも歌謡曲はライブで演奏することを前提にしてないし。それを、ギター2本とドラムとベースだけのアレンジに変えなくちゃいけなくて、藤井一彦さんにバンマスをお願いしました。みんなで共有してるDropboxに、まず原曲が入り、一彦くんが起こしてくれた譜面が入り、ギターアレンジしてくれたデモ音源が入り。「とんでもないことを頼んでしまったな」と胸が痛くなって。マジで新しいデータが届くたびにDropboxに向かってお辞儀してたもん。

森内 ものすごい労力がかかってる。

中村 で、リハーサルの初日。ボーカルを入れず、まずバンドで合わせたんだけど、「このキーボードの和音はどうする?」「4人だけでどうやって成立させる?」みたいなことをメンバーが相談しているところを見て「私の妄想のせいで、ものすごく大変なことに巻き込んでしまったな」と。

森内 その労苦があっての2部だったわけね。

中村 でも4人ともめちゃくちゃ上手い上に真面目だから、みんなでアイデアを出し合って、ギター・アレンジのバンドサウンドに生まれ変わっていく過程は感動的だった。

森内 中田さんも田島さんもカバーだったんだけれども。

中村 1部では、それぞれのオリジナル曲で、中田裕二ワールドと田島貴男ワールド全開でやって貰うから、ドリームバンドでは違う面が見たくて。中田くんはカバーアルバムのタイトルにもなった『SONG COMPOSITE』というイベントをやってたし、田島くんはちょうどNHKの『The Covers』という番組にも出たりしてて、造詣が深いことはわかってたので、最初からカバー曲を歌って欲しいとリクエストしました。

森内 2部の1曲目がいきなり中田裕二さんの「ルビーの指環」という。



中村 昨年のSTAY HOME期間中に中田くんがインスタでカバーして、公式You Tubeに「ワンコーラス歌ってみました」動画をアップしてたのをスタッフが見て「ドリームバンドの世代、ど真ん中ですね」って。

森内 あ、そうなんだね。

中村 中田くんとは、今までのインタビューでも、寺尾聰さんやルビーの指環の話をしてた。昔の歌謡曲には洋楽やAORのエッセンスが入ってるじゃない?中田くんは洋楽にも邦楽にも詳しいからバックボーンまで見てカバーしてる。でも果たして、貴ちゃんナイトでやりたいと思うかなぁと。

森内 なるほど。

中村 「あくまでも仮のセットリストなので無視してくれていいですよ」と渡したら「人前でやったことがないし、バンドでやったこともないので、本人、ルビーの指輪を歌いたがってます!」って返信がきた。

森内 またしてもトントン拍子だ。

中村 曲紹介なしであの曲のイントロで中田くんが登場したら受けるんじゃないかと。

森内 意表をついた演出になりますよね。

中村 当日のリハではイントロが始まってからマイクのところまで歩いて間に合うか練習した(笑)。で、頭の3曲のカバーのすごいところはオリジナル・キーでやってるところ。中田くんの低音を、あそこまでまるまる1曲分聴けることはめったにないと思う。ボーカリストは自分の声が一番きれいに響くところを見せたがるのものだけど、二人は原曲に対してリスペクトがあるから「今回はオリジナル・キーでやります」って。

森内 2曲目は1曲目以上に読めない選曲でした。



中村 田島さんと中田さんに1曲デュエットして貰いたくて、中田くんに「この豪華なバンドで、なおかつ田島貴男さんと一緒に歌ってみたい曲は?」って訊いたら5曲あげてくれた。その中から田島くんが選んでくれたのが「Mr.サマータイム」。

森内 どんどんドリーム・バンドのハードルが上がっていくという(笑)。

中村 「Mr.サマータイム」はオリジナルキーがB♭m(Bフラットマイナー)で、ギターだとめちゃ面倒くさい。しかもB♭mから二回半音で転調するところまでオリジナルアレンジに合わせることになって「手がつりそう」って、あの上手いギタリスト二人が言ってた。

森内 このバンドじゃないと無理だったかもしれない。

中村 「いとしのエリー」は田島さんが選んでくれたんですが、これも原曲通りなんですよ。原曲ってふわっと終わるのね。でもライブでカバーするときは違う響きのコードで終わりたくなったり、最後にジャ〜ンって入れたくなる。

森内 なるほど。

中村 でもふわっと終わったでしょ?

森内 ふわっと終わった。

中村 「これがいいんだよ。この暗い感じで終わるのがたまらないんだよ」って田島くんが言って(笑)。原曲とは違うギターアレンジなんだけど、コードだったりフレーズだったりをすごく忠実に再現してる。でも編成はバリバリのロックバンドという音楽的な面白さ。

森内 これね、ライブ・レポートだったら頭3曲は往年のヒット曲を云々っていう話で終わりかねなかったね。

中村 そうだね。全部、ライブ当日に至るまでの話だから。

森内 今の話を聞いていると「いいものを見たなあ」って気分がさらに高まる(笑)。

中村 でしょ(笑)。

森内 そういえば、「いとしのエリー」は林さんのコーラスで始まったよね。

中村 トライセラの中で、地声が一番高いのは吉田(佳史)くんなんだけど、裏声で一番高いところを出せるのは林くんなのね。だったら、アタマの部分、歌っていただきましょう〜って(笑)。

森内 はははははは。

中村 リハーサルもすごく楽しかった。「林くん、やってみて」「わ、声が出る!」「おーっ!」って(笑)。中学生が練習スタジオに入っているみたい。浜崎貴司さんが参加したリハで最初に「風の吹き抜ける場所へ」をやったとき、テンポが速すぎて、あの早口言葉みたいな部分が、もっと早口になって。何度、思い出しても笑える(笑)。皆さんに、是非、FLYING KIDSの「幸せであるように」と「風の吹き抜ける場所へ」の原曲を聴いて欲しい。イントロにエレキギターなんて入ってないから(笑)。浜ちゃんもSNSに「スペシャルバンドの皆さんが、長年、歌ってきた曲の違う顔を引き出してくれて驚きと嬉しさを感じた」と書いてくれてた。

森内 バンマスとバンドの努力の成果だね。3曲のカバー曲の次は藤井一彦さんが「The Other Side of the End」と「美しき人よ」を歌いました。



中村 一彦くんのパートの選曲はお任せしました。貴ちゃんナイト2回目の出演だし、イベントのことも私のことも、よくわかってくれてるので。この2曲も山口洋さんが歌った「BRAND NEW DAY/WAY」も、選曲してくれた理由を本人には訊かず、自分の中で勝手に意味を見つけて感動してます。

森内 山口洋さんのもう1曲は「満月の夕」でした。



中村 私とスタッフからのリクエスト。HEATWAVEのロック全開の曲をやって欲しいという欲があったんだけど、自分がこのイベントのお客さんだとしたら聴きたいだろうなと。「満月の夕」は名曲だし、いつ聴いても感動する。あとは、岡山でリスナーのみんなが第1回目の貴ちゃんナイトをDJイベントとして開いてくれたのが2011年2月11日で。全国からリスナーが大集合して、うちのBBSが後夜祭で盛り上がっていたところに3.11が来て、掲示板が安否情報に変わったのね。

森内 そうか、貴ちゃんナイトの初回は3.11のちょうど一ヶ月前だったのか。

中村 その年の9月からライブイベントとして自分が引き継ぐことを決めた理由のひとつだと思う。2011年という年はミュージシャンにとってもリスナーの皆さんにとっても何もかもにとっても大きな年になって。HEATWAVEの「満月の夕」は東京から阪神大震災を見た歌で、私は関西出身だけど、阪神大震災のときは東京にいたので想いが重なる。

森内 うんうん。

中村 今年は2021年で10年経ったんだけど、私は自分から旗を振って何かをやろうぜっていうタイプではないので、この曲をリクエストしたことが全て。山ちゃんに想いを伝えたら「ありがとう。喜んでやります」と。MCをせずに歌ってくれたんだけど、4Fから客席を見てても、皆さんが聴き入っているのがわかった。

森内 あの1曲には背景にいろんな物語があるわけね。浜崎貴司さんも2曲ともオリジナル曲でしたね。



中村 私のリクエストです。

森内 何か貴ちゃんなりに考えがあった?

中村 「満月の夕」に繋がるかもしれないんだけど、3.11のときに、みんなが知っている曲が持つパワーっていうのを感じたじゃない? 今、私もミュージシャンもオーディエンスの皆さんもメンタルが弱っている中、ライブ会場に集まったとき、あの素敵な歌声でみんなが知っている曲をやってくれたら元気が貰えるって思った。他にも良い曲がいっぱいあるのに、ど真ん中のリクエストをOKしてくれて感謝してます。声が出せないルールの中、曲に合わせて、お客さんが手を振ってくれたから本当によかったな、と思う。

森内 それもいい話だね。ライブ・レポートでそこまで読み解ければいいんだろうけど。この企画はなかなか興味深い。

中村 森内さんは百々くんのライブがよかったんだって?



森内 「ロックンロールハート(イズネバーダイ)」が大好きな曲だというのもあるし、今まで何度か百々さんのライブでこの曲を聴いたんだけれども、すべてソロ・バージョンで。どれも名演だったんだけど、今回、初めてバンド・バージョンを見て、さらに感動したというか。と思ったら、この曲が終わったときに百々さんがバンドに向かって「いいね、君ら」って言ったっていう(笑)。

中村 本当は百々くんにとってはド緊張する先輩なのにね(笑)。HEATWAVEの楽曲にかけて、フクオカシティヒエラルキーって呼んでるんだけど(笑)、九州のミュージシャンの中で百々くんは永遠に一番後輩で。あえてあのセリフを言うところの百々くんのユーモアとそれを受け入れる先輩方。よかったよね、あのシーンね(笑)。

森内 よかった(笑)。個人的にはあそこがイベントのピークだった(笑)。とにかく「ロックンロールハート(イズネバーダイ)」は僕の中では名曲中の名曲だから。

中村 貴ちゃんナイト vol.11のときも歌ってくれたよね。百々くんの2曲も私からのリクエスト。

森内 あ、そうなんだね。

中村 私も「ロックンロールハート(イズネバーダイ)」が大好きだし、この歌詞のように見送って欲しいなぁという遺言書的願望(笑)。「貴ちゃん、ホントに性格が細かかったよね」とか「うんざりする程メールが長かったよね」とか、悪口をつまみにして呑んでくれたら嬉しい。でも、そういう話をすると、みんなは「まだまだ長生きしますよ」とか「そんな寂しいこと言わないでください」ってネガティブに捉えちゃう。歌詞にある「そこそこ楽しい人生だったと宣言するから」どころか、今から「めちゃくちゃ楽しい人生だったと宣言しておきます!」(笑)。ホントやり残したことが全くない。

森内 うんうん。

中村 ザ・ルースターズの「恋をしようよ」は理屈抜きに盛り上がる。音楽って、ロックンロールって、ライブっていいなって思える。福岡の後輩の百々くんが歌ってるのを何度も見てきたし、山ちゃんも一彦くんもキュウちゃんも、絶対、今までにカバーしてるから。

森内 なるほどね。百々さんのパートはよかった。

中村 一番いつもの貴ちゃんナイトっぽかったかもね。

森内 最後もよかったけどね。佐野元春さんの「悲しきレディオ」をドリーム・バンドが歌って大団円という流れで。



中村 あれは、バンマス藤井一彦さんの提案。「姐さんのパーティーにピッタリの曲があるから、ラストの1曲は俺に任せて貰えませんか」って曲名が書いてないメールが来た。

森内 ドリーム・バンドからの返信のようなものだ。

中村 「バンドで終わるのはとっても素敵だと思います!ちなみに何の曲ですか?」って訊いたら、「“悲しきレディオ”です」って。PCの前で泣いたよね、すでに(笑)。

森内 まぁ泣くわな(笑)。

中村 ところがこの曲を4人でやるのもめちゃくちゃ難しかった。

森内 どこを切ってもハードルが高い(笑)。

中村 原曲は佐野元春さん節炸裂だから、譜割りを譜面上に起こせない。一彦くんがアレンジして歌ったデータを全員にまわしてくれた。そのデモ音源も宝物。

森内 ステージでは、パートごとに藤井一彦さん、山口洋さん、林幸治さんがリード・ボーカルをとって、このイベントの最後を飾るのにふさわしい選曲だった。

中村 一彦くんと山ちゃんと私は元春チルドレンだから、佐野さんがこの曲をライブで歌う前に、ラジオへの愛を熱く語ることも知ってるわけで、それもたまらなくて。今まで貴ちゃんナイトに出てくれたピロウズもGREAT3も吉川晃司くんも中村一義くんも元春チルドレンなのね。深沼くんなんて、今、佐野さんのバンドメンバーだし。私の好きなミュージシャンの邦楽のルーツを辿っていくと、一番重なっているのが佐野元春さん。だからなんて素敵な選曲をしてくれたんだろうと思って感動しました。



「悲しきレディオ」終了後、ステージには中村貴子が登場。イベントはいつものように「音楽が好きでよかった」というMCで終わった。この対談を通して思ったのが、ある日の打ち上げでの冗談のような会話が最後は佐野元春の「悲しきレディオ」まで繋がっていく過程全部が貴ちゃんナイトなのだということだ。このイベントの特殊性は、組み合わせやブッキングに加え、そこから自然に立ち昇る物語にある。その物語の一端を担っているのがリスナーの存在だ。彼らが音楽に興味を示し、ラジオのチューニングを合わせた音楽への探究心が熱となって客席の温度をつくっている。この客席の熱さなしには貴ちゃんナイトは成立しない。貴ちゃんナイトはビジネス書的な言い回しをすれば「集客において高性能なイベント」だ。しかしその理由を探っていくと、ビジネス書的な価値観では実現しえないイベントだということがわかる。ちなみに中村貴子は年中このイベントのことを妄想しているそうだ。一回一回が最終回のつもりだともいっている。楽しい物語は計り知れない妄想から生まれ、その妄想はまだまだ続きそうだ。She is only 60 years oldなのだ。



貴ちゃんナイトvol.13〜I'm only 60 years old〜<<SET LIST>>
2021年5月29日(土)Billboard LIVE TOKYO東京
1stステージ / 14時開場 15時開演
<中田裕二> 1.愛の摂理 2.海猫 3.Deeper 4.風のシルエット(ボビー・コールドウェルのカバー) 5.UNDO 6.誘惑
<田島貴男(Original Love)> 7.フリーライド 8.築地オーライ 9.朝日のあたる道 10.ミッドタウンシャッフル 11.フィエスタ 12.接吻 w/中田裕二

2ndステージ / 17時開場 18時開演
SPECIAL BAND:Vo&Gt:藤井一彦(THE GROOVERS)/Vo&Gt:山口洋(HEATWAVE)/Dr:クハラカズユキ(The Birthday)/Ba:林幸治(TRICERATOPS)
GUEST VOCAL:田島貴男(Original Love)/中田裕二/浜崎貴司/百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)
1.ルビーの指環(vo/中田裕二) 2.Mr.サマータイム(vo/中田裕二・田島貴男) 3.いとしのエリー(vo/田島貴男) 4.The Other Side of the End(vo/藤井一彦) 5.美しき人よ(vo/藤井一彦) 6.ロックンロールハート(イズネバーダイ)(vo/百々和宏) 7.恋をしようよ(vo/百々和宏) 8.BRAND NEW DAY/WAY(vo/山口洋) 9.満月の夕(vo/山口洋) 10.風の吹き抜ける場所へ(vo/浜崎貴司) 11.幸せであるように(vo/浜崎貴司) 12.悲しきレイディオ(vo/藤井一彦・山口洋・林幸治)

Floor SE担当:林幸治(TRICERATOPS)

© 2021 DONUT

INFORMATION

<配信LIVE情報>
y's presents『貴ちゃんナイトvol.13〜I’m only 60 years old〜』
■内容:特別ダイジェスト編(1st Stage + 2nd Stage)
■視聴期間:6/25(金)10:00〜6/27(日)23:59まで
■チケット販売期間:6/5(土)10:00〜6/27(日)21::00
■配信チケット代:¥2,000
■販売URL:https://eplus.jp/takanight-st/
■収録会場:Billboard Live TOKYO
■出演者:
<1st STAGE>(弾き語りナイト)
中田裕二/田島貴男(Original Love)
<2nd STAGE>(セッションナイト)
GUEST VOCAL:田島貴男(Original Love)/中田裕二/浜崎貴司/百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)
SPECIAL BAND:Vo&Gt:藤井一彦(THE GROOVERS)/Vo&Gt:山口洋(HEATWAVE)/Dr:クハラカズユキ(The Birthday)/Ba:林幸治(TRICERATOPS)
■MC:中村貴子

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