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2021.06.16 upload

myeahns(マヤーンズ) インタビュー

1stアルバムのレビューで「これ以上のアルバムは出ないんじゃないか」って書かれて、そこでちょっと俺は燃えました
――逸見亮太

myeahns(マヤーンズ)がセカンド・フル・アルバム『シンボル・フェイセス』を6月23日にリリース。タイトルの『シンボル・フェイセス』は「バンドを象徴する顔ぶれ」という意味。そこにはファースト・アルバム『マスターピース』同様、楽曲への自信があらわれている。本来ならファースト・アルバムがバンドの初期衝動を担い、セカンド・アルバムでポップな方向へ広がりを見せてもおかしくはないのだが、myeahnsの場合、逆にセカンド・アルバムの方が初期衝動にも似たサウンドを宿らせている。myeahnsはファースト・アルバムに至るまでにバンド名を変えたりメンバーチェンジがあったり(スリーピース時代もあった)紆余曲折を体験した。ファースト・アルバムからセカンド・アルバムの間は、逸見亮太(vo)、齊藤雄介(gt)、茂木左(dr)、コンノハルヒロ(ba)、Quatch(key)という不動の5人で活動をしてきた。そこで培ったバンドの結束がファースト・アルバムのようなグルーヴを生み出しているように思う。逸見亮太と齊藤雄介に『シンボル・フェイセス』について訊いた。

●取材・文=森内淳/秋元美乃

―― コロナ禍の影響はけっこう受けているんですか?

逸見亮太 自分たちから何かをライブをやっていこうとしない限り、ライブハウスからの誘いは一切なくなりましたね。ライブハウスは通常のブッキングとかやってないんじゃないですかね。一時的にはそうやって本数が減ったんですけど、今はだんだん元に戻りつつはあります。

―― そんな中、myeahnsは積極的にイベントをやっていますよね。

逸見 やっている方だと思いますね。

―― 最近のライブの手応えはどうですか?

逸見 本当は『シンボル・フェイセス』の曲を早くやりたい気持ちがあるんですけど。

―― やれてない?

逸見 雄介がやりたくない派なんで。

―― 齊藤さんはやりたくないんですね。

齊藤雄介 『シンボル・フェイセス』をリリースするまではやりたくないんです。何曲かならいいんですけど。ファーストのときもお客さんが収録曲をほとんど全曲知っている状態でリリースしたんで、俺だったらニューアルバムを楽しむ感じにはなれないなという。

―― なるほど。「リスナーがアルバムを聴いて初めて曲を知る」という状況を作りたいんですね。

齊藤 そうなんですよ。

逸見 俺はけっこうやっちゃってもいい派なんですけどね、まぁそういう気持ちもわかるんで。

―― ファーストはバンドが3人になったり4人になったり5人になったりバンド名を変えたりと長い時間、紆余曲折する中でライブで散々プレイした曲たちだったわけですが、今作の収録曲はいわゆる最近作なんですよね。

逸見 このアルバムのために曲を書きました。

―― アルバムの準備はいつ頃から始めたんですか?

逸見 ファーストを録音してから新曲を書いとかなきゃと思って、ツアー中も書いてましたね。

―― もうそんなに早い段階から準備を始めてたんですね。

齊藤 本当はセカンド・アルバムは一年前に出すはずだったんですよ。

―― あ、そうなんですか。

逸見 そうなんです。だけど、もし去年のタイミングで出したとしたら収録曲は変わっていた可能性はあります。今回のレコーディングまでにさらに曲を作れたので。その中からより厳選して作りました。

―― 今回は5人のメンバーが確定してから書かれた楽曲ということになりますよね。曲を作るときの意識は変わりましたか?

逸見 5人になったからこういう曲を書こうというのはなかったですね。あんまりそういうことは考えないでいつも通りに作りました。サウンド的に意識したことはありましたけど。メンバーそれぞれがやりたいことがあって、こういうふうにやった方がいいんじゃないかっていうのはありましたけどね。

―― 曲作りに関しては違いはなかったわけですね。

齊藤 なさそうだよね。

逸見 ないですね。例えば、3人のときとも変わってないですよ。

齊藤 弾き語りで作るからね。

逸見 弾き語りのライブが決まると、それに向けて新曲を書くんですよ。

―― あ、そうなんですか。

逸見 新曲を歌いたくて書くんです。だから弾き語りライブが決まっていると曲が書けるんですよ。

―― どの曲もメロディラインが主張しているのは、そのせいかもしれないですね。

逸見 弾き語りで曲を作るとそうなりますよね。リフを弾きながらは歌えないんで。

齊藤 メロディがめちゃめちゃいいですよね。

逸見 ありがとうございます(笑)。メンバーに褒められるのが一番嬉しいですね。

―― 歌詞も相変わらず半径2メートルのことを日常のモチーフを使っています。

逸見 かっこつけすぎないっていうのはテーマとしてあるかもしれないですね。「あの八百屋のオレンジ」って歌ってるとき、めちゃめちゃ気持ちいいんですよ。

齊藤 あと時代を感じさせる言葉は使わないよね。携帯電話とか。

逸見 そうですね。

齊藤 ツイッターとか絶対入れたくないみたいな。

逸見 入れたくないね。10年後聴かれても「この曲いいね」ってならないとって思うんですよね。例えば20年後に聴かれても八百屋は街にあるだろうし。ポケベルとか入ってる歌とかあるじゃないですか。時代を感じるじゃないですか。

―― そもそもポケベルって、もはやなんだかわからないですからね。

逸見 だから、いつ誰が聴いてもわかるようなことを意識してるんですかね?>

―― してるかもしれないですね。無意識のうちに。じゃ曲の作り方は今までと一緒なんですね。

逸見 一緒ですね。変えられないというか。そんな器用に作り分けられるタイプではないんですよ。弾き語りで作ったものをメンバーに持っていくというスタイルで、要するにパソコンとか一切やれないんですよ。やれた方がいいんでしょうけど。全然やれないので、本当に弾き語りの状態でメンバーに聴かせるんです。この世で一番恥ずかしい時間なんですけど(笑)。でもそれでメンバーが気に入ったりするとそれが一番嬉しいというか。そうやってみんなに気に入ってもらった曲をみんながイメージした通りにやっていくという感じですね。

―― なんでそんなことを訊くかというと、ファーストの方がポップなんですよね。

逸見 あー。

―― 今作の方がすごくドライブ感があって、バンドの初期衝動に近いんですよ。これ、普通のバンドだったら……

逸見 逆?

―― 逆だと思うんです。ファーストはバンドの初期衝動の勢いで作って、だんだんポップな要素も入れて広がっていくという。ところがmyeahnsは逆なんですよ。それがすごく面白かったんですね。

逸見 レーベルの人からは今回おとなしめの曲が多いかもねって言われていたんですよ。それで慎重に選曲したからなのかな。

―― というよりも、この5人のメンバーがバンドとして一塊になったからなのかな、と思ってたんですけど。

逸見 考えられるとしたらみんな演奏が上手くなったのと、あとギターですね。ギターが勢いあるかもしれないですね。レコーディングの直前までギター・ソロのパートが決まってなくて。それはいつもなんですけど、雄介の場合。レコーディングのときに初めて知ることになるんですけど。どうやら直前までできないタイプらしくて。

齊藤 そうなんですよ。

逸見 だからギター・ソロを知らないまま、俺はレコーディングに挑むんですけど、でもそれが毎回ハマるというか。中でも、とくに今回はギターがかっこいいんですよ。だからそう聴こえるのはギターが大きいように思います。

齊藤 嬉しいですね(笑)。でも勢いよくやろうと意識したわけはないんですけどね。歪みすぎないようにって思ったぐらいで。

―― だけどファーストよりも確実にロックンロールのグルーヴ感はありますよ。

逸見 リズム隊がもともと上手いんでね。

齊藤 今回はリズム隊と一緒に録れたんですよ。ファーストのときはスタジオが狭くて、俺はエンジニアの横で録ったんですけど、今回はステージくらいの大きさのブースに3人で入って録れたので、それがめっちゃやりやすかったんです。それはあるんじゃないですかね。

逸見 一発録りというかね。

齊藤 ベーシックみたいな部分はほとんど変えていないんで。重ねる部分は後で重ねたので。それはあるかもしれない。それに(ファーストのときは)紆余曲折ありましたけど、今回の曲は「5人のまんま」ですよね。

―― その「5人のまんま」感はすごく感じますね。まさにそれがバンドの初期衝動のようなものを生んでいるんじゃないか、と。

齊藤 たしかに、そういう意味では勢いはあるのかも。

逸見 音の説得力は明らかにあるとは思ってたけどね。

―― しかもバラードが入っているわけではなくてひたすら元気な曲で埋められているという。

逸見 俺の中ではそれはテーマとしてありました。俺が描いているロック・バンドのセカンド・アルバム像はそういう作品なので。

齊藤 それはずっと言ってるよね。

逸見 それはずっと思ってた。ロック・バンドのセカンドはファーストに負けない元気のある作品だというのがあったんで、アップテンポの曲を入れようかなとは思いました。それは雄介と相談してましたね。

―― その考え方はどこから来てるんですか?

齊藤 ブルーハーツをよく例に出すよね。

逸見 ブルーハーツもそうだしクラッシュとかもそうですよね。

―― クラッシュのセカンドは勢いがありますね。そういう意味じゃレッド・ツェッペリンなんかもそうですよね。

逸見 そんなイメージがあったんで、だから意識したかもしれないですね、その勢いっていうのを。

―― ロックンロールの法則に従った結果なんですね、このアルバムの勢いは。

逸見 そうですね。

齊藤 そういう法則に従うのが好きなんですよ。

逸見 そうですね(笑)。

―― 逸見さんは齊藤さんのギター・フレーズについて注文をつけることはあるんですか?

齊藤 一回もないですね。

逸見 俺が決めたフレーズは俺が持っていくんで。曲を作った段階からリフがあれば、それを雄介が弾くし。ただソロとかは俺は考えないんで。「ビビ」のイントロは雄介が考えたんですけど、まさにこの曲を作ったときにこういうフレーズが欲しいんだよなって思ってたんで、送られてきたとき、本当によかったなって思いましたね。

―― そこはもう阿吽の呼吸なんですね。

齊藤 好きな音楽が亮太君と一緒なんで、そんなにズレはしないよね。

逸見 この曲はアップテンポで行くかもうちょっとスロウで行くかみたいなことはけっこうみんなで練りますね。もうちょっと上げた方がいいんじゃないかとか、もうちょっとBPMを落とした方がいいんじゃないかとか。メンバーの意見も聞きつつ、この二人で揉めたりはしますね。

齊藤 最終的には俺が譲りますけどね。

逸見 雄介はたぶんバンドを客観的に見られるんだと思う。だから雄介がこういうふうにやった方がいいって言う意見はかなり信頼してるんですけどね。俺は曲も作って、歌も歌ってるので客観的になれないところがあって、「もしかしたらこれはダサいのかも」って不安になったりすることもあるんですよね。それを雄介も含めてメンバーが背中を押してくれるんで。そうやって曲が完成していくっていう。

―― 作り手って不安になりますよね。

逸見 不安になりますね。これはアリなのかナシなのかとか。

―― だけどそういう不安を感じさせない作品になってますよね。

齊藤 最近のmyeahnsはいいと思います。とくにいいと思う。やっと自分たちの音が……例えば、キーボードのQuatchとか、どこを弾けばいいのかとか、ずっと弾いていればいいのかとか、最初、わかってなかったと思うんですけど……

逸見 抜き具合とかもわかってきた。

齊藤 そんなに弾かなくていいとか、たぶんわかってきたんで、バランスがよくなったと思います。

―― だんだんこのアルバムが見えてきました。

逸見 あとエンジニアの人も今回が二枚目のアルバムで、シングルの「ローズマリー」からずっとやってもらってる人で、それも大きいと思います。

齊藤 メンバーの特徴もわかってくれてると思うんで。……そう言われてみれば、明らかにファーストよりも評判がいいんですよ。

―― 5人のmyeahnsが好きな人はこのアルバムの方がファーストよりも好きだと思います。

齊藤 最初、このアルバムがどうなるのか。みんな心配してたんですけどね。ファーストがベストみたいな感じだったので。

―― たしかに、ライブの定番曲が『マスターピース』には並んでいますからね。

逸見 Amazonのレビューとかにも書かれてた。「この手のバンドで久々に捨て曲がないアルバム」って。「でもここまでのアルバムを作ってしまったら、これ以上のアルバムは出ないんじゃないか」って書かれてて、そこでちょっとさらに俺は燃えました。

齊藤 レビューを見てんだね(笑)。絶対、見たくないな(笑)。

―― それから2分台、3分台の曲が並んでるのもいいと思いました。

齊藤 それ、昔から亮太君のこだわりじゃないですかね。

逸見 短い曲、好きですね。

齊藤 俺も茂木も短い曲の方が好きってずっと言ってたし。

逸見 そういうバンドばっかり聴いてきたからね。

―― ヒップホップだろうとオルタナだろうと、洋楽はほとんど2分台の曲ばかりですからね。

逸見 日本は珍しいんですか?

―― そうですね。まぁそうでなくても日本の音楽状況はガラパゴス化してるんですが。

逸見 そういう意味では昔に戻ってきている気がしませんか? コンセプト・アルバムというかアルバムとしてのひとつの作品というよりも、オールディーズの人たちがシングルでボンボンってリリースしていく感じに、今、近くなってるような気がする。60年代の中頃くらいから始まったアルバムとしてひとつの作品という感覚が薄れている気がしますね。ティックトックとかもありますからね。

―― そういう影響もあるのかもしれないですね。あと、みんなアナログ盤を作るようになったからだと思うんです。サブスクとアナログが現代のリリース形態のスタンダードなんで、10曲30分台というのがレコードにしたときに収まりがいいというか。myeahnsは世界の流れにアジャストしてるという(笑)。

逸見 いいっすねえ(笑)。

―― そういえば、日本のロックしか聴かないミュージシャンも増えて、ジェネリックのジェネリックみたいになっている中、逸見さんは洋楽のエッセンスを楽曲にしっかりと取り込んでいますよね。

逸見 ぼくもロック好きなので気づいてもらえて嬉しいです。そういう意味で、根の深いバンドになりたいですね。簡単には引っこ抜けないようなバンドに。色々な音楽を肥やしにして。エッセンスはいつだってリスペクトを込めてです。

―― 今作は『シンボル・フェイセス』というタイトルがつけられました。

逸見 タイトルがなかなか決まらなくて、なんかのライブのときにアルバムのリリースを発表するタイミングだったんですよ。なんだけど、タイトルが決まってなくて。楽屋で考えて「こんなのどう?」って言ったら、「いいね」ってなって。

齊藤 なかなかタイトルが決まらないので、最初、タイトル未定で発表しようとしてて、ライブが始まるっていうときに『シンボル・フェイセス』というのを出してきて「それならいいんじゃない?」って。

逸見 雄介は案は出さないけど、没にする係なんですよ(笑)。

齊藤 すごくたくさんタイトル案が送られてくるんですけど……

逸見 「それはない」って(笑)。いっぱい手札を出すんですけどね。

齊藤 没にする基準というのはないんですけど、感覚的なものですね。「それはダサい」とか。とんでもないものを出してくるから(笑)。

逸見 もう忘れたけどね(笑)。

齊藤 なんか平仮名のタイトルがあったんですよね。

―― 奇をてらってますね(笑)。

齊藤 無視しましたけど(笑)。

―― 『シンボル・フェイセス』というタイトルにはどういう思いを託したんですか?

逸見 いい曲ばっかりだったんで、myeahnsを象徴するような曲たちになるんだろうなと思って。その「顔ぶれ」っていうことで「フェイセス」ってつけたんです。

―― 「myeahnsを象徴する顔ぶれ」という意味なんですね。

逸見 字面もかっこいいし、いいタイトルだなと思いました。

―― 『マスターピース』にしろ『シンボル・フェイセス』にしろ毎回、曲に対する自信を表してるんですよね。ところで、7月4日の千葉LOOKを皮切りにリリース・ツアーをやるんですよね。

逸見 そうです。10月21日の渋谷クアトロはワンマンでやります。他は対バンになりますね。『シンボル・フェイセス』の中からいっぱいやりたいですね。

齊藤 そりゃそうでしょ(笑)。やんない選択はないよ(笑)。

逸見 新しい顔ぶれで。

齊藤 まだ5〜6曲は人前でやってないですからね。

逸見 ドキドキですね。

齊藤 もう忘れちゃってるな。

逸見 歌詞は手で書くんで、何回も直しているうちに覚えるんですけど、レコーディング直前に直したやつが心配ですね。だけど、バンドは心配ないですね。とくにリズム隊に関しては何の心配もないですからね。

© 2021 DONUT

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INFORMATION


symbol faces
2021年6月23日(水) リリース
収録曲: 01.Baby Blue 02.オレンジ 03.マネー・ガネー 04.くたびれ天国 05.まっくろ娘 06.メーデー 07.Summer of Love 08.ビビ 09.白昼のヒットメーカー 10.マイ・ネーム・イズ・エレキトリック 11.アメイジング・グレイス 12.トラベリン・バンド

[myeahns 2nd album“symbol faces”release tour]
7/4(日)千葉LOOK
7/24(土)札幌PLANT
8/22(日)大分T.O.P.S Bitts HALL
8/28(土)仙台FLYING SON
9/23(木・祝)松山Double-u Studio
9/25(土)名古屋 今池HUCK FINN
10/2(土)大阪 心斎橋Pangea
10/10(日)横浜F.A.D
10/21(木)東京 渋谷CLUB QUATTRO (ワンマン)


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