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2021.06.16 upload

hotspring インタビュー

1回のライブに向かっていくエネルギーが高まってる。だから絶対に今の方がライブがいいし、伝わってる感覚もあります
――イノクチタカヒロ

4月に地元・大分のレーベルBEDROOM RECORDSから初のベスト盤『YEARS』をリリースしたhotspring。大阪・名古屋公演は延期となっているものの5月には久々となる全国ツアーを開催し、5月27日下北沢SHELTERにて無事にツアーファイナルを迎えた。2010年のデビュー以来、メンバーの脱退や怪我による活動休止などもあり彼らのバンドロードは順風満帆なものではなかったが、たとえるなら人生だってそういうものだ。そしてこのコロナ禍においても歩みを止めることなく突き進むバンドの姿を見せてくれている。そんな彼らが完成させたベスト盤にはオールキャリアからの代表曲に加え新曲も収録。イノクチタカヒロ(vo)、狩野省吾(gt)、川越俊輔(dr)、長島アキト(ba/サポート)の現メンバーで新録したことでこれまでのhotspringを“完結”させた今、視界はとてもクリアになったとイノクチタカヒロは語る。未来を向いた眼差しで歌う<この瞬間>の強さと儚さはhotspringの真骨頂のひとつ。ぜひ本作で彼らの名曲群に触れてみてほしい。ここでは、ベスト盤やツアーなど近況を踏まえてイノクチタカヒロに話を訊いた。

●取材・文=秋元美乃/森内淳

―― 久しぶりのツアーはいかがでしたか?

イノクチタカヒロ ライブっていいなとすごく思いましたね。場所によってはギリギリまでできるかどうかわからないところもあったから、当日まで半信半疑のツアーでしたけど。来る人も大変だったと思う。当日キャンセルも多かったですしね。「やったー! ソールドアウトした!」って喜んでいても、いざ蓋を開けるとガラガラだったり。

―― 開演時間の変更などありましたもんね。

イノクチ はい。それに、ライブを再開してみるとぱったり来なくなったお客さんたちもいて。それは仕方がないことで、またいつか来たいと思った時に来てくれたらいいなと思うんですけど、なかにはもしかしたらこの期間でライブに行かないことに慣れてしまった人たちも多いんじゃないかなとも思うんですよ。

―― なるほど。でもこの状況下でもツアーをやろうと決めたのには何か思いがあったのでは?

イノクチ 去年の春頃からみんなが初めての事態に直面して、ライブをやったらやったで批判されるムードが生まれてたじゃないですか。しばらくは「もうどうすりゃいいの?」みたいな感じになってましたけど、でもやっぱり待っていたら何もできないし、「来れる人は来てください」っていうのはコロナ関係なく前からそういう気持ちで活動していたから、今回のツアーも「やるしかない」と決めてました。やるからには思いっきりぶつかっていくしかないって。それに、今のライブすごくいいんですよ。暇だったからめちゃめちゃ練習したので(笑)。前は例えば月に5本ライブがあってセットリストも当日決めることもあったけど、今は1回のライブに向かっていくエネルギーが高まってる。だから絶対に今の方がライブがいいし、伝わってる感覚もあるし。前よりも、ステージのことをイメージして当日を迎えるようになりました。

―― ライブができて当たり前の日常ではなくなっている現在、やはり1本1本のライブの大切さが……

イノクチ めちゃくちゃ身に染みてますね。最初の緊急事態宣言の時なんて、スタジオもやってないからみんなで練習もできないしメンバーとも会わない日々が続いて色々考えたし。でも考える時間を持てたのは自分の中では悪いことではなかった。ライブやバンドが好きだっていうのが改めてわかったし。あとレコード屋が開いてなかったから、普段では絶対に買わないだろっていうようなものまでネットでたくさん買っちゃった(笑)。

―― そうなんですか(笑)。リリースとしては4月に再録のベストアルバム『YEARS』を発表しましたが、このタイミングでベスト盤というのは?

イノクチ いちおう、東京に出てきて2020年で10年というのがあって。

―― あ、ちょうど昨年がデビュー10周年。

イノクチ そう。去年の4月くらいに大分のレーベル(BEDROOM RECORDS)のボスが「うちからアルバム出すか?」と言ってくれて本当は去年出す予定だったんです。メンバーも変わってるから今の4人でのバージョンをいつか出したいなと思っていて、いいタイミングかなと。

―― 地元・大分のレーベルから声をかけられたことがきっかけだったんですね。

イノクチ 去年の3月に九州でSIX LOUNGEとの2マンライブがあって、その時に話が出たんです。

―― ベスト盤にしようというのは?

イノクチ それは俺が言った。「再録ベストを作りたい」って。それをやらないと宿題が残ってるような感じというか、自分の中ですっきりしない部分があったんです。一度完結したかったというか。本当は新曲も入れたくなかったくらいで。

―― ベストを作るにあたり、これまでの楽曲群を聴きなしてみていかがでしたか?

イノクチ いい曲が多いなーって。でも過去の音はよくない意味で若すぎるというか恥ずかしいというか(苦笑)。曲は好きなんだけど声が青すぎる。あと、もともとのテンポってこんなに遅かったっけっていう曲もありましたね。

―― 現メンバーでの音のまとまり感は音源からわかりますよね。レコーディングはどうでしたか?

イノクチ 本当は大分でレコーディングする予定だったんですけど、なかなか行ける状況でもなかったからボスも痺れを切らして、去年の7月にベーシックだけ東京で録音したんです。で、11月にやっと俺と狩野のふたりだけ大分に行ってコーラスとかギターソロとか色々レコーディングして。エンジニアさんも変わるし、今までやったことない進め方ではありましたね。坪井さん(レーベルのボス)もスパルタで。「メロディをピアノでなぞれ」とか言われるんですけど、「ピアノ弾けないです。すんません」みたいな感じで。めっちゃ修行のようなレコーディングでした。こんなの初めて。

―― ライブでもずっと演奏してきた楽曲だからスムースにいくと思いきや。

イノクチ 「ラクにやれるっしょ」と思っていたら……。でも坪井メソッドのおかげで歌が上手くなったと思う。

―― たしかに、丁寧に歌っている印象がありますね。

イノクチ うん。だって丁寧に歌わされたんですもん(苦笑)。

―― じゃあ東京でレコーディングした曲でも、大分で歌い直したりもあったんですか。

イノクチ ありましたね。ボーカルに関しては半分東京、半分大分かな。

―― これまでのhotspringはほぼ一発録りでしたよね?

イノクチ はい。もう速攻で「終わったっしょ」みたいなレコーディングでした。でも、この間坪井さんに会ったら次は一発録りできるように環境を作るよって言ってましたけどね。「たぶんお前らはそっちの方がいいだろう」って。「一発でできるようなポテンシャルを磨いておけ」って。

―― なるほど。

イノクチ だから今めちゃくちゃ練習してるんですよ、こんなに練習したことないってくらい。坪井さんは俺がバンドを始めた時から知ってる先生みたいな人なので、感謝してますね。めっちゃこわい担任の先生、みたいな。

―― そうやって鍛えている歌がライブで爆発したら凄そうですね。

イノクチ それを目指して頑張ってますね。喉のチューニングというか。

―― 向上してますね。

イノクチ 向上してるんですよ! ゴエさんもめっちゃ上手くなったんです。

―― ゴエさんのドラム、決まってましたね。

イノクチ PONTIACSの有松益男さんがゴエさんのことをずっとかわいがってくれてて、レコーディングに来てくれたんですよ。で、アドバイザーというかゴエさんのドラムを見てくれて。狩野は狩野で坪井さんに言われたことをやって、よくなってきたし。

―― じゃあ今回のレコーディングは、メンバーみんなが改めてhotspringの音に真面目に向き合うきっかけにもなったんですね。

イノクチ はい。今めちゃめちゃ真面目にやっています。

―― 今作の選曲は?

イノクチ だいたい俺が決めました。奇を衒わずにいこうと。

―― hotspringのキラーチューンを並べた、と。なかでも1曲「Seventeen」という新曲が収録されました。以前にも同名楽曲がありましたが。

イノクチ ああ、それこそ本当に17歳の頃に書いた曲。

―― 今また「Seventeen」を題材にしたのは?

イノクチ これには理由があって。高校の時から知ってるircleが、緊急事態宣言下で何もできない時に毎週決まった時間にインスタライブをやってたんですよ。それでircleにも「Seventeen」っていう歌があって、「17日に配信するから、セブンティーンの日ということでイノクチにも(昔つくった)「セブンティーン」を歌ってほしい」と言われて。それは絶対にできない!と思って「じゃあ新しく作るからそれで勘弁してくれ」と。

―― へぇー!

イノクチ その時は断片というか1番くらいまで作って、歌ったらわりと反応が良かったから曲に仕上げてバンドに持っていったんです。いちおう昔の「セブンティーン」と同じコード進行で作ったんですよ。

―― じゃあircleのセブンティーン企画がきっかけで生まれた新曲なんですね。でも前の「セブンティーン」も久しぶりに聴きたい気も……。

イノクチ いやー恥ずかしい! 初期の頃の歌は恥ずかしいです。たまに地元のライブハウスに行くと気をきかせて昔の曲をかけてくれたりするんですけど、すぐに止めに行きます(苦笑)。なんか子どもの頃に書いた曲って、昔のブログがずっと残ってるような感覚なんですよ。「また読まれる! 削除削除」みたいな。

―― それは作った本人ならではの気持ちでしょうね。

イノクチ 作った時が少年すぎた。

―― バンドとして積み重ねてきて、もっといい曲が増えたということもありますよね。

イノクチ はい。リメイクはありかもしれないけど。曲とかリフはかっこいいから。どう考えても俺の歌詞が……。

―― リメイクは面白いかもしれないですね。

イノクチ うん。実は「Seventeen」の時もリメイクはどうかなと思ったけど、聴き直すのがツラくて(苦笑)。それに向き合えばできるかも。三浦(章宏/前ギター)はいいリフを作ってたから。でも三浦が聴いたらイヤかな?

―― 次作に向けての構想はあるんですか?

イノクチ イメージはあります。本当は「Seventeen」は次のアルバムに入れたいと思ってた曲なんですよ。

―― そうなんですか。

イノクチ でも、考えてみると自分の中ではずっと音楽性は変わってないですもんね。ベストを作ったことで自分の周りをひと回りしたような感じはあって、今また十代の頃に夢中になってた音楽を聴いたりしているんです。ドクター・フィールグッド的なパブロックとか。かといってパブロック・アルバムになるかどうかはわからないですけど。でもそういう方向のアルバムを作りたいなっていうのが俺の中で芽生えてますね。曲が速くてポンポンポンポン!っていうような。

―― ある意味hotspringの基本というか。

イノクチ そうそう。もう一回やりたいなって。今回のベストでそれまでのhotspringは完結したので、「また1stアルバムが作れるぞ!」という気持ちです(笑)。年内にレコーディングできることを目標に。

―― 曲作りも進んでるんですか?

イノクチ 作ってるけど、あと4、5曲は作らないとかな? 今もライブで持ち時間がある時は新曲をやったりしてますね。

―― いいですね。

イノクチ 最近ライブでハーモニカを吹いてるんですよ、ついに。パブロックに憧れすぎて(笑)。まだまだ下手なんですけど。

―― 今まで吹いていなかったのが不思議なくらいな印象ですけどね。

イノクチ はい。色々ひと回りして今、視界はすごくクリア。バンドにも色々なタイプがあるじゃないですか。例えばザ・フーとかレッド・ツェッペリンは超大作なバンド。曲の作り方が壮大でビッグガジェットというかメジャーリーグな感じというか。でも俺がやりたいのはメジャーリーグ的なものではなくて、めちゃめちゃ強い草野球チームのような音楽だと思うんです。映画でいうと低予算の素晴らしい映画というか。

―― いわゆる3分間のロックンロールということですね。

イノクチ そうそう、ミニマムなもの。もちろん壮大なものも素晴らしいと思うし、hotspringも一時期は少しオルタナっぽい要素が入ったりもしたけど、今は俺がやるならこっちだなっていうのが見えるので。

―― hotspringの原点パワーを楽しみにしています。

イノクチ はい。ぶっ飛ばしていきます。

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INFORMATION


YEARS
2021年4月14日(水)リリース
収録曲: 01.コールタール/02.夜の魚/03.ゴールド/04.45回転/05.Seventeen/06.Touch Me I’m Sick/07.車輪の中/08.ダニエルとメロディ/09.BABY KILL LOVE/10.2053/11.黒でいろ/12.青春の正体/13.いかすぜ今夜


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