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映画『メイキング・オブ・モータウン』(Like It〜Editor's Choice)

2020.9.16 upload

映画『メイキング・オブ・モータウン』

監督:ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー/出演:ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン他/配給:ショウゲート/9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次ロードショー/原題:Hitsville: The Making of Motown/©2019 Motown Film Limited. All Rights Reserved

文=森内淳


新しいポップスを生もうとする熱意がもたらした変革

スティーヴィー・ワンダー、スモーキー・ロビンソン、ザ・ミラクルズ、スプリームス、テンプテーションズ、ジャクソン5、マーヴィン・ゲイ、マーサ&ザ・ヴァンデラスなど、ポップ・ミュージックの歴史を飾るミュージシャンを輩出したモータウン・レコードのドキュメンタリー。いうまでもなく、それぞれのミュージシャンは音楽シーンに多大な影響を与え、たくさんのフォロワーを生んだ。一つのレーベルから短期間にこれだけ多数のヒストリックなミュージシャンを輩出した例はないし、これからもありえないだろう。

映画は、レーベルの創始者ベリー・ゴーディとメインの作家でアーティストのスモーキー・ロビンソンが過去を振り返るかたちで進行する。この二人のインタビューだけでも貴重な資料だ。その上にスティーヴィー・ワンダー12歳のときの映像など蔵出しもあり。個人的に面白かったのがモータウンの創設のきっかけがブルース・ミュージックに対する欲求不満だったというくだり。既存のカルチャーを超えていこうとするとき新しい音楽が鳴るという構造はいつの時代も同じなんだな。

モータウン最大の特徴は作詞者、作曲者、編曲者、シンガーという分業制で楽曲がつくられていたこと。それだけではなく、どの曲を誰に歌ってもらうか、曲をリリースすべきかどうか、など、ほとんどがスタッフの合議制によって決められていたという。一見システマチックでアートとはそぐわないような印象を受ける。が、各人には音楽に対する異常なほどの愛情がある。だから会社の会議というより音楽サークルの議論のようでもある。音楽への熱意やビジョンがなければ優れたシステムを導入したところでヒットは生まれないということなんだろう。

実社会でもシステマティックなマニュアルを導入している会社は山のようにある。しかしそれらの会社がすべて上手くいっているとは限らない。けっきょくは運用する側のものづくりに対する熱意が左右する。こういう映画を見ると、まるでビジネス書でも読んだ気分でモータウンのようなシステムを導入すればヒットをつくれると勘違いするものがいるかもしれない。そういう視座で語るべき映画ではない、ということだけは頭の隅においといてもらいたい。

その分業制にも岐路が訪れる。スティーヴィー・ワンダーがこのシステムを拒否してもっと自由に音楽をやりたいという場面がそれだ。最終的にゴーディがそれを許したことで、レーベルはアーティスト主導のフェーズへ突入する。もしここでミュージシャンの要求を拒否し、自分たちが生み出したシステムにしがみついていたら、今日のモータウンはなかったかもしれない。「60年代に栄華をきわめたレーベル」で終わっていただろう。

モータウンの成功は黒人の地位向上にも一役買った。これも時流に合わせて音楽をつくったからではなく、まずはやりたい音楽があって、そこに時流を引き寄せたからだろう。モータウンのアーティスト、とくにスプリームスは当時の黒人社会からは考えられない気品と誇りをまとっていた。これもゴーディの方針で、アーティストは誰とでも社交できる術を身につけさせられた。それでも当時の黒人差別は激しく、その状況下で興行をやることの苦労も。その辺りの実情については、アカデミー賞作品賞を獲った映画『グリーンブック』を見ればわかりやすく描いてある。

『メイキング・オブ・モータウン』は斬新なビジネスの成功例であり、一軒家からはじまったレコードレーベルのサクセスストーリーであり、熱いソウル・ミュージックで彩られた音楽映画でもある。ジャクソン5をはじめ、アーティストたちの貴重なインタビューも楽しめる。ホストのベリー・ゴーディがモータウンについてじっくり語るのは最初で最後だそう。スモーキー・ロビンソンとのやりとりだけでもとても楽しい。音楽ファンでなくても楽しめる引き出しをたくさん持っている作品だ。


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