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2020.07.07 upload

浅井健一 インタビュー

自分の音楽を聴いてくれてるたくさんの方たちがいると思うと、それだけで嬉しいし、自分はすごく恵まれてると思って、何かに「ありがとうございます」って言わないといかんて思ってるかな
――浅井健一

浅井健一が、新たな著書『神様はいつも両方を作る』を6月に発表した。本作は彼が書き溜めていた日記やショートストーリーを1冊にまとめたもので、ふとした日常を切り取った瞬間や上京当時の思い出、時折おとずれる自問自答、架空の物語などがランダムに並べられている。おそらく、思いついたままを書き綴った文章はベンジーの真っ直ぐな眼差しそのもので、浅井健一の頭の中・心の中を探検しているような読み心地。もちろんイラストも収録され、思わず笑みがこぼれるユーモアも満載。本来なら今年はプライベートレーベル兼プロダクションのSexy Stones Recordsが20周年を迎えたことを受け、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS、ソロのACOUSTIC SETでのツアーが予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえ全て中止となった現在、急きょ届いたこの作品は読み手の心をあたたかく潤してくれる1冊に。文章中に出てくるふとした言葉にハッとするが、「心に行きたい世界を思い描くことが全ての始まり」というフレーズには、なんだか一歩を踏み出すパワーをもらえる気がする。今回DONUTでは浅井健一にメールインタビューをオファー。近況を含め、本にまつわる話を伺いました。

●取材・文=秋元美乃

―― 自粛が解除されたとはいえ、まだ大変な日々が続いていますが、自粛期間中はどんな日々を過ごされていましたか?

浅井健一 部屋にこもって曲を作っていました、ひたすら。

―― そのような日々のなかで、改めて気づいたこと・発見したことなどはありますか?

浅井 平和な日常はいつまでも続くことではないっていうのは、以前から思って いたんだけど、実際に突然やってきて、やはり平和な時にこそ準備してそなえておくことが大事なんだなと思ってますね。

―― 約3ヵ月の月日のなかで、印象に残っている出来事があれば教えてください。

浅井 中国共産党とWHOが旧正月前にウイルスの発生を隠したことですね。

―― 今回完成した本『神様はいつも両方を作る』は、どのような経緯で制作がスタートしたのでしょうか?

浅井 2、3年前からときどき文章を書いていました。いつか形になるかもしれないと思いつつ、漠然と書き始めました。今回はPCに打ち込みました。紙に書く方が好きなんだけど、PCだとちゃんとそこにあって、どっかにいっちゃったりしないので自分みたいな性格の人間には、その点は救いですね。

―― 日付があったりなかったり、日付があっても何年かわからなかったり、空想のストーリーが始まったりと、たくさんの景色が降ってきました。このような流れにしたのは何か意図が?

浅井 年代はあんまり関係ない気がして。若い時なら毎年の変化が大きかったりしたんだろうけど、今はそんなに変わらない。間違いかもしれないけどね。なんかランダムに流れていった方が、自然で心地いいんじゃないのかなと思って、感覚的に並べました。ひょっとして自分自身がいつだったのかを知りたくないのかもね。

―― この本には、ユーモアはもちろん、当たり前と思っていた日常がなくなってしまった時、どういう心持ちで過ごせばいいのかというヒントもたくさん詰まっていると思います。コロナ以前に書かれた文章なので偶然かと思いますが、1冊にまとまってみて、ご自身ではいかがでしょうか?

浅井 読んでておもろいなぁと思います。ところどころね。よくこんな発想が出てきたなとか、自分でも不思議に思えたりしてます。心の持ち方とかは全然考えてなかったよ。

―― 「人間とは」という話は浅井さんの文章に何度か出てくるテーマですが、サーフィン後におとずれるという「人間っていったい何?タイム」以外にも、普段から考えることが多いテーマですか?

浅井 ちょうど昨日ベランダではまぐりを焼きながら、夜中の東京の住宅街の向こうにそびえてる渋谷のビルとかをボーッと眺めてたんだけど、結局みんな何がしたいの?とかちょっと思ってた。楽しみたいだけなのはわかってるんだけどね。

―― その答えが見つかる時は?

浅井 もう見つかってる。楽しみたいとか子孫を残したい本能。

―― 「沈丁花」というお話がとても好きです。“全てが不安に満ちていて”というリアルな響きも、彼女がいなくなって“胸が壊れそうだった”という心の動きも、“バンドを組むことが全てだったし、光だった”という希望も描かれていますが、どの描写も鮮明で読み手としても追体験しているような感覚になります。いま振り返ると、この頃は浅井さんにとってどんな時代(時期)でしたか?

浅井 一度きりの人生だから思い切り冒険するべきだと思っていたんだけど、なかなか勇気がなくてできない日々が続いてたんだけど、思い切ってやってみることになった。そのきっかけを作ってくれたあの頃の友達にありがとうだし、街はいつでもごった返していて空気は悪くて渋滞だらけで、外に出ても、でかい建物の中を歩いてる感じがしてたよ。

―― とくに思い出すことの多い時代(時期)はありますか?

浅井 そうだね。東高円寺でBlankey Jet Cityを作ったあたりかな。バイトでとびの仕事、照ちゃんとかと行っとってさ。景気がいいもんだからバイト始めて一ヵ月もしない頃にその会社の慰安旅行でグアムに連れてってくれたんだよね。人生初海外。なぜだか地元の若者たちと仲良くなってサンダーバード(1960年代のアメ車)のオープンに乗って夜の酒場を巡ってたりして、いま考えると不思議すぎるわ。あの頃も印象深いな。

―― どんな時に昔のことを思い出すことが多いですか?

浅井 寝る前かな。布団に入って目を閉じて暗闇を見る時。

―― 「モーガン」という項には綺麗な場所の話が出てきますが、浅井さんだけしか知らない綺麗な場所はありますか? あればどんな場所か、イメージだけでも聞かせてください。

浅井 昔10代の頃、一個上の先輩がスズキジムニーに乗っとってさ、それで名古屋の猿投山の奥の方に冒険に行ったんだよね。暑くてさ、そしたら綺麗な静まりかえった池を見つけたんだわ。誰もいなくって、コンクリートの積でせきとめられてる池でさ、そこで裸で泳いだのは気持ちがよかった。日向ぼっこをしていたと思われる亀たちがびっくりして急いで水に飛び込んで逃げてったのを覚えてる。あそこは観光地でもなんでもないけど素敵な場所でした。あとはブランキーのツアーで八戸から室蘭に渡るフェリーに乗った時、見渡す限りの水平線の朝焼けを見たんだけど、あれはめちゃくちゃピンクの雲がどでかくあって、ぐちゃぐちゃなんだけどめちゃんこ美しすぎて写真撮ったんだけど白黒のフィルムだったんだよね。しかもどっかいっちゃってもうないわ。頭の中にある。

―― Blankey Jet Cityの3人でスタジオに入ったという話もありました。どんなナンバーを一緒にプレイしたのか、もしよければ教えてください。

浅井 新曲ですね。いつかアルバム作りたいですね。3人で。

―― 文章中に出てくる「身体中の細胞に自分の意志を伝える」「心に行きたい世界を思い描くことが全ての始まり」という言葉が印象的ですが、最近実践したことはありますか?

浅井 忘れておりました。後でやります。

―― 無意識のうちに孤独と向き合うことの多い約3ヵ月でしたが、浅井さんはいかがでしたか? また、どんな時に孤独を実感したり、どうやって乗り越えたりしましたか?

浅井 孤独ではないね。自分の音楽を聴いてくれてるたくさんの方たちがいると思うと、それだけで嬉しいし、自分はすごく恵まれてると思って、何かに「ありがとうございます」って言わないといかんて思ってるかな。

―― この本を読んで改めて人生は物語だなと感じました。“太陽が地球を照らすように”と文章中にもありましたが、この本が読む人の心を照らすような1冊になればいいなと思います。

浅井 ありがとう! そうだね、そんな本になれてたら感無量です。この言葉初めて使ったかも。

―― まだ未読の読者に向けて『神様はいつも両方を作る』というタイトルについて一言いただけますか?

浅井 いやなんか偶然出てきた。なんか本当の言葉かなと思ってつけたんだけど。

―― 本編の最後、いつもライブで聞くあの言葉が書かれていてとても嬉しくなりました。延期・中止になってしまったライブが見られる日を楽しみにしています! 今後の予定で、もし決まっているものがあれば教えてください。

浅井 心が和むというか、ちょっとあったかくなれるはずと思っているので、ぜひ読んでください。今度うちの会社からインストゥルメンタルのアルバム、心のこもってるアルバムが出るのでぜひ聴いてください!


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INFORMATION


浅井健一 ストーリー&ダイアリー『神様はいつも両方を作る』
2020年6月10日(水)リリース
販売サイト:SEXY STONES RECORDS online store

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