DONUT

2019.10.9 upload

浅井健一 インタビュー
今までマイナーの世界観で作ってきたんだけど、 メジャーコードもかっこいいなとやっと思えてきた
―― 浅井健一

今年は浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSと並行して、5年ぶりとなるソロプロジェクトも展開中のベンジーこと浅井健一。ここに完成したニューアルバム『BLOOD SHIFT』にはBLANKEY JET CITYで活動を共にした盟友・照井利幸をはじめ、仲田憲市(SHERBETS)、椎野恭一(AJICO)、キルズ、岡屋心平という多くの仲間がそろった。中尾憲太郎(ba)、小林瞳(dr)とともにグルーヴを進化させ続けるキルズのソリッドなサウンドと、照井らと作り出す深淵なメロディ。どちらにも音楽の豊かさがあふれている。メジャーコードを取り入れたナンバーもあり、その開かれたコードは浅井が描く言葉にも新たな感触を生んでいるようだ。また、今作の初回盤には浅井が脚本・主演をつとめたショートフィルムが収録。チャーミングでユーモアあふれる一面が映像にも広がっている。

●取材・文=秋元美乃/森内淳

―― 浅井さん先日、登山に行かれてましたね。

浅井健一 うん。初めて山登りしたけどすごいきつかった。

―― インスタで何枚か写真を見ましたが、普段の格好で行ってましたよね?

浅井 この格好だね。でもリュックは背負ってたよ。あの岩を登っている写真は頂上で、そこに荷物を置いてもう少し高いところの岩に登ってたんだよね。

―― 準備はしてあったんですね。

浅井 もちろん。て言っても「なに持って行けばいいのかな」と思って、ペットボトルとタオルと上着一枚だけ。あの時はまだ軽装で十分だったね。

―― 風景の方の写真を見ると、頂上まですごく距離があるように見えました。

浅井 そう見えるよね。あれでも、写真を撮ってるところはだいぶ登ってきたところなんだわ。あの場所から頂上の岩があるところまで、(写真では見えないけど)また下ってくんだわ。登ってきたのにまた下らないかんくて、で、また登ってっていう。帰りもまったく同じことやらないかんでしょう。なにが面白いか全然わからなかったんだけど(笑)。きつかったな。

―― 写真で道が見えなかったのは、下る道が隠れてたんですね。

浅井 そう。俺らは行きは2時間、帰りは1時間半。それくらいのハイペースで行くとけっこうハードだったね。ゆっくり行けば、おばあさんでも子供でも行けるよ。そんなに難しい山じゃない。

―― どこの山だったんですか?

浅井 山梨県の金峰山。

―― 登山に行こうと思ったのは?

浅井 一緒にサーフィンも行ってるだいすけってやつがおって、だいすけはいつもひとりで山に行ってるんだけど、誘ってくれて。「じゃあ行ってみるか」って。

―― 初登山、いかがでしたか?

浅井 頂上は最高に気持ちよくて、あの時ちょうど南の方が台風だったんだよね。そうすると、台風が全部雲を引きつけるから、本州の方はめちゃくちゃ晴れてすごくいい天気だった。山であれだけガスってないって珍しいんだって。途中で湧き水が湧いとって、それがうまかったな。滝みたいになっててさ、そこで顔を洗ったり水を汲んだり。痛いくらいに冷たい水で。その場所、誰も知らないんだよね。知らないっていうか気づく人が少なくて。ペットボトルに入れて持って帰って、東京に帰ってきてからも何日間か飲んでたよ。

―― 山登りすると何かが変わる、という話も聞いたことがありますが。

浅井 なんも変わらんね。インスタグラムに写真を載せたら反応がよくて嬉しかったくらいかな。

―― 浅井さん、たまに思い出したように投稿されますよね(笑)。

浅井 思い出したね(笑)。普段はめんどくさいから写真は撮らないんだけど、後で見たら嬉しいかなと思って、だいすけと頑張って撮りあってたんだよね。それが良かった。そういえば、だいすけが「この岩は自然の岩じゃなくて、大昔に宇宙人か誰かが持ってきた岩だ」とか言いたがるやつで。岩場で座禅組んで(瞑想するようなポーズで)神を感じようとしてるの。俺もまねしてやってみたけど、周りの人たちはそこでおにぎり食べていて。「なにやってんだ俺んたち」って話で俺は笑えてきたけど、だいすけはマジで。で、話しかけるのに振り向いたら、こんなこと(人差し指を天に向けてるポーズ)やってた。

―― (笑)浅井さんもやってみたんですか?

浅井 俺はそこまではやらん(笑)。崖っぷちで胡座かいてる写真があるんだけど、そこで瞑想に耽ってて。で、パッと目を開けたらすっげーなんかブワッときて、びっくりした。くらっときたね。

―― 登山には行ってみたいけど……。

浅井 けっこうきついよ。ただひとつ言えることは、行ったら絶対帰ってこないかん。

―― たしかに(笑)。

浅井 もっとやさしい山から行った方がいいと思うよ。なんか周りで山が流行ってるんだよね。

―― また行きたいですか?

浅井 いや、全然行きたいと思わないんだけど、通の人が「1ヵ月以内にもう一度登りたくなりますよ」って。不思議ともう一回行きたくなるんだって。不思議と。……俺もちょっと行きたくなり始めてるかな?

―― さっそく(笑)。

浅井 初めて行って帰ってきたばかりの頃は、つらいからまた行きたいとは思わないんだって。でも1週間2週間経つうちに行きたくなるんだって。

―― 行ったらまた写真を撮ってきてください。

浅井 もちろん撮るよ。こんなに喜んでもらえるなら(笑)。インスタグラムなんて、みんなの仲間入りになっちゃったけど。

―― 楽しく使うのはいいと思います。

浅井 そうだよね。

―― この間のライブで照井(利幸)さんとキャンプに行った話もありましたけど、アウトドアですよね。

浅井 そうだね。登山よりキャンプの方が好きかな? キャンプも最高だった。ものすごい天気良くて、平日だったから人も少なくて。夜、星の下でふたりでギター弾いて、酒飲んで。照ちゃんは寝るの早くて。で、朝になったらコーンスープ作って。もう次の日の午前中には帰ってきた。なんか物事を進めるスピード感が照ちゃんと似とるなと思った。ひと通りやったらもういいんだわ。「さ、帰るか」って。

―― 照井さん、キャンプに行こうと誘ったら「今から行こう」と返事をしたんですよね。

浅井 うん。俺も早いけど照ちゃんのスピードはもっと早かった。

―― キャンプのセットは浅井さんが持って行くんですか?

浅井 テントと寝袋とカートリッジのガスコンロ。それに鍋とコップがあればいいんだよ。キャンプ、いいよ。

―― ライブでも話していたコーンスープの話は、思わず「ワイルド・ウインター」を読み直しました(注:ブランキー・ジェット・シティのインタビュー集。コーンスープにまつわる話も載っている)。

浅井 読んだ(笑)? あれ、笑っちゃうよね。

―― 今回のアルバム『BLOOD SHIFT』には照井利幸さんをはじめいろいろな方たちが参加されていますが、レコーディングはどんな風に進めていたんですか? 

浅井 去年の秋から作りはじめて、照ちゃんと録った曲が4曲あったんだよね。で、あとの6曲か7曲をTHE INTERCHANGE KILLSや仲田(憲市)先輩たちと一緒に、と思ってたんだけど、照ちゃんと椎野(恭一)さんと作った「ぐっさり」が配信されることになって、そうこうしてるうちに春にアニメーションの主題歌をやることになってキルズでレコーディングに入ったんだよね。そんときにかっこいいのが5曲くらいできて。それでいきなりキルズ色が強くなって、キルズっぽいアルバムになった。だからはじめに構想してたものとは違った形になったかな。

――「違う血を入れたかった」ということでソロ活動がはじまって、作る時期も違うだろうし、めぐりめぐって今の最新モードになったんですね。

浅井 うん。一番いい状態だとは思ってる。

―― それぞれのメンバーとはどんなレコーディングでしたか?

浅井 照ちゃんのベースラインは神がかってるんで、楽しんでるうちにいろんなアイデアが出てきて。またやりたいなあ。キルズは(小林)瞳ちゃんも曲作りに意見を言いはじめてきて、やりやすくなった。グルーヴも固まってるし。

―― キルズのグルーヴはライブでもすごいことになってますよね。

浅井 嬉しいね。仲田くんとやった「METALLIC MERCEDES」はすごくいいんだけど、他の曲はなぜか完成しきれなかった部分があるかな。だから今回のアルバムには入らなかった。本当はあと3曲あるんだけど。

―― そうなんですね。

浅井 仲田先輩と(岡屋)心平と俺でやるのは初だったんだけど、それぞれはいいんだけど相性が違うのかな。これもひとつの発見だよね。

―― 浅井さんの感性的にフィットしないということ?

浅井 なかなか曲が完成できないんだよね。なんでかしらんけど。みんながみんな「かっこいい」と思うところまで到達できないというか。「METALLIC MERCEDES」は到達できたけどね。あれは最後に瞳ちゃんのコーラスが入ってさらによくなって。でも他の曲はまだ発展途上で。ベーシックしか録ってないからダビングしたらまた変わるかもしれないけど。そうこうしてるうちにキルズでゴキゲンなやつが録れたから。

―― いまキルズは本当にいい状態なんですね。

浅井 キルズはキルズでまた悩むこともあるけどね。それで最初は違う血を入れようと思って動いたんで。

―― いろいろやってみてわかることなんですね。

浅井 仲田先輩とやるんだったら、外村(公敏)くんと福士(久美子)さんがいいと思うんだわ。その4人じゃないと成立しないんだなって今回わかった。心平のドラムもすごいかっこいいから何か起こるかなと思ったんだけど、今回の組み合わせではちょっと違ったみたい。

―― そう考えると、SHERBETSの4人が合わさったときの音は本当に奇跡なんですね。

浅井 そうなんだわ。実はその後に俺と外村くんと先輩と3人でスタジオに入ったんだけど、ダメだったんだよね。だからSHERBETSは絶対あの4人じゃないとダメで。不思議な星というか。いろんな鉱石だとかアルミニウムだとか水素だとかあるじゃん。それって原子が組み合わさってひとつのものになるじゃん。それと同じなのかもね。

―― バンドってすごいですね。

浅井 「そういうことなのか」って、54歳にして気づいたって感じだね(笑)。

―― 浅井さんのなかでアルバムの手応え、とくに好きな曲は?

浅井 「Sunny Precious」とか「目を閉じる映画」「Old Love Bullet Gun」が好きかな。

―― 最後にキルズでレコーディングしたというのはどの曲ですか?

浅井 「暗いブルーは暗いブルーさ」と「Old Love Bullet Gun」と「Colorful Elephant」と「目覚める時」。これが最終レコーディングで録った4曲だね。

―― アルバムでは浅井さんの心象風景や、聴く人それぞれが「自分にとっての世界」を感じられる歌詞も印象的でした。あとポップな聴き心地の曲もあって。

浅井 うん。「Old Love Bullet Gun」はポップでしょう? 「Old Love Bullet Gun」と「暗いブルーは暗いブルーさ」と「目覚める時」はメジャーコードだからね。

―― メジャーコードが多く入ったのは何かきっかけが?

浅井 そろそろメジャーコードに行こうと思って。今までマイナーの世界観で作ってきたんだけど、メジャーもかっこいいなとやっと思えてきた。

―― 今回、違った聴き心地があるのはコードの違いがあるのかもしれないですね。

浅井 ちょっと開けた感じでしょ? それはコード感のせいだよ。

―― だからなのか、出てくる言葉のキーワードも違う感じがしました。

浅井 そうなんだわ。キーワードも変わってくるんだわ。

―― 歌詞も、以前より直接的な表現が多くなったような気がしますが。

浅井 ああ……それもメジャーコードになったからじゃないかなあ。

―― 歌は、世の中への嘆きもあるけれど、でも希望を見つめる歌が多いですよね。今はどこを見てもどこへ行っても下を向いている人が多いけれど、空を見上げたくなるようなアルバムだなと思いました。

浅井 下向いてる人、多いよね。

―― 最近の世の中に、何か思うことってありますか?

浅井 いろいろあるよ。バカなリーダーを選んじゃうと国って潰れるんだな、とかさ。みんなの知性が大事なんだなって。その知性をつくるのは日々、目や耳にする世の中に起きてる事柄でしょう。何が大事なのか、大切なことに気づこうっていうか、自分の姿勢を正そうっていう、そういう気持ちを呼び起こすのが大事で。何も全然難しいことじゃなくて、人としてのもともと持ってる正義感だとか優しさだとか約束を守るだとか、そういう精神を思い出して自分自身が生きていくってことは、簡単にできるじゃん。今からでも。それが一番重要。それをやっていこうと言ってる人がいてさ。素晴らしいなと思った。

―― 自分の心の持ちよう、ということですね。

浅井 今はいろんなところで正しいことも知れるから、気づく人が増えればいいけどね。フェイクニュースとかには振り回されずにね。

―― そうですね。情報をキャッチしてもそれを見定められないといけないですよね。

浅井 うん。

―― で、今作の初回盤につくショートフィルムについても伺いたいのですが、この映像がめちゃめちゃ面白くて。

浅井 ほんと? それは嬉しいな。

―― チェック用の映像を昨夜送っていただいたばかりで、取材前までに半分までしか見られてないのですが、見応えありますね。

浅井 ありがとう。

―― いろいろなシーンに笑顔になります。あと、キルズの瞳さんてこういう人なんだ、と初めてわかりました。堂々としてるけどキュートで。

浅井 瞳ちゃんが喋るところ、たぶんみんな初めて見るよね。

―― 浅井さんはそのままでしたね。

浅井 あれ、演技なんだけど(笑)。

―― え、浅井さんのままでしたよ(笑)。

浅井 憲太郎はやっぱり役者じゃなくてベーシストだったね(笑)。

―― (笑)。この映像のアイデアはどこから?

浅井 みんなでディスカッションして決まったかな。セリフは俺が考えたんだけど。

―― セリフ?

浅井 いちおう決まっとるんだけど。

―― 脚本は浅井さんなんですね。

浅井 そうだね。

―― でも素に見えるのは大成功ということですね。

浅井 そうだよね(笑)。あの映像に出てくるカフェ、本当はアイスクリーム屋さんで、あの店員さんは偶然ファンだったんだよね。

―― それは素敵な偶然ですね。このDVDはみんな見てほしいですね。

浅井 最後にオチがあって、めちゃめちゃ笑えるよ。

―― 続きを見るのが楽しみです。ストーリーっぽく始まるMVはあったけど、こういう映像はなかったですよね。

浅井 初演技だよね。

―― あと浅井さんの英語もすごくいいなと思いました。

浅井 そうなんかなあ?

―― 「話せば通じる」という心が伝わってきて。

浅井 ははははは! とりあえず間違っとってもいいんで話してみようっていう。そういうの大事だよね。

―― そう思います。わりとみんな恥ずかしがってしまうので。

浅井 俺の英語がめちゃくちゃでカットされた部分もあるけどね。

―― 演技ということはNGカットもあるんですね。セリフを間違えたりとか?

浅井 セリフの間違えはないね。カフェのシーンが長すぎてカットされたりとかかな。

―― あと、このフィルムはドライブしながらいろんな人と出会っていくというストーリーではじまりますが、『TED TEX』(2003年発売の漫画のような絵本)の世界観みたいだなと思いました。

浅井 ああ、なるほど。

―― 『TED TEX』の中では、作者でもあり主人公でもあるTED TEXは結局出てこないんですけど、この映像でとうとう浅井さん=TED TEXが登場した! みたいな。

浅井 実写版『TED TEX』かもね。

―― セリフから考えたということで、浅井さん的な見所を紹介していただけますか?

浅井 俺の初演技だね。意外とすんなりできてよかったなって。自分としては初映画に出たので、よかったら見てください。笑えるところいっぱいあると思うんで、息抜きに笑ってほしい。とくにエンディングは笑ってほしいな。それ以外のところはそうじゃないけど、最後だけは笑わせようと思ってやってるんで実力のほどを見てください(笑)。世の中のどこにもない笑いだと思うよ。

―― アルバムも映像も、届くのが楽しみですね。

浅井 そうだね。『BLOOD SHIFT』がみんなの血をシフトするくらい、いいものであってほしいね。

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INFORMATION



<初回盤:CD+DVD>


<通常盤:CD>

浅井健一『BLOOD SHIFT』
2019年9月25日(水)Release
収録曲:1 Old Love Bullet Gun 2 METALLIC MERCEDES 3 暗いブルーは暗いブルーさ 4 Sunny Precious 5 Colorful Elephant 6 目を閉じる映画 7 目覚める時 8 Very War 9 DEAD FISH 10 HARUKAZE 11 だからってさ



<初回盤:CD+DVD>


<通常盤:CD>

浅井健一「MOTOR CITY」
2019年11月13日(水)Release
収録曲:1.MOTOR CITY 2.Addiction 3.ぐっさり


※ LIVE INFORMATION は公式サイトでご確認ください。


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