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浅井健一 インタビュー
ライブもこのタイミングでよくなってるから、広まるといいな。そういう夢をもってやっとるけどね
――浅井健一

浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSで熱いツアーを開催中の浅井健一が、約5年ぶりにソロプロジェクトを始動。「HARUKAZE」「ぐっさり」の2曲を配信リリースした。宇宙自体を故郷ととらえる「HARUKAZE」はキルズのメンバーとレコーディング。シンプルなコードから次第に高揚していくサウンドがこのバンドの充実を物語っている。ネット社会への憂いを浅井らしい言葉で紡いだ「ぐっさり」は照井利幸、椎野恭一とレコーディング。久々の顔合わせにも関わらず、深淵に絡み合うアンサンブルの妙に惹き込まれる。2曲ともに思いの元を辿ると、そこには浅井がずっと描いてきた根源が広がっている。そしてもう一作、今年1月には奈良美智とコラボレーションした絵本『ベイビーレボリューション』も発表となった。こうした一連の作品群から改めて見えてくるベンジーワールド――想像力をもって生きれば、もっと優しい世界になる――。近況から新曲、絵本についてなど、浅井健一インタビューをお届けします。

―― まずは近況を教えていただけますか?

浅井健一 最近は音楽作りと、グッズのデザインに没頭してたかな。次のアルバムはソロで出すんで、すでにもう何曲かはレコーディングしてあるんだけど。キルズ(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)と、照ちゃん(照井利幸)たちとのチームと、あと(岡屋)心平、仲田(憲市)先輩のチームと、その3つのチームで作ろうと思っとって。で、心平・仲田先輩と曲作りをしてる。あと『ベイビーレボリューション』(絵本)のプロモーションで奈良(美智)さんと対談したりとか。けっこう忙しくしてた。週のうち2日か3日はつぶれちゃうからさ、酒で。

―― あ、お酒で。

浅井 うん。真面目にやってる日もあるんだけど、だいたい4日間くらいやるとストレスがたまるのか、飲みに行ってしまって。そうするとつぶれちゃって。その繰り返し。

―― 週のうち3日つぶれるのは多い…ですね?

浅井 飲みに行くと、次の日の昼くらいまで飲んじゃうんだよね。そうすると次の日は全然だめになるでしょう? 下手したらその次の日まで引きずっちゃうし。そういう生活をやってます。

―― 去年はキルズの活動があったり、SHERBETSの20周年があったりの一年でした。で、今年はどんな活動かと楽しみに待っていたら、ソロでの新曲がまず2曲発表されて。

浅井 うん。

―― ソロ名義でのリリースは5年ぶりとなりますが、浅井さんの中で活動の棲み分けみたいなものはありますか?

浅井 キルズで2枚作ったから、次はキルズのメンバー以外の違う血を入れたかったというか。たったそれだけのことなんだよね。

―― ソロアルバムを作ろうというのは?

浅井 やっぱりミュージシャンだから、作れる限りはずっと作っていくじゃん。作れなくなるまで。その挑戦が続いてる感じだよね。(次の作品を)ソロにしようと思ったのは、たぶん勘かな?

―― 「HARUKAZE」のほうはキルズのメンバーとレコーディングしたナンバーで、コードがシンプルな分、すごくストレートに響いてきます。2年のキルズの活動を経てきたからこそ、こんなにシンプルなコードで表現できたんじゃないかなと思いました。

浅井 キルズはここにきて、またバンドが固まってきていいんだよね。演奏がすごくいい。過去最高なくらい、やっててめちゃめちゃ気持ちいい。

―― 3人の呼吸が合うというお話は最初からされてましたよね。

浅井 うん、合ってたんだけど、今の方が全然いいから嬉しいかな。

―― どんどん手応えが増しているんですね。

浅井 去年のアタマくらいから変わってきてさ。そのままどんどんよくなって。だからライブ見ている人もすごい気持ちがいいと思う。

―― たしかに、ライブでのグルーヴすごいですね。

浅井 やっとっても楽しいからね。年だけどさ、このタイミングでよくなってるから、広まるといいな。そういう夢をもってやっとるけどね。

―― イベントのとき、BLANKEY JET CITYを知らないくらいの若い世代のファンが、ライブを見てかっこいいと言っているのを耳にしました。

浅井 それは一番嬉しいね。若いバンドもたくさんいるけど、新しく知ってくれて、「この人たちすごいな」って思ってくれたらいいな。もちろん、ずっと聴いてくれてる人たちもものすごーく嬉しいし。

―― この「HARUKAZE」は強さと優しさを歌った曲だなと思いました。人間はみんな同じだし、みんな一人だし。だから強くなきゃいけないし、優しくなければならないな、と。

浅井 うん。そうだね。じたばたしても仕方がなくて、宇宙が故郷だと思えば大きい気持ちになれるじゃん。怖くなくなるし、あんまり。そんな気持ちで歌ってる。

―― 宇宙というのは浅井さんの歌に時々出てくる言葉ですよね。

浅井 よく出てくるね。

―― 宇宙というと孤独感も浮かびますが、みんな同じなんだというあたたかさと大きさも感じて。

浅井 そんなようなことだよね。

―― この曲に「HARUKAZE」というタイトルもすごくいいですよね。

浅井 それは堀くん(マネージャー)がつけた(笑)。

―― そうなんですか!?

浅井 レコード会社が早くしてくれって言うもんだで、しかも前向きなものにしてくれっていうオファーもあって(笑)。

―― そうなんですね(笑)。春風って、桜を吹き散らすような強さもあれば、冬から春へと変わる暖かさもあって、ぴったりなタイトルだと思っていました。

浅井 まさにそうだよ。そういえば宇宙がどうなってるかって誰も知らなくて、この間は「はやぶさ2」がリュウグウ(小惑星)に着陸したでしょう?

―― はい。

浅井 あれ、めちゃめちゃ遠いって知ってた? 新幹線で行くと百万年くらいかかるんだって。何十万年だったかな。そんな遠いところにあるんだよ。そこに「はやぶさ2」を飛ばして、ここ(地球)からリモートコントロールしてるんだよ。すごいよね。

―― あれはすごいですね。今回は着陸地点もすごくピンポイントに絞って設定されていたんですよね。

浅井 前回よりサンプルを採れるようにしたんだっけ?

―― そう聞きましたね。

浅井 宇宙にそんな惑星があることが知れるのもすごいことだよね。地球が誕生した頃からその惑星はあるってことなんかな。何も変化してないから生命の起源がわかるとか言ってるじゃん。すごいよね、どうやってわかるんかな? 宇宙っていう空間がなぜあるのかもわかってないけど、でも俺んたち一生懸命こうやって音楽やってるじゃん。広めようと頑張ってるじゃん。そうやって考えてくとすごいよね。

―― 宇宙規模で考えると。

浅井 宇宙規模で考えると、俺んたちは何をやってるんだ、て感じだよね。

―― たしかに(笑)。

浅井 何をやっとるんだこの狭い部屋の中に入って(笑)。

―― そういうことですね(笑)。

浅井 そういうことだわ(笑)。面白い世の中だよね。

―― そんな一方で、「ぐっさり」で歌われているような悲しい世の中もあって。浅井さんもネットとかご覧になりますか。

浅井 うん、YouTubeとかニュースとかしか見んけど、見るよ。メールとかで仕事が処理されることが多くなってきたね。データの確認とか。

―― 普段からデザインでもパソコンは使いますもんね。

浅井 コンピューター使うね。もとは描くんだけどね。それは大事でさ、もとからコンピューターでやる人もいるけど、それをやるとどんどん味気ないものになってっちゃうから。やっぱりおおもとは手作り、人間の描く線じゃないと、作品がなんか冷たい感じになるんだよね。

―― 浅井さんからは今の世の中はどう見えてますか?

浅井 インターネットのいい面ももちろんたくさんあるし、もろ刃の剣で悪い面もあると思う。その悪い面で傷ついてる人がめちゃめちゃたくさんいるんだろうなって。そういうのを感じるもんだから、それが歌になっちゃったんだよね。本当はそういう歌にしたくなかったんだけど。でも最後が、希望が見えて終わるふうになったから、これは出す価値があるかなって。文句ばっか言ってるだけじゃなくて、前向きな歌になったから。

―― この2曲もそうですが、共通したものが根底にありますよね。

浅井 うん、ずーっと共通したもんはあるよね。底辺に流れとるものが。

―― 浅井さんの歌からは「想像力をもとう」ということと「笑顔」というのはずっと受け取っていると思います。

浅井 愚かな人がたまにいるんだわ、少しだと思うんだけど。そういう人たちが今は目立つんだよね。それに便乗しちゃってる人もいるし。だから、そういうふうに曲から何かを感じ取ってもらえればいいなと思ってる。

―― そうですね。顔が見える世界と顔が見えない世界と、今は両方あって。

浅井 ああ、そうだね。顔の見えない世界か。みんな言いたい放題だもんな。この曲は、出したからってそういう人が減るかもとかは俺は期待してないかもしれないけど、いいかなと思って出した。

―― この曲のラストを前向きに終わらせられたのはなぜですかね?

浅井 書いてる時は最後どうなるかはわからないんだよね。で、書きながらだんだんそうなる。ふと思い浮かぶ。偶然。いつもそうだよ。

―― ラストの希望に向かって書くのではなく?

浅井 違うね。

―― 例えば、そういうラストがふと思い浮かばない場合もあるんでしょうか?

浅井 出ない場合はそのままレコーディングして、途中で思いつくこともあるし、何か表さないかんだろうという状況で叫びでごまかす時もあるし。いや、ごまかすわけじゃないんだけど(笑)。叫んで終わるとか(笑)。

―― なるほど(笑)。今回はどうしてこの<にっこり笑おう>という言葉が出てきたんでしょうね。

浅井 知らん(笑)。何で出てきたかって言われると、わからん。

―― 「ぐっさり」ではPONTIACS以来の照井利幸さんと、久々の椎野恭一さんが参加されてますね。

浅井 照ちゃんは音楽の波長がすごく合って、ベースラインがすごい。椎野さんはやっぱり音がいい。グルーヴもいいし。

―― ミドルの曲だとそういうすごさがとくに伝わるように思いました。

浅井 ね。本物のミュージシャンというか。そういう感じがしたね。

―― 音の深みというか。

浅井 深みがあるよね。他に3曲やったんだけどそれもすごくいいよ。

―― 久々に照井さん、椎野さんと音を出されていかがでしたか?

浅井 もう文句なしだよね。

―― PONTIACSは急に終わってしまった感じがあったので、また照井さんとのレコーディングは嬉しい驚きでした。

浅井 PONTIACSの時は、照ちゃんがたぶんバンドで違和感を感じたんだと思う。もう続けられないって話になって、仕方なく終わりになったんだけど。でも、久々に声をかけたら、すぐ「いいよ」って言ってくれた。

―― 照井さんとはサーフィンとかは一緒に行ってたんですか?

浅井 そうそう。音は出してなかったけど。今回のレコーディング終わった時、「歌詞がいいから売れるといいね」って言っとった。照ちゃんがそう言うの、初めて聞いたかな。

―― 初めて?

浅井 あんまり褒められたことない(笑)。

―― そうなんですか?

浅井 照ちゃん、あんまり褒めんよ。

―― そんな照さんが褒めるなんて、かなりの手応えでは。

浅井 そうかな、と思って期待してるんだよね。生まれて初めてじゃないかな、照ちゃんに褒められたのなんて(笑)。

―― それは嬉しいですね!

浅井 ちょっと嬉しいんだよね。でもあんまり俺が「やったー」なんて喜んだらダメじゃん? まるで照ちゃんが先生みたいになっちゃう。

―― ああ、なるほど(笑)。

浅井 でも「生まれて初めて照ちゃんに褒められた」って書いといて(笑)。

―― あともうひとつ、浅井さんの根底に流れているもののひとつの世界が、絵本にもなりましたね。『ベイビーレボリューション』は浅井さんが前から好きだと話していた曲ですが。

浅井 うん。よくこういう歌が偶然できたと思う。演奏も最高だし、こうやって絵本になるのは嬉しいことだし。たぶんお母さんが買うでしょ、これ。俺のことを知らない世界の人たちに広がるのが楽しみ。奈良さんもすごい楽しみにしてた。

―― 奈良さんとのコラボレーションというアイデアはどこから生まれたんですか?

浅井 そもそもは、クレヨンハウスの人がこの曲を気に入ってくれて、歌詞を絵本にしたいと言ってきてくれたんだわ。そこから始まって、プロの童画作家の人にも話を持ってったんだけど最終的に奈良さんに決まって。

―― 浅井さんは自分でも絵を描かれるので、他の人の絵で、というのは新鮮だったのでは?

浅井 うん、それいいと思う。俺なんでも自分でやろうと思っちゃうんで、その道のプロに任せるのって大事なんだなとこの年になって思ったね(笑)。

―― そうなんですね(笑)。

浅井 最近、曲もプロデューサーに頼んでやってもらおうかとも思うし。餅は餅屋というか、そういう面はあると思う。歌もさ、いっぺん瞳ちゃん(小林瞳)に歌ってもらおうかなと思って。英語も本物だし、声もすごくいいんだよね。

―― じゃあもしかしたら瞳さんボーカルの曲ができるかもしれないですね。

浅井 キルズで、俺バージョンもあって、瞳ちゃんバージョンも出したらどうかなって。瞳ちゃんの方が売れたりして(笑)。

―― ふふふ(笑)。

浅井 それはそれでいいよね(笑)。そうしたら俺はプロデュースに専念するからさ、それはそれで楽しいよ。

―― もしそうなったら浅井さんのプロデューサーとしての気質が発揮されるわけですね。

浅井 というか、バンドマンとしてついてく(笑)。

―― でも何かをきっかけに夢が広がるのはいいですね。

浅井 そうだね。だから頭を柔らかくしてやらないとね。

―― 奈良さんとの絵本が完成して、感想はいかがですか?

浅井 全部が全部、今回のために描いてもらった絵じゃないんだよね。最初それを心配してたんだけど、この間、奈良さんと対談した時にその心配はスコーンと晴れたんだわ。奈良さんが物語を読んで、「この内容のことはもうすでに何枚も描いているから」って言っていて。それを聞いて自分の中ではすっきりして。

―― 浅井さんが書いていた『ベイビーレボリューション』と同じ世界をすでに、奈良さんは奈良さんで生み出していた、と。

浅井 シンクロニシティ現象。それがこの本になった。

―― 奈良さんは『NO WAR!』という画集も出されてますもんね。根底で通じるところが引き寄せたコラボレーションだったんですね。

浅井 そうだね。まあ子どもにレボリューションの意味を説明するのはそうとう難しいと思うけどね。大人になってからわかればいいか。

―― この作品が絵本コーナーに置かれることがとても素敵だと思います。

浅井 ね?『Let's Study』(2011年9月発行)も絵本コーナーには置けなかったもんね。この間、図書館に3冊持って行ったんだわ。「置いてください」って。そしたら、預かってくれたんだけど名前も何も聞かれなかった。「名前聞かなくていいの?」って言ったら「はい。これはこちらで処理して判断させてもらいます」って。置かれるか置かれないかの連絡ももらえないらしい。

―― 寄贈者の名前は聞かないんですかね、そういう仕組みなんですかね?

浅井 そういう仕組みなのかもね。

―― 作者だとは?

浅井 伝えたよ。「作ったんですけど」って。置いてほしいなあ。

―― 『ベイビーレボリューション』は浅井さんのファン、奈良さんのファン、絵本ファンやお二人を知らないお母さんたちと、いろいろな方たちに手にとってほしいです。

浅井 楽しみだね。絵本がきっかけで何か起きたらいいね。曲も楽しいから聴いてほしいし。

―― 『ベイビーレボリューション』の世界にグッときた人からまた広がるといいですね。歌も届く気がします。少しでもいろんなことに想像力をもてる世界になればいいなと。

浅井 ノーベル文学賞とか取れんかね?

―― どうやったら取れるんですかね(笑)。

浅井 いや、想像してるんだけど(笑)。どうやったら取れるんかって、そんなもん見てる人は見てるんじゃない(笑)。

―― (笑)絵本も音楽も広がっていくのが楽しみです。

浅井 うん、よろしくお願いします!

(取材・文/秋元美乃・森内淳)

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<STAFF> WEB DONUT 6/2019年3月30日発行/発行・編集・WEB制作=DONUT(秋元美乃/森内淳)/カバーデザイン=山﨑将弘/タイトル=三浦巌

INFORMATION



浅井健一 配信限定シングル「HARUKAZE」「ぐっさり」
2019年2月28日(木)Release


浅井健一 シングル「METALLIC MERCEDES」
2019年5月29日(水)Release
価格1,000円(+税/通常盤)
収録曲:01 METALLIC MERCEDES 02 Freedom 03 INDY ANN
CD予約:https://aoj.lnk.to/-mlqP

浅井健一 LIVE INFORMATION >> https://www.sexystones.com/live/

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