錯乱前戦 インタビュー
グッとくるのは初期ストーンズの「I Wanna Be Your Man」のイントロ。あの感じ。理由があるわけじゃないけど、ガーーーッていう衝動だけある、みたいな
――――山本
2018年は怒涛のライブ数をこなし、ステージごとにバンドの幹を太くしていった錯乱前戦。彼らは山本(vo)、成田(gt)、森田(gt)、佐野(ba)、サディスティック天野(dr)からなる20歳になったばかりの5人組。ライブでの成長ぶりは目にも耳にも明らかで、一音入魂の潔さは鋭さを増すばかり。ステージでの爆発感の無敵感たるや、これはもうロックンロールそのものだ。そしてその爆発感はステージングだけのことではなく、抜群のソングライティングもしかり。シンプルな言葉から降ってくる衝動もロマンチックな情景も、この音にしてこの言葉ありの“うた”となってオーディエンスを、リスナーをズドンと射抜く。加えて5人でのコーラスワークが映えるナンバーあり、インストあり。あっという間に駆け抜けるステージは一瞬たりとも見逃せない瞬間だらけだ。ぜひ、このロックンロール5人組を知ってほしい。錯乱前戦は、完売に次ぐ完売を繰り返した1stデモ音源『あッe.p.』(現在廃盤)に続き、12月に1stミニアルバム『ランドリー』をリリース。ボーカルの山本に、近況を含めて話を訊いた。WEB DONUT、2度めの登場です。
―― 12月2日には、1stミニアルバム『ランドリー』のリリースイベントがありました。大盛況でしたが、いかがでしたか?
山本 楽しかったです。お客さんもたくさん来てくれてびっくりして。対バンに出てもらったバンドも、すごくいいライブで嬉しかった。
―― 対バンはLayne/myeahns/UlulUの3バンド。
山本 実際にライブを見たことあるがなかで、好きだなと思うバンドに出てもらいました。3バンド、何が共通点かはわからないけど、並びもしっくりきたなって。
―― 先輩バンドのライブを見て、火がつきましたか?
山本 火がついたというか……早くライブしたいなって思いながら見てました。いつもイベントだと、自分たちが最初に出ることが多いけど、かっこいいライブを見た後にライブができるのっていいなと思いました。
―― 対バンに出ていたバンドからも、他のバンドからも、錯乱前戦に刺激を受けているという話はよく聞きますよ。
山本 そうなんですか。それは嬉しい。
―― 以前は、自分たちではまだあまり手応えは感じないと言ってましたが、最近は?
山本 ああ、リリースイベントのとき、手応えは感じました。目に見えてっていうことじゃなくて、なんとなく空気感で伝わってきたというか。
―― それは今までにはなかった空気感?
山本 前の企画(2018年5月)のときよりも、その空気ははっきり感じた。どっちがいいとかじゃなくて。
―― 5月は無料イベントで、そのときも昼公演でフロアは満員でしたが、今回は通常の有料イベントで、やはり大盛況で。これはバンドに対する期待感が広がっているんだと思います。前作『あっe.p.』は、まず物販に置くものを作りたかったという経緯もありましたが、今回はバンドから発信するという意味での音源ですよね。
山本 バンドとしてこういう音源を録ろうとか、そういう話をしたわけではないけれど、いまライブで演ってる曲を録ろうってことで、そのままスタジオに入ってマイクを立ててレコーディングしてみた感じです。
―― でも“作品”として作る意識はあったのでは?
山本 うーん。音源出したかったし、前のを早く廃盤にしたかったのもある。
―― それはなぜ?
山本 ジャケが僕の顔で恥ずかしい(笑)。
―― なるほど(笑)。でも、ここに収録されているのは、ここ1年くらい、ライブで何度も演奏してもまれてきた曲たちですよね。
山本 そうですね。
―― すごくいい状態でレコーディングできたんじゃないですか?
山本 楽しくレコーディングできました。音源を録るためにどこかを変えようとか頭ひねったりもしなかったし、悩むことはあまりなかったかな。ライブと違うところは、思いつきで「これができたらいいな」ってことをちょっとずつ試した感じで。例えばアコギを入れたり、ゲストボーカルを入れたり。前々から、やれるならやってみたかったことをここで実現させたぐらい。あとはライブとほとんど変わらない。
―― ライブと音源が直結してるということなんですね。
山本 直結させようとして、そうしたっていう感じかな? 一発録りだし。機材の関係でボーカルだけは別録りなんですけど、楽器録りのときも自分も一緒に踊ってたり、なるべくスタジオとかライブの感覚でいられるように録ったというか。
―― 前作よりもよく録れたという手応えはありますか?
山本 前のも好きだから何とも言えないです。
―― 前作は森田さんの音を後から入れたけれど、今回は楽器隊は全員で一発録りできたのも、感触として違うのかもしれませんね。
山本 うん。たしかに。
―― ライブでもお客さんからの手応え、空気感を感じるようになったところでのレコーディングだと思うので、その辺もバンドの感覚としてあるのでは?
山本 ああ、そういうのは変わってないかなとは思います。5月のライブより手応えを感じたっていうのは、5月のライブは無料イベントだったから、ただ「面白そうだから行ってみようぜ」っていう人もいたと思うんですよ。
―― でも、昨年は相当のライブ数を経てきて、バンドの成長も感じるのでは?
山本 成長は……あんまり感じないかな。自分は(バンドの)なかにいるからわからないかもしれません。でも周りからの意見を聞くと、ちょっと成長してるっぽい。
―― 具体的にどんな意見が?
山本 久しぶりにライブ見たらよくなってる、とか。かっこよくなってる、とか。
―― そういう声は聞こえるようになったと。
山本 うん。言ってくれる人が増えた。
―― そういう声をうけて、自分たちの音楽を届けたい、広めたいという気持ちは出てきましたか? 前はあまりない、と話してましたが。
山本 うーん…………どうだろう。前は本当に初めてだったから。でも、出来上がったのを聴くと、どこかで誰かが聴いてくれてたら嬉しいな、と思う。いろんな人に届けたいとかじゃなく。
―― 『ランドリー』が完成して、手にした感想は。
山本 ジャケ、かっこいいなって。あ、このジャケはいろんな人に見てもらって、「かっこいい」って言ってもらいたい。それはあるな。CD屋で並んでいるところを見たいですね。
―― ジャケがかっこいいから見てほしい、と言うからには、聴いて音がかっこ悪かったらがっかりじゃないですか。でも、ジャケかっこいいから見てほしいと言えるのは、ちゃんといい音源の手応えがあるから、言えるんじゃないですかね?
山本 ああ、たしかに。うん。それはそうですね。
―― すごくかっこいいアルバムだと思います。
山本 誰かと分かち合う、とかではないけど。
―― 1曲めがモノラル録音ですが、全曲モノラルにしてもよかったと思うくらい。
山本 嬉しいです。
―― 1曲め「ロンドンブーツ」をモノラルにしたのは偶然だったそうですが。
山本 ミックスのときに、モノラルにするボタンを押してみたらドラムの音がドーンって、めちゃめちゃかっこいい音になって。もう何というか、すごくて、「あ、これがいい!」って。で、振り返ったらみんなも「うんうん」みたいな顔してて。
―― そこで全曲モノラルにしようとはならなかった?
山本 ああ、ならなかった。なんか、1曲めだけっていうのが面白いかなって思った。1曲め(の音が)が真ん中にきて、2曲めから広がっていく感じが悪くないかなと。
―― 1曲め、いきなりこの音はグッと掴まれますね。あと今までにない試みとしては、「夕焼けニャンニャンズのテーマ」ではゲストボーカルにザ・ジュアンズが参加してますね。
山本 この曲は、高校の頃、錯乱が受験期で活動が止まっていたときに、もうひとつバンドを組もうと思ってテーマを決めて何曲か作ってたんだけど、メンバーが集まらなかったというバンドがあって。そのとき作ってたテーマです。女の子がいるバンドをイメージしてたから、女の子がBメロを歌うイメージで。だからレコーディングするなら女の子を呼びたくて、そのイメージがジュアンズのじゅあんちゃんだった。じゅあんちゃんがダメだったら、ナリ(成田)が歌ってたと思う。女の子なら誰でもっていうことじゃない曲だから。
―― それだけイメージがはっきりしていた曲なんですね。今作のなかでは「夕焼けニャンニャンズのテーマ」が一番古い曲?
山本 最初の「ロンドンブーツ」と最後「boy meets boys」は新しくて、「ニャンニャンズ」は高校のときに作った曲だから、高校の風景としっくりくるというか。あとの4曲はたぶん去年の3月とか4月くらいに作った曲です。
―― 錯乱前戦の曲は歌詞も魅力的で、日本語のよさというか言葉選びに惹かれます。ロマンチックだし、情景が広がるし。山本さんは本をよく読まれたりしますか?
山本 あまり読まないです。
―― 歌詞を書く、ということに思いはありますか?
山本 歌詞に関しては、自分が楽しく歌えればいいというか。もし、いい歌詞が必要なら、自分が楽しく歌ったり踊ったりするために書くだけで。歌詞だけ見ていい、とか、そういうことではなくて。歌詞なくても最高になれるならそれでいいと思う。
―― 例えば自分の曲作りや歌詞において、何か決まりごととかはありますか?
山本 とくにないかな? でもちょっと、あまりストレートすぎると照れちゃうようなことは抽象的にするというか。照れちゃうと歌えないんで。
―― 曲はどんどん生まれている感じですか?
山本 作ってはいますね。成田もそうじゃないかな。
―― 昨年は「未確認フェス」や「Bowline 2018」など大きなステージにも立ちましたが、どんな景色が見えましたか?
山本 ステージから見える景色はあまり変わらないかな。でも、たくさんの人たちが関わってる、という感じはなんかいいなあと思いました。すごくたくさんの人が動いていて、いろんな仕事をしていて、そういう状況が楽しかった。それが印象に残ってます。
―― 山本さんはステージに上がるとスイッチがオンになるんですかね?
山本 うーん……たぶんそうです。客観的に見れないのでわからないけど。なんか、ロックンロールが鳴ってる感覚は家の中でレコード聴いてるときもあることで。スタジオでも。ライブでは、その興奮に体を任せられる感じ……なのかな。自分ではわからないです。
―― 山本さんのなかで、普段の生活とバンド活動は地続きなもの? それとも切り替わるもの?
山本 別人になるとか、そういうことはないです。ステージの上で別の人格になるとかもかっこいいと思いますよ。化粧したりとか。いいなって思う。でも自分はそういうのはたぶんできないと思う。
―― でも山本さんのあのステージの感じ、すごくかっこいいですよね。
山本 それは嬉しいです。
―― あとこの間、「自分の好きなロックンロールの形がわかってきた。たまにさみしいけど、わかりやすくていいな」と綴っているのを拝見しました。自分の好きなロックンロールの形、教えていただけますか?
山本 言葉では難しいなあ……。
―― じゃあ、何をきっかけにそう感じたんでしょう。
山本 なんか、ロックンロールと言われているバンドを見たり聴いたりしても、あまりグッとこなくて…………うーん。難しい。感覚的にはわかるんですけど言葉にできない。
―― では山本さんがグッとくる音楽は?
山本 あ、それは初期ストーンズの「I Wanna Be Your Man」のイントロ。あの感じ。あの感じがないバンドは、ロックンロールなフレーズを弾いててもグッとこない。
―― なるほど。めちゃめちゃわかりやすいです。
山本 理由があるわけじゃないけど、ガーーーッていう衝動だけある、みたいな。そこに理由とか技術とか余計についてると違うなって。
―― ピンポイントに好きなものを見つけてしまって、逆にさみしさもある、と。
山本 それ以外のものに興奮できないさみしさ。いろんな音楽を聴いてきて、そこまで(自分の好みが)はっきりわかっちゃうと。でも、今の自分の気持ちはそういう形だけど、これから何を好きになるかはわからないし。とは思ってます。
―― 『ランドリー』と同時期にレコーディングした曲もまだあるそうですが、2019年はどんな活動になりそうですか?
山本 あまり先を見据えた予定は、俺、たてることができなくて。最近もいろいろミスってて(苦笑)。ちゃんと自分の予定帳を作って、いろんなことを覚えて、心配はさせてもいいけど迷惑はかけないようにしたいです。
―― なるほど(笑)。
山本 バンドはどこをどう変えようとかはないです。でもライブはたくさん演ります。とりあえず気持ちだけ。
―― バンドは一丸となって結束している感じなんですね。
山本 俺たち結束してるかな、とか話したりはしないけど。
―― (笑)。何か目標などは? 前は野外イベントをやりたいと話してましたよね。
山本 ああ、それはやりたいなあ。前は同世代で何かを、と話してたこともあったけど、自分の好きなものの形がはっきりしてしまったから、どうしたらいいだろう。
―― それは対バンどうするか、という意味で?
山本 いろいろ無意識に意識しちゃうかもしれない。
―― 錯乱前戦のワンマンライブも見たいですけどね。
山本 でも好きなバンドを呼ぶのが楽しかったので、イベントはやりたいなあ。無料のイベントも。学生だけ無料とか、そのほうが現実的かもしれないけど。面白そうだから行ってみようぜ、っていう人たちとか、お金のない男子高校生とかにもたくさん来てほしい。面白そうだからって集まる、そういう場所をつくりたいです。
(取材・文/秋元美乃・森内淳)
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<STAFF> WEB DONUT 5/2019年2月7日発行/発行・編集・WEB制作=DONUT(秋元美乃/森内淳)/カバーデザイン=山﨑将弘/タイトル=三浦巌/編集協力=芳山香
INFORMATION
錯乱前戦 1st mini album 『ランドリー』
2018年12月Release
UXCL-182/926円+税(1,000円 税込)
収録曲:
1. ロンドンブーツ
2. モンキー・オ・マンキー
3. ヘイトムーン
4. 夕焼けニャンニャンズのテーマ
5. そばにいたいぜ
6. ミッドナイト
7. boy meets boys
錯乱前戦 LIVE INFORMATION >> https://twitter.com/sakuranzensen
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