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Drop's インタビュー
ここからもっと、どうなって行くんだろうってドキドキさせたいというか。ここまで1回振り切ったところで次はどうなるんだろうって。そのぐらい楽しい気持ちで作りました
――中野ミホ

Drop’sがミニアルバム『organ』を2018年12月21日にリリース。本作は約2年半ぶりのスタジオレコーディング作で、この間、バンドはメンバーの脱退や地元札幌からの上京、そして新メンバーの加入と、バンドにとって大きな転換期を迎えてきた。そして中野ミホ(vo>)、荒谷朋美(gt)、小田満美子(ba)、石川ミナ子(dr)の4人となって初めて完成させた『organ』は、文字通り“新しい季節”を迎えた作品に。作曲家・多保孝一との共作曲「Cinderella」で挑んだサウンドづくりが新たな風を吹かせたことも大きい。しかし、これは彼女たちが音楽へ向かう視野を広げ、いろいろな刺激や影響も受け止めることで自身の固定観念を削ぎ落とした結果のこと。Drop’sの揺るぎない部分はよりタフになった印象だ。2年半を振り返りながら話してくれた中野の言葉から、その真意が伝わると思う。今年は結成10周年。眩しい“予感”に満ちたDrop’sのアニバーサリーイヤーがスタートした。

―― この約2年の間に、Drop’sは幾度かの転換期を迎えてきました。

中野ミホ そうですね。レイカ(奥山レイカ)が辞めることになって、次のドラマーのアテがない状態だったんですけど、とりあえず東京に出てみようっていうことで3人(中野ミホ、荒谷朋美、小田満美子)で出て来て。で、ミナ子さん(石川ミナ子)を紹介してもらったんです。ミナ子さんは元々私たちのライブを観てくれてたことはあったんですけど、話したことはなくて。ミナ子さんがもうひとつやっているバンドのライブを3人で観に行って声をかけて、一緒にスタジオに入ったらもう、みんな「この人しかいない」っていう風に思って。すごく気持ちよかったんですね。それでミナ子さんが入ることによって、また音が出せてライブもできるようになって、嬉しかったです。それから石橋(石橋わか乃)の脱退もあったけれど。

―― 本当にいろいろなことがありましたね。

中野  東京に出て来たのもやっぱりすごく大きくて、生活でいっぱいいっぱいというか。今まで(札幌では)実家で暮らしていたので、とにかく一人暮らしというか自立が大変だったし、環境が大きく変わってバタバタしながら、という感じでしたね。

―― 東京での生活は、想像どおりでしたか?

中野  東京自体にはライブでよく来ていたし、いろんな町があってすごい好きだし。と思ってたんですけど、実際暮らしてみると、本当に人が多いし流れがすごく早くて。時間の使い方というか、音楽を聴く時間とか映画を観る時間とか、自分のための時間を意識して作っていかないと、流されてしまうというか。入ってくる情報量もすごく多いし。どんどん過ぎ去ってしまう。それが楽しくもあるけど疲れるところもあるし、刺激的ではありますね。

―― 割と早く生活には慣れましたか?

中野  いや……はじめはいっぱいいっぱいで、どこに行くにも疲れちゃうなぁって感じだったんですけど。ようやく慣れたかなって思います。

―― メンバーとあらためてバンドのことを話したりしましたか? 上京して生活も変わるなかで、バンドというものに向き合った時期でもあったんじゃないかなと思うのですが。

中野  そうですね。ミナ子さんから教えてもらうことがたくさんあって。ミナ子さんはずっとこっちで音楽をやって来た人なので、すごく努力するし真面目だし。自分たちがいかに甘えてたかがわかったというか。北海道で居心地よすぎたなって。やっぱりバンドでやっていくと決めたなら、具体的なことをきちんと考えて、人任せじゃなくて自分たちで進んでいかないと、何も進まないんだなっていうのは思いましたね。

――ミナ子さんとの出会いで、また新たな風が吹いたんですね。

中野  ケツを叩かれるじゃないですけど、もう大人なんだからちゃんとしなきゃ、みたいな気持ちになりましたね。

―― 具体的に、何かエピソードありますか?

中野  なんか、ハッとすることがたくさんあって。例えばもし自分が新しいバンドに入ったとしたら、最初は黙ってるというか、様子を伺ってると思うんですけど、ミナ子さんは自分の思うこととか、こうした方がいいってことをはっきり伝えてくれる。音楽もたくさん知ってるので、例えばこういう曲だったらこういうリズムを取ってみたらどうだろうとか、こういうのもあるよって言ってくれて。そういう積極性というか、いいと思うこと、悪いと思うことはちゃんと、はっきり言わないと伝わらないんだなってわかりました。今までは同級生同士で空気感というか、言わなくてもなんとなくわかるっていう感じでやってきてたので。よくも悪くも。

―― じゃあ前よりみんなで話すこともいろいろ増えたんですね。

中野  そうですね。曲のこともそうだし、今後どうやってライブをやっていこうかとか、どんな人と対バンしたいよねとか、今こういう音楽が流行ってるらしいとか。そういう話も増えましたね。すぐCDは出せなくても、ライブではどんどん新曲をやっていこうっていう話も。

―― そんな2年半を経て、ミニアルバム『organ』が完成しました。

中野  はい。配信とかはあったんですけど、やっぱり盤で出したくて、ずっともう、うずうずしてました。

―― 今回は新しい試みということで、作曲家の多保孝一さんと一緒に作った曲「Cinderella」が収録されています。多保さんといえばSuperflyでの活動もされてた方ですが、初めてDrop’sに取材をしたときに、Superflyのコピーをしたことがあるという話を伺ったのを思い出しました。

中野  そうですね。私たちとしてはもうSuperflyのイメージもあったし、コピーしてた方で。で、けっこう前で2017年のことなんですけど、多保さんが私たちのこと知ってくださって、「一緒に何かやりませんか?」って声をかけていただいて。

―― 多保さんから?

中野  あ、そうなんです。私たちとしては嬉しくて是非やってみたいと思って。最初にお話したときに、自分たちより下の世代の人たちとか同世代とか、若い人にもっと聴いてほしいというのが自分たちの課題なんです、という話を多保さんにして。そのときに、「じゃあまずはちょっと振り切った、思い切ったことをせっかくだからやってみよう」っていう風におっしゃっていただいて。で、最新のシーンのこととか全く知らなかったんですけど、いろいろ聴かせてもらったりして、そういうエッセンスと自分たちの土台にあるルーツ、土っぽい部分をどういう風に融合させて、もっと多くの人に聴いてもらえるようにできるだろうか、っていうことで、この曲が始まりましたね。

―― そういう経緯があったんですね。初めて聴いたときは、今までと違う感触に驚きました。

中野  私たちも全く想像してなくて、ロックンロールな曲ができるのかなって漠然と思ってたんですけど、「そうきたか」って。最初は自分たちで成り立つのかな、そもそもライブとかどうしようっていろいろ不安はあったんですけど。でも話したり、やっていくなかで、納得いくものができたと思います。

―― 不安や葛藤もあった、と。

中野  やっぱり、今まで聴いてきてくれた人たちとか、どう思うんだろうって。でも歌詞を書いたり曲がどんどんできていくにつれて、音はすごい新しくてちょっとびっくりするかもしれないんですけど、何回も聴いてもらえれば歌として、Drop’sの曲だなってわかってもらえるというか。ちゃんとしみ込んでいくような言葉とメロディができたなと思ったので、そこはどうとらえてくれてもいいというか。「私たちはこれをやる」っていう感じですね。

―― そうなんですよね。初めは驚きますが、でも、いま伺ったようにメロディはDrop’sだし、サウンドのとらえ方は新しい方法を取り入れつつも、すごく歌のメロディが立つ曲で。それは元々Drop’sがもつ特徴でもあるし。ミホさんにとってとくに新しかった面はどこになりますか?

中野  歌詞の譜割りですかね。例えば今までも、パッと聴いたときにサビとか言葉とかが入ってきやすいようにと自分では考えてはいたんですけど、多保さんと一緒に作ってみて、母音とか子音とかすごく細かく精査していかないと本当にパッて聴こえたときに、全部が景色として、言葉が入ってこないんだって、すごく勉強になりました。

―― なるほど。

中野  でも、私はロマンチックな詞がすごい好きなので、pm10時で始まって2番でpm11時になって、シンデレラだから12時になったら魔法が解けてしまうけれども、自分の足で、スニーカーで走って行くっていう、こう強いイメージみたいなものがあって。そういう自分の思ってる景色は変えたくないし、ストーリーもちゃんと見える、そこは変えたくないっていう意思は持って作りましたね。

―― 譜割りという組み立てにも意識した歌詞なんですね。

中野  そういう見方でここまで歌詞を書いたことは本当になかったので。音節というか音数も多いですし、言葉がより詰まっているので、それも今まではなかったことですね。

―― サウンドメイクに関しては、メンバーのみなさんはどうでしたか?

中野  ギターは今まで必ずギターソロがあって、生音で歪んで、というのが当たり前にあったんですけど、荒谷は今回は弾き方とかも多保さんに教えてもらって、やったことのない感じでやってましたね。荒谷自身も新しい音楽とかも聴くようになって、興味が出てきてるというか。同じようにみんなすごく意欲的で、なんか、そういうのいいなって思ったし、全部をこういう感じにしようとはならないんですけど、長くバンドをやるなかで、いまこういうことしても面白いんじゃないかな、ぐらいの気持ちというか。

―― 新しい音に挑戦してみた、ぐらいな。

中野  そうですね。でもやっぱり曲としては妥協したくないし、歌としては自信を持って出せるものにしたかったので、それは本当に多保さんともすごい詰めました。そこは変わらないところかなと思います。

―― 先ほど、課題の話が出てきましたが、もっと同世代や若い人たちにも広く聴かれるために、変わっていくことへの心の変化みたいなものはあったんでしょうか。

中野  まあ、広く聴かれたいっていうのは北海道にいた頃から思っていて。でも自分の曲を変えたくない部分もすごいあるので、頭では思ってるけど、具体的にどうしたらいいかがわからなくていつも通りやってた感じだったんですね。それを今回は本当に大きく変えてくれたというか、多保さんがやってくださったことはやっぱり自分じゃ思いつかない発想だったので。言ったら、新しい音楽をあまり聴こうともしてなかったし。でも東京に来て、耳にするものとか見るものとかすごい早さで変わっていくし、そういうなかで生活してる若い人とかにも聴いてほしいと思うのであれば、自分のなかだけで完結してちゃいけないなっていうか。自分を掘り下げて自分だけと向き合うのも大事ですけど、外から入ってくるものとかいろんな人から受ける刺激とか、そういうのも大事だなと思うようになりましたね、うん。

―― 生活の変化という影響もあるんですね。

中野  そう思いますね。変化というか、影響受けざるを得ないというか。

―― この新曲「Cinderella」のなかでも、<探しても 探しても 見つからない  未来のわたしよ><歩いても 歩いても 立ち止まれない スピードに流され>という言葉が出てきますね。

中野  やっぱり、町を歩いていても生活するのも大変だなとか、そのことでいっぱいになりがちというか。

―― でも、ちゃんと<たしかな予感がしてる>、と。「新しい季節」でも<なんのため 明日へゆくのかわからずに>と綴りながら<でも信じて やめないよ>と、<大丈夫>だと。希望がある曲になっているのがすごくグッときます。

中野  なんか、ほっといたらそのまま流されちゃいそうなんですけど。そこで自分がこの町に来た意味というか……ちゃんとやっていくんだぞっていうことを言い聞かせつつ、やっぱり音楽やるために来たし、そういうときこそ音楽が大事というか、自分にとっても救いにもなるし。何ていうんですかね。“自分頑張れ”的な感じですかね。自分に言い聞かせたい。そんな感じです。「新しい季節」は東京に出てきてすぐ書いた曲なんです。新しいDrop’sを象徴するような曲でもありますね。

―― 他の収録曲についても聞かせてください。まず、今作を作るにあたって、何か想定するイメージはあったんですか?

中野  全体を通して冬っぽいイメージというのは漠然とはありました。

―― 「Cinderella」を1曲めにもってくるというのはある種、覚悟を感じました。腹のくくり方というか、やり切ろうという感じというか。これは何か意図みたいなものはありましたか?

中野  そうですね……2年半も(作品を)出してなかったので、普通のものは出せないなっていうか、普通じゃダメだろというか……。

―― なるほど。「新しい季節」で始まるというよりも。

中野  それだと割と想定内感はあるので。一発目でインパクトを狙った方がいいかなって。そんな感じはありました。

―― 途中3曲めの「Cookie」で、また違う風景を感じるというか今作のなかで変化のステップの入り口にもなっているような気がしました。

中野  ありがとうございます。

―― でも、全曲を通して聴くと、やっぱり今までのDrop’sが持っているいいブルージーな匂いっていうのはどうしても出てくるわけで。これは出そうと思って出せるもんじゃないし、バンドが持ってるものなので。だから「Cinderella」のような新機軸もありつつ、いろんな表情を持つバンドに変化していく大きなきっかけとなるアルバムになった気がします。それに、大きな変化はあるけど、無理してないというか。

中野  そうですね。「こわして」とか「ふたりの冬」みたいな曲は自然と出てくるというか、ライブで演っても気持ちいいし、ライブだけじゃなく、ちゃんと(作品に)残して聴いて欲しいっていう純粋な思いもあったので。「Cinderella」と一緒にしても、そこはちゃんとなるかなと思って入れました。

――「ふたりの冬」の世界で描かれる冬の景色がめちゃめちゃいいですよね。

中野  嬉しいです。私もすごい好きな曲で。これは札幌にいるときにだいたい原型はできてたんですけど。自分の一番気持ちいい感じで書いた曲ですね。

―― いまお話を聞いて、新しいものを求める気持ちも、今までの想定内のDrop’sの世界観から出ようという意思表示も、すごく伝わりました。

中野  なんか……いろいろ言われるかもしれないんですけど、ここからもっと、どうなって行くんだろうってドキドキさせたいというか。ここまで1回振り切ったところで次はどうなるんだろうって。まあ、自分でもどうなるかわかんない部分あるんですけど。そのぐらいなんかこう、楽しい気持ちというか、別にひとつのことに固執しなくていいよっていう気持ちで。 ―― これまでのファンはもちろん、新しいリスナーにも広がるのが楽しみですね。

中野  はい。そういうのが嬉しいですね。

―― タイトルの『organ』はどういうイメージから?

中野  6曲通して冬のイメージがあって、冬の朝というか澄んだ空気の神聖な感じというか。それを表すような言葉をいろいろ探していて。“オルガン”って楽器は人間っぽさもあっていいなぁと思って付けました。

―― あらためて、自分にとって、バンドにとってどんな作品になったと思いますか?

中野  この2年半、4人で作ってきたもののまだごく一部って感じなんですけど。でも何かが始まることを告げるというか、新しい一発目として、これからにもっと期待してほしいなっていう入り口。そんな1枚になったと思います。

―― 3月には早くも新しいミニアルバム『trumpet』が発表されるんですよね。新曲もたくさん作ってるんですね。

中野  作ってます。

―― 新曲は、今作で学んだことも反映されてたりするんですか?

中野  ちょっとは反映されてると思います。いや、だいぶ反映されてます。

―― いろいろな転換期を経て、歌いたいことに変化があったりしましたか?

中野  これを言いたい、みたいなことは元々そんなになくて。今の自分の状況を残しておくというか。東京出て大変だぜっていう感じはそのまま言えばいいと思うし、楽しかったら楽しいって言えばいいし。そこまで強いメッセージを発信したいっていう風にはやっぱりなってないかな。あくまで自分と同じ気持ちの人に何か引っかかってくれたらいいなっていうスタンスは変わってないですね。

―― 変わらずにフラットな感じなんですね。ちなみに、一人暮らしで一番大変なことって何でした?

中野  んー……ゴミ出しですかね。

――朝8時までに出さなきゃいけないっていう?

中野  なんか、朝出すのが決まりなんですけど、言ったら夜中に出しちゃえばいいじゃないですか。でも、朝8時までに出さなきゃって、そのために毎朝すごい早起きとかしてて。

―― なるほど(笑)。

中野  ゴミ出しに縛られてる毎日、みたいな。結構、面倒くさがりなんで、それが大変だなって思いますね。なんかもう、何なんだろうみたいな(笑)。

(取材・文/秋元美乃・森内淳)

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<STAFF> WEB DONUT 5/2019年2月7日発行/発行・編集・WEB制作=DONUT(秋元美乃/森内淳)/カバーデザイン=山﨑将弘/タイトル=三浦巌/編集協力=芳山香

INFORMATION



Drop's mini album『organ』
2018年12月21日(金)Release
1,852円(+税)
収録曲: 1. Cinderella 2. 新しい季節 3. Cookie 4. こわして 5. ふたりの冬 6. 冬のごほうび~恋もごほうび

Drop's LIVE INFORMATION >> http://drops-official.com

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