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歌王子あび「ソファベッド宇宙旅行2」

歌王子あび(VERANPARADE)「ソファベッド宇宙旅行2」
歌王子あびが思い巡らす“夢うつつ”連載コラム。
●プロフィール:歌王子あび/宮崎在住のロックバンド、VERANPARADEのボーカル。2021年3月に新ギタリストを迎え3人体制に。同月デジタルシングル「ラインマーカーズ」を発表。
公式サイト:https://veranpara-de.com
最新ライブ情報:https://twitter.com/veranparade


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第6回:「もこもこ」

2021.10.04 upload

10月になった。9月は30日間のうち25日間分くらいは友達や家族など、僕の名前を呼んでくれるような人と会うこともなく家の中で過ごした。夜になり布団に入ると胸のあたりが落ち着かずさわさわとして、さわさわとしたかと思ったらズーンと重たくなったりした。これは「寂しい」だ!としばらくして気付く。こうしてはおれんと友達に電話をかけ、友の声を聞けばすっかりさっきまでのさわさわもズーンも随分と薄れていて、冗談を言って散々笑ったりしてから「なんか面白いことないもんかね〜」などとぼやいたりした。「わかるわ、退屈や。毎日」と電話先で友達が言っていた。
「つまんない」なんて言葉にしてみたところで都合よく面白いことが起きるなんてことはないことも、そんなぼやき自体が毎日の中にある面白さをむしろ遠ざけるような行為であることも僕らは痛いほどわかっている。でも、面白いことが遠のいても良いから今はこうしてぼやいていたいなと思った。

髪の毛が随分と伸びて完全なるロン毛になった僕だが部屋にいる時は大体、髪をお団子に結んで生活している。人間は1日に平均100本くらい髪の毛が抜けるというが僕の場合ずっと髪を結んでいるので1日の中でまんべんなく毛が抜けて床に落ちていくということはない代わりにお風呂で髪を洗うと毎回、ごそっと毛が落ちて排水口にまあまあのサイズの毛の塊が出現する。そして毎回まあまあのショックを受けるのである。そのうち髪の毛なくなるんじゃないかと毎日不安になるわけだ。
でも毎日それなりのサイズの毛玉を排出しながら生きているのにも関わらず、髪の毛が減っていく様子がないということは、自分で感じることができないだけで毎日100本の毛を落としていきながらも100本の新しい毛を僕の体は生み出しているということだと思う。
新しい髪の毛が同じだけ生まれていてもそれを感じ取ることはできないのに毎日落ちていく髪の毛はしっかり見送らなくちゃいけないのってなんか損しているというか悲しいし、どうしても自分が減っていくような感覚になってしまう。なんかこういう感覚って髪の毛だけじゃなくいろんなところにあるな、と不意に思った。嫌なことは見たくなくてもどんどん入ってくるのに嬉しいことはなかなかひとりでにはやってこない、気がしていた。でも気のせいなのかも。「嬉しいことに気づく力」みたいなものが僕にはまだ足りてないだけなのかもしれないと思う。生きる力。修行じゃよな。人生。

お風呂上がりにいい匂いになった髪の毛を乾かしながら「ようこそ、僕の頭へ。よろしくね」と頭皮に向かって話しかけてみた。話しかけるなら今が一番いい気がした。新しい髪が応える気配は全くない。そもそも本当にいるのかもわからない。でもお風呂上がりの僕の髪はもこもこと嬉しそうに風を受けていた。

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