歌王子あび「ソファベッド宇宙旅行２」
■歌王子あび（VERANPARADE）「ソファベッド宇宙旅行２」
歌王子あびが思い巡らす“夢うつつ”連載コラム。
●プロフィール：歌王子あび／宮崎在住のロックバンド、VERANPARADEのボーカル。2021年3月に新ギタリストを迎え3人体制に。同月デジタルシングル「ラインマーカーズ」を発表。
公式サイト：https://veranpara-de.com
第5回：「希望は薄い分消えない」
2021.09.06 upload
夏がものすごいスピードで過ぎていくのを感じる。宮崎はずっと降っていた雨もようやく降らなくなってもう少しの間は夏が続きそう。
8月はVERANPARADEで「girls by poolside」という新曲のMVを発表した。
学生時代に今思い出しても頭が痛くなるような恋をしていたあの頃の自分がずっと言葉にしたかったけどできなかった心がそのまま歌になったような夏の一曲だ。
思い返すとこの曲のことばかり考えていた夏だった気がする。映像の中の僕は鮮やかな青空の下でニコニコ笑いながら話したこともない女の子へ「超愛してる」と歌っている。パンツ一枚で朝から夜まで部屋の中で過ごし筋トレも3回くらいして諦めて、コンビニに行くのもお風呂に入るのも躊躇しているヨレヨレの僕の頭の中からこういう世界が生まれたんだと考えると「希望」としか言いようのない気持ちになる。希望なんて言葉を時々使ってみたくなるのはそれが暗い闇の中だからこそ視認できるもので緩やかに絶望とか退屈みたいなものといつもつるんでいる友達みたいになってしまっている自分への反抗心みたいなものだと思う。
今年の夏は暑いばかりで夏らしいことほとんどなにもできなかったけどこの曲があって本当に良かった。この曲をなんとか夏までに完成させてみんなに聴かせると決めた自分を褒めたいし、一緒に汗かきながら曲のことを考えてくれたメンバーやMVを撮るためにとんでもない時間とエネルギーを使ってくれた仲間たちに感謝したい。報われなかった記憶や苦しいということに気づくこともできず変な汗ばかりかいていたあの頃を笑って振り返ることができたのは今、僕の周りに大好きな人たちがいるからだ。そして僕が僕のそばに居続けることを諦めなかったからだと思う。
「1人でいると笑うこともないししんどい時もあるけど、ゆうたくんたちがいると思うとご飯作って食べなきゃという気持ちになる」と昨日電話でばあちゃんが言っていた。
88歳のばあちゃんにしんどい時なんて来ないでくれよと思うけど、しんどさなんて何歳になっても避けられるものではないとしたらばあちゃんの暮らす世界に僕がいて良かった。僕の世界にもばあちゃんがいて良かった。君がいてくれるだけで誰かにとっての明日へ繋ぐ希望になっていること知っていて欲しい。インパクトのある絶望に対抗するにはずいぶん薄い希望だがきっと消えることはないから。
今日はお風呂にゆっくり浸かろうと思いお湯を溜めて裸になったら給湯器の電源を入れ忘れていて水だった。こんなに簡単に絶望はやってくる。もったいないので仕方なく水のお風呂に浸かって震えながら友達の新曲のMVを見た。夏が終わるね。
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