DONUT



歌王子あび「ソファベッド宇宙旅行2」

歌王子あび(VERANPARADE)「ソファベッド宇宙旅行2」
歌王子あびが思い巡らす“夢うつつ”連載コラム。
●プロフィール:歌王子あび/宮崎在住のロックバンド、VERANPARADEのボーカル。2021年3月に新ギタリストを迎え3人体制に。同月デジタルシングル「ラインマーカーズ」を発表。
公式サイト:https://veranpara-de.com


>> ソファベッド宇宙旅行2のアーカイブへ
>> ソファベッド宇宙旅行1のアーカイブへ(別ウィンドで開きます)

第2回:「今日も月に向かって負け犬の遠吠え」

2021.06.02 upload

5月はコロナの感染者が増え、僕が住んでいる宮崎も緊急事態宣言が発令された。5月は札幌で弾き語りでのライブが決まっていたが、今の状況を考えるとどうしても札幌に行くという決断ができず出演を辞退することにした。残念だけど今回行かないということを選んだことは良かったんだと思うようにしている。

初めて僕が札幌に行ったのはベランパレードを結成した2013年のことだ。モッコリと2人でスタジオに入って曲を作るようになってバンド名を決めて、メンバーがやっと4人揃ってツイッターにベランパレードという名前でアカウントを作って「ベランパレード」というバンドを始めますと発信した。その後すぐに札幌で「何者ナンダカ」というバンドをしているフクダサキという18歳の女の子からメールが届いた。札幌で行われるライブに出て欲しいというオファーだった。僕らは結成したとは言ってもまだ初ライブもしていない状態で自分たちがどんなバンドなのかもよく分かっていなかったし、「気持ちは嬉しいけど、まだライブもしたことのないどんな曲を演奏するのかも分からないバンドを呼んでくれるっていうのは大丈夫なんでしょうか?」と返信すると、「あびくんのバンドなら間違いないと確信しているのでぜひ出て欲しいです」という返信が送られてきた。整骨院の待合室で整骨院の施術よりも背筋が伸びたのを覚えている。

初めての札幌は空港の外に出た瞬間に空気が乾いていて冷たくて鼻がスーッとした。新千歳空港から札幌駅に向かう電車の中でTHE BOYS&GIRLSのワタナベシンゴくんから「あびくん、もう札幌着きましたか?」とDMが来て大通り公園で待ち合わせをして会うことになった。僕はボイガルのファンだったのでガチガチに緊張した。初めはお互い敬語で挨拶をして僕が年下だと分かるとシンゴくんはすぐにタメ口になった。緊張してたのに会ったらなんだかずっと前から友達だったような気分になった。僕もタメ口になった。

バンドを初めてからありがたいことに全国の色んな場所でライブをした。バンドを始めるまで飛行機に乗ったのは修学旅行の2回だけだったのに、気がつけば月に何回も飛行機に乗って色んな街で歌うのが当たり前のようになっていった。人前で歌うことなんて人生で良くても1度か2度くらいだろうと思っていたので人生って不思議なもんだなと思う。

大切な思い出や場所がどんどん増えていったけど、その中でも2013年10月の札幌は特に鮮明に残っている。ラーメン嫌いのモッコリが山岡家のラーメンを啜りながら静かにボロボロと涙を流したり、ゆりえちゃんが地下鉄で電車のドアに頭を挟まれたり、お寿司美味しかったり、夜の河原で歌を聞かせあったり、moleで観た札幌のバンドのライブだったり、ライブを観てくれたお客さんが僕のMCで頷いてくれる顔だったり、泊めてくれたサキタローの部屋にあったベランパレード4人分の新品の布団だったり、気がつけばもう8年も経ったのに思い出すと昨日の事みたいだ。

ライブの次の日のお昼、僕らはシンゴくんに大通り公園のテレビ塔の下に呼び出された。後から遅れてやってきたシンゴくんはパンクしてタイヤがぺっちゃんこの自転車に乗ってアコースティックギターとエレキギターとでかいバッグを背負って、ズタボロのキャリーケースを片手で引きながらそれなのになぜか涼しい顔をして現れた。ロックスターだ……と思った。

「さっき出来たばっかの新曲をどうしても聴いて欲しくて」と言って、シンゴくんはテレビ塔の下で「パレードは続く」という新曲を聴かせてくれた。歌い終わるとシンゴくんは歌詞が書いてあるノートの切れ端とアコースティックギターを僕に渡し、またボロボロの自転車で去って行った。

その時に目に見えない何かを手渡されたような気がした。生まれて初めての感覚だった。そして僕は今もそれを持っている。うまく言葉では説明できないけど、しんどくなったり迷ったりした時に僕は何回もそれを引っ張りだして見たり触ったりしてきた。いくら人に励まされたってダメな時はダメだ。それでも僕がここまで来た道のりの中でこれがなかったら乗り越えられなかったかもなと思う夜がいくつかあったのも確かだ。

色んなことがあるけど結局のところ「また会って馬鹿な話で笑いたい」みたいな気持ちだけが僕をここに留まらせる力になっている気がする。どうしたって会えなくなる人もたくさんいるけど、まずは僕が笑って会える奴でいないことにはまた君に会うことはできない。だから僕は今日も薄くなったインスタントコーヒーを飲んだり、ギターでいつものコードを鳴らしながら何も思いつかない自分の平凡な頭の中と格闘したりしている。きっと君も似たような感じかなと思っているよ。

狸小路商店街をみんなで歩いている時、「もう少し寒くなったら雪虫っていう雪みたいな白い虫が飛ぶんだよ」と教えてくれた。いつか見たいな、雪虫。

© 2021 DONUT


■AppleMUSIC


■Spotify

LATEST ISSUE

LATEST ISSUE

PODCASTING

池袋交差点24時

STUDIO M.O.G.

STUDIO M.O.G.

amazon.co.jp

↑ PAGE TOP