歌王子あび「ソファベッド宇宙旅行２」
■歌王子あび（VERANPARADE）「ソファベッド宇宙旅行２」
歌王子あびが思い巡らす“夢うつつ”連載コラム。
●プロフィール：歌王子あび／宮崎在住のロックバンド、VERANPARADEのボーカル。2021年3月に新ギタリストを迎え3人体制に。同月デジタルシングル「ラインマーカーズ」を発表。
公式サイト：https://veranpara-de.com
第1回：「カチコチのバターチキンカレーで僕をぶって」
2021.05.07 upload
2019年1月から1年間書かせてもらっていたこのコラムの第二弾を今回また書かせてもらうことになった。思えば2020年は長い文章をほとんど書くことがなかった。その代わり、代わりなのかは分からないが曲をたくさん書いた。今までの人生で一番曲を書いた。
「フルアルバム1枚分の曲を完成させる」という目標をひっそりと自分の中だけで立てていて2020年の年末に「いち」という新曲を書いて僕の頭の中でフルアルバムが完成した。今それをバンドメンバーと一緒に形にしていっている最中だ。早く君に聴いて欲しいし、早く僕に聴かせてあげたい。
おそらく365日の350日分くらいの時間は家にいたのでシンプルに寂しかった。そんな生活の中では「歌を作る」という行為自体が僕を元気付けたり助けてくれたように思う。
好きな詩人の本に「歌は心と言葉からできている」という言葉があった。日常生活の中で心が揺れる出来事が起きた時、その揺れにちゃんと反応できるように心を柔らかくしておく必要があり、その方がいうには「歌を作ること自体」が何よりの柔軟体操になっている、ということだった。なんとなく身に覚えがある。なんか変な言い方になってしまうかもしれないが、歌を作ること自体が歌を作ることにつながっている。歌を作ることが歌を作るための心を作ってくれるんだと思う。
「ソファベッド宇宙旅行」というこのコラムのタイトルは部屋の中で寝そべったままでいてもどんなところでも行けるしどんな気持ちにだってなれるんじゃないかという思いからつけたタイトルだ。決して楽とは言えない一年間だったけどずっと部屋の中で過ごしても歌いたいことは無くならなかった。会いたい気持ちは大前提、でもあいつ元気かなと考えたり、好きな誰かを意識しながらできるだけ丁寧に過ごすことをやめずに過ごせたのは僕の自信になった。元気に過ごしてくれているはずだ。僕が元気だから。
昨日はばあちゃんに電話をして、1時間くらいキャッキャ言いながら話した。
ばあちゃんは今年88歳になった。僕の一番古くからの親友だ。少し物忘れもするようになったけどばあちゃんと話しているとハッとするようなことをたくさん言ってくれる。
電話をするといつも「ゆうたくんは顔も可愛いし頭もいいし優しいし、下手なことを言えないと感じさせる鋭さもあって素晴らしい人間だ」という内容のことを僕に言う。毎回かならず言う。毎回同じように話してくれて僕は毎回同じように嬉しい。
昨日は「ゆうたくんは自分では気づいてないかもしれないけど、付き合うのが難しい面がある、でも優しくて賢いから、周りに居てくれる人はきっとそう言う面を分かって付き合ってくれている優しくて賢い子達なんだろう」と僕と僕の友達を丸ごと褒めていた。ばあちゃんにも気難しい性格がバレていたのかと笑ってしまった。
ここ数年、身近なところで老いるということをすごく感じることが多かった。飼っている犬は毛が少しずつ薄くなって皮膚の黒い斑点模様が透けて見えるようになったし、ばあちゃんもなんだか小さくなった。でも同時にすごく命の強さみたいなものを強烈に感じた。うまく説明できない感覚だが「命ってすげー強いんだな」と毛の薄い犬の頭を撫でたり、笑うばあちゃんの声を聞くたびに実感させられた。命は強い。夜の世界にいる人を正しい方に導く灯火みたいだ。
今、僕の部屋の冷凍庫には一食ずつにラップで包まれた白ごはんが8個、筍と山菜の炊き込みご飯が4個、お好み焼きが3枚、大きい鍋で一気に作ったバターチキンカレーが4食分、下ゆでが済んでいて味噌汁に入れたらすぐに食べられるカボチャが入っている。毎日元気というわけにもなかなかいかないので、チンするだけでいつでも温かい美味しいご飯が食べられるのは最高だ。
なにを食べる訳でもなく冷凍庫を空けて綺麗に整列したカチコチの白ごはんなどを眺めていると元気が出てくる。
あの人に元気でいて欲しいから、僕も元気でいようと最近ははっきりと思う。この思いの正体はまだよくわからない。心配をかけたくないという気持ちとも少し違う気がする。それでも確信を持ってそう思えるようになってきた。
自分ができるだけ元気でいようとし続けることはきっと、大事な誰かに元気で暮らして欲しいという願いそのものだ。
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