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La Vie en ROSIE 〜ROSIEのレコード日記

La Vie en ROSIE 〜ROSIEのレコード日記
暴動クラブのベーシスト、城戸 “ROSIE” ヒナコが毎月、1枚レコードを紹介するコラム。
●プロフィール:城戸 “ROSIE” ヒナコはロックンロール・バンド、暴動クラブ(海外ではVoodoo Club)のベーシスト。メンバーは釘屋 玄(vo)、マツシマライズ(gt)、城戸 “ROSIE” ヒナコ(ba)、鈴木壱歩(dr)の4人。平均年齢20才、ワイルドで荒々しく挑発的なロックンロールでライブハウスシーンを席巻中。昨年12月に行った二度のワンマンライブはそれぞれ即完。今、最も注目されているロックンロールバンド。■X:https://twitter.com/Voodoo_Club_ ■Instagram:https://www.instagram.com/voodooclub_japan/

第8回:泉谷しげる『泉谷しげる登場』

2024.09.26 upload

ぼんじゅー、ロージーです。

いやあ、残暑残暑。まったく、誠に、残暑。
本当に9月入ってから馬鹿みたいに暑くてウンザリ、なんか8月の暑さとは違うような、焼けそうになる暑さ。やはりこの地球はどんどん、おかしくなってきているのだろうか。
それとも私が前回のレコード日記で夏、まだ終わるな! ぴい! と駄々をこねたせい……コホン。おかげでしょうか。
うん、あのね、おてんとさん、言いにくいんだけどね、私のこんなわがままを聞いてくれたのはホントまじありがとなんだけどね、あの、ちと、やりすぎっす。そこまでサービスしてもらわなくても、だいじょぶっす。あくまで、“過ごしやすい気温で夏特有のイベントを楽しむ”ってのがやりたかっただけなんです、私は。私が言わんとしていたのは、いわば暑くもなく、そして寒くもなく、蚊もおらず、蝉もうるさくなく、ちょうどいい環境で、鈴虫の声を遠くに聴きながら、世間では夏休みもひと段落ついて人が少なくなってきた夏祭りや海やBBQだのに行きたい(私の大学は9月いっぱい休みなのでそれが可能)ということで、つまり本当の意味での夏ではなく、 “自分にとって最良の条件の揃った夏” を過ごしたい、と言っていただけの話なのです。
ただの鬼ワガママです。私はそんな人間なのです。いえ、この自己中ぶり、バケモンです。 だから、ネ、もうちょっと寒くしてくれたっていいよ。
いや、してくれ。暑いんじゃ。暑すぎるんじゃ。

そんなこんなであまり歴とした“夏”を過ごせなかった私でしたが、実は今月、大ハプニングが起こりまして。今日はそのことについて“熱く”語ろうかなと思います。

本日のレコードはコチラ『泉谷しげる登場』。



泉谷しげる『泉谷しげる登場』(1971)


はい。ではまず衝撃的なお写真からお見せしようと思います。ドン。




はあ、なんでしょうかこれは。阿呆のクソガキが妄想で作った合成写真でしょうか。と皆様には思われるかもしれませんし、同じく私もそう思っています。
が、どうやら合成ではなくホンモノで、私の横でカッチョよくグーサインをしているこちらのお方は、あの、あの、泉谷しげるさん、ご本人様、なのです。

この写真が撮られた経緯を簡単に説明いたしますと、ある雨降りの日、とある少女が何気なくいつもどおりの日常をすごしておりましたところ、まさかのレジェンド、どっからどう見ても間違いなく、テレビで何度も見ているあのレジェンドが突如目の前に現れ、びっくり仰天、突然の非日常の登場に少女大パニック。動揺のあまり声もかけられずあたふたしていたところ何が何だか状況の飲み込めないまま気がついたら隣でこのグーサイン、ということなのです。

ウン、ワケがわからぬ。棚からぼたもちにも、程があります。
人間、あまりにデカイ餅があまりにも突然降ってくると流石に喉をつめてしまうものだな、と、思いました。キャパオーバーです。完全にキャパオーバーです。
本当に何を話せばいいのか終始わからず、音楽の話とかいっぱい聞いてみたかったけれど、言葉というものがまるで私の敵にでもなったかのように引っ込んで、全く出てきてくれやしないのです。そしてとにかく必死で振り絞った話が、
「爆裂都市、死ぬほどみてます。高校の頃から、大好きです」
の、これだけだった。悔しい。
家に帰ってから、今日のこんな出来事は私にとって何かのチャンスだったかもしれないのに自分の技量不足で、そのチャンスを逃してしまったかもしれない。もう2度と会えないかもしれないのに、私のバカ……と、情けない自分にひたすら落ち込んで、眠れない夜を過ごしました。エンエン。大江さんとお会いした時も私、そうだったな……。

と、落ち込んでいるのも束の間、ちょうどその週末、つまり偶然お会いした日の数日後に、吉祥寺で泉谷さんライブがあるとのことで、もはやここまでくると何か運命的なものを感じ、これは行かねばなるまいともうほとんど使命感のようなものに駆られ、吉祥寺まで、ぶっ飛んで行きました。

そして、この日、私の人生が、大きく変わってしまったのです。

気さくに誰にでも同じ具合で話してくれる、優しい泉谷さん。数日前に偶然お会いした泉谷さんはそんなお方でした。
しかし、ステージに出てきて、客席に向かってギターを持ち、歌っている泉さんは、まるで別人のようだった。

私は完全に固まってしまった。
あまりにも、すごすぎて。

今まで、フアンです! と言い切れるほどではなかったけれど、もちろん元から音源だって聴いていたし、YouTubeで泉谷さんのライブを見たことはあった。
だが私がその日、自分の目で見て、自分の耳で聴いたものは、そんな小さな画面で、小さなスピーカーで見ていたものとは、あまりにも違いすぎた。

生身の泉谷さんから溢れ出る、迫りくるパワーが、半端じゃなかったのだ。
「あ、私、完全に、落ちた」と思った。

1曲目が始まるや否や、私はもう完全に、泉谷しげるの魅力に、取り込まれてしまったのだ。
1曲目で流石に早すぎるよ、きみ。と思われるかもしれないが、今ここに誇張というものは全くもって存在していない。この誇張の女王がそんなことを言ったってただの悪あがきに終わるかもしれないが、本当に、一瞬のうちに、私は、泉谷しげるという人物の虜になってしまったのだ。

とにかく、泉谷さんのパフォーマンスは凄いものだった。
泉谷さんのライブは全体を通して、観客との“コミュニケーション”なのである。
曲の合間のMCはもちろんのこと、演奏中だってそうだ。泉谷さんは、自分が歌わない、つまり間奏の間は、マイクから離れて、右へ左へとステージ上を動き回る。そして客席の方に向かって様々な表情を見せる。全てのお客さんと交流しようとしている泉谷さんの強い意思が、ひしひしと伝わってくる。
私は2階席にいたので、ライブ中、泉谷さんを見ながらも1階の客席の盛り上がりも気にして定期的に見ていたのだが(職業病……)、その場にいた全てのお客さんが、終始楽しそうな笑顔で泉谷さんを見ていたのだ。いや、見ていた、というよりは参加していた、と言う表現の方が合っているのかもしれない。
そしてもちろん、泉谷さんは、2階席のコチラの方も見てくれる。




私は、泉谷さんのパフォーマンスそれ自体はもちろんのこと、客席中の笑顔を目にした時、これが、これこそが本当のエンターテイメントであり、プロのエンターテイナーであるのだと思った。とてもとても感激した。

私は先に、人生が変わった、と述べた。それはどういうことかというと、もちろん泉谷さんのフアンになってしまったというそのままの意味でもあるのだが、自分の演者としてのあり方について、ものすごく考えさせられたのである。
もちろん泉谷さんと私はやっていることは全然違う。私はソロアーティストじゃないし、歌わないし、ギターも弾かない。生きてきた時代だって、性別だって、まるで違う。

けど、私はこのライブを見て「泉谷さんになりたい」と、心の底から思ったのだった。
こんなふうに、こんなふうになれたら、と。
演者としてもだけど、人としても、こんな人になれたら。

そして一番のハイライト。
ライブ終盤の「春夏秋冬」で、わたくし、ロージー、20歳、大号泣である。

「今日ですべてが終わるさ、今日で全てが変わる、今日で全てが報われる、今日で全てが始まるさ」

この繰り返しを聴いているうちに全身に鳥肌が止まらなくなり、もうどうにもこうにも何とも言えない何かが込み上げて堪えきれなくなって、そのまま泣いてしまった。なんて美しい歌なのだろう。なんて優しくて、力強い歌なのだろう。お客さんの合唱。きれいだ。人間って、本当はこんなにきれいなものなのに……。
ああ、終わるな、ずっと見ていたい。この美しい瞬間を。このまま、このまま、このまま時が止まって、このライブが終わらなければいいのに……。

とまあ、時は当たり前にすぎて、ライブは終わってしまったのであるが。

そもそも、このライブのタイトルは、「泉谷しげる全力ライブ90分! 吉祥寺」であった。

しかし蓋を開けてみればそれは全くの嘘で、私が事実に基づいて勝手に訂正するとすれば正しくは「泉谷しげる全力“以上”ライブ120分以上!!!!! 吉祥寺!!!!!」である。泉谷しげるというエンターテイナーは90分と大々的に謳っておきながら、休憩なしで全力“以上”のライブをなんと2時間“以上”、遂行したのであった。

やられた。

しかも何がすごいって、ライブを見ていた体感として2時間以上も経ったとは思わなかったのである。あっという間だった。もっと見たいとさえ思えた。
泉谷さんのその全力“以上”のライブは、初めから終わりまでずっと全力以上で、その熱が冷めやらぬまま、引き込まれているうちに気づいたら終わっていたのだ。
恐ろしい。実は泉谷しげるはとんでもないマジシャンで、私はこの約2時間、マジック・ショーを見ていたのかもしれない、なんて思った。

とにかく、このつたない文章では泉谷しげるのライブがいかに衝撃的で、素晴らしくて、バチくそにやばかったかを完全に伝えられないことが大変悔やまれる。が、百聞は一見に如かずであります。皆様にも是非ともこの熱を、このマジックを、体感していただきたいのです。これは私からの切実なお願いに近い。

そんなこんなで今月は絶対に、泉谷さんのレコードを買おうと心に決め、近所で探してみようかとも思ったが、なんとなくそのライブを見た吉祥寺まで足を運んで買いに行った。吉祥寺は私にとっては色々とロマンの街だし。(太宰好きだから…小声)

そして見つけたのがこの、『泉谷しげる登場』である。
私が行ったレコード店には泉谷さんのレコードが2枚置いてあった。これと、もう1枚は、ファーストアルバム。それには私がライブで泣いてしまったあの伝説の大名曲「春夏秋冬」が収録されているので、私は最初そちらを買おうとしていたのだが、『泉谷しげる登場』という印象的なタイトルと、サブスクにないライブ盤であるということ、そしてファーストが出る前のライブであるという説明書きとが、「ね、ボクを買ってよ」と呼び止めているような気がなんだかどんどんとしてきて、ああ、買う前からもう愛着さえ湧いてきてしまって、たまらなくなった私は結局コチラにした。
うん、今思えば、どちらも500円くらいだったから、普通に両方買えばよかった。アホめ。私の吝嗇(りんしょく)のタチは、いつもこうした要らぬところで発揮されるのだ。

泉谷しげる、登場。私があの日見て、衝撃を受けた、泉谷しげるの、登場。当時、23歳。 この日に居合わせた人が心底羨ましい。そんな気持ちで聴いた。

そして私がこれを聴いて確信したこと、それは、泉谷さんは今も、昔も、ずっと変わらず泉谷さんである。ということだった。
「ファンだとか歌い手だとか、そう言った区別は大体嫌いな方で、みんな友達でいたいっていうのが僕の考えですので」
23歳の泉谷さんは、MCでこんなことを言っていた。これは、私が先ほど散々述べたことを全て物語っていると思った。
泉谷さんは、どんなにレジェンドで、どんなにファンがたくさんついても、誰にでもどこに行ってもいつでもおそらくずっとフラットな、私が偶然会ったあの気さくな泉谷さんなのである。
そしてその人となりが、おそらくそのパフォーマンスにも出ているのだ。そして私があの日吉祥寺で感じた通りのことが、まるで答え合わせのようにここにも書いてあった。




「歌と、歌い手と聞き手の一体化」
泉谷しげるという人物は、いつでも、どこでも、変わらないのである。そして泉谷しげるが歌う歌はいつも優しくて、力強くて、いつも魂が宿っている。それがまた人々を、強く惹きつける。

なんてかっこいいのだろう。
泉谷さんのような人に、エンターテイナーに、マジシャンに、なりたい。
私なんかがこんなことを思うのが烏滸がましいことであるとは重々承知しているが、初めてお会いしてあの衝撃的なライブを目の当たりにした私の純粋な気持ち、真っ直ぐな感想として、捉えていただけたら幸いである。

また泉谷さんのライブがあれば、絶対に行こう。
生きる力を与えてくれるあのパワーを、たくさんもらいに行こう。
またあのマジックに飲み込まれに行こう。

ではまた次回! お楽しみに。サリュ〜

世界中に愛と平和を
城戸“ROSIE”ヒナコ

© 2024 DONUT



暴動クラブのインタビューを掲載中!
2025年4月22日(火) 恵比寿リキッドルームにてワンマンライブが決定!


暴動クラブ INFORMATION


1stアルバム『暴動クラブ』
2024年8月7日リリース
収録曲:1.とめられない/2. Born to Kill/3. ロケッツ/4. すかんぴん・ブギ/5. カリフォルニアガール/6. Roadrunner/7. まちぼうけ/8. いとしのクロエ/9. Voodoo Rag/10. チェルシーガール/11. C.M.C.



RECORD STORE DAY限定7インチシングル「シニカル・ベイビー」
2024年4月20日リリース
収録曲:シニカル・ベイビー/気になるお前 全2曲


配信シングル「恋におちたら」
2024年2月14日リリース
収録曲:恋におちたら/俺のあの娘 全2曲


7インチ・レコード「暴動クラブのテーマ」
2023年11月3日 レコードの日 リリース
収録曲:暴動クラブのテーマ/Money(That’s What I Want) 全2曲

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