中野ミホのコラム「まほうの映画館2」
■中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ
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第49回「あいつの選んだ愛はきっと、未来につながっている。宝島」
2025.09.18 upload
『宝島』(2025年:日本)
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太、塚本晋也、中村蒼、瀧内公美、栄莉弥、尚玄、ピエール瀧、木幡竜、奥野瑛太、村田秀亮、デリック・ドーバー
監督:大友啓史
原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
公式サイト:https://www.takarajima-movie.jp
※2025年9月19日(金)より全国公開
みなさま、こんにちは。
ご無沙汰してしまっておりました……お元気でしょうか。
夏の間はレコーディングをしたり、ライブをしたりと元気に活動していました。
少しだけ秋らしい日が増えてきたかな?という今日このごろ、ですね。
さて、今回は試写会のご案内をいただいて、みなさんより一足先にこちらの作品を観させていただきました。
楽しみにしている方も多いのではないでしょうか!
『宝島』
2025年、日本の作品。監督は大友啓史。
出演は妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太、塚本晋也、中村蒼ほか。
原作は真藤順丈による第160回直木賞受賞作、『宝島』。
2025年9月19日(金)より全国公開となります!
STORY:
沖縄がアメリカだった時代。米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見る幼馴染のグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の3人。そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーとしてみんなを引っ張っていたのが、一番年上のオン(永山瑛太)だった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ……。残された3人は、「オンが目指した本物の英雄」を心に秘め、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、オンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始める。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、やり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えていた感情が爆発する。
やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す――。
消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか? そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とは――。
うー、素晴らしかったです。
191分という長さを全く感じさせない、一瞬たりとも目が離せない、濃密な人間たちのドラマに、ものすごく惹き込まれました。
グスク、レイ、ヤマコ、そしてオンのそれぞれの20年。沖縄の20年。
私は恥ずかしながらアメリカによる沖縄統治の歴史を教科書で見た程度でしか知らなかったのですが、実際に起こった事件なども交えて描かれる、そこで生きた人々のリアルを目の当たりにして、もっと知らなくてはいけないなと強く思いました。
まず、登場人物がとにかくみんな人間味があって魅力的。
3人はオンちゃんが消えた日から、それぞれの日々を生きながらも同じ目的、オンちゃんへの手がかりを探していたけれど、刑事になったグスクと、刑務所に入ってその後ヤクザになったレイでは大人になるにつれて考え方や生き方の違いも当然生まれてくるわけで。
その中で恋人であるオンちゃんを待ち続けるヤマコは彼らの太陽というか、支えのような存在だったんだろうな。
グスクは刑事という立場と、沖縄の人間であるという間で揺れ動き、それでも最後まで希望を捨てずに、愛を信じているところがとてもかっこよかった。
レイは兄が偉大な英雄と呼ばれていたからこそのコンプレックスや焦りもあっただろうし、暴力に走ってしまうのがとても切なかった……。狂気の裏にはいつも、愛されたいって気持ちがあったんだろうなぁ。
そしてヤマコの涙には本当に心が震えました……。
きっと沖縄の人々の根底には深い戦争の記憶と傷があり、ガマの中の骸骨のように生々しく消えずに残っていて。
それでも生きていかなくてはならない中で、自分達の美しい文化やアイデンティティが失われていくような、蔑ろにされていくような、終わりの見えない不安と恐怖。
本土にも見てみぬふりされているような冷たい現実。
そんな気持ちを20年も味わっているなんて、想像を絶するつらさだと思います。
ひたむきに生きている彼女がこぼす涙。オンちゃんへの気持ちと重なって、言葉にならないそんな想いも溢れているようで、胸打たれました。
そして今作の舞台1950年代〜70年代の洋服や車、美術のディティールもとても凝っていて素敵でした。
加えて沖縄民謡、アメリカのジャズやオールディーズ、当時の日本の歌謡曲など、さまざまなジャンルがミックスされていた音楽も印象的でした。
バーや夜の街で流れる50年代のジャズやオールディーズのナンバーは、かっこいいけれどどこか滑稽でむなしく響いているように聞こえます。
冒頭で流れる「マック・ザ・ナイフ」はあんなに陽気なのに実は殺人鬼の歌だし、現地の人にとってのアメリカを象徴するような使われ方をしていたのかな。
米兵を相手に商売をしないと成り立たない経済がある悔しさや虚しさ、そして夜の街で女性たちが犠牲になっていく怒り。
それとは対照的に、戦果アギヤーたちが光の中を走ったり、その後も登場人物の静かな思いと共に流れる、民族的でワイルドで、なんともかっこいい楽曲たち。
(おそらくオリジナル・サウンドトラックの楽曲たち)
控えめながらもとても力強くて、アメリカでも、本土でもない沖縄に生きる彼らの複雑な感情をざわざわと訴えかけてくるようでした。すごく好きだったなぁ。
後半では弦楽器も加わって、静かにドラマチックで美しかったです。
そしてクライマックスの暴動のシーン。
それまで冷静だったグスクの血のたぎるようなギラギラとした瞳。
何もかもがカオスで、我慢していた沖縄の人々の感情が爆発してものすごいエネルギーを放っていました。
地道に返還デモをする人たち、暴力で米兵を襲う人たち、基地で働く人たち、本土から派遣された人たち、そしてアメリカ軍の人たち。
本当にそれぞれの利害関係や立場、個人的な感情や想いが複雑に混ざり合っていて、難しい、平和ってなんなんだ、と考えさせられました……。
弱い人はいつも我慢をしたり、権力に握りつぶされたり。
それは世界中でいまも起きていることであって。
何がいいとか悪いとか単純な話ではないのはわかっているけれど、みんなが平等で幸せに、自分たちの土地や文化を大切にして生きる権利があるはずなのに。
暴力なくして、戦争なくして、みんなが明るい未来を想像できないものかなぁと、ラストシーンを観て切実に感じました……。
でもその一方で今作は若者たちの純粋な青春の物語でもあるし、エンターテインメントとしてもすごくかっこよくてずっと観ていたいようなパワーに溢れています!
きっとそれは人間の持っている前向きな、希望の力みたいなものなんだろうな。
とにかく、観終わった後も暗い気持ちにはならなくて、揺るぎない強さをもらったような感覚でした。
オンちゃんがなぜ姿を消してしまったのか、心打たれるクライマックスをぜひ確かめてほしいです。
本当に濃厚で見応えがあって、日本映画ってすごい……。
とめちゃくちゃ感動しました。ぜひ劇場で観てほしいー!です。
それではまた!
© 2025 DONUT

INFORMATION

EP『Bones』
2025年10月2日リリース(CD)
2025年11月19日リリース(12インチアナログ盤)
収録曲:01. So long/02. グリーンピース/03. ねずみの記憶/04. オレンジ/05. バニラ
※先行シングル「オレンジ」「So long」配信中
配信URL:https://music.apple.com/jp/album/bones-ep/1835359666
LIVE INFORMATION

中野ミホ Bandset Tour 2025「Bones」
11月21日(金)旭川 CASINO DRIVE
11月22日(土)札幌 PROVO
11月23日(日)静内 SPICE TIGER
11月24日(月)小樽 音とこだま(弾き語り)
11月28日(金)渋谷 7th Floor(ワンマン)
※ライブの最新情報はオフィシャルサイト、公式Xにてご確認ください。
■ 公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
■ 公式X:https://x.com/miho_doronco12




