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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第45回「いつかこの日々のことも、愛せるようになるよね。アイ・ライク・ムービーズ」

2025.01.10 upload

『アイ・ライク・ムービーズ』(2022年:カナダ)
原題:I Like Movies
監督・脚本:チャンドラー・レヴァック
キャスト:アイザイア・レティネン/ロミーナ・ドゥーゴ/クリスタ・ブリッジス/パーシー・ハインズ・ホワイト ほか
公式サイト:https://enidfilms.jp/ilikemovies
全国順次公開中


みなさま、あけましておめでとうございます。
毎日寒いですが、いかがお過ごしでしょうか?
2025年もマイペースに、映画について書いていこうと思います。
今年も「まほうの映画館2」をどうぞよろしくお願いしますー!

さて、新年1つ目の作品に選んだのは、ポスターの少年が印象的なこちら。
『アイ・ライク・ムービーズ』(『I Like Movies』)です。
2022年製作、カナダの作品。
監督・脚本はチャンドラー・レヴァック、出演はアイザイア・レティネン、ロミーナ・ドゥーゴ、クリスタ・ブリッジスなど。

カナダの田舎町で暮らすローレンス(アイザイア・レティネン)は映画だけが生きがいの高校生。
協調性がなく、周囲の人々とうまく付き合えない彼ですが、名門ニューヨーク大学で映画を学び、世界的な映画監督になることが目標。
唯一の友達マットと毎日つるみながらも、都会の大学で生活を一新することを夢見ています。
ローレンスは高額な学費を貯めるため、地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始め、そこで、かつて女優を目指していた自称映画嫌いの店長アラナ(ロミーナ・ドゥーゴ)など、さまざまな人と出会い、不思議な友情を育むことに。
しかし、ローレンスは自分の将来に対する不安から、自分勝手な言動で大切な人を傷つけてしまいます……。
そんな不器用な映画オタクの青年と周りの人々の物語です。

じんわりよかったー。
こんな青春もあるよねぇ、うん、青春だなぁ。

主人公のローレンスは映画オタクでひねくれ者。
プライドが高くて、いつも自信たっぷりです。
相手の気持ちも考えずに、思ったことはすぐ口に出してしまうタイプ。
ビデオ屋さんで最初の仕事として任された『シュレック』のビデオを売ることも、「自分の好きな本物の映画を売りたい」と反抗したり。
友達とテレビを見るのに邪魔だからとお母さんを部屋から追い出したり。
とにかく、はたから見ると世間知らずでだいぶ生意気です。笑

そんな彼と学校で一緒に映画を作ってくれる唯一の友人マット。
毎週土曜の夜に一緒にSNL(アメリカの人気テレビ番組)を見る二人だけの謎イベント「はみ出し者の夜」を開催していて、番組の登場人物になりきってふざけ合うのですがそのシーンが最高!
この感じは高校生の時しかないなぁというか、もう戻ってこない青春って感じでした。

なのに一緒にNYへ行きたいというマットからの提案に対してローレンスは、「君は高校時代だけの仮の友達で、本当の友達には大学で出会うんだ。自分の人生を考えた方がいい、僕の真似はしないで。」なんて最低なことを言ってしまいます。
それをきっかけにマットは次第に彼から離れていき、成績優秀な女子ローレンといい感じに。
切ないけれど、友だちとの関係って本当はとても繊細でこうやって少しずつ離れちゃったりするんだよなぁ……。

でもなんていうかこのローレンスの感じ、高校生の頃の自分にもあったなぁと懐かしく、恥ずかしくもなりました。。
自分の好きなことなら誰にも負けない、自分はスペシャルな何者かになるんだ、という根拠のない自信のようなものがあって、一方で自分は田舎の高校生でしかなくて、世の中の中心地とは程遠いところにいる。
だから親や先生に少しでも否定されたように感じたり、同世代の他の子が活躍しているとどうしようもない焦りや怒りや不安に襲われてしまう。
ローレンスの場合は家庭環境のこともあって、お母さんや同級生にもキツく当たってしまいます。
それは言ったらダメだろー。ということも言ってしまったり。。
きっと強がっているけどとても繊細で脆くて、そんな風にふるまってしまうんだろうなぁ。
おそらく誰にでも少なからず経験があるんじゃないでしょうか。

そんな状況でも、お母さんはローレンスのことを心から愛していて、だからこそ、彼のことを考えてNYUへの進学を反対します。
とにかくすごく根気強く、気持ちが不安定な彼のことを支えようとしていて、やっぱり母は偉大だなぁと思いました。
そうやってとても愛されていることにも、自分のことでいっぱいいっぱいなローレンスは気づけないし、素直に受け取れないのよねぇ。若さですな。

そう、この映画は女性たちの言動がとてもかっこよかったなぁ。
ビデオ屋さんの店長アラナがローレンスを抱きしめるシーン、自分の過去を話すシーン、そして怒るシーン、最後に好きな映画について語るシーン。
普通は相手にするのも疲れるほどの生意気なローレンスに対して、対等に、まっすぐに向き合って、時にはめちゃくちゃ怒って、言葉を伝えていてとてもかっこいい。
彼女は過去に映画業界で辛い経験をしていて、そういうところももう繰り返さないために、若い、映画人になろうとしているローレンスにきちんと響いたらいいな。
あとは同級生のローレンもすごく魅力的でした。
ローレンスからフロスティを取り上げるシーンはスカッとしました。笑

いやーそれにしても彼は周りの人にとても恵まれているなぁ。
自分のことでいっぱいいっぱいで、映画の世界しかないと思っているけど、本当はみんなに支えられて、愛されて生きているということ、大人になったらきっと気づくのでしょうね。

ラスト、大学に入った彼をすごく応援したくなりました。
そうそう、そうやって大人になっていくんだよー、これからなんだってできるよー。
って自然と嬉しくなりました!

やっぱり映画っていいなー。
私も父に車でレンタルビデオ屋さんに連れて行ってもらって、厳選に厳選を重ねたDVDを借りていたのを思い出しました。
ついでにカナダの田舎町の景色はどことなく自分の出身地の北海道にも似ていて、団地とか、胸がぎゅっとなったなぁー、よかった。

アラナもきっと本当は映画が大好きだし、店員のみんなもそれぞれ色々あるけど映画が大好き。
一人一人の思い入れがあって、それは他の人と比べることなんてできない。
超大作だろうが自主映画だろうが、好きなものは好きだし、それを否定したり馬鹿にする権利は誰にもない!
単純に「映画が好き!」ってとっても最高! そんなことも思い出させてくれる作品でした。

そしてやっぱり人と人。
「愛してる」ってちゃんと言えたローレンスは偉い!
個人的には自分のことを思い出してくすぐったくなりながらも、素敵な大人になってくれーと願うのでした。

ではまた!
みなさんにとって素敵な2025年になりますよーに。

© 2025 DONUT



INFORMATION

1stフルアルバム『Tree』
2024年7月31日リリース
収録曲:01.YETI/02.yellow/03.家/04.よふね/05.Sand/06.りんご/07.ice town/08.オートバイ

■ CD販売サイト:https://nakanomihoshop.stores.jp/
■ 各種ダウンロード・ストリーミングサービスにて配信中:https://friendship.lnk.to/Tree_nakanomiho



アルバム『Tree』インタビュー公開中



配信シングル「YETI」
2024年7月10日リリース


LIVE INFORMATION

※バンドセット、弾き語りなど、ライブの最新情報はオフィシャルサイト、公式Xにてご確認ください。
■ 公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
■ 公式X:https://x.com/miho_doronco12

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