中野ミホのコラム「まほうの映画館2」
■中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ
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第52回「家族の未来のためなら、そう、なんだって。しあわせな選択」
2026.03.03 upload
『しあわせな選択』(2025年:韓国)
原題:『No Other Choice』
監督・脚本:パク・チャヌク
原作:ドナルド・E・ウェストレイク著『斧』
キャスト:イ・ビョンホン/ソン・イェジン/パク・ヒスン/イ・ソンミン/ヨム・ヘラン/チャ・スンウォン ほか
公式サイト:https://nootherchoice.jp
※2026年3月6日全国ロードショー
みなさま、こんにちは。
ご無沙汰してしまいましたが、お元気でしょうか?
あったかくなったり寒くなったりですが、少しずつ春に近づいている? 今日この頃ですね。
さて、今回は気になっていたこちらの作品、試写会に応募したら見事当選!したので一足お先に観に行ってきましたー。嬉しい!
『しあわせな選択』(原題:『No Other Choice』)
2025年、韓国の作品です。
監督はパク・チャヌク、出演はイ・ビョンホン、ソン・イェジンなど。
原作は2001年のドナルド・E・ウェストレイクの小説『斧』です。
製紙会社に勤めるごく普通のサラリーマンのマンス(イ・ビョンホン)は、妻ミリ(ソン・イェジン)と2人の子ども、2匹の飼い犬と暮らし、すべてに満ち足りた生活を送っていました。
しかしある時、25年勤めた会社から突然解雇されたことで事態は一変。
1年以上続く再就職活動は難航し、愛着のあるマイホームも手放さざるを得ない状況に陥ってしまいます。
追い詰められたマンスは成長著しい製紙会社に飛び込みで履歴書を持ち込むも、そこでも無下に断られてしまいます。
自分こそがその会社に最もふさわしい人材だと確信するマンスはある日、「ライバルが消えれば仕事は手に入る」という危険なアイディアを思いついてしまいます。
果たしてマンスのとった行動とは。無事に再就職はできるのか……! というお話。
とーっても面白かったです……!
予想の斜め上をいくカオスでシュールな展開に、これは、あぶない笑いが止まらず!
何よりイ・ビョンホンが素晴らしかったです……。
あの美しいお顔が、優しくキラキラ輝く場面もあれば、生気を失ったようにくたびれたり、かと思えば狂気にギラギラしたり……すごく惹き込まれました。
ベクトルは違えど、『ワンバトル・アフター・アナザー』のディカプリオに匹敵する(?)二枚目、からのナイスおじさん、なのではないでしょうか! 良かったー。
個人的には、この時代に確かに最も厳しい状況に置かれているであろう、紙を作る業界に焦点が当てられているところがすごく興味深かったし、渋い……!と唸りました。
そして主人公のマンスは25年間も製紙業界で働いているのに(から?)植物をこの上なく愛している男、というところもなんとも言えない気持ち……
(木が伐採されまくるシーンでハッとします)
自分で作った温室で植物に囲まれている彼の姿がとても印象深かったです。
冒頭は、絵に描いたように幸せで裕福な家族のバーベーキューから始まります。
ですがマンスが会社をクビになってしまったことで状況は一変。
奥さんは子どもたちにも容赦なく節約させるし犬も実家に預けるし、結構厳しい。
(ソン・イェジン、すごくかわいいまま絶妙に富裕層のおばさま感が出ていてとても良かった……!)
失業したばかりの頃のマンスは追い詰められ表情も本当に辛そうなのだけれど、静かにスイッチが入りライバルを消そうとしていく戦いになってからは心なしかとてもいきいきしてました。
基本的にとても優しいので、最初はすごくビビって拳銃を何重にも鍋つかみにくるんでたり、それぞれのライバルに共感してしまって思いとどまったりするのだけど、計画を進めるにつれてどんどん大胆になっていきます。
やってることは結構残酷なのに、なぜか憎めないし、妙に淡々と、サラッとしているところも不思議で面白かったなぁー。
そしてやっぱり前作『別れる決心』でも感じた色の美しさが印象的でした。
深いブルーやグリーンが使われた部屋、たまに登場する紅色。
おしゃれなのだけど少し混沌としていて、不思議な気持ちになるインテリアの感じ。
カメラワークもまた面白かったです。海と道路が真ん中で割られた画にハッとしたり。
観終わってからもしばらく、シュールでいたずらなパク・チャヌクワールドにいる気持ちになります。
今作は音楽もポイントになっている気がします。
歌謡曲レコード大音量シーン(最高です)をはじめ、きっと世代とかその人のパーソナリティが出ている選曲なんだろうな。それに対してチェロを習っている娘がいつも聴いているクラシック。
どちらも独特の世界観を盛り上げています。
なんだかんだ一筋縄ではいかない、脱線しながら進むところも個人的には好きでした。
素敵なダンスシーンとか、息子との関係性とか、小さいエピソードが重なっていくのも、妙に現実味があってますますマンスを憎めなくなってしまいます。
そしてたどり着く結末、ラストはなんとも……。
彼の「選択」は果たしてこれ、どうだったのか。
働くことや、家族、人生についてじわじわ考えさせられるような、それぞれの表情と景色が待っています。
いやぁそれにしても、まさかこんな映画だとは思っていなかったので、めちゃくちゃ面白かったです……。大満足でした。
3月6日から公開のようです、ぜひ劇場で、その場にいる人たちと一緒に戦慄の笑いを共有してほしいです!
それではまたね。
おだやかな春をー。
© 2026 DONUT

INFORMATION

EP『Bones』
2025年10月2日リリース(CD)
2025年11月19日リリース(12インチアナログ盤)
収録曲:01. So long/02. グリーンピース/03. ねずみの記憶/04. オレンジ/05. バニラ
インタビュー公開中:https://donutroll.tokyo/wd/20260107_nakanomiho
LIVE INFORMATION
■ SR_BLUE presents中野ミホ(Band Set)―江ノ島サンセットライブ―
2026年3月7日(土)江ノ島 BLUE Enoshima(ワンマンライブ)
■ BORDERLESS vol.2 kanashimu
2026年4月4日(土)表参道 WALL&WALL
※ライブの最新情報はオフィシャルサイト、公式Xにてご確認ください。
公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
公式X:https://x.com/miho_doronco12
中野ミホのコラム「まほうの映画館2」ARCHIVE
第1回:「そう、絶対に、愛が勝つ! ジョジョ・ラビット」
第2回:「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
第3回:「どんなに暗く冷たい雨だって、いつかは止むだろう。ブラック・レイン」
第4回:「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」
第5回:「雨の街はいつもより、悩ましくロマンチック! レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
第6回:「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」
第7回:「夢かもしれない、でも残ってるあの夏の熱。真夏の夜のジャズ」
第8回:「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」
第9回:「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」
第10回:「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」
第11回:「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」
第12回:「その涙は、ほんものの恋! マーメイド・イン・パリ」
第13回:「大切な根っこは、いつもこころの中にある。ミナリ」
第14回:「言葉にならない、胸の奥にある音楽のようにふるえる。メリークリスマス!ミスターローレンス。」
第15回:「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」
第16回:「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」
第17回:「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」
第18回:「きっと、大丈夫。走り続ける、ドライブ・マイ・カー」
第19回:「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」
第20回:「かっこ悪くても、そのままの自分を歌え! 愛は続いてく、チック、チック...ブーン!」
第21回:「どんなときだってずっと、家族は家族。大丈夫。パーフェクト・ノーマル・ファミリー」
第22回:「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」
第23回:「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」
第24回:「マイナーキーで人生を歌おう。アネット」
第25回:「誰も予想できない、未来について話そう。前へ、前へ。カモン カモン」
第26回:「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」
第27回:「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」
第28回:「どんな世界でも、あなたはずっと歌っていて。ディーバ」
第29回:「それは私たちだけの、時代をも変える合言葉。アムステルダム」
第30回:「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」
第31回:「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」
第32回:「潮が満ちて、永遠に解けない彼女のミステリー。別れる決心」
第33回:「愛がくるしくても、捨てられなかった日記。僕の巡査」
第34回:「どんなわたしも、結局はわたし。ジュリア(s)」
第35回:「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」
第36回:「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」
第37回:「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」
第38回:「おいしさの秘密は、あったかいハートにある。ウォンカとチョコレート工場のはじまり」
第39回:「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」
第40回:「フィルムの中だけの永遠を、もう一度。瞳をとじて」
第41回:「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」
第42回:「泥だらけになった先に、大きな愛はきっとある。東京カウボーイ」
第43回:「ほんとの私、あとすこし。時々、私は考える」
第44回:「いちばんの魔法は、友達! リトル・ワンダーズ」
第45回:「いつかこの日々のことも、愛せるようになるよね。アイ・ライク・ムービーズ」
第46回:「あの歌をいつかまた、ふたり聴くときまで。マルホランド・ドライブ」
第47回:「わたしたちの春は、いつだってまた、今日から。早乙女カナコの場合は」
第48回:「誰にも言えない夢の中で、私はライラックの花嫁。ノスフェラトゥ」
第49回:「あいつの選んだ愛はきっと、未来につながっている。宝島」
第50回:「革命の炎なんか消えてても、あなたは最高のパパ。ワン・バトル・アフター・アナザー」
第51回:「彼だけはいつも、夢のなかで鼻歌をうたってる。レッツ・ゲット・ロスト」
第52回:「家族の未来のためなら、そう、なんだって。しあわせな選択」




