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中野ミホのコラム「まほうの映画館2」

中野ミホ(Singer/Songwriter)のコラム「まほうの映画館2」
中野ミホが最新作から過去の名作まで映画を紹介します。
●プロフィール:中野ミホ/北海道札幌市生まれ。2009年に結成したバンド「Drop’s」のボーカルとして活動し、5枚のフルアルバム、4枚のミニアルバムをリリース。2021年10月にDrop’sの活動を休止後、現在はシンガー、ソングライターとして活動。ギター弾き語り、ベースを弾きながらのサポートピアノとのデュオ編成やドラムを加えてのトリオ編成など、様々な形態で積極的にライブ活動を行なっている。
●公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
●中野ミホYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCjvQfnXVg6hTd8C8D6PSQGQ

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第51回「彼だけはいつも、夢のなかで鼻歌をうたってる。レッツ・ゲット・ロスト」

2025.12.05 upload

『レッツ・ゲット・ロスト <4Kレストア>』(1988年:アメリカ)
原題:『Let's Get Lost』
監督・製作:ブルース・ウェバー
製作総指揮:ナン・ブッシュ
キャスト:チェット・ベイカー/チェリー・バニラ/リサ・マリー ほか
公式サイト:https://www.letsgetlost4k.com
※全国順次公開中


みなさま、こんにちは。
なんとあっという間に十二月! 早すぎる……。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今月は映画館で上映されると聞いてからずっと楽しみにしていたこちらを観に行ってきました。

『レッツ・ゲット・ロスト <4Kレストア>』(原題:『Let's Get Lost』)
1988年製作、アメリカの作品です。
監督は写真家のブルース・ウェバー。ウエスト・コースト・ジャズの代表的存在として知られるジャズミュージシャン、チェット・ベイカーの最晩年の姿をとらえたドキュメンタリー作品です。
演奏シーンはもちろん、演出も交えながら、インタビューによる証言などを通して彼の人生や私生活を浮かび上がらせる内容となっています。

そうです! 今回は私の大好きなミュージシャン、Chet Bakerのドキュメンタリー映画!
この映画の存在は知っていたものの観たことがなかったのですが、今回まさかの映画館で観ることができました……! あぁ感謝。

なんていうか、すごく合点がいったというか、
なるほどなぁ……という感想でした。

モノクロの映像はとてもスタイリッシュで、ドキュメンタリーというよりは、やっぱり写真集とかに近いような。
かっこよくて、ずっと観ていたくなるイメージの連続。
(冒頭まさかのレッチリのフリーが海岸ではしゃいでいて、びっくり笑)

57歳のチェットの顔には深い皺が刻まれていて、でも瞳は若いころの面影がそのまま残っていてとてもきれいで。
立ち姿もスッとしていて、不思議な魅力を放っています。
そして何度も流れる、オープンカーの後部座席で女性たちに囲まれて幸せそうに微笑むシーン。
あぁ、このひとはこうやって愛されて生きてきたんだなぁとすぐに思いました。
そして歌い始め、トランペットを吹くとやっぱり、永遠にピュアでうっとりするような空気。
映画館の音響で聴くことができて幸せでした。。

彼は三回結婚をしていて、その元妻たちへのインタビューなんかもあるのですが、みんな揃って、ひと目で夢中になったとか、神のようだったとか、出会う前から愛していたとか言っていて、とにかくモテっぷりがすごかったんだなぁ。。
だけど彼女たちはこれまた揃って、彼は嘘をついて人の同情を買うのが得意だった、とか、厄介だった、殴ることもあった、みたいな話もしていて。
実際彼はドラッグの問題で何度も逮捕されています。

若いころはその俳優のような甘いルックスと、ぴったりな名前の響き、人を惹きつける演奏で、きっとちやほやされていたんだろうなぁ。
彼と彼の音楽がまとっている西海岸の空気、暖かくて、自然で、ガツガツしてない感じ。
きっと人をうっとりさせるような、少し宙に浮かせてしまうみたいな、天性の魅力と才能があったんだろうなぁと感じました。

女性たちとの数々の恋愛、車、海、旅……
そんなことがきっと純粋に好きで、そんなことからも好かれて、それが明るく上品ですてきなメロディーと、ちょっと切ない歌詞になって歌われると、それはもうみんな夢中になるよなぁ。。
きっと彼自身もずっと夢のなかみたいな、少しフワフワ浮いてるみたいな人だったんじゃないかな。
音楽以外は何もないってバッサリ言われていたけど。笑

ドラッグがらみで殴られて歯を折られてしまった事件と、そこからの復帰はしんどかったと思うけれど…… 基本的には人々に愛されて生きてきたんだろうなぁと思った。

彼の話を聞いていても、ものすごく野心家とか努力家、情熱的みたいな印象は受けなくて、それが天然なのか、本当は裏でものすごく努力したり葛藤していたのかは謎だったけれど……
ただ、なんだかさみしそうな感じは受けたなぁ。すごく不思議。
でも最後もまだピアノを買って曲を作りたいって言ってたし、本当に音楽を愛して愛された人だったんだろうな。
何気なく会話しながら鼻歌のようにスキャットする彼はほんとに少年のようにピュアでかわいかったです。

若いころの写真もたくさん見られるのですが、最初の奥さんと日差しのなかで見つめあっている写真がとても素敵で印象的でした。
彼と過ごした女性にしかわからない、特別な空気があったんだろうな。
きっと時が止まったようにロマンチックで、うっとりしたことでしょう。

チェット以外にも美しい女性たちや当時のジャズミュージシャン、そしてカンヌ映画祭の映像に映る俳優たちなど、観ているだけでキラキラと素敵な気持ちになりました。
彼の家族の近影もまた、不思議な気持ちになる映像。

ただきらびやかなだけではない、リアルだけれども、またさらに謎が深まるような……
とにかくとても惹き込まれる映画作品でした。また観たいなぁ。
個人的には自分がチェットの音楽が大好きなのはなんとなく腑に落ちたというか、わたしもやっぱりチェットに恋している一人なのだろうなぁと思いました。笑
ぜひ劇場の音と映像でうっとりしてみてくださいね。

それではまた!
あたたかくしてお過ごしくださいね。

© 2025 DONUT


INFORMATION


EP『Bones』
2025年10月2日リリース(CD)
2025年11月19日リリース(12インチアナログ盤)
収録曲:01. So long/02. グリーンピース/03. ねずみの記憶/04. オレンジ/05. バニラ
※先行シングル「オレンジ」「So long」配信中
配信URL:https://music.apple.com/jp/album/bones-ep/1835359666

LIVE INFORMATION

最新EP 『Bones』 リリース記念 インストアライブ
2025年12月14日(日)19:00〜
代官山蔦屋書店 1号館1階音楽フロアにて
※フリーイベント

「musubu vol.11」
2025年12月21日(日)新代田crossing
出演:上野皓平/中野ミホ

「ブルースの話をしよう」
2026年1月20日(火)下北沢 CLUB Que
出演:石川蓮(YAPOOL)/髙松名人(自爆)/島崎大/中野ミホ

※ライブの最新情報はオフィシャルサイト、公式Xにてご確認ください。
■ 公式サイト:https://nakanomiho.tumblr.com
■ 公式X:https://x.com/miho_doronco12

中野ミホのコラム「まほうの映画館2」ARCHIVE

第1回:「そう、絶対に、愛が勝つ! ジョジョ・ラビット」
第2回:「きみとぼくだけの本当は、誰も知らない。ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
第3回:「どんなに暗く冷たい雨だって、いつかは止むだろう。ブラック・レイン」
第4回:「ゾンビだらけの世の中でも、やさしく、ちょっと笑おう。デッド・ドント・ダイ」
第5回:「雨の街はいつもより、悩ましくロマンチック! レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
第6回:「どうしようもなくても、そばにいて。ハニーボーイ。」
第7回:「夢かもしれない、でも残ってるあの夏の熱。真夏の夜のジャズ」
第8回:「ふたりの居場所は、湖だけ。鵞鳥湖の夜」
第9回:「あきらめるなよ、の言葉は優しさ。ぼくの家族。ヒルビリー・エレジー」
第10回:「ちょっとずつ繋がる、わたしと、わたし! パリのどこかで、あなたと」
第11回:「善悪なんてない、愛だけでいいはずなのに。聖なる犯罪者」
第12回:「その涙は、ほんものの恋! マーメイド・イン・パリ」
第13回:「大切な根っこは、いつもこころの中にある。ミナリ」
第14回:「言葉にならない、胸の奥にある音楽のようにふるえる。メリークリスマス!ミスターローレンス。」
第15回:「愛しているから、つらい。でも笑顔でいてね、ファーザー」
第16回:「それぞれを必死に生きてる、街はどこかやさしい。名も無い日」
第17回:「その光だけが命、たとえ海になってしまっても。ライトハウス」
第18回:「きっと、大丈夫。走り続ける、ドライブ・マイ・カー」
第19回:「小さくても、愛おしいひかり。歌ってよ、スウィート・シング」
第20回:「かっこ悪くても、そのままの自分を歌え! 愛は続いてく、チック、チック...ブーン!」
第21回:「どんなときだってずっと、家族は家族。大丈夫。パーフェクト・ノーマル・ファミリー」
第22回:「なんてしあわせな体験。リアルな魔法でできている世界のはなし。フレンチ・ディスパッチ」
第23回:「きみが居ないくらいなら、星になってしまおう。ガガーリン」
第24回:「マイナーキーで人生を歌おう。アネット」
第25回:「誰も予想できない、未来について話そう。前へ、前へ。カモン カモン」
第26回:「潮風と肌、悩ましい海辺の歌。夏物語」
第27回:「前も後ろもみなくていい、今だけ、あなたのためだけに走る。リコリス・ピザ」
第28回:「どんな世界でも、あなたはずっと歌っていて。ディーバ」
第29回:「それは私たちだけの、時代をも変える合言葉。アムステルダム」
第30回:「永遠なんてないから、今日は手をつないで眠ろう。ホワイト・ノイズ」
第31回:「光と影、永遠の魔法にきらめくさみしさ。美女と野獣」
第32回:「潮が満ちて、永遠に解けない彼女のミステリー。別れる決心」
第33回:「愛がくるしくても、捨てられなかった日記。僕の巡査」
第34回:「どんなわたしも、結局はわたし。ジュリア(s)」
第35回:「赤と青、盲目の恋の行方は果たして…? 苦い涙」
第36回:「キラキラしてなくてもいい、わたしはわたしなだけ! バービー」
第37回:「その夜のすきまに、星は見える? 白鍵と黒鍵の間に」
第38回:「おいしさの秘密は、あったかいハートにある。ウォンカとチョコレート工場のはじまり」
第39回:「自分なりのしあわせと、これから。枯れ葉」
第40回:「フィルムの中だけの永遠を、もう一度。瞳をとじて」
第41回:「少女のころの私、さよなら、またね。パスト ライブス」
第42回:「泥だらけになった先に、大きな愛はきっとある。東京カウボーイ」
第43回:「ほんとの私、あとすこし。時々、私は考える」
第44回:「いちばんの魔法は、友達! リトル・ワンダーズ」
第45回:「いつかこの日々のことも、愛せるようになるよね。アイ・ライク・ムービーズ」
第46回:「あの歌をいつかまた、ふたり聴くときまで。マルホランド・ドライブ」
第47回:「わたしたちの春は、いつだってまた、今日から。早乙女カナコの場合は」
第48回:「誰にも言えない夢の中で、私はライラックの花嫁。ノスフェラトゥ」
第49回:「あいつの選んだ愛はきっと、未来につながっている。宝島」
第50回:「革命の炎なんか消えてても、あなたは最高のパパ。ワン・バトル・アフター・アナザー」
第51回:「彼だけはいつも、夢のなかで鼻歌をうたってる。レッツ・ゲット・ロスト」

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