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hotspring インタビュー
音楽はやりたいし、音楽を作る上で一番やりやすい環境はhotspringだし。音楽を表現するところとhotspringはイコールなんです
――イノクチタカヒロ

2007年結成、大分県別府市出身のhotspring。彼らは2010年、浅井健一の主宰するSEXY STONES RECORDSよりデビュー。2015年に独自のレーベル、キーマレコードを設立し、現在はイノクチタカヒロ(vo)、狩野省吾(gt)、川越俊輔(dr)の3人に、長島アキトをサポートベーシストに迎えて活動中。情熱とロマンを燃料に、なにかを掴もうとひた走る気概が表れたサウンドでガレージ/ロックンロール・ファンの心を掴んでいる彼らが、この日のトリをバッチリ決めてくれます。今回はボーカル・イノクチに、バンドの近況を踏まえて話を訊きました。

―― 5月にセルフタイトルのアルバムが出てツアーに出たと思いきや……。

イノクチタカヒロ ツアー5本目のライブで脱退しましたからね。

―― 伊藤コウスケ(ba)さんの脱退は本当に驚きました。

イノクチ 俺も驚きましたよ。それこそ3月にボヘミアンズとDroogと3マンをやったあたりからちょっとおかしい感じになってて。俺の勝手な見解ですけど、俺のケガで半年以上、表立った活動ができなくて、去年のバンドのモチベーションってアルバムを作ることと年明けの代官山UNITでの復活ライブが、ものすごく大きなものになってたんですよ。だってそれしかないんだから、バンドの目標が。そこで燃え尽きてしまったのかなという気がしますね。そのあと気持ちがバラバラになったというか。俺の主観ですけど。

―― イノクチさん自身も代官山UNITの復活ライブのあと、燃え尽きた気分になったんですか?

イノクチ 俺は全然ならなかったです。1年間、本当に止まらずにやりたいと思ってましたから。2018年は忙しい年にしたかったので、去年休んだ分、2年分働かなきゃって思ってました。ところが1月2月が復帰ツアーだったから、3月くらいからバンドが燃えカスみたいになっていって。

―― イノクチさん的には、復活ツアー後の具体的なビジョンというのはどういう構想を描いていたんですか?

イノクチ フルじゃなくてもいいから、またアルバムを出して、DVDも出そうって言ってました。どんどんリリースしよう、と。アルバムを2枚出してDVDを1枚出しゃ何か変わるだろう、みたいな。そういうことをずっと去年から話してたんですけど。でもその気持ちは今もあるから、早くしないとって感じですよね。また来年に繰り越しじゃんって。ただ曲も作れる状況ではなかったから、やっとって感じなんです。やっと制作期間に入れたっていう。

―― ツアー中にメンバーが脱退したのは大きな出来事だったと思いますが、ツアーは続けていましたね。

イノクチ 伊藤が辞めた次の週に初めての大阪ワンマンがあって。もう、ほんとどうしよう、みたいな。あと一週間しかないよって。で、いろんなやつに連絡するんだけど、さすがに一週間で20何曲は覚えられないじゃないですか。日程的にもきびしいし。知り合いの知り合いとかにも連絡して、やってくれるっていう人をひとり見つけて。専門学校でベースの講師をやっている人で。会ったこともなかったんだけど、「ぼくでよかったら」って言ってくれて。3日前くらいからスタジオに入って、ほんと大変でした。その人はiPadで譜面を書いて、次の曲に行くときにスワイプしたりして。そうやってワンマンのステージに間に合わせてくれた。hotspringのライブでそんなことが起こるなんて思ってもなかったけど、それくらい緊急事態でした。大変でしたね、ほんと。

―― 最終的には本棚のモヨコの長島アキトさんがサポートに入るわけですが、今後はどうするんですか?

イノクチ 今後も基本はアキトに頼んでって感じですけどね。あんまりいろんな人とやるのも疲れるし。

―― 引き続きメンバーは探してるんですか?

イノクチ メンバーは普通に探しているんですけどね。決まってないですね、まだ。ま、アキトが普通にやってくれてるし。そこは別に焦らなくてもいいかな、と思ってます。最初はすごく焦ってたけど、アキトがやってくれるんだったらそれはそれでいいし。ピロウズもそういう感じですよね?

―― そうですね。メンバー+サポートのベースですね。

イノクチ うちも今はそういう感じに落ち着いたって感じですね。

―― hotspringは過去にもメンバーチェンジはあったものの、正式メンバー以外の人と活動するのは初めてですよね。はじまりは中学の同級生と結成したバンドだし。その辺の心持ちは?

イノクチ 新鮮は新鮮ですよね。脱退したときには「この先どうしよう?」っていうよりも「次のライブをキャンセルしないためにどうしよう?」って感じで。いま思うと変な躁状態になってて、その状況を楽しめたかなって感じですね。新鮮になるというか、バンドを始めたときのような状態になるから、それはまぁ楽しかったですよ。アキトを始め、サポートしてくれた人たちのキャラがサウンドに反映されるから、「この曲はこんなにポップな曲だったんだ」っていう感じもあったし。

―― リズム隊が変わると、やはりステージ上で聴こえてくる音も変わる、と。

イノクチ 全然違いますね。アキトの場合は歌いやすかったりしますね。アキトは歌ものを支えるのが上手いベーシストなのかな。何気なく弾くフレーズとかも歌心があるというか。いいベースラインだなあ、みたいなのはありますね。

―― ライブを見ていてもhotspringのいいメロディと共鳴しているように聴こえます。もちろん、それぞれの良さがあるのは当然として。

イノクチ そんな感じですね。アキトが苦手なプレイもあるんですけど。伊藤がやっていたようなものすごく高速のダウンピッキングとかは苦手そうだから。ピックを使ったことがないらしくて。でもどうしても指じゃ追いつかないような速さの曲もあるじゃないですか。最初は「アレンジし直そうか?」とか「無理やり指で弾いて!」とか言ってたけど、やっぱピック使わなきゃ無理だなってことになって、そういう曲はピックを使ってますけどね。ピックで弾いている姿がまだ様になってませんけどね(笑)。ピックを持った瞬間、レベルが下がる(笑)。そこはまぁ、やりつつって感じですけど。もしかしたら今後作っていく曲はそういう要素は少なくなるのかもしれないですけどね。できないことを無理やりやれって言って、いい結果になったことは今までもないから。いいところを入れていきたい。

―― しかしhotspringにとって5月は鬼門ですね。「魔の5月」って言われてますけど。2016年5月にギターの三浦さんが辞めて、イノクチさんが盲腸で入院。2017年5月はイノクチさんが負傷して活動休止。そして2018年5月は伊藤さんが脱退と。5月は災難が続いてしまいましたね。

イノクチ そう。今年は本当に気をつけろって、親とかにも「あんまり外を出歩くな」とか「飲み過ぎるな」とか言われて。俺も本当に気をつけてたんですけど、「あー、そう来たか」って感じですね。こんな5月はもういやだ。

―― オリジナル・メンバーは4人から、今はイノクチさんとゴエ(川越俊輔)さんだけになりましたが、ゴエさんはこの状況を何と?

イノクチ ゴエさんはむしろめちゃくちゃやる気でしたね。ノーテンキだなと思いましたけど(笑)。

―― お互い、そこで解散という選択肢はなかったんですね。

イノクチ いや、もう本当にそこまで考えられなくて。とにかくライブのキャンセルだけは絶対にやっちゃいけないなと思って。去年、キャンセルしましたからね。とりあえず7月までは絶対にやんなきゃと思ってました。で、ライブをやってるとやっぱり楽しいし、「今、解散しなくてもいいか」「このツアーまではやんなきゃな」という思いもあって。で、「今後どうしようか?」って思ったときに、弾き語りもけっこう楽しいなというのがあって、竹原ピストルみたいにひとりでやってみようかなとか、実は考えたりもしたんですよ。それはhotspringをやめるやめないじゃなくて、もう一個バンドを作ってみようかな、とか。でも、そんなことやってる場合じゃないんですよ。とりあえずこのバンドを建て直さなきゃいけないので、そんなことできないんですよね。みんなもhotspringに対してやる気だし。今まで作った曲を歌わなくなるのも嫌だし。

―― 今回の件で、よりhotspringに対するイノクチさんの気持ちが強まったっていうところはありますか?

イノクチ hotspringはそうですね……俺のバンドとは思ってないですけど……なんかちょっとそういう気持ちは強まったっていうか……一番最初スタートしたときは三浦もいて伊藤もいて俺もいてゴエさんもいて、俺は4分の1というか、そういう気持ちがあった。でも、今はそういう気持ちじゃないかもしれないですね。俺がやらないと何も動かないし。それは前からそうだったのかもしれないけど、前よりもそういう気持ちは強くなってるんだろうな、と思います。だから今は新曲を早く作んなきゃって思ってます。

―― 今までは伊藤さんも一緒に曲を作っていましたが、今はどういう感じで曲作りを?

イノクチ 今は俺が主導になって作ってる感じですね。狩野(省吾)くんもデモを持ってきてコードを拾ってっていうこともあるけど、今はとにかく俺がやんなきゃなっていうふうになってますね。作ってますよ、めっちゃ。昨日のライブでも新曲をやりました。

―― 手応えはどうでしたか?

イノクチ 手応えはよかったと思う。でもだいぶ今までと曲調が変わるかもしれないですね、わかんないけど。だけど俺は今までのhotspringを維持しようとも思ってないですね。変わってもいいと思ってます。

―― 聴く音楽の幅も広がりましたよね?

イノクチ 昔はパンク以外クソだ、みたいなのってあったじゃないですか。今は全然そういうことはないっすね。何を聴いても面白かったら面白い。ヒップホップを聴いても面白いなって思う人は面白いし。突っぱねて、俺はそんなのは聴かないっていうのはないですね、今。いいものはいいし。逆にパンク・バンドだってしょうもないバンドがいっぱいいるし。それはもうジャンルとかではないのかなっていう気がします。面白い人がやってる音楽は面白いなって思いますよ。

―― そういうのを素直に受け入れられるようになったのは大きな変化ですよね。

イノクチ そうですね。ホヤとか食い始めた感じですよね(笑)。塩辛、美味いみたいな(笑)。

―― それによって曲作りへの影響というのもありそうですか?

イノクチ ああ……変わってくると思います。やっぱ今までって、そういう様式美じゃないけど、ロック・バンドだからとか、hotspringじゃこれは無しかなとか、そういうのがあったんですよ。それは曲調とかもそうだし言葉もそうだし。それが今本当になくなったっていうか、自由な感じっすね。新曲も四つ打ちのひたすら明るい歌なんですけど。それでもなんか全然OKっていうか。狩野くんとかもいろんな音楽が好きだから、そういうのには寛容というか。「こういうのをやりたいんだよね」って言ったら「面白いね」って言うタイプの人なんで。だからもう何をやってもいいのかなって。興味があることは何でもやりたいです。急にラップをし始めるかもしれない(笑)。

―― こういう曲をやりたいという具体的なものってあるんですか?

イノクチ 気持ち的な感じだけど、けっこう最近は重めの曲を作ってきたんで、スコンと抜けたポップな曲をやりたいんですよね。「青春の正体」とかいいんですけど、疲れるんですよ。もうちょっとカロリー低めの……聴いて楽しくなるようなポップな軽めのラブソングとか作りたいですね。部屋でひとりでギターを弾いていると哲学し始めるときがあるから、どうなるかわからないですけど。だからこそ軽めの曲を作れるときには作っておきたいですね。けっきょく突き詰めると重たくなるんですよ。……明るい歌を作りたい。

―― 昨日披露した新曲はどうだったんですか?

イノクチ めっちゃ明るいです。お客さんから「おどるポンポコリン」みたいって言われた(笑)。ああいう明るさですよ。まあでも、今後、作曲は俺主導になるからフォークみたいになっちゃうかもしれないですね。それはそれで作ってみたい。急にシューゲイザーみたいになったらすみません(笑)。シューゲイザーやりだしても驚かないでください。ほんとあるかもしれないんですよ、マジで。

―― 歌詞の風景も少しずつ変わってきましたよね。

イノクチ 変化はあると思いますよ。例えば、「永遠なんてない」と歌ってましたけど、それに三浦や伊藤が辞めたことを当てはめると、まるで過去のことを消し去っているように思えるけど。でも彼らとは続かなかったけど、決してなかったものにはならないんですよね。心のなかでずっと動かないことってあるじゃないですか。それも永遠といえば永遠なのかなと思うし。新しいアルバムには「永遠はある」という歌詞も出てくるんですけど、ずっとずっと続いていく終わらないものだけが永遠なのかなってことを考えたりしますね。

―― それこそ「青春の正体」という曲は今まで言えなかったことも言えた歌で、あの曲を作れたことも変化のきっかけだったと思うのですが。

イノクチ だと思います。

―― あそこで本当にいろんなことを言えたというか。

イノクチ そうですね。

―― だからこそ、『hotspring』というアルバムは本当にまっさらなところから、0から1に行けたのかな、と思っていたのですが……

イノクチ そうですね。やっぱ去年(2017年)全然動けなくて、外にも出ずに部屋のなかで作った曲ですから、そういうことになりましたね。想定した未来にはならなかったですけど。

―― だけどやる気に満ちているという。

イノクチ そうですね。来年(2019年)の予定ももう決まってるし。音楽はやりたいし、音楽を作る上で、俺にとって一番やりやすい環境はhotspringだし、hotspringしかやったことがないし。音楽を表現するところとhotspringはイコールですからね。

(取材・文/秋元美乃・森内淳)
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■ DONUT×Rock is イベント開催!
Rock is LIVE 5 2018.10.12.fri 下北沢ベースメントバー hotspring/がらくたロボット/錯乱前戦

<STAFF> WEB DONUT 3/2018年10月2日発行/発行・編集・WEB制作=DONUT(秋元美乃/森内淳)/カバーデザイン=山﨑将弘/タイトル=三浦巌/編集協力=芳山香

INFORMATION



hotspring『hotspring』
2018年5月16日(水)Release
¥2,700(Tax in)
収録曲:1.Johnny 2.黒でいろ 3.I HATE MUSIC FUCK FOREVER 4.モード 5.DO YOU WANNA DANCE 6.ELECTRIC SUPER BAD 7.リズムの奴隷 8.ドンナ 9.ゼロになる 10.青春の正体

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