
『パワー・トゥ・ザ・ピープル:ジョン&ヨーコ・ライヴ・イン・NYC』
監督:サイモン・ヒルトン
製作:ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、プラスティック・オノ・バンド、エレファンツ・メモリー、スティーヴィー・ワンダー ほか
公開日:2026年4月29日(水・祝)TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ なんば ほかにて公開
日本公開オフィシャルサイト:https://www.culture-ville.jp/powertothepeople
海外オフィシャルサイト: https://www.powertothepeoplefilm.com
ジョン・レノンは今夜もシャウトする
TEXT=森内 淳
2026.04.22 upload

1972年8月30日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにて、ジョン・レノン&オノ・ヨーコ/プラスティック・オノ・バンド ウィズ エレファンツ・メモリーとスペシャル・ゲストによって、知的・発達障がいを持つ子どもたちのためのチャリティコンサート「ワン・トゥ・ワン・コンサート」が開催された。昼夜2回の公演で延べ4万人の観客を動員。ジョン・レノンがオノ・ヨーコと共にビートルズ解散後に行った唯一のフルレングス・コンサートとなった。この映像作品は、1972年にスティーヴ・ゲブハルトが撮影したものを元に、サイモン・ヒルトンが監督、ショーン・オノ・レノンがプロデュースを務め、マルチスクリーンを駆使しリメイク。音声もデジタル修復。192kHz/24bitのハイデフ・ステレオ、5.1chサラウンド、さらに一部の劇場ではDolby Atmos(ドルビーアトモス)で上映される。
ポール・マッカートニー関係の本やフリーペーパーを作ったときに助言や資料の提供をしてくれたSさんがたまたま試写会場に来ていたので終映後、感想を聞いたところ、開口一番「このライブに対する印象が大きく変わりました」と言っていた。Sさんは音源でこのライブを聴いていたときにはあまりいい印象は持てなかったという。このとき、ジョン・レノンはイベントに顔を出したり、テレビ番組で演奏する程度で、10数曲演奏して、かつ構成もしっかりしたステージからはずいぶん長い間、離れていた。とはいえビートルズのライブも1ステージ35分だったので、ジョンにとってこの日が初めての長尺のステージとなった。

急きょ決まった昼の部の演奏とあって、ジョンも「リハーサルへようこそ」と自虐とも取れるようなMCをしている(*注釈:後半には夜の部の映像も入っている)。音源だけ聴くと不慣れな印象が先に立ってもおかしくはない。しかし映像を見ると、その印象は一変する。ほぼ一発勝負のような状況下で歌うジョン・レノンは鬼気迫るものがあり、その姿は、ビートルズのファーストアルバムにおいて、ギリギリの状態でシャウトしている「ツイスト・アンド・シャウト」を連想させる。このライブに関していろいろと発言してきたリスナーを黙らせるだけの覇気をみなぎらせている。ロングツアーをこなしステージングも身につき、何もかも合格点なライブは心地良い。が、ギリギリの状況でシャウトするジョン・レノンはやっぱりかっこいい。たぶんSさんもジョンの表情からそれを感じたのだろう。これこそ、まさしくロックンロールのライブなのだ。そういう視点で音源を聴くと、まったく印象が変わってくる。このライブはあの日の「ツイスト・アンド・シャウト」と同じ説得力を持っている。実はこの原稿を書いたあとに、映像を監修したショーンのコメントを読んだのだけど、まさに同じようなことが書いてあった。やはりそういうことなのだ(ショーンのコメントは文末に転載しておく)。ジョンはロックンロールをやりたかったのだ。

ライブではジョンが2曲ほど歌うと、次にヨーコの曲が入る。ヨーコのパフォーマンスに理解を示さない人の気持ちもわからないことはない。ビートルズを聴き始めた10代の頃は、ぼくも、ヨーコの存在がよくわからなかった。しかし歳を取り、多様なアートが世の中に溢れるようになり、それに伴い造詣が深くなり、理解を示せるようになるに連れ、ヨーコのパフォーマンスを理解できるようになった。決定的だったのは2014年のフジロックだ。実際にオノ・ヨーコのライブを体験したのだけど、瑣末な日常を打破するような異常なパワーに満ちたライブパフォーマンスに圧倒された。時代がヨーコに追いついたというと安っぽく聞こえるが、早い話、そういうことなのだろう。前衛芸術に精通したヨーコの絶叫パフォーマンスや、核心をついたリリック、例えば「Born In The Prison」にしても「Open Your Box」にしても、そのものがコンテンポラリー・アートだ。ヨーコのアヴァンギャルドなパフォーマンスはジョンによるロックンロール・ショウをさらに別次元へと引き上げている。

1972年のアメリカは、ベトナム戦争から手を引こうとしないニクソンの政治方針が問題になっていた。反発する学生を抑圧しようとする動きもあるなか、日本の学生運動で使われたヘルメット(日本から送ってもらった、とジョンはMCしていた)をかぶったジョンとヨーコはステージから痛烈なメッセージを発信する。大団円はスティーヴィー・ワンダー他のゲストが入り乱れての「Give Peace A Chance」の大合唱。いうまでもなく、当時、ベトナム戦争に執着したニクソンはイラン戦争に執着しているトランプと重なる。それを意図して公開されるわけではないのに、そうなってしまうところが、また、ジョンとヨーコの数奇な運命といっていい。余談だが、日本では、1988年にヘルメットをかぶった覆面バンド、タイマーズが登場し、日常を揺さぶった。2020年代のいま、ロックンロールバンド、自爆がヘルメットをかぶって登場し、ライブハウスを熱狂の渦に巻き込んでいる。自爆の登場曲は、権力に抗ってきた頭脳警察の「最終指令 “自爆せよ“」。そのあたりの絡まり方が面白い。


ジョンはこの「ワン・トゥ・ワン・コンサート」を最後に、長尺のライブパフォーマンスから遠ざかってしまった。ジョン・レノンのフルサイズのソロライブはこれが最初で最後。これがすべてなのだ。最後に資料に添付されていたショーンのコメントを転載しておく。
「このコンサートは、父の最後のコンサートだったので、僕の心の中で伝説的な存在でした。父がレスポールを弾いていたので、僕もレスポールが欲しくなったのを覚えています。父がツアーに出る計画を立てながらも叶わなかった今、僕たちに残されているのはこのコンサート映像だけです。だからこそ、この作品に携われたことに深く感謝しています。僕はこのコンサートを本当に美しいと思っています。70年代初頭、音楽がより洗練されていく中で、父はパンクの到来を予見するかのように、原点に戻って、生の、本能的なロックンロールへと立ち返ろうとしていました。それは非常にクールで、時代の流れに逆らった試みでした。僕にとって、父が話したり動いたりしている姿を見るのは、言葉にできないほど特別なことです。誰もが知っている限られたイメージの中で育ってきた僕にとって、見たことも聞いたこともない断片に出会えることは、父と過ごす時間をもう少しだけ与えてもらったような、とても深い意味があるのです」(ショーン・オノ・レノン)
『パワー・トゥ・ザ・ピープル:ジョン&ヨーコ・ライヴ・イン・NYC』は2026年4月29日よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ なんば ほかで公開される。

© 2026 DONUT
RELEASE INFORMATION

ジョン&ヨーコ/プラスティック・オノ・バンド『パワー・トゥ・ザ・ピープル』
2025年10月10日リリース
収録曲:01. パワー・トゥ・ザ・ピープル(イントロ)/02. ニューヨーク・シティ/03. イッツ・ソー・ハード/04. ムーヴ・オン・ファースト/05. ウェル・ウェル・ウェル/06. ボーン・イン・プリズン/07. インスタント・カーマ/08. マザー(母)/09. ウィアー・オール・ウォーター/10. カム・トゥゲザー/11. イマジン/12. オープン・ユア・ボックス/13. コールド・ターキー(冷たい七面鳥)/14. ドント・ウォーリー・キョウコ/15. ハウンド・ドッグ/16. ロウ・アンド・オーダー/17. 平和を我等に
*他にもアナログ(2LP)/2CDデラックス/9CD+3ブルーレイ スーパー・デラックス・エディションなどがあります。詳細は公式サイトのディスコグラフィーをご参照ください。
公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/john-lennon/discography/





