映画『F1®/エフワン』(2025年:アメリカ)
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本:アーレン・クルーガー
キャスト:ブラッド・ピット、ダムソン・イドリス、ケリー・コンドン、ハビエル・バルデム ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/f1-movie/
2025年6月27日(金)より全国ロードショー
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2025.6.23 upload
映画『F1®/エフワン』を見にワーナーの試写室まで。ジョセフ・コシンスキー監督、脚本家のアーレン・クルーガー、撮影のクラウディオ・ミランダと『トップガン マーヴェリック』のスタッフが集結したとあって、作品全体を覆うグルーヴは(映画の謳い文句の通りに)地上版『トップガン マーヴェリック』。サーキットを疾走するエフワンマシンの爆音とスピードと衝撃が上映時間のほとんどを支配。「ジェットコースターのような映画だ!」という陳腐な例え方があるけれど、この映画はそれを地でいったようなシーンの目白押しだ。「うわー、すげえ!」という感嘆と共に2時間35分を過ごせる。この映画を見ていると、DONUT 13誌上でSHERBETSのキーボードプレイヤー福士久美子さんが『トップガン マーヴェリック』を絶賛していたのを思い出した。福士さんはこの映画も気に入ると思う。たぶん。
この映像がどうしてここまでの迫力を出せたかというと、実際にエフワンマシンを走らせたからだ。CGでは表現できないレーシングカーの重量感がこの映画にリアリティをもたらしていた。そしてAppleがiPhoneのカメラとiOSを改良して開発した車載カメラ。この映像がすごかった。通常の車載カメラではIMAX上映の映像としては通用しないために開発に至ったそうだが、この特殊なカメラによる映像は圧倒的な臨場感を生んでいた。我々はとんでもない機器(=スマホ)を日常のなかで使っているということなのか。
劇中に登場するのは架空のレーシングチームだが、レージングカーは本物で、撮影場所も世界各国の本物のサーキットコースを使って撮影が行われた。これもまた別の意味での臨場感に拍車をかけていた。実際のグランプリに支障をきたすことなくどうやって撮影を進めたのだろうか、という疑問が常に頭のなかをぐるぐるまわっていた。それくらい現実の世界とフィクションの世界がシームレスにつながっていたのだ。主演のブラッド・ピット曰く「F1®レースシーズンにドライバーたちやチームと一緒に撮影できたことは本当に素晴らしい経験でした。何十年もこの仕事をやってきましたが、こんな経験をしたことはありません。感謝し続けます」。この映画をつくるために、F1®側への交渉や調整をふくめ、クリアすべき事柄が山のようにあったと思う。想像するだけで吐き気がするような作業だ。それに加えて実際のレースのなかで撮影するという、なんともしびれるシチュエーションのなかで演技する役者たちの緊張感がさらにこの映画を面白くしていた。
物語はブラッド・ピット演じるベテランレーサー、ソニーがF1®に返り咲き、ダムソン・イドリス演じるルーキードライバー、ジョシュアやチームとの確執を乗り越えていくという『ロッキー』のような話ではあるけれど、主人公のソニーの「走りたいから走る」という思想を頑なに曲げない態度が実に興味深かった。コスパやお得感に支配された現代の価値観からすると彼の姿は滑稽に見えるかもしれない。が、果たしてどちらの生き方が滑稽なのか、ということをソニーは観客に突きつけているようだった。あえてドン・キホーテのような立ち回りをソニーにさせることで、インフルエンサーと呼ばれる人たちに振り回されている現代人に揺さぶりをかけていたのではないだろうか。ラストシーンでソニーがなぜああいう選択肢に至ったのか、じっくりと考えてみるものいいかもしれない。
それからDONUTの読者に関しては、映画の冒頭のカーレースシーンを盛り上げるレッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を(Whole Lotta Love)」がめちゃくちゃかっこいいので、楽しみにしていてほしい。あと個人的にはペギー・グーの曲が使われていたのが嬉しかった。2025年6月27日より全国公開。(文=森内淳)
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